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第Ⅵ巻 風歌の導き
第3話 風を喰う影
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夜が明けると同時に、ノマ=ルグの草原は“静寂の匂い”を帯びていた。
本来、この大地では朝が来れば必ず風が走る。
夜露を払い、家畜のたてがみを揺らし、歌巫女たちの歌を運ぶ――それが草原の日常だ。
だがこの日の風は、**ひどく歪(いびつ)**だった。
草の海は揺れているのに、風の音がない。
風鈴は鳴っているのに、その響きが途中で“折れて”失われる。
カレナが眉をひそめながら歩みを止めた。
「……風の道が、つながらない。
こっち側で起きたはずの“音”が、向こうへ届いてないの」
ティナは小聖火灯を握りしめ、周囲を見渡す。
灯の揺れは確かに感じるのに、空気がそれに反応していない。
「変だよ……。朝の空気が、息してないみたい……」
エインは風に手をかざす。
彼の腕装甲の隙間を橙の光脈が走り、風の抵抗を測る。
「……違和感の“質”が変わってるな。
昨日はただ音がなかっただけだが、今は――風の流れ自体が遮断されてる」
シオンが星盤を開き、精密に観測を始めた。
彼の瞳に淡く光が宿り、星の線が草原の地形をなぞる。
「風路(ウィンド・レーン)が折れています。
通常、自然の風は層を成して流れますが……
誰かが“声の結界”で層そのものを断ち切っている」
「声の……結界?」
ティナがシオンを見上げる。
「はい。風は音の道で、音は祈りの道でもある。
その“道”を盗む技術……命律波にはなかったはず。
これは、人格的な意思による干渉です」
カレナの表情に怒りが宿る。
「侵聲……。
あの“声を奪う影”が、本格的に動き出したってことね」
風紋を纏ったノマ=ルグの戦士たちが駆けつけてくる。
彼らの顔は緊張に曇っていた。
「歌巫女様! 大変だ、南の“風馬(ラフ=スプリント)”が暴走した!
放牧隊が何人も倒れてる!」
エインが即座に前へ出る。
「理由は分かるか」
「わからねえ! でも、あいつら……
仲間の声に従って、自分から崖に飛び込んだって……!」
空気が凍りつく。
シオンが言葉を詰まらせながら呟いた。
「……声による衝動誘導。
侵聲の“模倣”かもしれません」
ティナが小さく震えた声で尋ねる。
「じゃあ……その声を出した“誰か”が、そばにいたってこと……?」
カレナが静かに頷く。
「――そうよ。
風の国へ、敵が入ってる。
もう止まってなんていられない」
エインは赤い瞳に光を宿し、草原の向こうを見据えた。
「行くぞ。
風が折られた場所へ。
侵聲がどれほどのものか……確かめる」
そして、祈りの旅団は草原の南へ向けて駆け出した。
風は吹く。
だがその音は、まだ――どこかで“誰か”に奪われたままだった。
風紋の道を南へ走るほど、空気は不自然に冷たくなった。
ノマ=ルグの草原は本来、朝日とともに一気に温度を上げるはずなのに――まるで夜だけが取り残されている。
ほどなくして、放牧地の谷が見えてきた。
丘の斜面には、倒れた風馬たちの影。
その周囲を、風戦士たちが沈痛な面持ちで囲んでいた。
エインたちが到着すると、一人の戦士がふらつく足取りで近づいてくる。
顔には疲労と恐怖が混じっていた。
「歌巫女様……! 無事で……よかった……」
カレナが駆け寄る。
「無事だったのね、リフ。何があったの?」
リフと呼ばれた青年は、震える手で谷底を指した。
