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市役所
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リラと手を振って別れてからエルンストが向かったのは、馬車がある場所だった。
馬ではなく、それに似た魔物が引くらしい。ポニーくらいの大きさの魔物の額には角が一本ついていて、魔物によって体の色が違う。
エルンストにエスコートされながら乗り込んだ馬車は、四人ほどが乗れる小さなものだ。行き先を告げればそこまで連れて行ってくれるらしい。
たくさんの人が乗る大型の馬車は、決まった場所で止まる。完全にタクシーとバスだ。
冒険者ギルドを目指す馬車は、意外と揺れず乗り心地もいい。目の前に座っているエルンストは、深く頭を下げた。
「サキ様、まずは謝罪をさせてください。召喚に応じてくださった聖女にあのような仕打ちをするなど、今まで聞いたこともありません。陛下も、陛下が優遇する貴族も私を疎んじ、城から追い出そうとしていたのです。サキ様はそれに利用されたに過ぎません。本当に、」
「エルンスト様、謝罪はいりません。私がいいスキルを持っていたら、エルンスト様が追い出されることがなかったでしょうから」
「いいえ、粗探しされて同じ結果になっていたでしょう。それを察していたので、私物はすべてマジックバッグに入れて持ち歩いていました。マジックバッグは、見た目よりも多く入れられるアイテムなんです」
エルンストが自分は城を追い出される予定だったと言いきったので、それ以上言うのはやめることにした。
私が稀有なスキルを持っていたら違っていたと思うけれど、エルンストの中では、私の未来が変わるだけの話なのだろう。
「なら、お礼を言わないと。私はお城でいい扱いを受けませんでしたが、あそこを出られた今は、それでよかったと思います。スキルによってあれだけ態度を変える人たちと一緒にいたくありません。だから、お互い謝るのは最後にしませんか?」
「……ええ。そうですね」
エルンストが、私を見つめてやわらかく微笑んだ。
澄んだ空色の瞳がとろりと溶けて、その中心に私がいる。顔が赤らんでいくのを感じて、さりげなく目を逸らした。
危ない危ない、エルンストに気持ち悪い思いをさせるところだった。
「私は貴族ではありませんし、サキ様と呼ぶのはやめませんか?」
「では、サキさんと呼ばせていただきます。私も平民になりましたので、エルンストとお呼びください」
「では、エルンストさんと。冒険者ギルドに着くまで、少し休んでください。顔色が悪いですよ」
元から白いエルンストの顔が、今は青白くなっている。目の下のクマもひどく、出会った頃よりやつれてしまっていた。
「お気遣いありがとうございます。サキさんこそお休みください」
エルンストが意地でも休まないことを感じ、素直に目を閉じる。
ふかふかの座席と、乗り物特有の心地よい揺れ。寝ないように頑張っていたのにいつの間にか寝かけていたらしく、かくんとなったところで目が覚めた。
前の席では、エルンストが眠っていた。
ストレスがひどい上に忙しくて休む間もないのに、毎日私のところへ来てくれた。冒険者ギルドに着くまでの短い間だけでも休んでほしい。
エルンストが眠っているのをもう一度確認して、小さな声でつぶやく。
「ステータス」
目の前にあらわれたステータスの、金額のところをタップする。
<引き出す金額を入力してください。 ___G>
1万Gと入力すると、金貨があらわれた。その金貨をステータス画面に押し込むと、ふっと消えて合計金額が増える。
「よかった、あの時と変わってない」
ステータス画面に金額が表示されているのを見た時、私は思ったのだ。
このお金、どこにあるの? 引き出せないなら、ないのと一緒じゃん! と。
試しに金額をタップすると、引き出し画面が出てきて、問題なく引き出せたのだ。
「よーし、さっそくお金を入れちゃおう」
王様からもらった金貨をステータス画面に押し付けると、袋ごと消えて合計金額が増えた。
私がギルドで口座を作ったら、王様が監視するかもしれない。それだけじゃなくて、もらったお金を勝手に引き落とそうとするかも。
王様への信頼はもはやマイナスなので、そういうことをするかもしれないと思ってしまう。
自分だけの口座があってよかったなぁ。
かたりと馬車が揺れて、スピードが落ちてきた。よく寝ているエルンストを起こすのは気が引けるけれど、起こさないわけにもいかない。
「エルンストさん、そろそろ着きそうですよ」
「ああ……すみません。眠っていたようです」
「私も寝てしまいました。乗り物の揺れって、眠くなりますよね」
「ふふ、サキさんは相変わらず優しいですね」
うっ、眩しい!
