愛を騙るな

篠月珪霞

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後編

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そして、瞬く間に10年が過ぎた。
エドリュートは5年前から原因不明の病にかかり、今はもう寝た切りの状態だった。身体のどこにも不調を感じられなかったというのに、徐々に体力がなくなり、起き上がることもできなくなってしまった。天に召される日も近いと自分でも分かる。
大きな災いもなく、争いもなく、まずまず平穏な人生だったと言えよう。
ただひとつ、心残りは、セシリアとの仲が改善されないままだったということだろうか。
視界も危うくなってきたな…と側にいる主治医も気付いたようだった。
主治医が側を離れてから、入れ替わりにセシリアが来た。
自ら、エドリュートに近づくようなことは未だかつてなかったが、臨終のときを迎えた自分をさすがに憐れんでくれたのだろうか。

「陛下、聞こえておりますか」
「……あ、あ…」

初めて彼女から話しかけてくれたのに、返事もおぼつかないのが悔しい。
もっと、体調が万全だったときに、せめてあと5年前のあのときくらいに、もっと話をしたかった。

「もうそろそろだとお聞きし、お側に来ましたわ。…やっと悲願が叶うときが来たと」

…悲願?
何のことだ?

「ご存じでした? 陛下の側にいた、侍女、侍従、護衛、…それから主治医も。私の手の者でしたのよ」

何を言っている?

「ああ、もちろん、料理人、産婆もです。どういう意味か、お分かりになって?」

何を、言っているのだ?

「今まで、病気ひとつしたことのない陛下が、何故病に、それも原因不明の病に倒れられたのか。何故、原因不明と診断されたのか、お分かりになって?」

何を…?

「主治医も、宰相すら協力してくれましたわ。この城の者は皆、私の味方なのです」

それは、どういう…。

「そうそう、ついでといってはなんですが。…リュート」
「はい、母上」

ああ、息子もそこにいたのか。母と共に見送ってくれるつもりで…。

「リュートは、あなたのお子ではないのですよ」

? どういうことだ…。

「名前も本当は違うのですけれどね。リュートは、私の元婚約者との子です」

な、んだと…。

「本当に気付きませんでしたのね。初夜からずっと、始めから、私は陛下と閨を共にしたことなどありません。媚薬と説明されてましたでしょう、あの香は、幻覚剤も含まれておりますの。私の生家で採れる薬草で作ってまして。そうそう、大事なことを忘れるところでした。陛下に殺害されそうになった元婚約者は、ここにおります護衛の1人に紛れてました」

怒りに視界が真っ赤に染まるようだった。だが、もう声は出ない。

「陛下。あなたは自分の愛したものしか視界に入れず、名前すら覚えず、存在すら認めようとしなかった。だから、宰相に見限られ、周囲に裏切られた。陛下の味方など、1人もいないのです」

何とか声を出そうと必死になるが、どうにもならなかった。ただただ、愛した女を睨みつける。10年経って尚、自分を魅了する女を。

「どうです? 自分の欲のままに、2つの家門を敵に回し、私たちの幸せを壊したあなたの末路は。どんな気分ですか? 取るに足らないと思っている人間に復讐される気分は」

息が荒くなる。意識が飛びそうだ。なのに、女の声だけははっきり聞こえる。自分を絶望に叩き落す声だけが。

「陛下の言う、愛など…いえ、陛下が思っている愛は、ただの自己愛。私を愛しているなどと、騙る言葉をもう聞くことがないかと思うと、心から喝采を叫びたい気分ですわ!」

セシリアのエドリュートに贈った最後の言葉は喜色に溢れていた。

エドリュートの目に光は既になく、表情も苦悶のまま歪んでいる。
主治医が脈を取る。見開いたままの目に光を当てる。

「崩御されました」

主治医の言葉に、肩の荷が下りたとセシリアは全身から力が抜けるようだった。
14年…もうすぐ15年経とうとしている。長かった。
愛する人と引き裂かれ、王命で無理やり嫁がされたあの日。復讐を誓ったあの日。
国王は既にその頃から見放されつつあった。
密かに味方を増やし、少しずつ体内に蓄積していくような毒物を入手し、周囲が完全に国王を見限ったと確信してから計画を遂行した。
最後の復讐は、国王に真実を告げることだった。


「ようやく、終わったわね。宰相を呼んでくれる? 城から出るわ」



























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