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美雪と早紀
9 早紀の隠し事
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その晩、アパートの部屋で、早紀はスマートフォンと睨めっこしていた。
皆には、父は「ホッタラカシで全く帰ってこない」と言った。が、実はそうでもないのだ。
二~三ヶ月に一回は必ず顔を出す。ただ、泊まっては行かないだけ。すぐに東京へ戻って行ってしまうのだ。きっと、忙しいのだろう。
父が、早紀のことを気にしていてくれるのも分かっていた。
電話も、よく架かってくる。いつも向こうから架かってくるので、早紀の方から電話したことは殆どない。
それに、学費も、十分過ぎるほどの生活費も、全て出してもらっている。
お蔭で何不自由しないし、草花や鳥の写真を撮るための、かなり高価なカメラも、ポンと買ってもらった。
父親の方は、けっこうカツカツの生活をしているみたいなのに・・・。
そして何しろ、早紀にとって唯一の肉親だ。父にとっても、早紀は大事な一人娘。
その父親に、「妾になる」とは、やはり言い出しにくかった。
電話しなければいけない。慎也に、父親と連絡を取るように言われたのだ。それは、分かっているのだが、「今日は」やめておこうと早紀はベッドに横になった。
これでは、まさに、「早紀の先送りだ」などと、くだらないこと考えながら。
それに・・・。
父親への連絡。だが本当は、早紀には、その前にしなければならないことがあった。
彼女は、重大な秘密を抱えていた。
早紀の母は事故で死んだことになっている。父は、そう言っている。だけれども、本当は違うということを早紀は知っていた。
……自殺なのだ。
そして、その自殺の原因は、早紀にあった。
早紀の「体の秘密」に…。
実の母が気に病んで自殺してしまうような重大な秘密を、早紀はまだ、慎也たちに隠していた。
打ち明けなければならない話。だが、これを話したら、果たして自分は受け入れてもらえるだろうか…。
黙っていても、必ずバレること。話さないわけにゆかない。
が、もし話して、受け入れてもらえなかったら、自分はどうすれば良いのか…。
自分は、どうなってしまうのか…。
彼女は、迷い、悩んでいた。
早紀は、大学では普通にしていた。いや、普通にしていたつもりである。
だが、勘の鋭い美雪が、不審がっているのを感じ取った。
(ヤバい。何とかしなければ・・・)
そう思いながらも、怖くて今日もまた、解決を先送り。
次の日も…。
タイムリミットは迫ってくる。美雪の家へ慎也たちが挨拶に行くのは、ついに明日となった。美雪が正式決定すれば、次は早紀。もう、猶予が無い。
慎也たちに秘密を打ち明けて受け入れてもらえなければ、妾にはなれない。秘密を打ち明けたくないのなら、美雪にあんな決断を迫らなければよかった。いや、自分も妾になるなんて、言わなければ良かったのだ。
だが早紀は、慎也の妾になることについては、かなり思いつめていた。
………
私は多分、いや、絶対、普通の結婚は出来ない。
もしも、可能性があるとすれば、鬼でも受け入れてしまう慎也さん…。
他には、私を受け入れてくれる人など、あり得ない…。
慎也さんなら、「慎也さんの家族」なら、私を笑って受け入れてくれそう。
たぶん、そんな気がする…。
私には、慎也さんの妾になるしか道が無い。
あの、温かな「家族」の一員に、私もなりたい!