「風馬が……急に暴れだして……。
呼んでも、歌っても、何も通じなかった。
それどころか、仲間の声に反応して、まるで従うみたいに走り出して……」
「仲間の……声に?」
ティナは思わずリフの腕を掴む。
「それって……誰の声?」
リフは唇を震わせながら答えた。
「……俺の声だ。
“逃げろ”って叫んだつもりだったのに……
風馬たちは俺の声を“指示”として受け取って……谷に飛び込んだんだ……!」
ティナが息を呑む。
シオンは星盤を展開し、谷底へ視線を向けた。
「……不自然ですね。
命律波は確かに精神に干渉しますが、ここまで完璧に“声を模倣して上書きする”ことはできない」
エインは谷へ降りていく。
風馬の死体に触れたその手に、風の“残響”が微かに走る。
(……生前、何かを聞かされた。
それも“本物そっくりの、偽の声”を)
カレナも谷底に降りながら、風の道を感じ取ろうとする。
しかしすぐに顔をしかめた。
「……流れてない。“風の歌”が……途切れてる」
彼女は耳元の風鈴飾りを揺らす。
だが――
鈴は揺れるのに、音が鳴らなかった。
ティナがそっと手を伸ばす。
小聖火灯がわずかな光を放ち、その温度に風が反応する。
チリ……ッ。
風鈴が一瞬だけ鳴いた。
「灯……?」
カレナが驚く。
シオンが分析するように言葉を重ねた。
「ティナの灯は“祈りの風”に近い性質を持つ。
侵聲の結界に殺された音を、一時的に押し返したんです」
「侵聲……」
リフが震えて呟く。
「歌巫女様……あいつ、聞こえたんです……。
俺の声じゃないのに、俺の声で……
“走れ”って……“落ちろ”って……!」
エインはリフの肩をつかんだ。
「そのとき、何か見たか」
リフは首を振る。
「影が……一つ。
でも、風に乗ってなかった……。
“声だけが歩いてるみたい”だったんです……!」
カレナの瞳が険しくなる。
「……やっぱり、侵聲がいる」
「この風の国のどこかに、“声を盗む者”が潜んでる」
ティナは小聖火灯を抱え、静かに灯を見つめた。
「……風馬さんたち、苦しかったよね……
声を奪われて、身体が勝手に動かされて……」
エインが谷の上を見上げる。
風が、またひとつ途切れた。
「次は、もっと近くで来るぞ」
シオンが星盤を閉じたとき、草原の風が一筋だけ、逆流した。
わずかに巻き上がった草が揺れ――
その向こうで、かすかな“声”が浮かび上がる。
――カレナ。
……こっちへ……来て……
ティナがびくりと肩を震わせる。
カレナは一瞬、足を踏み出しかけた。
「……え?
これ、私の声……?」
確かにそれはカレナ自身の声。
けれど、どこかが違う。
息遣いがない。
喉の震えもない。
音が風に触れていない。
“声だけが生きている”。
エインが即座に前へ出た。
赤い瞳が冷たく光る。
「行くな。それはお前の声じゃない」
カレナは驚いてエインを見る。
「でも……確かに、私の……」
「“声の形”を真似しているだけだ」
エインの言葉は低く鋭かった。
シオンが静かに補足する。
「本人の声を模倣し、本人に囁く――
侵聲の典型的な誘導手口です。
ノマ=ルグの“風と声の同一性”を逆手に取った……非常に厄介な術ですね」
カレナの顔色が青ざめる。
「……じゃあ、私を呼んだのは……影の方、ってこと?」
「そうだ」
エインが草原の奥を睨む。
「“風に乗ってない声”は、この国じゃ生き物じゃない。
……敵だ」
その言葉と同時に――
丘の向こうの“声”はふっと途絶えた。
風だけが空虚に鳴り、草原は再び沈黙を取り戻す。
カレナは握りしめた拳を震わせた。
「私の声まで……盗むの……?
