地味令嬢が幸せになるまで

篠月珪霞

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「やっぱり駄目だったわ。…なんて、やっぱりなんて言ってはそれこそ駄目ね。2年も、頑張ったもの」

…盗み聞きしているようで、何ともきまりが悪いが。
言い訳すると、先に来ていたのは俺の方だ。
猫もここの居心地の良さを気に入ったのか、ちょくちょく姿を現すようになり、必然的に彼女も来るようになったのだ。

「結果が出てしまったから、もう猶予はないの。ここに来るのは、今日で最後になるわ」

次年度を待たずに、嫁がされるのか。彼女の妹が言っていたように。
にゃあ…と鳴く猫の声は、人間の言葉を理解できるはずもないのに、どこか悲し気だ。

「メリー、あなたに出逢えてよかった。後は、用務員さんにお願いしてあるから…」

私の我儘に付き合わせてごめんね、と囁き声。

「幸せになってね。私に幸せをくれた、あなた。──私も、いつか自分で幸せをつかみとるわ」














「………」

無言で起き上がる。彼女はもうこの場にはいない。

幸せをつかみとる、と。誰かにそうしてほしいではなく、自分でつかみとると。
確固たる信念に満ちた声だった。今後の行く先に、悲壮感などどこにも感じられなかった。
どうして彼女は、そんな声を出せたのだろう。
未来を絶たれ、自分の望む道を塞がれ、これから待つのは、もしかしたら生きる方が辛い道かもしれないのに。
貴族令嬢は、基本的に嫁ぎ先を自分で選ぶことはできない。結婚は政治で、家の利益、領地のためだ。親の意向が多分に反映されるのが、常だ。
声質が似ているせいか、彼女の声と、数日前の泣き出しそうな令嬢のものが重なる。前だけを見て未来を見据えるものと、ただひたすらに姉を案じるものと、何もかも違うのに。



──お姉さまは、幼い頃から、両親に疎んじられていたようです。髪色と目、色合いが自分たちと違うという、ただそれだけの理由で。なんでも、両親が嫌っていた祖父の色そのままだったとか。…愚かなことです。
反して、私は可愛がられていたのだと思います。弟も。目の色? ああ、姉とは微妙に違うんですよね。近くで見ないと分からない程度なのですが。
たぶん、姉の地頭のいいところも気に障ったのでしょう。文官になりたいと、初めて口に出したときにひどく叱られたそうです。考え方が時代遅れの人たちなので、女に学業など必要ないと。いつか家のために嫁に行くのがお前の義務だと。
どちらかというと内向的で、でも学ぶことが好きで、本が好きな姉はそれでも諦められなかった。
普段姉に関心がない癖に、自分たちの意思に反することは絶対に許さない。子供を道具としか見てない、私の両親は、そんな人たちです。
期限を設けて、賭けのようなことを持ち掛けたのは、どうせできるわけがないと高を括っていたのだと思います。そう、姉に聞きました。
学園に通っている間に、一度でも首位をとること。期限内にできなければ、すぐに嫁がせる。もちろん、卒業までなんて待ってくれるわけがない。
もしできれば、好きにしていいと。
そう、口約束ではなく、書面で交わしていたようです。だから…。



「あー……こういうの、柄じゃねえのに…」

友人というわけではない。クラスメイトでもない。交流なしの、知人くらいのレベル。異性として興味があるわけでもない。
…どうしたもんかな。
















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