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2-1 第二の故郷
第53話 ぶっつけ本番
しおりを挟む『ラフボアの群れがこっちに向かってる!!』
鬼気迫る伝令により事故現場は一瞬にして緊迫感に包まれる。
強さとしてはローウルフと同程度で、退治すること自体は容易な相手だが、群れを成し大群で突進してくるとなると話は別だ。
「なんだとっ!? 急ぎ防御陣形を組め! 事故現場へは近付けさせるな!!」
陣頭指揮を執っているラインの号令がこだまする。
エルフ族達は事故現場から距離を取り横に広く防御陣形を組み、弓や魔法で応戦する体制を取る。
「ヤマト、安心しろ。一匹たりともお前の元へは通さん」
「ええ、任せます。俺は少しでも多く収納していきます」
ラフボアへの対処はエルフ族達に任せ、俺は土砂の撤去作業を急ぐ。
「ドドドド……」
いよいよ近付いてくるラフボアの群れの足音が事故現場へと轟き始めた。
「来たぞ! まずは壁を張れ!!」
『ファイアーウォール!!』 『クリエイト・マッドフィールド!!』 『レイズ・ストレングス……』
総勢二十数名程のエルフ族達が炎で形成される壁を創り出す魔法や、地面をぬかるみへと変化させる魔法、身体補助をする魔法等を次々と発動していく。
魔法が使えない者は弓を引き絞り、来たるラフボアを狙いすまし待ち構える。
さすがに精霊様の末裔と言われるだけの事はあり、魔法に関しては非常に長けているようだ。
「ドドドッッ!!」
「ゴオオォォ!──ボウッ!」
「──ビィィッッ!!」
「ズブブ……」
「ビチャビチャ──フシューッ!」
「シュシュッ──」
「──ドスドスッ! ブギャァッ……」
エルフ族達の防御陣形がしっかりとラフボアの群れの進行を防いでいる。
直線的に突進するのが習性である以上、予測もつけ易い。彼らに任せていれば大丈夫だろう。
「ドドドドッ……!!」
◇
「おかしい……何故途切れない──これ程の数、何かに追われでもしたのか……?」
ラインがボソリと呟く。
エルフ族達はあれからゆうに三十匹は仕留めただろうか。
迫り来るラフボアの攻勢が緩むことなく続いている。
「ラインさん、この辺りには普段からこんなにもたくさんのラフボアが生息しているんですか?」
防御陣形の一間後方で万が一に備え、俺の傍で見張っていたラインに問いかける。
「いや……当然生息はしているが、こんなにも纏めて、さらに言えば皆が皆同じ方角を向いて走り来るなんて、見たことが無い……」
この辺りに住むラインが言うのであれば間違いないのだろう。
明らかに何かおかしい、呟きの通り"何か"に追われ、生息域から逃げて来ていると考えるのが自然だ。
「ラフボア達の生息域で野火でも起こって、エサが無くなって大移動しているという可能性は?」
「我々はこの辺りを住居とし生活して久しいが、火災が起こった事など記憶にないな」
「でしたらやはりラフボアより上位の存在ですか……」
「可能性としてはそうだろうな……しかし何と間の悪いことだ。一刻も早くアメリアを救出せねばならないというのに……」
ラインが焦りの表情を見せる。
妹──家族の生死が懸かっているんだ、家族の居る俺にも痛いほど理解できる。
『ダメだ……もう魔力が──』
「──スン」
ラインと原因の推察中、ファイアーウォールを維持していた一人のエルフ族の魔力が底をつき、防御陣形の一角に穴が開いてしまった。
「!! カバーに回る! 後ろは気にするな、お前はそのまま続けてくれ!──」
即座に反応したラインが戦線を維持するため、防御陣形に加わるべく駆けだす。
(早く取り除かないと……!)
「ホホーホ(ナカマ)」
「あぁ、ありがとうリーフル」
リーフルも応援してくれている。
期待に応えようと、体調の事も忘れ撤去作業に集中していたその時、ラインの叫び声が聞こえた。
「ヤマト!!──振り返れー!! 一匹抜けていった!!」
声に反応し振り返ると、通常のラフボアよりも一回り大きく見える個体が、体表に焦げ跡や、刺さった矢もそのままに、俺目掛け突進してくる様子が目に飛び込んできた。
(──! 弓……ラインの家だ……そうだ!)
ふと長にロングソードを借り受けていたことを思い出し、柄に手を掛ける。
(ロングソード……筋力が足りなくて短剣一筋だった俺に扱えるか?)
「チャキ──」
ロングソードを鞘から引き抜いた瞬間、俺は違和感を覚えた。
(──あれ……こんなに軽かったっけ──いや、細かいことは後だ!)
妙に軽く感じるロングソードを一振りすると、どういうわけか今まで愛用してきた短剣のように軽く扱える体感がした。
「ドドドッ──ブシューッッ!」
猪突猛進、ラフボアが俺目掛け一直線に突進してくる。
(これなら……!)
俺は応戦する準備時間稼ぎのため少し後退し、ラフボアに向かい合う。
「ドドドドッッ!!」
「サッ──シュンッ──」
迫り来るラフボアの動線よりすれ違いざまに二歩右にずれ、ロングソードを下から上へ一振り。
「──スパッ!!……ドサッ!」
頭部が胴体と別れ、ラフボアは地面に倒れこむ。
「出来た……」
あまり意識しなようにはしていたが、ロングソードを事も無げに扱っている冒険者達を見ては、本心では羨ましく思っていた。
仕事柄、戦闘に対するイメージトレーニングはそのまま自分の生死に関わるので、重要な訓練の一つだ。
なので『もし自分がロングソードを振れれば』と、情けないが想像してはいたが……。
「おぉ! やるな!! ヤマト!」
ラインが感嘆の声を上げる。
あっさりとラフボアを倒せたことに自分でも驚く。
「何とかなった……それより撤去を──」
「ゴロゴロゴロッッ!!」
「!!」
ラフボア達が駆ける振動の余波だろうか、突如直径五メートルはあろうかと思われる大岩が斜面を転げ落ちて来た。
ラフボアと対峙するために山の斜面に近付いてしまっていた俺目掛け、その膨大な質量を備えた大岩が跳ね上がりながら襲い来る。
「ヒュー……!!」
(避けられないっ……!!)
「ホーホ!! (ヤマト!!)──」
「ヒュ~……」
おかしい。
リーフルが叫ぶや否や、物理法則を無視しているかのように、落下する大岩の速度が遅くなっている。
(──! 避けないと!)
頭上の大岩の落下速度が見るからに鈍化、俺は回避行動に移る事が出来た。
「──ドシンッ!!……ゴロゴロ……」
その後飛来する大岩は突如勢いを取り戻し、無人の地面へと落下した。
「え!!?──今のは……それにリーフル、今『ヤマト』って……?」
確かにリーフルが俺の名前を呼んだのが伝わってきた、錯覚ではないはず。
それに今目の前で起こった現象は……。
「ホホーホ(ナカマ)」
リーフルが頬擦りしてくる。
「あれ……?……なんだ……」
突然全身から力が抜けて意識が遠のいていく。
「フラフラ──ドサッ……」
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