風だけじゃなく……歌も……心まで……?」
ティナがそっと彼女の手を取る。
小聖火灯の灯が、かすかに風を揺らした。
「大丈夫。
灯は……誰の声にも変えられないよ」
カレナはぎゅっと唇を噛んだ。
「……わかった。
影の正体を暴く。
私たちの風を、歌を、奪わせない」
エインは短くうなずく。
「これで確信した。
侵聲は……すぐ近くにいる」
シオンも星盤を握り直し、低く告げた。
「次は“声”だけじゃ済みません。
――影が、本格的に動きます」
そして、風はまた一筋だけ逆流した。
草原全域を覆う暗い気配は、確実に迫っていた。
風馬の谷を離れ、エインたちは侵聲の痕跡を追って草原を進んだ。
だが歩を進めるほどに、空気は静寂ではなく“音を食われた空洞”のようになっていった。
ティナは胸の小聖火灯を抱えながらつぶやく。
「……灯は揺れてるのに、風が挨拶してくれない……」
カレナが首を振る。
「ノマ=ルグじゃありえないわ。
風は必ず“返事”をするものなのに……」
エインは草原へ手をかざし、風を感じ取った。
光脈が腕装甲の下で淡く脈打つ。
「……風が死んだんじゃない。
何かが、風そのものを食ってる」
その瞬間だった。
ティナの耳元で、小さく息が囁いた。
――ティナ。
こっちへ。
「……え?」
ティナは反射的に振り返る。
そこにはエインたちがいる。
だが、声の聞こえた方向はまったく別。
――ティナ。
“灯の子”。
助けて。
柔らかく、人懐っこい響き。
けれど、その優しさはどこか“作り物の温度”だった。
エインはすぐに気づく。
「ティナ、聞くな。
いまの声、風を通ってない」
ティナの胸がざわつく。
「……でも、困ってる声が……」
カレナがティナの腕を掴む。
「だめ! “呼び声”に返事しちゃだめよ!
それ、誰かの声を奪って作ってる……!」
シオンは星盤を構え、青ざめた声で言った。
「侵聲の“同調誘導”……!
相手が反応しやすい声を作って、心の奥へ直接触れてきます!」
ティナは必死に首を振る。
「わかってる……でも……
助けて、って言われると……身体が……」
そして――
丘の向こうから、今度は ティナ自身の声 が響いた。
――ティナ。
来て。
「……わ、私の……声……?」
ティナは頭を抱え、膝が震える。
“自分の声”ほど、人の心を揺らすものはない。
エインが強く言う。
「お前の声じゃない。
“声の形”を真似してるだけだ」
だが声は続く。
――大丈夫。
あなたは、すぐそばに来てくれる。
次の瞬間、ティナの足元の風がふっと沈み込んだ。
「ティナッ!!」
エインは即座に腕を伸ばす。
だが届く前に――
ティナの体は、まるで“風に飲まれる”ように消えた。
草原の音が一瞬だけ途切れた。
カレナが震える声で叫ぶ。
「……侵聲……!
歌巫女の聴覚層を破って……ティナを……!」
シオンは歯を噛みしめ、星盤を握り直す。
「正体は不明……でも、これは明確に“意思を持った侵入者”です……!」
エインの瞳に炎核の光が宿る。
「ティナを追う。
風の底でも、影の中でも……必ず取り戻す」
風が吹いた。
しかしその音は――ひとつも返ってこなかった。
ティナは、“声の闇”へ連れ去られた。
ティナは“落ちた”わけではなかった。
ただ、世界がふっと音を失い――
気づけば、真っ白な草原に立っていた。
風は吹いているのに、音がない。
草は揺れているのに、揺れる音がしない。
音だけが、世界から抜け落ちている。
「……ここ……どこ……?」
ティナの声は胸から出ているはずなのに、耳に届かない。
口の中で声が溶けてしまうような、不思議な感覚。
そのとき。
――ティナ。
彼女自身の声が、横から“置かれたように”響いた。
ティナは驚いて振り向く。
しかし誰もいない。
「わたしの……声……?」
――こわくない。
あなたの灯は、ここにあるよ。
今度の声は、幼い少女の声だった。
柔らかいのに、体のどこにも触れない。
小聖火灯をぎゅっと抱きしめる。
「……返して……
わたしの声で、呼ばないで……!」
少女の声が笑う。
冷たくも、楽しげでもない。“温度のない笑い”。
――呼んでいないよ。
借りているだけ。
「……借りる……?」
ティナは一歩後じさる。
足元の草が揺れるのに、その揺れすら音を持たない。
――ノマ=ルグの風は、よく歌うね。
でも、うるさい。
――だから、少し静かにしたの。
その声は、まるで風景を眺めるように淡々としていた。
「……どうして……?」
――あなたたちは、声で心を決める。
声で祈る。
声で願う。
声で争う。
声で泣く。
声は、便利。
――壊しやすいから。
その瞬間、ティナは背筋を冷たいものでなぞられたように震えた。
(この子……風を“止めた”んじゃない……
声そのものを、消そうとしてる……?)