その為には…。単独よりも、美雪とセットの方が、可能性高そう…。
美雪のオマケでも構わないから、私も加えて欲しい。
親友をダシに使うようで、少し気が引ける。でも、その美雪も、本心は「なりたい!」なのだから、非難される筋では無い…。
早く打ち明け、許可を貰って、父にも話して・・・。
………
スマートフォンを睨み乍ら、そう考えていると…。
その、目の前のスマホが鳴った。
発信元表示は、父の携帯…。
グズグズしているから、父から架かってきてしまった。
(仕方がない。先に、父さんに言おう…)
覚悟を決めて、早紀は電話に出た。
向こうから架けてきた電話であるから、まず向こうの用件を聞く。その後、こちらの用件をと早紀は考えた。が、父の用件は、トンデモナイものだった。
「え? さ、再婚したい? ・・・」
早紀は、二の句が継げない。
父親は、申し訳なさそうに電話の向こうで続けた。
五年間付き合っている人がいて、もう相手は妊娠しているという。年下の彼女であり、暫く鬱気味で、目を離せなかったとも…。
(だから、こっちでは泊って行かずに、直ぐ帰っていたんだ・・・)
早紀は納得した。そして、これはチャンスだと思った。
妊娠しているということは、もう別れられないだろう。だから、父の再婚を認める代わりに、こちらの方も認めさせればよい。
「父さん、実は、私も嫁ぎたい相手がいるの。家族がちょっと複雑だけど、とっても優しくて信頼できる良い人なのよ」
『さ、早紀? おまえも結婚なのか? で、でもお前…。相手はその…。知っているのか?
お、お前の・・・。あ、い、いや、その・・・。何でもない……』
父は言葉を濁した。
父が気にしているのは、早紀の体の秘密のこと…。そんなことは分かっているが、早紀は、自分からは何も言わなかった。まだ慎也に話していないのだから、言うに言えなかったのだ。
とにかく、会って話そうということになった。それぞれ、互いの相手も一緒に…。
父には岐阜に来る用事があり、向こうから出て来てくれるという。出来れば今月二十九日か、その前後だと有難いとのことだったが、細かな日時と場所は再度打ち合わせるということで、電話を切った。
さあ、早紀に残った難関は、一つになった。
明日は、美雪の大事な日。だから、自分の告白決行は、明後日、日曜日のバイト終了後にすることに決めた。
決行日時が決まれば、実行あるのみ。そして、これはもう、後に引けない。
早紀は、「よし!」と気合を入れた。
皆には、父は「ホッタラカシで全く帰ってこない」と言った。が、実はそうでもないのだ。
二~三ヶ月に一回は必ず顔を出す。ただ、泊まっては行かないだけ。すぐに東京へ戻って行ってしまうのだ。きっと、忙しいのだろう。
父が、早紀のことを気にしていてくれるのも分かっていた。
電話も、よく架かってくる。いつも向こうから架かってくるので、早紀の方から電話したことは殆どない。
それに、学費も、十分過ぎるほどの生活費も、全て出してもらっている。
お蔭で何不自由しないし、草花や鳥の写真を撮るための、かなり高価なカメラも、ポンと買ってもらった。
父親の方は、けっこうカツカツの生活をしているみたいなのに・・・。
そして何しろ、早紀にとって唯一の肉親だ。父にとっても、早紀は大事な一人娘。
その父親に、「妾になる」とは、やはり言い出しにくかった。
電話しなければいけない。慎也に、父親と連絡を取るように言われたのだ。それは、分かっているのだが、「今日は」やめておこうと早紀はベッドに横になった。
これでは、まさに、「早紀の先送りだ」などと、くだらないこと考えながら。
それに・・・。
父親への連絡。だが本当は、早紀には、その前にしなければならないことがあった。
彼女は、重大な秘密を抱えていた。
早紀の母は事故で死んだことになっている。父は、そう言っている。だけれども、本当は違うということを早紀は知っていた。
……自殺なのだ。
そして、その自殺の原因は、早紀にあった。
早紀の「体の秘密」に…。
実の母が気に病んで自殺してしまうような重大な秘密を、早紀はまだ、慎也たちに隠していた。
