はじまりと終わりの間婚

便葉

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私がイタリアへ来て、もう六か月が経とうとしている。
ここでの生活は、ある意味、地獄だった。
学校は、九時半に始まり四時に終わる。
皆で仲良く学ぶとかそういうものは一切なく、ただひたすら与えられたアトリエで絵を描くのみの毎日。
でも、不思議と友達はできた。
この学校に来ている人間は、孤独と夢と希望の間で彷徨っている。

入学したての頃は、何もかもが楽しかった。
フィレンツェの街もすぐに気に入った。
描きたい風景だらけで、休みのたびにミチャからもらったデジカメを持って観光名所を見て回った。
でも、時間が経つに連れ、必死に絵を学んでいるのにも関わらず、今までなら満足していた自分の絵が物足りなく感じてしまう。
描いても描いても、その不満足な気持ちは私の元から離れない。

学校の仲間の話では、自分の創作が信じられなく時期が来るらしい。
私は、まさに、今、その時期に突入する寸前だった。
この学校は、今さら基礎知識などを学ぶ場所じゃない。
どれだけ自分を追い込む事ができるか、固定観念だらけの殻をやぶり、新しい自分だけの世界を見つけるための場所。
そんな世界を見つけられずに、リタイヤした生徒も何人もいた。
いや、生徒なんて言葉は似合わない。
ここに来る画家達は、みんなすごい才能の持ち主だから。

そんな悶々と過ごしていた私に、朗報が入った。
沙織先輩と森魚がフィレンツェに遊びに来るらしい。
私に会う事を口実に、二人はイタリア旅行の計画を早い時期に立てていた。
格安のツアーのため、フィレンツェに滞在できるのは一日だけ。
そして、幸いな事に、その日は日曜日だった。
もし平日だったら、先輩達がフィレンツェに来ても、私は会わなかったに違いない。
それくらい、何よりも学校で費やす絵を描く時間が大切だったから。

それでも、結局は、先輩達に私のアパートまで来てもらった。
先輩達と観光をする気分にはなれず、部屋へ持ち帰った課題を済ませたい。
夕方、私が時間が経つのも忘れ絵の具まみれになっていると、ドアの向こうのインターホンが鳴った。

「まひる~~~」

「わ~、いつものまひるんの匂いがする~~」

ドアを開けると、そこには懐かしい顔と聞き慣れた声がする。
私は二人を部屋に招き入れ、慌てて手を洗いに行った。
そして、感動的な抱擁をする。
一瞬、日本での日々を思い出した。
それは、ほんの一瞬だけど…

私は二人のためにパスタを作った。
というか、これしか作れない。
麺を茹でて、バジルの粉末のオイル漬けを絡め、塩コショウを振る。
そして、二人が買ってきたバケットを付けると、ちょっとしたご馳走になる。
安物のワインをグラスに注ぎ、私達は再会を祝して乾杯した。

「それより、まひる…
スマホはどうなってるの?
イタリアへ来てから全く繋がらないんだけど、もしかして、まだこっちで買ってないとか?」

私は首を横に振った後、ちょっと頭を傾ける。

「買った事は買ったんだけど、SIMカードが上手く機能しなくって、スマホショップとか日本みたいに全然親切じゃなくて、それにそんなしょっちゅう街へも出て行けないし、スマホに時間も割けないし。
だけど、こっちでは何も不自由なく使えるから、そのままなんだ。
日本へは無理だけど…」

お母さんには絵はがきを出してる。
それはそれで楽しみにしてくれてるみたい。

「まひるん、ミチャさんとは?
ちゃんと連絡取り合ってる?」

私は小さくため息をついた。

「最初の頃はスマホがダメだから、パソコンのメールでやり取りしてて、でも、このアパートWi-Fiとか全然なくて、だから学校のパソコンを借りてやってたんだけど…」

私はもう一度ため息をつく。

「とにかく、今はかなり追い込まれてて、ミチャの事や日本を恋しがっている暇がないっていうのが本音…
で、でもね、絵ハガキはたまに書いている。
ミチャからは返事は来ないけど…」

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