決めるのはあなた方ではない

篠月珪霞

文字の大きさ
1 / 3

知りませんわよ、そんなこと

しおりを挟む
ブルーナ、セダン両伯爵家の婚約は、派閥や事業などの兼ね合いで王命により決まったものだった。

カメリア・ブルーナは、6歳の折にそれを告げられ、政略結婚かあ…と少しだけ残念に思ったものだ。貴族なら仕方ないことだけれど、恋とかしてみたかったと。
それでも結婚するのなら、やっぱり仲良くやっていきたいわよね、とお見合いのような顔合わせに、どきどきしながら相手の男の子を待ったのだ。

壮年の男性に連れられてやってきたのは、茶色がかった黒髪で青い目の、綺麗な顔立ちの子だった。
挨拶しようとカメリアが口を開く前に、その子は言った。

「こんな子が俺の婚約者? 本当に?」

明らかにカメリアを見下した言葉だった。表情も嫌そうに歪んでいる。
初対面で無礼な発言をされてにこやかでいられるほど、カメリアも大人ではなかった。

「こんな失礼な子が婚約者とか、嫌です」
「はあ? それはこっちの台詞。お前みたいなブスと、何で結婚しなきゃなんねーんだよ」

かちんときたカメリアは悪くないと思う。
そこで両親と、相手方の父親が間に入り、ひとまず不毛な会話は止められた。

それから会うたびに、一応婚約者のアルベール・セダンは、ブスだの変な髪形だの、センス悪いだの、馬鹿だのと、会話ではなく罵倒を繰り返した。

何度も、婚約解消を訴えた。相性が悪すぎる。こんなのと結婚生活を送らねばならないのかと、何度も何度も。
だが、決定権を持つものは誰もカメリアの訴えを聞いてはくれず、10年後、結婚式は強行されたのである。
















「おい、どういうことだ、カメリア!」

食堂の扉を壊さんばかりの勢いで入ってきた、一応夫となったアルベールを一瞥すると、カメリアは一旦カトラリーを置いた。

「………何がでございましょう」
「何故、夫婦の寝室にいなかった?! しかもお前の部屋、鍵かけてたろ!!」
「…はあ。それが何か」
「昨晩は、初夜だったんだぞ?!」

何を必死に言い募ってるのだ、この男は。冷めた目でカメリアは見る。

「別に、結婚さえしてしまえばよかったのでしょう? 王命では」
「っ…それは、そうだが」
「白い結婚で何の不都合がありまして? 婚約期間の10年間、散々私の容姿やドレス、アクセサリーにまで文句を言ってらしたではないですか」

食事を続ける気分じゃなくなったカメリアは、口元を拭くと席を立つ。

「どこへ行く! まだ話は終わっていない!」
「話すことなどありません。とにかく、極力話しかけないでくださいませ」
「はあ?! 何でだよ」
「…あなたの声など聞きたくないと、言わないと分からないのですか?」

侮蔑を込めた目で睨むと、何故か目の前の男が怯む。

「好き好んで、罵倒を聞きたいという特殊性癖は持ち合わせておりませんので」
「い、いや、それは、誤解で…」
「……」

無言で身を翻すと、焦ったように回り込まれた。鬱陶しいわね。

「その、…」
「言いたいことがあるなら、はっきり、早く、言ってください」

何をもごもご言ってるのだ。早くこの場から去りたい。というか、この男から離れたい。1秒でも早く。

「俺は!」
「……」
「お前が、ずっと好きだったんだ!」
「……」
「だが、その、お前を見ると、緊張してつい、あんなことばかり…」

だから何だというのだ。

「お話は以上ですね。それでは」
「いやいや、何かあるだろ!?」
「知りませんよ、そんなこと」

そう、この男の事情など、知ったことではないのだ。
































─────*─────*─────*─────*─────*─────


腹立たしいことがあったので(プライベートで申し訳ない)、新連載。
こちらは数話でたぶん終わります。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

隣の芝生は青いのか 

夕鈴
恋愛
王子が妻を迎える日、ある貴婦人が花嫁を見て、絶望した。 「どうして、なんのために」 「子供は無知だから気付いていないなんて思い上がりですよ」 絶望する貴婦人に義息子が冷たく囁いた。 「自由な選択の権利を与えたいなら、公爵令嬢として迎えいれなければよかった。妹はずっと正当な待遇を望んでいた。自分の傍で育てたかった?復讐をしたかった?」 「なんで、どうして」 手に入らないものに憧れた貴婦人が仕掛けたパンドラの箱。 パンドラの箱として育てられた公爵令嬢の物語。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

病弱令嬢…?いいえ私は…

月樹《つき》
恋愛
 アイゼンハルト公爵家の長女クララは生まれた時からずっと病弱で、一日の大半をベッドの上で過ごして来た。対するクララの婚約者で第三皇子のペーターはとても元気な少年で…寝たきりのクララの元を訪ねることもなく、学園生活を満喫していた。そんなクララも15歳となり、何とかペーターと同じ学園に通えることになったのだが…そこで明るく元気な男爵令嬢ハイジと仲睦まじくするペーター皇子の姿を見て…ショックのあまり倒れてしまった…。 (ペーターにハイジって…某アルプスの少女やんか〜い!!) 謎の言葉を頭に思い浮かべながら…。 このお話は他サイトにも投稿しております。

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

夏の眼差し

通木遼平
恋愛
 伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。  家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。 ※他サイトにも掲載しています

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

処理中です...