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第十三章 貴族主義派の不正

二百十六話 お金を稼ぐのは大変です

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 次の日は早々にジンさん達とプリンをポートコールの駐屯地に送って行き、僕達は王城に向かった。

「お、やってきたな」
「お待たせしました。今日は一日歩くので、動きやすい格好をしてきました」

 王城に着くと、ルーカスお兄様が待っていてくれた。
 僕達は冒険者の服装で、ルーカスお兄様は騎士服を着ている。
 すると、王妃様の部屋から他の女子達がやってきた。
 皆、騎士服を着ていて準備万端だ。
 アイビー様も今日はツインテールではなくポニーテールに髪を変えていて、やる気満々だ。
 そして、当たり前の様にアイビー様に抱きつく三人組。

「「「アイビーお姉ちゃん、カッコいい!」」」
「ちょっと、なんですの!」

 うーん、なんだか見慣れた光景になりつつあるなあ。
 とりあえず時間も押しているので、先ずは近衞騎士の人と一緒にポートコールの代官の屋敷に移動する。

「皆様、ご足労頂き有難う御座います。こちらも準備ができています」

 屋敷に着くと、カールトンさんが出迎えてくれた。
 カールトンさんは屋敷に残るとの事なので、カールトンさん以外の人と組んで早速移動開始をする。

「お兄ちゃん、お魚がいっぱい売っているね」
「そうだね。幾つか買って、夕食のおかずにしようか?」
「うん!」

 僕達は、商店街を手を繋ぎながら歩いていく。
 やはり辺境伯領と違って、港町らしい品物が売られているなあ。

「お、昨日治療していた嬢ちゃんか」
「そうだよ。今日はお兄ちゃんと一緒なの」
「そうかいそうかい、それはいい事だ」

 どうも魚屋の主人は、昨日リズに治療を受けていた様だ。
 いかつい顔でニコッと笑い、リズの頭をポンポンと撫でていた。

「おじさん。何か困った事ない?」
「そうだね、やっぱりみかじめ料の件が痛かったから、そこはだいぶ良くなったぞ」
「みかじめ料って、まるでマフィアのやる事ですね」
「そうだな。ありゃ貴族じゃなくてマフィアそのものだな」

 献金の問題もあったけど、みかじめ料まで取っていたのか。
 本当に元ベストール男爵は、この街でやりたい放題だったんだな。
 その後も買い物をしつつ商店街の人に話を聞くけど、全てのお店でみかじめ料を取っていた事が判明。
 そして、もう一つ重大な事がわかった。

「薬草の供給量が少なくなっているのよ。今は何とか大丈夫だけど、寒くなるとちょっと心配ね」

 と、ポーションを扱っているお店での一言。
 ポートコールは港町なので元々肉体労働が多く、怪我人も多いそうだ。
 その為、ポーションの需要が多いのに薬草が不足しているという。
 更に寒い季節になると風邪をひく人が増えるから、更にポーションの需要が増えてくる。

「どこも同じ様な情報でしたね」
「幸いにして、重症者が殆どいなくて良かったですわ」
「じゃあ、午後は薬草採取をしておこうか」
「「「賛成!」」」

 昼食を兼ねて代官の屋敷に戻って話をするけど、街の様子は変わりなかった。
 まあ、元ベストール男爵と男爵と繋がっていた人物は捕まっているし、街の人はほっとしているのかもしれない。
 午後は目的を切り替えて薬草採取をする事に。
 先ずはポートコールの冒険者ギルドに皆で移動する。

「薬草は駐屯地近くの森で採れるのですが、現在は多くの冒険者が魔物の討伐を行なっている最中です」
「あー、確かに今日もジンさん達が魔物を討伐しているんだよね」

 受付のお姉さんに確認したら、よりによって今魔物がウヨウヨいる所に薬草が生えているとは。
 魔物討伐に忙しくなって、薬草採取所ではないかもしれないな。

「別の場所で採取して、このギルドに持ってきてもいいですか?」
「はい、それは構いません。念の為に現地のギルドに一言言っておいた方が良いでしょう」

 別の場所もオッケーなので、いつもの様に辺境伯領で薬草を採取しよう。
 と、ここでまだ冒険者登録していないアイビー様の手続きを進めておいて、その間にポートコールではどんな依頼があるか確認しておこう。

