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告白
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「まったく、どんだけメンタル弱かったんだよ!」
店の開店準備をしながら、俺はやけくそ気味にレジの釣銭を確認していた。
昨夜俺は龍斗さんと一緒に桜庭さんとそのお兄さんがやっているバーへ行って。
桜庭さんの手料理を食べご機嫌だったあの人が、寝ている田村さんを起こしに行くと言っていた桜庭さんの様子を見に行ってから、おかしくなってしまった。
わけを聞いても何も言わず、ただ『俺、帰る』と言ってさっさと俺を置いて帰ってしまったのだ。
その様子を見て旭さんはにやにやしているし、田村さんを引っ張って降りてきた桜庭さんも、龍斗さんが帰ってしまったことを知ると動揺していたし、田村さんはずっと桜庭さんにべったりくっついていた。
まぁ、なんとなくだけど想像はつくんだけどね・・・・。
とにかく電話しても『今日は休む。はっしー、よろしく』と言って電話を切ってしまった龍斗さんの代わりに1人で店を開けることに。
そうして半日が過ぎようとしていた頃―――
「・・・園原くんは・・・?」
そう言って店に遠慮がちに入ってきたのは、桜庭さんだった。
「・・・今日は休みです」
「休み・・・。具合、悪いの?」
「さぁ?桜庭さんの方がよくわかってるんじゃないんですか?」
俺の言葉に、桜庭さんの瞳が揺れ、唇をきゅっと噛んだ。
「・・・やっぱり俺、嫌われちゃったのかな・・・・」
「―――はい?」
嫌われる?桜庭さんが?龍斗さんに?
ありえないだろ。
「・・・どうしてそう思うんですか?昨日、何があったんですか?」
「・・・よく、わかんない」
「は?」
「ずっと、俺にとっては日常で・・・変だと思ってなかったんだ。でも、前に付き合ってた子に同じ場面を見られて、泣かれて・・・『気持ち悪い』って言われた。俺、全然意味がわからなくて。でも仁は『雅はおかしくない』って言ってくれたし、俺を気持ち悪いって言った彼女よりも仁の傍にいる方がよかったから・・・・それでいいって思った。でも・・・園原くんに嫌われるのは・・・・やだな」
今にも涙が零れ落ちそうなほどその瞳は潤んでいて。
この人が、悩みながらも勇気を出してここまで来たんだってことが伝わってきた。
「・・・・龍斗さんの家、行ってみます?」
「え・・・・?」
「あの人、ここから歩いて10分くらいのマンションで1人暮らししてるんですよ。どうせ何も食べずゴロゴロしてるはずなんで、行って何か食べさせてやってくださいよ」
「でも・・・俺なんかが急に行ったら・・・」
「これ、合鍵です。あの人よく寝坊するんで、開店に間に合わなくなりそうなときとか、俺が叩き起こしに行くんですけど・・・・。桜庭さんに、あげます」
「は?俺に?え?でも―――」
「・・・・あの人、高熱出しても病院に行かず寝てれば治るって思ってるタイプなんです。ほっといたらどんどん悪くなるかも」
「―――行き方、教えて」
昨日見た光景が、どんなに忘れようと思っても消えてくれない。
雅くんに、キスした田村さん。
2人のキスシーンが、夢にまで出て来て飛び起きてしまう。
「・・・・なんだよ、あれ・・・・」
2人は付き合ってるの?
店に来た時も、田村さんはずっと雅くんの腰に手を添えてぴったりとくっついていた。
そう、まるで俺に見せつけるように・・・・。
「あ~あ・・・・」
わかってたよ。
どうせ失恋なんだ。
だってあんなにきれいな子が、俺のことなんて好きになるわけないよ。
男を好きになったのは初めてだったけど、始めから抵抗なんてなかった。
だって、今まで付き合ったどの女の子よりもきれいで可愛くて。
料理もうまくて、優しくて。
あんな子、きっとこれから先出会えない。
・・・はっしーに、悪いことしたな。
昨日は勝手に先に帰ってきちゃうし、今日は休んじゃうし。
ゲーム、買ってあげたら許してくれるかな・・・・
『ピンポ―――ン』
・・・え?はっしー?
インターホンの音に、俺は仕方なくふとんから這い出した。
今日はもう、ここから出たくなかったんだけどな・・・・。
「どなたぁ?」
インターホン越しに声をかけると、向こうで息を呑む気配。
「?誰?宅配?セールス?」
「・・・・・あの・・・・・」
「!!!」
うそ!?
まじ!?
なんで!?
