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ヴィンセント・アグレル2
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父が目覚めたこととサキのスキル、パーティーの準備などで、休む間もないほど忙しくなった。ケンは俺の体調を心配してくれるが、こんなに嬉しい忙しさはない。
エルンストがサキたちとのスムーズなやり取りや相互理解に尽力してくれたおかげで、物事はいい方向に進んでいた。時折、出すぎずに最適な提案をしてくれるのも非常に助かる。
ギルは聞き取りなどをして改良したアイテムを作成し、必要なアイテムを販売してくれている。北領の技術者もそれに刺激されて、意欲を高めている。ギルは意外と面倒見がいいらしく、質問をされても嫌な顔をせず答えてくれているという。ありがたいことだ。
レオはぴったりとサキに寄り添い、警護をしている。サキの経験からして、城の使用人にはいい思い出がないのだろう。レオがいることでサキの精神は安定している。冒険者としての実力も申し分なく、サキが危険に陥ることはないはずだ。
サキは魔物除けや弱体化など様々な温泉を嫌がらず出してくれた。試しに魔物除けの温泉を魔物にかけたところ、一目散に逃げていった。それを見た人々の目に、久々に希望が宿った。サキの温泉は本当に素晴らしい!
仕事を切りのいいところで終わらせてから立ち上がる。
「サキのところへ行く」
「かしこまりました。今は客室においでです」
ケンと共に客室へ行くと、レオがドアを開けた。俺の姿を見たサキがわざわざ立って出迎えてくれる。
「ヴィンセント様、いらっしゃいませ」
「どうぞ座ってくれ。少しサキの時間がほしいんだが、今は大丈夫か?」
「はい」
ソファに座ったサキの後ろにレオが立ち、俺の後ろにはケンが立つ。お茶はいらないことを伝えてから、話を切り出した。
「今夜のパーティーだが、俺がサキをエスコートする後ろにエルンスト達がいることになった」
エルンスト達が夫ならば俺がエスコートすることは出来ないが、サキは未婚だ。パーティーの主役であるサキを、当主である俺がエスコートすることで、大事にしていることを公にする。
エルンスト達も一緒に入場するのは、サキが3人をとても大事にしているからだ。3人のうち誰が欠けてもアグレル家へ来ることはなかったのならばアグレル家にとっても恩人だ。それに、3人とも非常に優秀だ。
アグレル家で雇いたいほどの能力があるエルンスト、強い魔物と戦う北領にぜひいてほしい冒険者のレオ、北領を支える素晴らしいアイテムを作成してきたギル。
サキを含め、素晴らしい人達だ。
「パーティーなのにドレスを仕立てられず、申し訳ない」
「謝らないでください! 突然のパーティーですし、ドレスが間に合わないのは当然です。着ていないものをアレンジしてくださるのなら、新品と同じですから」
「だが、女性はパーティーが好きだろう。サキが主役のパーティーなのに」
「結婚パーティーにしか行ったことはないですけど、そんなに好きではないので構いません」
サキは本当に優しすぎる。
本来ならば色々と準備をしてからパーティーをするべきだが、今の状況では早く開催することが何よりも大事だ。父が倒れて民はおろか貴族までうろたえ、王族にも見捨てられたことで、パニックになりかけていた。絶望した者も多くいる。
今夜のパーティーで今の状況をすべて好転させるサキの存在を示し、父の回復を発表する。北領の希望となるはずだ。
「本当に、どう感謝を伝えればいいか……。パーティーなどなくても、いくらでもドレスを作ってくれ」
「いえ、今いただいているので十分すぎます」
「しかも慎ましい……天使か?」
「え?」
「わかる、サキは天使だ」
「え?」
おろおろとするサキを前に、レオと意気投合する。
「短い時間だったが、サキと話せて嬉しかった。では、今夜のパーティーで」
「あ……はい」
腑に落ちないという顔で見送ってくれたサキと次に会ったのは、パーティーが始まる10分前だった。
ドレスを着たサキは、あまりに綺麗だった。可愛いと綺麗が共存できるなんて、今まで知らなかった。腕のいい職人のおかげでドレスはサキにあつらえたようにぴったりで、サキの美しさを引き立てている。
うやうやしくサキの手を取り、ひざまずく。
「北領を救う聖女をエスコートできる栄誉を与えてくれて、感謝する」
「こちらこそ、人々のお役に立てて嬉しいです。今夜はよろしくお願いします」
「傷一つつけないことを約束する」
サキの後ろに控えている3人も丁寧に仕立てられた礼服を着ていて、サキのドレス姿を見つめている。
サキの細い肩はわずかに強張っているが、想像していたほど緊張していなかった。聞けば、異世界で働いていた時に似たような経験があるのだという。
俺たちの心配をよそに、サキは背筋を伸ばして堂々と会場へ入った。会場でサキを紹介した時も前を向いて微笑み、父と仲のいい様子を見せてくれた。
「皆様が北領とアグレル家を思う気持ちが、私を北領まで導いてくださったのでしょう。これから北領のために、自分にできる最大限のことをしていこうと思っています」
受け答えもしっかりしていて、サキの評判は非常にいい。サキの年齢と未婚であることを周知したが、幼く見える外見に戸惑っている者も多かった。
そんな視線を吹き飛ばし、自分の力で自分の居場所をつかみ取っていくサキは、本当に……本当にまばゆかった。
「私の温泉スキルを知っていただくために、それぞれの客室に温泉を入れた浴槽を設置してあります。美肌、美髪、疲れに効きますので、どうぞご堪能ください」
そして、ちゃっかりしていた。そこもまた可愛い。
エルンストがサキたちとのスムーズなやり取りや相互理解に尽力してくれたおかげで、物事はいい方向に進んでいた。時折、出すぎずに最適な提案をしてくれるのも非常に助かる。
ギルは聞き取りなどをして改良したアイテムを作成し、必要なアイテムを販売してくれている。北領の技術者もそれに刺激されて、意欲を高めている。ギルは意外と面倒見がいいらしく、質問をされても嫌な顔をせず答えてくれているという。ありがたいことだ。
レオはぴったりとサキに寄り添い、警護をしている。サキの経験からして、城の使用人にはいい思い出がないのだろう。レオがいることでサキの精神は安定している。冒険者としての実力も申し分なく、サキが危険に陥ることはないはずだ。
サキは魔物除けや弱体化など様々な温泉を嫌がらず出してくれた。試しに魔物除けの温泉を魔物にかけたところ、一目散に逃げていった。それを見た人々の目に、久々に希望が宿った。サキの温泉は本当に素晴らしい!