「荷物を運んだり、護衛する任務が多いね」
「港町だから、やっぱり荷物を運ぶ事が多そうだね」

 今日も港は沢山の人で賑わっていたし、運ぶ荷物も多そうだ。
 ポートコールでは、力仕事が多いのだろう。
 リズと掲示板を眺めていたら、手続きを終えたアイビー様がやってきた。

「お待たせしましたわ。さあ、行きましょう」
「「「おー!」」」

 女性陣の元気な掛け声を合図に、ポートコールから辺境伯領へゲートを繋ぐ。

「そういう事でしたら問題ありませんよ。ちょうど休息日も挟みますし、天気も良いので薬草もまた生えるでしょう」

 早速ギルドに行っていつのも受付のお姉さんに話をしたら、あっさりと問題ないと言われた。
 そうか、明日はギルドもお休みだからある程度の薬草を採っても問題はないんだ。
 僕はアイビー様用の薬草採取セットと薬草を纏める紐と多めに買っておく。
 
「お、新しい嬢ちゃんがいるな」
「アイビーですわ。宜しくですわ」
「僕のお嫁さん候補ですよ」
「そうかそうか、この国の王妃様候補か。そりゃ楽しみだ」
「え? 皆さん、ルーカス様の事をご存じで?」
「ここのギルドの連中は、全員王家だって知っているぞ」
「な、なんですの!」

 そして、僕の後ろではアイビー様の叫び声が響いている。
 そりゃ、僕達が王家だと分かっていてそれでフランクに接する冒険者って限られるだろう。
 驚くアイビー様の事を、ルーカスお兄様が苦笑しながら見つめていた。

「この街の人はとても良い人が多いよ。僕達が王家の人間だと知っても、変わらずに接してくれるんだ」
「それに、ジンさんの結婚式には皆で侍従の役をやったんだよね」
「エレノアもお料理を運んだの」
「とても面白かったよ! おばあちゃんも一緒に侍従をやっていたよ」
「信じられませんわ。そんな体験をなさるなんて……」

 いつもの森に近衛騎士の護衛を受けながら向かう最中、皆でこの間の結婚式の事を話していた。
 勿論、アイビー様は信じられないといった表情だった。

「僕達は、将来国を治めなければならない。しかし、実際に貴族は国の人口のほんの一部で大多数は平民だ。今の内に、平民の暮らしはどうなのか、どの様にして暮らしが成り立っているのかを勉強するのは、決して悪いことではないと思う」
「僕とリズは最初は平民の様な存在でしたし、その分色々な経験ができました」
「特に、最近は貴族主義の連中が引き起こした事件を目の当たりにしてきた。僕も、どうすれば国を良くする事ができるか、本気で考え始めたんだ」
「ルーカスお兄様は、海外の人との会談にも積極的に参加されていますし、絶対にこの国は良くなると思いますよ」
「ルーカス様……」

 ルーカス様と僕の発言に、アイビー様はちょっと思う事があった様だ。
 少し黙って色々と考えているので、皆もそれ以上は言わないようにした。

 そんな中森に到着したのだが、早速イノシシ三頭が僕達の事を待ち構えていた。

「あ、イノシ……」
「とー!」
「瞬殺ですわ……」

 アイビー様がイノシシと言っている最中に、リズとスラちゃんが愛刀のファルシオンとロングソードでイノシシの頸を一刀両断。
 あっという間に、イノシシは倒されてしまった。

「さあ、アイビーも薬草を探そう。今日は一杯採らないと」
「リズが薬草の採り方を教えてあげる!」
「は、はい……」

 未だにリズとスラちゃんがイノシシを瞬殺した事にびっくりしているアイビー様を、ルーカスお兄様とリズが手を引いていった。
 というかリズよ、近衛騎士を押し退けて獲物を倒すのはやめなさい。

