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恵美と河童

56 リナの御殿2

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「何ですって? 交合して、卵を?!」

「そうです! でも、河童と人魚のそういう行為は、許されない事なんでしょう?
 だから、銀之丞さんは、亡くなったナナセさんの恥となるようなことは言えなかったのです。
 きっと銀之丞さんは、自分が処刑されることで秘密が守られるなら、それで良いと思ってるに違いありません!」

「な・・・、何てこと・・・」

 リナは絶句した。
 そして、目の前で熱く訴えかけるあいをジッと見詰めた。

「銀之丞さんが処刑されるなんて、おかしいですよ! 銀之丞さんは、犯人では無いんです!
 ナナセさんを愛している銀之丞さんが、ナナセさん殺害の濡れ衣を着せられて死刑だなんて、絶対、おかしい。酷過ぎる!
 これじゃあ、ナナセさんも浮かばれません!」

 ナナセに似た少女の、必死の主張・・・。
 リナはナナセに直接懇願されているように感じた。

「何ということかしら。貴女が教えてくれなければ、危なく、大変な事をしてしまうところだったわ。有難う。分かりました」

「じゃ、じゃあ、銀之丞さんは許して貰えますよね!
 串刺しにするなんて酷い事、しませんよね!」

 あいの両肩に、リナは優しく手を置いて笑いかける。

「大丈夫よ。そんなに興奮しなくても・・・。しません。処刑は取りやめです。
 それにしても、卵であの力を得たなんて、前代未聞…。十や二十では無理なはず。いったい、いくつ食べたのかしら・・・」

「さあ、それは・・・。確か四年のお付き合いって言ってましたけど・・・」

「四年・・・。ちっとも気付かなかったわ。
 隠さなくても言ってくれればよかったのに。別に人魚と河童が愛し合ってはいけないなんて決まりは無いんだから・・・」

「え?! そうなんですか!?」

 どうも、聞いていたのと話が違う・・・。

「そうよ。人魚は皆、結構自由よ。好き放題やってるわ。
 タブーなのは、勝手に子供を産み育てて増殖するということだけ。托卵さえしなければ、別に河童と愛し合ったりしても、とやかく言う者なんて居ないわよ。
 というか、互いの事に無関心だからね。どうとも思わないわ。
 ダメだなんてのは、ナナセと銀之丞の勝手な思い込みよ」

「そ、そんな・・・。秘密で逢っていたからナナセさんは悪い河童に捕まって命を落とす羽目になってしまって、銀之丞さんも秘密を守ろうとして苦しんでいるのに・・・。こんなの、悲しすぎるわ」

 あいの瞳から、涙が零れる。

「有難うお嬢さん。娘たちの為に泣いてくれて。
 あなた本当にナナセに似ているの。他人と思えないわ」

「い、いえ、その・・・。私も同じ思いです。人魚の皆さん、私の母と全く同じ顔なんです。
 特にさっきのナナミさんなんか、髪の色からヘアスタイルまで、全て同じで・・・」

「そうなの?だから、あなたも似ているのね。不思議な縁ね」

 リナは、あいほおの涙の跡を優しく撫でた。




「銀之丞! どうしたの? あいは?あいちゃんは、どうなったの?」

 壁の向こうから、恵美の声が聞こえてくる。警護の河童を撃破して到着したのだろう。

 リナが扉の方へ歩み寄り、ロビーへ出る。
 あいも続いた。

「え?舞衣さん? あ、あいちゃん!大丈夫?治ったの?」

 恵美は舞衣ソックリな顔のリナを見て驚くも、それ以上にあいの方が心配だった。

「恵美母様。大丈夫ですよ。治して貰いましたよ。
 それから、この人が人魚のリナさんです。舞衣母様ソックリでビックリでしょ!」

「そ、そうね・・・。髪や眼の色は違うけどね・・・。
 でも、よかったあ~! あいちゃんにもしもの事が有ったら、それこそ私、舞衣さんに顔向け出来ないもん!」

 いつも以上に眉の下がった恵美の頬を、涙が伝った。今まで、かなり我慢していたのだろう。
 彼女は、いつもそうだ。気丈に振舞い、自分よりも、周りの人の気持ちを思いやる。だが、実質は、結構繊細だ。
 タケもそんな恵美を見て笑顔になった。彼は、恵美の本質をよく理解している…。

 そして、あいを救った功労者として外せないのは、ここまで皆を案内してきた銀之丞と言って良い。
 その銀之丞は、リナの金縛りで動けないままにされている。
 この後、届けられたナナセの遺体の前で時間をかけて串刺し処刑されることになっていたのだが・・・。

 リナは銀之丞の前に進み出て、目を赤く光らせた。

 金縛り解除。

 既に全てを諦め、処刑されるのを覚悟していた銀之丞にとっては、これは、まさかの事・・・。動けるようになっているにも関わらず、そのままの姿勢で硬直していた。

「銀之丞。貴方の疑いは晴れました。そこのお嬢さんから真相は聞きました」

「へ? ・・・も、も、申し訳ありません!!」

 銀之丞は即座に土下座し、頭を床に擦り付けた。

 舟の上でもずっと苦しそうにしていて、意識が有るのか無いのか分からないような状態が続いていた少女・・・。その少女が自分をとりなしてくれ、更にはリナがそれを聞き入れてくれた・・・。
 信じられない思いだった。

 そして、更に重大な事・・・。

 自分の疑いが晴れたということは、ナナセと自分の秘密の関係がリナに知られてしまったということに違いないのだ。

「銀之丞、頭を上げなさい。謝るのは私の方です。娘を愛してくれた者に、私は間違いを犯すところでした。許してください。
 そして、娘を思ってくれて、ありがとう。ナナセは幸せだったと思いますよ。ありがとう・・・」

 リナの頬を涙が伝った。

 なじられ、叱責を受けるどころか、まさかまさかの謝辞・・・。

「おおお~!! 勿体無もったいない御言葉~!!」

 銀之丞は土下座のまま、号泣しだしたのだった。
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