ティナは息を吸う。
声が出なくても、灯は震える。
小聖火灯を掌で包み、心の声を灯に流し込む。
「……わたしは……誰かを助ける声を……消せない……」
――だから“灯の子”なの?
「そうだよ……!」
ティナは胸を張って声を張る……
が、その声もやはり耳に届かない。
だが小聖火灯が、ふっと光を強めた。
――その灯。
きらきらしてる。
風より、歌より、
あなたの灯がいちばん邪魔。
声の温度が変わる。
先ほどまでの無感情な響きではなく、
どこかに薄く――敵意の影が混じり始めた。
「……わたしの灯を……」
――こわすよ?
世界が、ひび割れた。
白い草原が波紋のように揺れ、
音のない風が刃のようにティナに迫る。
ティナは小聖火灯を抱きしめ、目を閉じた。
(エイン……)
その瞬間――
ティナの灯が、ぱんっと弾けるように光を放った。
光が風の底に満ち、草原の“音の空洞”に亀裂を走らせる。
――あ。
少女の無機質な声が、初めて“揺れた”。
そして、視界が白く裂け――
ティナの身体は“外側”へと押し戻された。
本来、この大地では朝が来れば必ず風が走る。
夜露を払い、家畜のたてがみを揺らし、歌巫女たちの歌を運ぶ――それが草原の日常だ。
だがこの日の風は、**ひどく歪(いびつ)**だった。
草の海は揺れているのに、風の音がない。
風鈴は鳴っているのに、その響きが途中で“折れて”失われる。
カレナが眉をひそめながら歩みを止めた。
「……風の道が、つながらない。
こっち側で起きたはずの“音”が、向こうへ届いてないの」
ティナは小聖火灯を握りしめ、周囲を見渡す。
灯の揺れは確かに感じるのに、空気がそれに反応していない。
「変だよ……。朝の空気が、息してないみたい……」
エインは風に手をかざす。
彼の腕装甲の隙間を橙の光脈が走り、風の抵抗を測る。
「……違和感の“質”が変わってるな。
昨日はただ音がなかっただけだが、今は――風の流れ自体が遮断されてる」
シオンが星盤を開き、精密に観測を始めた。
彼の瞳に淡く光が宿り、星の線が草原の地形をなぞる。
「風路(ウィンド・レーン)が折れています。
通常、自然の風は層を成して流れますが……
誰かが“声の結界”で層そのものを断ち切っている」
「声の……結界?」
ティナがシオンを見上げる。
「はい。風は音の道で、音は祈りの道でもある。
その“道”を盗む技術……命律波にはなかったはず。
これは、人格的な意思による干渉です」
カレナの表情に怒りが宿る。
「侵聲……。
あの“声を奪う影”が、本格的に動き出したってことね」
風紋を纏ったノマ=ルグの戦士たちが駆けつけてくる。
彼らの顔は緊張に曇っていた。
「歌巫女様! 大変だ、南の“風馬(ラフ=スプリント)”が暴走した!
