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帰還、そして出産
82 提案
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帰宅し、普段着に着替えた。
皆、居間に集まって坐っている。
一緒にいるのに、誰も、何も言わない。重苦しい空気が漂っていた。
そんな中、杏奈と環奈が、目配せをして、同時に立ち上がった。
「私たちから、一つ提案があります!」
皆、何事かと暗い顔を上げ、注目する。
「こうやって、みんなで、どよ~んとしていても、仕方ないと思うんです。胎教にもよくありません。皆さん、妊娠中ということ忘れてませんか?」
「幸いというか、何というか、神社も全く暇のようですし、気晴らしも兼ねまして、新婚旅行しませんか?」
「な、何言いだすの、こんな時に、この子たちは……」
沙織の否定的反応は、ごく当然の反応とも言える。ある意味、不謹慎だ。が、
「新婚旅行とは、なんぞや?」
祥子が興味を持った。
彼女の時代に、そんなのモノは無かった。日本で初めて新婚旅行をしたのは、幕末の坂本龍馬だとされている。平安時代人が知るはずもない。
「結婚して、夫婦で旅行に出かけるんです。舞衣様、まだ、してないですよね?」
杏奈が祥子に説明し、舞衣に向きを変えて言った。
「そういえば…。何しろ、結婚式自体してないから……」
「行きましょうよ。みんなで! ダメですか?」
双子が揃って、潤んだ目で舞衣を見詰める。舞衣は、この眼差しに滅法弱い。
「ま、まあ、別に良いけど…。どうせ暇だし……」
本当は、そんな気分では無いが、二人の勢いに押されて、そう答えてしまった。
「祥子さんは?」
環奈の問いに、祥子は少し考え、頷いた。
「良いぞよ。行ってみたい」
「恵美姉様!」
「う~ん。いいんじゃないかな~。気晴らしになるかもね~」
「慎也さん!」
「よし、行こう」
「やった、決定です!」
「ちょっと待ちなさい! 何で、私には訊かないの?」
毎度のことながら、沙織が、杏奈と環奈に噛み付いた。
「お姉様は、行きたくないなら措いて行くだけですから、いいんです!」
「私も行くに決まっているでしょ! もう!」
膨れっ面をする沙織に苦笑しながら、慎也が皆に訊いた。
「じゃあ、行き先は、どうしようか?」
「あ、あのう……。それに関してじゃがな。一度で良いから伊勢の大神宮様にお参りしたいと思って居ったのじゃが、ダメかのう?」
祥子が、遠慮がちにリクエストした。
仙界から、宝珠を使って、いつも見ていたという。そして、一度行ってみたいと思っていたということである。千年もの間……。
千年越しの念願とあれば、反対する者はいない。慎也にとっては、学生時代を過ごした懐かしいところでもある。距離的にも、遠過ぎず近過ぎずで、適当だし、奈来早神社の本社に当たる神社だ。
ということで、行き先は伊勢に決定した。
山本姉妹の警備の関係があるので、移動手段は車。車は沙織が手配する。
運転は慎也がするつもりでいたが、却下された。二日目が不安だという。…つまりこれは、夜のイトナミがあるということだ。それも、「普通」では許してもらえそうもない……。
他に免許を持っている内、舞衣と沙織はペーパードライバーで運転に自信がない。恵美がしても良いと言うが、これは山本三姉妹に拒否された。恵美の運転は、荒くて怖いというのだ。
結局、沙織が運転手も手配することになった。宿泊場所は、目的地をよく知っている慎也が決める。
すぐに、沙織が忙しそうに動き出した。
よどんだ空気が祓われたようだ。
慎也は、左右の手で杏奈と環奈の頭を撫でた。
「ありがとう」
二人は共に、ニッコリ笑った。
皆、居間に集まって坐っている。
一緒にいるのに、誰も、何も言わない。重苦しい空気が漂っていた。
そんな中、杏奈と環奈が、目配せをして、同時に立ち上がった。
「私たちから、一つ提案があります!」
皆、何事かと暗い顔を上げ、注目する。
「こうやって、みんなで、どよ~んとしていても、仕方ないと思うんです。胎教にもよくありません。皆さん、妊娠中ということ忘れてませんか?」
「幸いというか、何というか、神社も全く暇のようですし、気晴らしも兼ねまして、新婚旅行しませんか?」
「な、何言いだすの、こんな時に、この子たちは……」
沙織の否定的反応は、ごく当然の反応とも言える。ある意味、不謹慎だ。が、
「新婚旅行とは、なんぞや?」
祥子が興味を持った。
彼女の時代に、そんなのモノは無かった。日本で初めて新婚旅行をしたのは、幕末の坂本龍馬だとされている。平安時代人が知るはずもない。
「結婚して、夫婦で旅行に出かけるんです。舞衣様、まだ、してないですよね?」
杏奈が祥子に説明し、舞衣に向きを変えて言った。
「そういえば…。何しろ、結婚式自体してないから……」
「行きましょうよ。みんなで! ダメですか?」
双子が揃って、潤んだ目で舞衣を見詰める。舞衣は、この眼差しに滅法弱い。
「ま、まあ、別に良いけど…。どうせ暇だし……」
本当は、そんな気分では無いが、二人の勢いに押されて、そう答えてしまった。
「祥子さんは?」
環奈の問いに、祥子は少し考え、頷いた。
「良いぞよ。行ってみたい」
「恵美姉様!」
「う~ん。いいんじゃないかな~。気晴らしになるかもね~」
「慎也さん!」
「よし、行こう」
「やった、決定です!」
「ちょっと待ちなさい! 何で、私には訊かないの?」
毎度のことながら、沙織が、杏奈と環奈に噛み付いた。
「お姉様は、行きたくないなら措いて行くだけですから、いいんです!」
「私も行くに決まっているでしょ! もう!」
膨れっ面をする沙織に苦笑しながら、慎也が皆に訊いた。
「じゃあ、行き先は、どうしようか?」
「あ、あのう……。それに関してじゃがな。一度で良いから伊勢の大神宮様にお参りしたいと思って居ったのじゃが、ダメかのう?」
祥子が、遠慮がちにリクエストした。
仙界から、宝珠を使って、いつも見ていたという。そして、一度行ってみたいと思っていたということである。千年もの間……。
千年越しの念願とあれば、反対する者はいない。慎也にとっては、学生時代を過ごした懐かしいところでもある。距離的にも、遠過ぎず近過ぎずで、適当だし、奈来早神社の本社に当たる神社だ。
ということで、行き先は伊勢に決定した。
山本姉妹の警備の関係があるので、移動手段は車。車は沙織が手配する。
運転は慎也がするつもりでいたが、却下された。二日目が不安だという。…つまりこれは、夜のイトナミがあるということだ。それも、「普通」では許してもらえそうもない……。
他に免許を持っている内、舞衣と沙織はペーパードライバーで運転に自信がない。恵美がしても良いと言うが、これは山本三姉妹に拒否された。恵美の運転は、荒くて怖いというのだ。
結局、沙織が運転手も手配することになった。宿泊場所は、目的地をよく知っている慎也が決める。
すぐに、沙織が忙しそうに動き出した。
よどんだ空気が祓われたようだ。
慎也は、左右の手で杏奈と環奈の頭を撫でた。
「ありがとう」
二人は共に、ニッコリ笑った。
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