寝起きの気怠いイケメンの微笑みは心臓に悪い!
「契約書のことがあるので、サキさんは何も言わないでくださいね。すべて私が説明します」
「説明って……聖女とかも?」
「ええ。冒険者ギルド相手に、ごまかして依頼をするのは悪手です。きちんとこちらの状況を伝えて、最適な冒険者を紹介してもらわなければ、お互いよくありません。それに私は、陛下と何も契約していませんしね」
冗談のようにエルンストが言うのにつられて笑う。
「ふふっ、そうですね」
大きな建物の前で馬車が止まって、ドアが開けられる。先におりたエルンストが差し伸べてきた大きな手に、そっと手を重ねた。
初めて入った冒険者ギルドは、想像していたのとは違った。
木で出来た建物で、丸いテーブルとかがあって……と想像していたのだけど、入ってみるとショッピングモールのような木目調の床だった。テーブルは置いてあるけれど細長く、会議で使うようなものだ。
窓口が並んでいて、壁に依頼と思われる紙が貼ってるのは大変に冒険者ギルドっぽいが、なんというか……市役所。
市役所に似ている。
女性がいるのは珍しいらしく、すごく見られたけども、がっかりしている私は気にならなかった。
だって、冒険者ギルドだよ? 漫画とかでよくある冒険者ギルドに実際に来れたのに!
わくわくして入ったら、そこは市役所でした……。
しょんぼりしているうちにエルンストが話をつけたらしく、二階の応接室へ通された。
やってきたギルドマスターは女性で、背が高くボンキュッボンで筋肉がある、かっこいい女性だった。
エルンストの説明を聞いたギルドマスターは、長い髪を後ろへ流しながら言う。
「うちに一人、適任のやつがいる。引き受けるとは限らないが、いいか?」
「はい」
「よろしくお願いします」
しばらくして応接室にやってきたのは、レオという青年だった。
馬ではなく、それに似た魔物が引くらしい。ポニーくらいの大きさの魔物の額には角が一本ついていて、魔物によって体の色が違う。
エルンストにエスコートされながら乗り込んだ馬車は、四人ほどが乗れる小さなものだ。行き先を告げればそこまで連れて行ってくれるらしい。
たくさんの人が乗る大型の馬車は、決まった場所で止まる。完全にタクシーとバスだ。
冒険者ギルドを目指す馬車は、意外と揺れず乗り心地もいい。目の前に座っているエルンストは、深く頭を下げた。
「サキ様、まずは謝罪をさせてください。召喚に応じてくださった聖女にあのような仕打ちをするなど、今まで聞いたこともありません。陛下も、陛下が優遇する貴族も私を疎んじ、城から追い出そうとしていたのです。サキ様はそれに利用されたに過ぎません。本当に、」
「エルンスト様、謝罪はいりません。私がいいスキルを持っていたら、エルンスト様が追い出されることがなかったでしょうから」
「いいえ、粗探しされて同じ結果になっていたでしょう。それを察していたので、私物はすべてマジックバッグに入れて持ち歩いていました。マジックバッグは、見た目よりも多く入れられるアイテムなんです」
エルンストが自分は城を追い出される予定だったと言いきったので、それ以上言うのはやめることにした。
私が稀有なスキルを持っていたら違っていたと思うけれど、エルンストの中では、私の未来が変わるだけの話なのだろう。
「なら、お礼を言わないと。私はお城でいい扱いを受けませんでしたが、あそこを出られた今は、それでよかったと思います。スキルによってあれだけ態度を変える人たちと一緒にいたくありません。だから、お互い謝るのは最後にしませんか?」
「……ええ。そうですね」
エルンストが、私を見つめてやわらかく微笑んだ。
澄んだ空色の瞳がとろりと溶けて、その中心に私がいる。顔が赤らんでいくのを感じて、さりげなく目を逸らした。
危ない危ない、エルンストに気持ち悪い思いをさせるところだった。
「私は貴族ではありませんし、サキ様と呼ぶのはやめませんか?」
「では、サキさんと呼ばせていただきます。私も平民になりましたので、エルンストとお呼びください」
「では、エルンストさんと。冒険者ギルドに着くまで、少し休んでください。顔色が悪いですよ」