放牧隊が何人も倒れてる!」
エインが即座に前へ出る。
「理由は分かるか」
「わからねえ! でも、あいつら……
仲間の声に従って、自分から崖に飛び込んだって……!」
空気が凍りつく。
シオンが言葉を詰まらせながら呟いた。
「……声による衝動誘導。
侵聲の“模倣”かもしれません」
ティナが小さく震えた声で尋ねる。
「じゃあ……その声を出した“誰か”が、そばにいたってこと……?」
カレナが静かに頷く。
「――そうよ。
風の国へ、敵が入ってる。
もう止まってなんていられない」
エインは赤い瞳に光を宿し、草原の向こうを見据えた。
「行くぞ。
風が折られた場所へ。
侵聲がどれほどのものか……確かめる」
そして、祈りの旅団は草原の南へ向けて駆け出した。
風は吹く。
だがその音は、まだ――どこかで“誰か”に奪われたままだった。
風紋の道を南へ走るほど、空気は不自然に冷たくなった。
ノマ=ルグの草原は本来、朝日とともに一気に温度を上げるはずなのに――まるで夜だけが取り残されている。
ほどなくして、放牧地の谷が見えてきた。
丘の斜面には、倒れた風馬たちの影。
その周囲を、風戦士たちが沈痛な面持ちで囲んでいた。
エインたちが到着すると、一人の戦士がふらつく足取りで近づいてくる。
顔には疲労と恐怖が混じっていた。
「歌巫女様……! 無事で……よかった……」
カレナが駆け寄る。
「無事だったのね、リフ。何があったの?」
リフと呼ばれた青年は、震える手で谷底を指した。
「風馬が……急に暴れだして……。
呼んでも、歌っても、何も通じなかった。
それどころか、仲間の声に反応して、まるで従うみたいに走り出して……」
「仲間の……声に?」
ティナは思わずリフの腕を掴む。
「それって……誰の声?」
リフは唇を震わせながら答えた。
「……俺の声だ。
“逃げろ”って叫んだつもりだったのに……
風馬たちは俺の声を“指示”として受け取って……谷に飛び込んだんだ……!」
ティナが息を呑む。
シオンは星盤を展開し、谷底へ視線を向けた。
「……不自然ですね。
命律波は確かに精神に干渉しますが、ここまで完璧に“声を模倣して上書きする”ことはできない」
エインは谷へ降りていく。
風馬の死体に触れたその手に、風の“残響”が微かに走る。
(……生前、何かを聞かされた。
それも“本物そっくりの、偽の声”を)
カレナも谷底に降りながら、風の道を感じ取ろうとする。
しかしすぐに顔をしかめた。
「……流れてない。“風の歌”が……途切れてる」
彼女は耳元の風鈴飾りを揺らす。
だが――
鈴は揺れるのに、音が鳴らなかった。
ティナがそっと手を伸ばす。
小聖火灯がわずかな光を放ち、その温度に風が反応する。
チリ……ッ。
風鈴が一瞬だけ鳴いた。
「灯……?」
カレナが驚く。
シオンが分析するように言葉を重ねた。
「ティナの灯は“祈りの風”に近い性質を持つ。
侵聲の結界に殺された音を、一時的に押し返したんです」
「侵聲……」
リフが震えて呟く。
「歌巫女様……あいつ、聞こえたんです……。
俺の声じゃないのに、俺の声で……
“走れ”って……“落ちろ”って……!」
エインはリフの肩をつかんだ。
「そのとき、何か見たか」
リフは首を振る。
「影が……一つ。
でも、風に乗ってなかった……。
“声だけが歩いてるみたい”だったんです……!」
カレナの瞳が険しくなる。
「……やっぱり、侵聲がいる」
「この風の国のどこかに、“声を盗む者”が潜んでる」
ティナは小聖火灯を抱え、静かに灯を見つめた。
「……風馬さんたち、苦しかったよね……
声を奪われて、身体が勝手に動かされて……」
エインが谷の上を見上げる。
風が、またひとつ途切れた。
「次は、もっと近くで来るぞ」
シオンが星盤を閉じたとき、草原の風が一筋だけ、逆流した。
わずかに巻き上がった草が揺れ――
その向こうで、かすかな“声”が浮かび上がる。
――カレナ。
……こっちへ……来て……
ティナがびくりと肩を震わせる。
カレナは一瞬、足を踏み出しかけた。
「……え?