頭ん中はてなだらけだったけど。
俺は考えるよりも早く玄関に向かって駆けだしていて、気付けばドアを勢いよく開けていた。
そこにいたのは、驚きに目を見開く、雅くん・・・・。
「あ・・・の・・・・元気・・・・?」
「元気!」
「本当に・・・・?今日、お店休んで・・・・」
「あ!そうだった!え、なんで知ってんの?てか、なんでここわかったの?」
「橋本くんに聞いて・・・・。お店行ったら、いなかったから・・・・」
そりゃそうか。
でもなんで・・・・
「何か、食べた?」
「え?」
「お腹、すいてない?具合悪いならお粥とか・・・あの、そこのスーパーで適当に材料買ってきたんだけど」
雅くんの手にはスーパーの袋。
「・・・上がってもいい?」
上目使いに首を傾げられて、その仕草に心臓打ち抜かれる。
―――可愛い。
「ど・・・どうぞ」
―――これって、夢の中かな。
雅くんが、うちの台所で料理してる。
こんな展開、夢の中だとしか思えないんだけど。
真剣なその表情に、ときめきが止まらない。
白い肌に長い睫毛。
赤い唇はセクシー。
見てるだけで、こんなにドキドキするのは初めてだ。
「うわ、うまそう」
目の前に置かれたのは、野菜がたっぷり入ったうどん。
「栄養、取った方がいいと思って・・・・野菜入れた。いっぱい。あと、消化がよくて、体があったまるものがいいと思って、うどんにした。食べれる?」
「うん!超うまそう!いただきます!」
ちょっと不安そうに俺を見つめる雅くんの前で、俺はあっという間にそのうどんをたいらげてしまった。
そういえば、昨日帰って来てから、何も食べてなかったんだ・・・。
「・・・よかった。食欲はあるみたいだね」
「うん!超うまかった!ありがとう!」
「・・・・ふふ、よかった」
安心したように笑う雅くん。
うわぁ、笑顔がまた可愛い・・・・。
今、目の前に雅くんがいるってことが信じられない。
俺の家で、雅くんが笑ってる。
嬉しい。
嬉しいんだけど。
切ないよ・・・・。
「・・・・じゃあ、俺、帰るね」
「え!なんで?」
突然立ち上がる雅くんにびっくりする。
「だって・・・橋本くんが、園原くんに何か食べさせてって言われたから来ただけで・・・・。具合もよさそうだし、俺がここにいる理由―――」
「あるよ!!」
「・・・・何?」
「え?」
「理由、なに?」
「え、えーと・・・そ、そうだ!昨日!」
「昨日・・・・?」
「あの・・・・田村さんと・・・・」
「・・・・うん?」
「あの・・・・」
「・・・・・」
どうしよう。なんて聞けばいい?
田村さんと付き合ってるの?って?
でも、もし本当に付き合ってたら・・・・
俺はどうしたらいい?
だって
もうこんなに好きになってるのに―――
諦められないのに―――
「・・・・ごめんね」
「え?」
「・・・・気持ち悪かった・・・よね」
改めて雅くんの顔を見る―――と、なぜか泣きそうな顔。
「え・・・気持ち悪いって・・・?」
「・・・キス・・・男同士で・・・」
「あ・・・・いや、あの・・・気持ち悪くは、ない・・・・けど」
「え・・・ほんと?」
「じゃなくて・・・・雅くんは、さ、田村さんと付き合ってる・・・・の?」
胸が、バクバクする。
でも聞かなくちゃ。
ちゃんと、本当のこと、知りたい。
「仁と?ううん、付き合ってはないよ」
「え、ほんと?」
「うん。仁は、幼馴染で家族みたいなもんだから」
「じゃ・・・じゃあ、なんでちゅーすんの?付き合ってないのに、なんで?」
「え・・・・そんなの、わかんないよ」
「は?」
「だって、昔からそうだったから。仁は、俺とちゅーするのが好きなんだよ。だから、昔からしてた。理由なんかないよ」
む・・・昔からしてたって・・・・
「昔からしてたから、不思議に思ったこともない。男同士でキスするのが変だって、人に言われて初めて気付いたっていうか・・・・何で変なんだろうって、思った」
「・・・・俺・・・俺、男同士のキスが変だとは思わないけど・・・・けど・・・」
「・・・けど?」
「み、雅くんが、田村さんとちゅーするのは、いや、だな」
「・・・何で?」
首を傾げる雅くん。
なんか、今思ったけど
雅くんて、すごく鈍感なんじゃ・・・・
それに、無防備だし。
そんな無防備にされてたら、ちゅーだってしたくなるよ。
だから田村さんだって―――
「園原くん?大丈夫?」
俺が急に黙ってしまったので具合が悪いのかと思ったみたいだった。
