愛を騙るな

篠月珪霞

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前編

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「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」

王妃は表情を変えない。何を言っても、宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。

「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」

途端、思わずといった王妃の嘲笑が漏れる。

「──畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」



















「何故だ! 何故セシリアは心を閉ざしたままなのだ!」

ダンッと苛立ちも顕わに、国王であるエドリュートは一枚板の高級な執務机に拳を打ち付ける。王の執務室には他に宰相、事務次官、侍女などいたが、当然その疑問に答えを返すものはいない。

「愛妾も側妃も片付け、正妃であった公爵家の娘も排した。侍女も側近も、セリシアの家から都合させた。信頼できるもので固めた。望むものはすべて叶えたはずだ。…宰相」
「恐れながら、陛下に進言いたします」
「…申してみよ」
「かのお方には、相思相愛の婚約者がいました。婚前の僅か10日前の夜会で陛下に見初められなければ、きっと領地で平穏に暮らしていたでしょう」
「余が悪いと申すのか」
「時間がかかるということです。一朝一夕で忘れられるものではないでしょう」
「だが、もう4年だぞ!? もう王子も生まれている、なのにか?!」

理解できないとエドリュートは言葉を返す。
夜会で見たセシリアは、月の光のような銀髪と菫の眼差し、まるで妖精のような美しさと可憐さで、エドリュートの心を一瞬で奪った。ダンスに誘い、舞うような彼女に、欲しいという気持ちが抑えられなかった。他の女はもう不要だと思った。彼女だけがいればいいと。
それで、セシリアの生家であった伯爵家に結婚を打診したのだ。婚約ではなく、結婚である。既にそのときには、エドリュートには、正妃、側妃2人、愛妾が1人いたが、話しを持ち掛ける前にはすべて離縁し、後宮は空にしていた。
伯爵家には、娘には結婚を控えた婚約者がいることと、病弱であることを理由に断られた。夜会に出るのが初めてだったのも、体力的な面も含めてそれまでは見送っていたらしい。しかしどうにも諦めきれなかったエドリュートが王命で婚約解消させ、王妃として迎えたのだ。

「”まだ”4年でございます。殿下がお生まれになったとしても、関係ありますまい」
「しかし、愛してもいない男の子を産めるものか?」
「子を産むことと、愛することは同義ではございません」

確かに、初夜は抵抗された。細い腕で、声で表情で、エドリュートを拒んだ。媚薬の香も焚き染めてあったというのにそれでも。
その夜は侍女に抑え込ませ、力ずくで事を成した。2度目以降は抵抗もせず、されるがままであったから、あの男のことも吹っ切れたと思っていたのだが。

「女というものは度し難いな…」
「……」

宰相は沈黙で返した。



















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思い立ったが吉日。
年数だけ修正。
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