「あ、これが薬草ですわね」
「そうそう、これを十枚集めて一つにするんだよ」
「成程、これをギルドに納品するのですわね」

 アイビー様は、リズに色々と教えて貰いながら薬草を集めていく。
 今の時期は暑くもなく寒くもないので、植物が生育するのに丁度良い季節。
 薬草も沢山見つかって、次々に纏めてはカゴに入れていく。
 僕達の事を近衛騎士が警護しているのだが、オオカミが数頭現れただけで他は何も現れない。
 
「わあ、小さな蜘蛛さんだ!」
「へえ、珍しいね。シルクスパイダーだよ」

 そんな中、薬草採取を続けていると小さな蜘蛛がひょっこりと顔を出してきた。
 鑑定をすると、シルクスパイダーという珍しい蜘蛛だった。
 
「あ、アイビーお姉ちゃんの手の上に乗ったよ」
「まあ、薬草をもぐもぐと食べていますわ」
「このシルクスパイダー、貴重なスパイダーシルクも取れるし火と雷魔法も使える様だよ」
「へえ、お利口さんな蜘蛛さんなんですわね」

 小さいけど貴重な種類だし、何よりも護衛にもなる。
 この蜘蛛は、どうやらアイビー様の事が気に入った様だ。

「アイビーお姉ちゃん、名前をつけてあげよう!」
「そうですわね、アマリリスとしましょうか」
「わあ、綺麗な名前だね。アマリリスも足を上げて喜んでいるよ」

 ちょっと赤い毛をしているので、アマリリスという名はピッタリだろう。
 薬草を主食にするので、飼育するにも低コストだ。
 と、ここでまたもやイノシシが一頭現れた。
 ちょうど良いので、アマリリスの魔法の威力を試す事にした。

「アマリリス、あのイノシシを攻撃ですわ!」

 ズドーーーン!

「おお、凄い凄い! お兄ちゃんみたいな雷魔法だ!」
「凄いなあ。小さいから目立たないし、護衛としても十分な実力を持っているぞ」

 アイビー様はアマリリスに攻撃を命じると、アマリリスは了解と言わんばかりに足を一本上げたと思ったら強力な雷をイノシシの頭上に落とした。
 勿論、イノシシは一瞬で倒された。
 リズもはしゃいでいるけど、ルーカスお兄様の意見の通りに目立たないから護衛としても役に立ちそうだ。

「はい、これで手続き完了です」
「こうやって、冒険者はお金を手に入れているんですわね」

 ポートコールに戻ってギルドで薬草と倒した獲物を売却する。
 アイビー様も、沢山の薬草とアマリリスが倒したイノシシを売却し、結構な額のお金を手に入れた。
 イノシシは頭に雷の直撃を受けただけなので、毛皮も肉も全く傷が付いてなく高額買取となったのだ。

「そうそう、お金を稼ぐって大変なんだよ」
「アイビーも良い経験をしたわね」
「あ、レイナお姉様とカミラお姉様」

 ここで現れたのはジンさん達だ。
 今日は他にも冒険者がいるので、ポートコールのギルドまで来た様だ。
 レイナさんとカミラさんは、アイビーに優しく語りかけている。

「皆色々と考えて、頭を使ったり体を動かしたりしてお金を稼いでいるのよ」
「貴族だからって、勝手にお金が入る訳じゃないのよ。皆の税金なのだから、大切に使わないといけないのよ」
「はい、今日は本当に勉強になりました」

 お金を稼ぐ事の大切さに加えて市民の暮らしも見る事ができたから、アイビー様にとっては本当に貴重な体験だったのだろう。
 屋敷での勉強や礼儀作法とはまた違った勉強だもんな。
 ここで、レイナさんとカミラさんが僕達に一言。

「あっそうだ、来週皆の家庭教師として呼ばれたのよ」
「いっぱい問題を作ったから、皆もアイビーも楽しみにしていてね」
「「「えー!」」」
「えっ、なんですの?」
「アイビーも体験すれば、叫びたい気持ちも分かるよ」
「はあ……」
「あはは……」

 まさかの家庭教師の報告に、リズとエレノアとルーシーお姉様が絶望的な表情をしながら叫び声を上げていた。
 何が何だか分からないアイビー様だが、実際に体験したらリズと同じ反応をするはずだよね。
 そう思いながら、僕とルーカスお兄様は顔を見合わせて苦笑していたのだった。
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