共に生きるため

Emi 松原

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共に生きるため

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有水率いる突入部隊は、神秘の泉を過ぎたところまで来ていた。
「ここからは、いつジェネレーションのメンバーが襲ってきてもおかしくない。全員、覚悟しとくんだ。」
先頭を歩く有水が振り返って言った。
「蒲公英と海起は俺のすぐ後ろ。その後ろに夢華。秋美、夏美は夢華の両側だ。夢華の後ろに春美。栄枝、草多はその後ろを頼むぞ。」
「了解。」
栄枝が言った。
突入部隊は、月の村へと続く道を進んでいく。
もうすぐ、冬美が消えた地点に到着する。

その時、有水達先頭立ち止まり、全員に止まるように合図した。
「妖精の気配がする・・・。」
蒲公英がメンバーにだけ聞こえるような小さい声でささやいた。
「ほかに、気配を感じる奴は居るか?」
有水も同じようにささやいた。
全員が首を横に振る。
「俺達にも分からないほど気配を消すなんて・・・。蒲公英が分かったと言うことは・・・。」
栄枝が蒲公英に向けてささやく。
「えぇ、たぶん、私の部下・・・鈴蘭ね。」
蒲公英が落ち着き払った様子で言った。                
「鈴蘭の攻撃は?」
有水が蒲公英に訪ねた。
「あの子は、花の中でも名前の通り主に鈴蘭に宿っているわ。鈴蘭の花言葉は、意識しない美しさ・・・。しかし、はかなげな見た目と裏腹に有毒植物でもある・・・。あの子は毒を使うのが得意よ。しかも使える毒の種類は様々。かなりのやり手ね。」
蒲公英の目が少し鋭くなった。
「俺達全員で攻撃に回って捕獲するか・・・。」
有水がつぶやいた。
「しかし、相手も相当な力の持ち主。精霊が三人も居るとは言え・・・。土地上、向こうの方が有利でもある。」
栄枝が有水に言った。
「もし、何人もが負傷したら・・・。」
最悪の事態を想定した栄枝が冷静に続けた。
「そうだな・・・蒲公英、どう思う?」
有水が蒲公英に向き直った。
「そうね、力だけ見たらこちら側が圧倒的に有利よ。けどあの子は頭もまぁまぁ冴える。栄枝の言うとおり、何人かの負傷は考えられるわ。それに、まだ一人目。こんな言い方はなんだけど,待ちかまえている見張りで一人目が一番強いなんて考えられないでしょ?この先、もっと強い見張りが待ってるわ。」
蒲公英が言った。
「そうか・・・。後々の事を考えたら・・・一対一の一騎打ちにするしかないのかな・・・。その間に残りは先を進める。なにより時間制限があるんだ。」
有水が暗い顔をした。
「じゃあ、あたいが・・・。」     
秋美が進み出た。
「いいえ、あなたは冬美の所まで行かなくては。それに夢ちゃんを守らないとね。」
蒲公英が言った。
「私なら・・・。鈴蘭はほぼ春に開花をする。春の妖精の私なら・・・。それに力だって弱い方ではないわ。」
春美が有水に向けて言った。
「一番勝つ可能性が高いのは私のはずよ。あの子は私の部下なんだから。」
蒲公英も有水に向けて言った。
「そうだな・・・。だが蒲公英。お前がさっき言ったように、まだ一人目・・。精霊は三人なんだぞ。それに、春美の言うとおり鈴蘭は春の花だ。」
有水が蒲公英に言った。
「春美に任せることで問題ないな?」
そして全員に向けて有水が言った。
全員,暗い顔で頷いた。

「春美・・・気を付けて。あなたが追いついて来るの、待ってるわ。」
夏美が春美に言った。
「えぇ。任せておいて!」
春美が笑顔で言った。
「必ず勝って、あたいらの所まで来るんだぞ。」
秋美も笑顔で言った。
草多と海起も、心配そうだが誰かがやらないといけないことはわかっていた。
何より、妖精達は信頼関係で結ばれている。全員が春美を信じていた。
「増援部隊には桜も居る。なんとか捕獲できるように頑張るんだ。」
有水が春美の目を見て言った。
「わかってます。」
春美は相変わらず微笑んで居た。

