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間延びした言葉を放つ詩織の言いたい事はわかる気がするが、加奈は心なしかその発言に賛同も出来なかった。
(そのイケメンはかなりの王様風吹かせてますよ……かなり鬼畜ドSですよ……)
声に出して叫びたい!そんな衝動にかられながらも、加奈は黙って平静を装った。
「それで、詩織ちゃん。何かあったの?」
「別に何もないですけど、いいなぁって話をうちの課で話してたんですよ!もし霧島さんが連絡先交換してたなら、合コンとかしたいぃって!」
「あはは……連絡先は聞いてないんだ。昨日病院で和解しちゃったから」
「そっかぁ、残念ですぅ……」
しゅんと項垂れる詩織。どうやらこれを機に南条明人とお近づきになろうというわが社の女子達がいるようだ。だがあの男の本質を知ったらどう思うだろうか……そんな事を考えつつも、詩織に嘘をついたのはちょっと心苦しかった。
結局遅刻のペナルティはコピーだけでなく、別仕事も押され、一時間の残業後、午後六時にようやく退社出来る事になった。パソコンの電源を切り、お疲れ様ですと言って更衣室に向かおうとした時だった。ケータイの着信がけたたましく鳴ったので、制服のポケットから取り出し相手を見た。
「げっ……!」
電話の相手は明人だった。一体何かあったのか?そう思い、恐る恐る通話ボタンを押した。
「はい……」
『腹減った。さっさと帰って来い!』
ブチッ!
わかりやすい用件のみを伝え切られたケータイを持つ手が震えた。
「な、な、そんだけ?」
何か具合でも悪くなったのかと思えば、お腹が空いたからさっさと帰れ?なめてんのかぁ!どこの昭和のお父さんだ!とケータイを絨毯貼りの床に叩きつけたくなった。一緒に住む事になり一日で明人という人物がわかったが、まさかここまで世界の中心は俺様だ!の性格だったとは……
「なんか腹立つなぁ。今日の夕食食べにくい魚にしてやろうか!あっ、ダメだ!どうせたま食べさせろとか言われて私が損する!」
一人漫才をしていると、背後から「どうしたんですか?」と川田が声をかけてきたので、今のやりとりを見られたかもしれないと思い少し顔が火照った。
「なんかあったんですか?」
「いや、何もないよ。それより川田君は残業?」
「はい。さっきまで会議で、今から帰るとこです」
愛くるしい笑顔を向ける川田。これは確かに癒し系と言われるのに頷ける。何せ加奈の場合は癒し系どころかいやらし系ドS王様がマンションに行けばいるのだから。今日はどんなセクハラまがいの強制を受けるのか……とても泣きそうになってきた。
「霧島さんも今から帰宅です?」
「うん。今から着替えて帰るとこ」
「だったら途中までご一緒しましょうか?」
「えっ?あぁ……」
確か川田と加奈のアパートは方向が同じだが、今は電車に乗って一駅の真逆方向だ。
「ありがとう。けど帰り買い物とかして帰るから」
「いいですよ。俺も手伝います」
何もなければ喜ばしい場面なのだろう。だが、喜ぶ事が出来ない状況に泣けてきた。
「いいよいいよ!私かなり時間かかるから!それじゃ!」
「あっ!霧島さん!」
これでは避けたかのような態度だ。すまない!悪気はひとっつもないのだが、今は現状に甘える事が出来ない!さっさと帰らなければあの男がまた何か言うかもしれない!川田には明日謝ろう。そう心で呟きながら加奈はマンションへと向かう。
(そのイケメンはかなりの王様風吹かせてますよ……かなり鬼畜ドSですよ……)
声に出して叫びたい!そんな衝動にかられながらも、加奈は黙って平静を装った。
「それで、詩織ちゃん。何かあったの?」
「別に何もないですけど、いいなぁって話をうちの課で話してたんですよ!もし霧島さんが連絡先交換してたなら、合コンとかしたいぃって!」
「あはは……連絡先は聞いてないんだ。昨日病院で和解しちゃったから」
「そっかぁ、残念ですぅ……」
しゅんと項垂れる詩織。どうやらこれを機に南条明人とお近づきになろうというわが社の女子達がいるようだ。だがあの男の本質を知ったらどう思うだろうか……そんな事を考えつつも、詩織に嘘をついたのはちょっと心苦しかった。
結局遅刻のペナルティはコピーだけでなく、別仕事も押され、一時間の残業後、午後六時にようやく退社出来る事になった。パソコンの電源を切り、お疲れ様ですと言って更衣室に向かおうとした時だった。ケータイの着信がけたたましく鳴ったので、制服のポケットから取り出し相手を見た。
「げっ……!」
電話の相手は明人だった。一体何かあったのか?そう思い、恐る恐る通話ボタンを押した。
「はい……」
『腹減った。さっさと帰って来い!』
ブチッ!
わかりやすい用件のみを伝え切られたケータイを持つ手が震えた。
「な、な、そんだけ?」
何か具合でも悪くなったのかと思えば、お腹が空いたからさっさと帰れ?なめてんのかぁ!どこの昭和のお父さんだ!とケータイを絨毯貼りの床に叩きつけたくなった。一緒に住む事になり一日で明人という人物がわかったが、まさかここまで世界の中心は俺様だ!の性格だったとは……
「なんか腹立つなぁ。今日の夕食食べにくい魚にしてやろうか!あっ、ダメだ!どうせたま食べさせろとか言われて私が損する!」
一人漫才をしていると、背後から「どうしたんですか?」と川田が声をかけてきたので、今のやりとりを見られたかもしれないと思い少し顔が火照った。
「なんかあったんですか?」
「いや、何もないよ。それより川田君は残業?」
「はい。さっきまで会議で、今から帰るとこです」
愛くるしい笑顔を向ける川田。これは確かに癒し系と言われるのに頷ける。何せ加奈の場合は癒し系どころかいやらし系ドS王様がマンションに行けばいるのだから。今日はどんなセクハラまがいの強制を受けるのか……とても泣きそうになってきた。
「霧島さんも今から帰宅です?」
「うん。今から着替えて帰るとこ」
「だったら途中までご一緒しましょうか?」
「えっ?あぁ……」
確か川田と加奈のアパートは方向が同じだが、今は電車に乗って一駅の真逆方向だ。
「ありがとう。けど帰り買い物とかして帰るから」
「いいですよ。俺も手伝います」
何もなければ喜ばしい場面なのだろう。だが、喜ぶ事が出来ない状況に泣けてきた。
「いいよいいよ!私かなり時間かかるから!それじゃ!」
「あっ!霧島さん!」
これでは避けたかのような態度だ。すまない!悪気はひとっつもないのだが、今は現状に甘える事が出来ない!さっさと帰らなければあの男がまた何か言うかもしれない!川田には明日謝ろう。そう心で呟きながら加奈はマンションへと向かう。
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