打ち明けなければならない話。だが、これを話したら、果たして自分は受け入れてもらえるだろうか…。
黙っていても、必ずバレること。話さないわけにゆかない。
が、もし話して、受け入れてもらえなかったら、自分はどうすれば良いのか…。
自分は、どうなってしまうのか…。
彼女は、迷い、悩んでいた。
早紀は、大学では普通にしていた。いや、普通にしていたつもりである。
だが、勘の鋭い美雪が、不審がっているのを感じ取った。
(ヤバい。何とかしなければ・・・)
そう思いながらも、怖くて今日もまた、解決を先送り。
次の日も…。
タイムリミットは迫ってくる。美雪の家へ慎也たちが挨拶に行くのは、ついに明日となった。美雪が正式決定すれば、次は早紀。もう、猶予が無い。
慎也たちに秘密を打ち明けて受け入れてもらえなければ、妾にはなれない。秘密を打ち明けたくないのなら、美雪にあんな決断を迫らなければよかった。いや、自分も妾になるなんて、言わなければ良かったのだ。
だが早紀は、慎也の妾になることについては、かなり思いつめていた。
………
私は多分、いや、絶対、普通の結婚は出来ない。
もしも、可能性があるとすれば、鬼でも受け入れてしまう慎也さん…。
他には、私を受け入れてくれる人など、あり得ない…。
慎也さんなら、「慎也さんの家族」なら、私を笑って受け入れてくれそう。
たぶん、そんな気がする…。
私には、慎也さんの妾になるしか道が無い。
あの、温かな「家族」の一員に、私もなりたい!
その為には…。単独よりも、美雪とセットの方が、可能性高そう…。
美雪のオマケでも構わないから、私も加えて欲しい。
親友をダシに使うようで、少し気が引ける。でも、その美雪も、本心は「なりたい!」なのだから、非難される筋では無い…。
早く打ち明け、許可を貰って、父にも話して・・・。
………
スマートフォンを睨み乍ら、そう考えていると…。
その、目の前のスマホが鳴った。
発信元表示は、父の携帯…。
グズグズしているから、父から架かってきてしまった。
(仕方がない。先に、父さんに言おう…)
覚悟を決めて、早紀は電話に出た。
向こうから架けてきた電話であるから、まず向こうの用件を聞く。その後、こちらの用件をと早紀は考えた。が、父の用件は、トンデモナイものだった。
「え? さ、再婚したい? ・・・」
早紀は、二の句が継げない。
父親は、申し訳なさそうに電話の向こうで続けた。
五年間付き合っている人がいて、もう相手は妊娠しているという。年下の彼女であり、暫く鬱気味で、目を離せなかったとも…。
(だから、こっちでは泊って行かずに、直ぐ帰っていたんだ・・・)
早紀は納得した。そして、これはチャンスだと思った。
妊娠しているということは、もう別れられないだろう。だから、父の再婚を認める代わりに、こちらの方も認めさせればよい。
「父さん、実は、私も嫁ぎたい相手がいるの。家族がちょっと複雑だけど、とっても優しくて信頼できる良い人なのよ」
『さ、早紀? おまえも結婚なのか? で、でもお前…。相手はその…。知っているのか?
お、お前の・・・。あ、い、いや、その・・・。何でもない……』
父は言葉を濁した。
父が気にしているのは、早紀の体の秘密のこと…。そんなことは分かっているが、早紀は、自分からは何も言わなかった。まだ慎也に話していないのだから、言うに言えなかったのだ。
とにかく、会って話そうということになった。それぞれ、互いの相手も一緒に…。
父には岐阜に来る用事があり、向こうから出て来てくれるという。出来れば今月二十九日か、その前後だと有難いとのことだったが、細かな日時と場所は再度打ち合わせるということで、電話を切った。
さあ、早紀に残った難関は、一つになった。
明日は、美雪の大事な日。だから、自分の告白決行は、明後日、日曜日のバイト終了後にすることに決めた。
決行日時が決まれば、実行あるのみ。そして、これはもう、後に引けない。
早紀は、「よし!」と気合を入れた。
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