元から白いエルンストの顔が、今は青白くなっている。目の下のクマもひどく、出会った頃よりやつれてしまっていた。
「お気遣いありがとうございます。サキさんこそお休みください」
エルンストが意地でも休まないことを感じ、素直に目を閉じる。
ふかふかの座席と、乗り物特有の心地よい揺れ。寝ないように頑張っていたのにいつの間にか寝かけていたらしく、かくんとなったところで目が覚めた。
前の席では、エルンストが眠っていた。
ストレスがひどい上に忙しくて休む間もないのに、毎日私のところへ来てくれた。冒険者ギルドに着くまでの短い間だけでも休んでほしい。
エルンストが眠っているのをもう一度確認して、小さな声でつぶやく。
「ステータス」
目の前にあらわれたステータスの、金額のところをタップする。
<引き出す金額を入力してください。 ___G>
1万Gと入力すると、金貨があらわれた。その金貨をステータス画面に押し込むと、ふっと消えて合計金額が増える。
「よかった、あの時と変わってない」
ステータス画面に金額が表示されているのを見た時、私は思ったのだ。
このお金、どこにあるの? 引き出せないなら、ないのと一緒じゃん! と。
試しに金額をタップすると、引き出し画面が出てきて、問題なく引き出せたのだ。
「よーし、さっそくお金を入れちゃおう」
王様からもらった金貨をステータス画面に押し付けると、袋ごと消えて合計金額が増えた。
私がギルドで口座を作ったら、王様が監視するかもしれない。それだけじゃなくて、もらったお金を勝手に引き落とそうとするかも。
王様への信頼はもはやマイナスなので、そういうことをするかもしれないと思ってしまう。
自分だけの口座があってよかったなぁ。
かたりと馬車が揺れて、スピードが落ちてきた。よく寝ているエルンストを起こすのは気が引けるけれど、起こさないわけにもいかない。
「エルンストさん、そろそろ着きそうですよ」
「ああ……すみません。眠っていたようです」
「私も寝てしまいました。乗り物の揺れって、眠くなりますよね」
「ふふ、サキさんは相変わらず優しいですね」
うっ、眩しい!
寝起きの気怠いイケメンの微笑みは心臓に悪い!
「契約書のことがあるので、サキさんは何も言わないでくださいね。すべて私が説明します」
「説明って……聖女とかも?」
「ええ。冒険者ギルド相手に、ごまかして依頼をするのは悪手です。きちんとこちらの状況を伝えて、最適な冒険者を紹介してもらわなければ、お互いよくありません。それに私は、陛下と何も契約していませんしね」
冗談のようにエルンストが言うのにつられて笑う。
「ふふっ、そうですね」
大きな建物の前で馬車が止まって、ドアが開けられる。先におりたエルンストが差し伸べてきた大きな手に、そっと手を重ねた。
初めて入った冒険者ギルドは、想像していたのとは違った。
木で出来た建物で、丸いテーブルとかがあって……と想像していたのだけど、入ってみるとショッピングモールのような木目調の床だった。テーブルは置いてあるけれど細長く、会議で使うようなものだ。
窓口が並んでいて、壁に依頼と思われる紙が貼ってるのは大変に冒険者ギルドっぽいが、なんというか……市役所。
市役所に似ている。
女性がいるのは珍しいらしく、すごく見られたけども、がっかりしている私は気にならなかった。
だって、冒険者ギルドだよ? 漫画とかでよくある冒険者ギルドに実際に来れたのに!
わくわくして入ったら、そこは市役所でした……。
しょんぼりしているうちにエルンストが話をつけたらしく、二階の応接室へ通された。
やってきたギルドマスターは女性で、背が高くボンキュッボンで筋肉がある、かっこいい女性だった。
エルンストの説明を聞いたギルドマスターは、長い髪を後ろへ流しながら言う。
「うちに一人、適任のやつがいる。引き受けるとは限らないが、いいか?」
「はい」
「よろしくお願いします」
しばらくして応接室にやってきたのは、レオという青年だった。
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