出発してから早二時間が経過していた。残り四十四時間・・・。

「鈴蘭、近くに居るのは分かっているわ。出てきなさい。」
蒲公英が大きな声をだした。
すると突入部隊の目の前に、女の子の妖精が舞い降りた。
「なぁんだ。ばれてたんだ。完璧に気配は断ったつもりだったのに。さすがは蒲公英さん。」
鈴蘭と思われる女の子が言った。
白く長い髪の毛に真白いワンピースのような服。とても今から戦おうという子には見えない。
「鈴蘭・・・・・・今こちら側に戻ってくれば、あなたは罪に問われないわ。ジェネレーションなんか抜けて戻ってきなさい。」
蒲公英が鈴蘭に向けて言った。
「蒲公英さん・・・人間達を助けたいなんて、本気で思っているんですか?貴方の恋人だって、人間に殺されたはずじゃないですか・・・。」
「えっ・・・?」
夢華達は蒲公英を見つめた。
「そうね・・・。けど、無意味な武力で事を解決することがどれだけ醜いか・・・。人間を見ているからこそ、その醜さがわかるんじゃないの?」
蒲公英は落ち着き払って答えている。
「・・・人間がこのまま居たら、わたくしたちも殺されかねない。だから、人間を消すチームに入ったんです。」
鈴蘭の目に殺意が浮かんだ。
「蒲公英さん、貴方には心から感謝しています。愛する人を失ったわたくしに、同じ痛みを持つ者として支えてくれました。貴方の部下をやってきて、本当に幸せだったと思って居ます。しかし・・・邪魔をするのなら、容赦しません。」
蒲公英を睨み付けたまま、冷たい声で言った。
「貴方の相手は、私よ。」
その時、蒲公英の前に春美が進み出た。
「・・・ふふふ・・ずいぶんとなめられたものね。貴方ごときに、わたくしの相手ができると思って?わたくしは貴方達全員をここで仕留めるわ。」
不気味な笑いを浮かべた鈴蘭はそう言うと呪文を唱え始めた。
「大地の神、太陽の神よ、我の声を聞きたまえ。我が敵の、行く手を遮る毒の霧。毒使わし我の名は、はかなき花びら鈴蘭なる!!」
突入部隊の周りに、淡い霧が立ち始めた。鈴蘭の姿がかすむ。
「霧の毒よ!!息を止めて!!!」
蒲公英が手で口を覆いながら叫んだ。
「くっ・・・」
夢華達は慌てて息を止めた。
「鈴蘭、貴方の相手は私よ。」
そう言って春美が呪文を唱え始めた。相変わらす、呪文を唱えるスピードが速い。
「大地の神、太陽の神よ、我の声を聞きたまえ。春風で、濃き霧さえも吹き飛ばす。春使わし我の名は、桜の花びら春美なる!」
暖かく、激しい風が吹いてきて、目の前の霧が薄くなり始めた。かすんでいた鈴蘭の姿も、はっきりと見える。
「ふぅん。やるじゃない。」
鈴蘭が余裕の笑みを浮かべて言った。
「・・・私がなんとかくい止めるから、その間に走って先に行って。勝負が付いたら・・・鈴蘭を増援部隊に明け渡し,私も冬美の元に行くわ。」
春美がみんなに言った。
「・・・わかった。みんな、走る準備を。」
有水が言った。その言葉を聞くと同時に、また春美が素早く呪文を唱え始めた。
「大地の神、太陽の神よ、我の声を聞きたまえ。ジャスミンの、香りで敵を惑わせろ。春使わし我の名は、桜の花びら春美なる!!」
「うっ・・・??」
鈴蘭がよろけた。
「走れ!」
有水の声と共に夢華達は春美を残して走り出した。
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