仕事を切りのいいところで終わらせてから立ち上がる。
「サキのところへ行く」
「かしこまりました。今は客室においでです」
ケンと共に客室へ行くと、レオがドアを開けた。俺の姿を見たサキがわざわざ立って出迎えてくれる。
「ヴィンセント様、いらっしゃいませ」
「どうぞ座ってくれ。少しサキの時間がほしいんだが、今は大丈夫か?」
「はい」
ソファに座ったサキの後ろにレオが立ち、俺の後ろにはケンが立つ。お茶はいらないことを伝えてから、話を切り出した。
「今夜のパーティーだが、俺がサキをエスコートする後ろにエルンスト達がいることになった」
エルンスト達が夫ならば俺がエスコートすることは出来ないが、サキは未婚だ。パーティーの主役であるサキを、当主である俺がエスコートすることで、大事にしていることを公にする。
エルンスト達も一緒に入場するのは、サキが3人をとても大事にしているからだ。3人のうち誰が欠けてもアグレル家へ来ることはなかったのならばアグレル家にとっても恩人だ。それに、3人とも非常に優秀だ。
アグレル家で雇いたいほどの能力があるエルンスト、強い魔物と戦う北領にぜひいてほしい冒険者のレオ、北領を支える素晴らしいアイテムを作成してきたギル。
サキを含め、素晴らしい人達だ。
「パーティーなのにドレスを仕立てられず、申し訳ない」
「謝らないでください! 突然のパーティーですし、ドレスが間に合わないのは当然です。着ていないものをアレンジしてくださるのなら、新品と同じですから」
「だが、女性はパーティーが好きだろう。サキが主役のパーティーなのに」
「結婚パーティーにしか行ったことはないですけど、そんなに好きではないので構いません」
サキは本当に優しすぎる。
本来ならば色々と準備をしてからパーティーをするべきだが、今の状況では早く開催することが何よりも大事だ。父が倒れて民はおろか貴族までうろたえ、王族にも見捨てられたことで、パニックになりかけていた。絶望した者も多くいる。
今夜のパーティーで今の状況をすべて好転させるサキの存在を示し、父の回復を発表する。北領の希望となるはずだ。
「本当に、どう感謝を伝えればいいか……。パーティーなどなくても、いくらでもドレスを作ってくれ」
「いえ、今いただいているので十分すぎます」
「しかも慎ましい……天使か?」
「え?」
「わかる、サキは天使だ」
「え?」
おろおろとするサキを前に、レオと意気投合する。
「短い時間だったが、サキと話せて嬉しかった。では、今夜のパーティーで」
「あ……はい」
腑に落ちないという顔で見送ってくれたサキと次に会ったのは、パーティーが始まる10分前だった。
ドレスを着たサキは、あまりに綺麗だった。可愛いと綺麗が共存できるなんて、今まで知らなかった。腕のいい職人のおかげでドレスはサキにあつらえたようにぴったりで、サキの美しさを引き立てている。
うやうやしくサキの手を取り、ひざまずく。
「北領を救う聖女をエスコートできる栄誉を与えてくれて、感謝する」
「こちらこそ、人々のお役に立てて嬉しいです。今夜はよろしくお願いします」
「傷一つつけないことを約束する」
サキの後ろに控えている3人も丁寧に仕立てられた礼服を着ていて、サキのドレス姿を見つめている。
サキの細い肩はわずかに強張っているが、想像していたほど緊張していなかった。聞けば、異世界で働いていた時に似たような経験があるのだという。
俺たちの心配をよそに、サキは背筋を伸ばして堂々と会場へ入った。会場でサキを紹介した時も前を向いて微笑み、父と仲のいい様子を見せてくれた。
「皆様が北領とアグレル家を思う気持ちが、私を北領まで導いてくださったのでしょう。これから北領のために、自分にできる最大限のことをしていこうと思っています」
受け答えもしっかりしていて、サキの評判は非常にいい。サキの年齢と未婚であることを周知したが、幼く見える外見に戸惑っている者も多かった。
そんな視線を吹き飛ばし、自分の力で自分の居場所をつかみ取っていくサキは、本当に……本当にまばゆかった。
「私の温泉スキルを知っていただくために、それぞれの客室に温泉を入れた浴槽を設置してあります。美肌、美髪、疲れに効きますので、どうぞご堪能ください」
そして、ちゃっかりしていた。そこもまた可愛い。
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