無防備に、顔を近づける雅くん。
その距離10センチ。
大きな瞳が目の前で。
体が、勝手に動いてた。
「―――――え?」
一瞬、触れた唇。
やわらかくて、ちょっとあったかくて。
「・・・・雅くんが、好き」
もう、止まらなかった・・・・。
店の開店準備をしながら、俺はやけくそ気味にレジの釣銭を確認していた。
昨夜俺は龍斗さんと一緒に桜庭さんとそのお兄さんがやっているバーへ行って。
桜庭さんの手料理を食べご機嫌だったあの人が、寝ている田村さんを起こしに行くと言っていた桜庭さんの様子を見に行ってから、おかしくなってしまった。
わけを聞いても何も言わず、ただ『俺、帰る』と言ってさっさと俺を置いて帰ってしまったのだ。
その様子を見て旭さんはにやにやしているし、田村さんを引っ張って降りてきた桜庭さんも、龍斗さんが帰ってしまったことを知ると動揺していたし、田村さんはずっと桜庭さんにべったりくっついていた。
まぁ、なんとなくだけど想像はつくんだけどね・・・・。
とにかく電話しても『今日は休む。はっしー、よろしく』と言って電話を切ってしまった龍斗さんの代わりに1人で店を開けることに。
そうして半日が過ぎようとしていた頃―――
「・・・園原くんは・・・?」
そう言って店に遠慮がちに入ってきたのは、桜庭さんだった。
「・・・今日は休みです」
「休み・・・。具合、悪いの?」
「さぁ?桜庭さんの方がよくわかってるんじゃないんですか?」
俺の言葉に、桜庭さんの瞳が揺れ、唇をきゅっと噛んだ。
「・・・やっぱり俺、嫌われちゃったのかな・・・・」
「―――はい?」
嫌われる?桜庭さんが?龍斗さんに?
ありえないだろ。
「・・・どうしてそう思うんですか?昨日、何があったんですか?」
「・・・よく、わかんない」
「は?」
「ずっと、俺にとっては日常で・・・変だと思ってなかったんだ。でも、前に付き合ってた子に同じ場面を見られて、泣かれて・・・『気持ち悪い』って言われた。俺、全然意味がわからなくて。でも仁は『雅はおかしくない』って言ってくれたし、俺を気持ち悪いって言った彼女よりも仁の傍にいる方がよかったから・・・・それでいいって思った。でも・・・園原くんに嫌われるのは・・・・やだな」
今にも涙が零れ落ちそうなほどその瞳は潤んでいて。
この人が、悩みながらも勇気を出してここまで来たんだってことが伝わってきた。
「・・・・龍斗さんの家、行ってみます?」
「え・・・・?」
「あの人、ここから歩いて10分くらいのマンションで1人暮らししてるんですよ。どうせ何も食べずゴロゴロしてるはずなんで、行って何か食べさせてやってくださいよ」
「でも・・・俺なんかが急に行ったら・・・」
「これ、合鍵です。あの人よく寝坊するんで、開店に間に合わなくなりそうなときとか、俺が叩き起こしに行くんですけど・・・・。桜庭さんに、あげます」
「は?俺に?え?でも―――」
「・・・・あの人、高熱出しても病院に行かず寝てれば治るって思ってるタイプなんです。ほっといたらどんどん悪くなるかも」
「―――行き方、教えて」
昨日見た光景が、どんなに忘れようと思っても消えてくれない。
雅くんに、キスした田村さん。
2人のキスシーンが、夢にまで出て来て飛び起きてしまう。
「・・・・なんだよ、あれ・・・・」
2人は付き合ってるの?
店に来た時も、田村さんはずっと雅くんの腰に手を添えてぴったりとくっついていた。
そう、まるで俺に見せつけるように・・・・。
「あ~あ・・・・」
わかってたよ。
どうせ失恋なんだ。
だってあんなにきれいな子が、俺のことなんて好きになるわけないよ。
男を好きになったのは初めてだったけど、始めから抵抗なんてなかった。
だって、今まで付き合ったどの女の子よりもきれいで可愛くて。
料理もうまくて、優しくて。
あんな子、きっとこれから先出会えない。
・・・はっしーに、悪いことしたな。
昨日は勝手に先に帰ってきちゃうし、今日は休んじゃうし。
ゲーム、買ってあげたら許してくれるかな・・・・
『ピンポ―――ン』
・・・え?はっしー?
インターホンの音に、俺は仕方なくふとんから這い出した。
今日はもう、ここから出たくなかったんだけどな・・・・。
「どなたぁ?」
インターホン越しに声をかけると、向こうで息を呑む気配。
「?誰?宅配?セールス?」
「・・・・・あの・・・・・」
「!!!」
うそ!?
まじ!?
なんで!?
頭ん中はてなだらけだったけど。
俺は考えるよりも早く玄関に向かって駆けだしていて、気付けばドアを勢いよく開けていた。
そこにいたのは、驚きに目を見開く、雅くん・・・・。
「あ・・・の・・・・元気・・・・?」
「元気!」
「本当に・・・・?今日、お店休んで・・・・」
「あ!そうだった!え、なんで知ってんの?てか、なんでここわかったの?」
「橋本くんに聞いて・・・・。お店行ったら、いなかったから・・・・」
そりゃそうか。
でもなんで・・・・
「何か、食べた?」
「え?」
「お腹、すいてない?具合悪いならお粥とか・・・あの、そこのスーパーで適当に材料買ってきたんだけど」
雅くんの手にはスーパーの袋。
「・・・上がってもいい?」
上目使いに首を傾げられて、その仕草に心臓打ち抜かれる。
―――可愛い。
「ど・・・どうぞ」
―――これって、夢の中かな。
雅くんが、うちの台所で料理してる。
こんな展開、夢の中だとしか思えないんだけど。
真剣なその表情に、ときめきが止まらない。
白い肌に長い睫毛。
赤い唇はセクシー。
見てるだけで、こんなにドキドキするのは初めてだ。
「うわ、うまそう」
目の前に置かれたのは、野菜がたっぷり入ったうどん。
「栄養、取った方がいいと思って・・・・野菜入れた。いっぱい。あと、消化がよくて、体があったまるものがいいと思って、うどんにした。食べれる?」
「うん!超うまそう!いただきます!」
ちょっと不安そうに俺を見つめる雅くんの前で、俺はあっという間にそのうどんをたいらげてしまった。
そういえば、昨日帰って来てから、何も食べてなかったんだ・・・。
「・・・よかった。食欲はあるみたいだね」
「うん!超うまかった!ありがとう!」
「・・・・ふふ、よかった」
安心したように笑う雅くん。
うわぁ、笑顔がまた可愛い・・・・。
今、目の前に雅くんがいるってことが信じられない。
俺の家で、雅くんが笑ってる。
嬉しい。
嬉しいんだけど。
切ないよ・・・・。
「・・・・じゃあ、俺、帰るね」
「え!なんで?」
突然立ち上がる雅くんにびっくりする。
「だって・・・橋本くんが、園原くんに何か食べさせてって言われたから来ただけで・・・・。具合もよさそうだし、俺がここにいる理由―――」
「あるよ!!」
「・・・・何?」
「え?」
「理由、なに?」
「え、えーと・・・そ、そうだ!昨日!」
「昨日・・・・?」
「あの・・・・田村さんと・・・・」
「・・・・うん?」
「あの・・・・」
「・・・・・」
どうしよう。なんて聞けばいい?
田村さんと付き合ってるの?って?
でも、もし本当に付き合ってたら・・・・
俺はどうしたらいい?
だって
もうこんなに好きになってるのに―――
諦められないのに―――
「・・・・ごめんね」
「え?」
「・・・・気持ち悪かった・・・よね」
改めて雅くんの顔を見る―――と、なぜか泣きそうな顔。
「え・・・気持ち悪いって・・・?」
「・・・キス・・・男同士で・・・」
「あ・・・・いや、あの・・・気持ち悪くは、ない・・・・けど」
「え・・・ほんと?」
「じゃなくて・・・・雅くんは、さ、田村さんと付き合ってる・・・・の?」
胸が、バクバクする。
でも聞かなくちゃ。
ちゃんと、本当のこと、知りたい。
「仁と?ううん、付き合ってはないよ」
「え、ほんと?」
「うん。仁は、幼馴染で家族みたいなもんだから」
「じゃ・・・じゃあ、なんでちゅーすんの?付き合ってないのに、なんで?」
「え・・・・そんなの、わかんないよ」
「は?」
「だって、昔からそうだったから。仁は、俺とちゅーするのが好きなんだよ。だから、昔からしてた。理由なんかないよ」
む・・・昔からしてたって・・・・
「昔からしてたから、不思議に思ったこともない。男同士でキスするのが変だって、人に言われて初めて気付いたっていうか・・・・何で変なんだろうって、思った」
「・・・・俺・・・俺、男同士のキスが変だとは思わないけど・・・・けど・・・」
「・・・けど?」
「み、雅くんが、田村さんとちゅーするのは、いや、だな」
「・・・何で?」
首を傾げる雅くん。
なんか、今思ったけど
雅くんて、すごく鈍感なんじゃ・・・・
それに、無防備だし。
そんな無防備にされてたら、ちゅーだってしたくなるよ。
だから田村さんだって―――
「園原くん?大丈夫?」
俺が急に黙ってしまったので具合が悪いのかと思ったみたいだった。
無防備に、顔を近づける雅くん。
その距離10センチ。
大きな瞳が目の前で。
体が、勝手に動いてた。
「―――――え?」
一瞬、触れた唇。
やわらかくて、ちょっとあったかくて。
「・・・・雅くんが、好き」
もう、止まらなかった・・・・。
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