これ、私の声……?」
確かにそれはカレナ自身の声。
けれど、どこかが違う。
息遣いがない。
喉の震えもない。
音が風に触れていない。
“声だけが生きている”。
エインが即座に前へ出た。
赤い瞳が冷たく光る。
「行くな。それはお前の声じゃない」
カレナは驚いてエインを見る。
「でも……確かに、私の……」
「“声の形”を真似しているだけだ」
エインの言葉は低く鋭かった。
シオンが静かに補足する。
「本人の声を模倣し、本人に囁く――
侵聲の典型的な誘導手口です。
ノマ=ルグの“風と声の同一性”を逆手に取った……非常に厄介な術ですね」
カレナの顔色が青ざめる。
「……じゃあ、私を呼んだのは……影の方、ってこと?」
「そうだ」
エインが草原の奥を睨む。
「“風に乗ってない声”は、この国じゃ生き物じゃない。
……敵だ」
その言葉と同時に――
丘の向こうの“声”はふっと途絶えた。
風だけが空虚に鳴り、草原は再び沈黙を取り戻す。
カレナは握りしめた拳を震わせた。
「私の声まで……盗むの……?
風だけじゃなく……歌も……心まで……?」
ティナがそっと彼女の手を取る。
小聖火灯の灯が、かすかに風を揺らした。
「大丈夫。
灯は……誰の声にも変えられないよ」
カレナはぎゅっと唇を噛んだ。
「……わかった。
影の正体を暴く。
私たちの風を、歌を、奪わせない」
エインは短くうなずく。
「これで確信した。
侵聲は……すぐ近くにいる」
シオンも星盤を握り直し、低く告げた。
「次は“声”だけじゃ済みません。
――影が、本格的に動きます」
そして、風はまた一筋だけ逆流した。
草原全域を覆う暗い気配は、確実に迫っていた。
風馬の谷を離れ、エインたちは侵聲の痕跡を追って草原を進んだ。
だが歩を進めるほどに、空気は静寂ではなく“音を食われた空洞”のようになっていった。
ティナは胸の小聖火灯を抱えながらつぶやく。
「……灯は揺れてるのに、風が挨拶してくれない……」
カレナが首を振る。
「ノマ=ルグじゃありえないわ。
風は必ず“返事”をするものなのに……」
エインは草原へ手をかざし、風を感じ取った。
光脈が腕装甲の下で淡く脈打つ。
「……風が死んだんじゃない。
何かが、風そのものを食ってる」
その瞬間だった。
ティナの耳元で、小さく息が囁いた。
――ティナ。
こっちへ。
「……え?」
ティナは反射的に振り返る。
そこにはエインたちがいる。
だが、声の聞こえた方向はまったく別。
――ティナ。
“灯の子”。
助けて。
柔らかく、人懐っこい響き。
けれど、その優しさはどこか“作り物の温度”だった。
エインはすぐに気づく。
「ティナ、聞くな。
いまの声、風を通ってない」
ティナの胸がざわつく。
「……でも、困ってる声が……」
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「だめ! “呼び声”に返事しちゃだめよ!
それ、誰かの声を奪って作ってる……!」
シオンは星盤を構え、青ざめた声で言った。
「侵聲の“同調誘導”……!
相手が反応しやすい声を作って、心の奥へ直接触れてきます!」
ティナは必死に首を振る。
「わかってる……でも……
助けて、って言われると……身体が……」
そして――
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――ティナ。
来て。
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ティナは頭を抱え、膝が震える。
“自分の声”ほど、人の心を揺らすものはない。
エインが強く言う。
「お前の声じゃない。
“声の形”を真似してるだけだ」
だが声は続く。
――大丈夫。
あなたは、すぐそばに来てくれる。
次の瞬間、ティナの足元の風がふっと沈み込んだ。
「ティナッ!!」
エインは即座に腕を伸ばす。
だが届く前に――
ティナの体は、まるで“風に飲まれる”ように消えた。
草原の音が一瞬だけ途切れた。
カレナが震える声で叫ぶ。
「……侵聲……!
歌巫女の聴覚層を破って……ティナを……!」
シオンは歯を噛みしめ、星盤を握り直す。
「正体は不明……でも、これは明確に“意思を持った侵入者”です……!」
エインの瞳に炎核の光が宿る。
「ティナを追う。
風の底でも、影の中でも……必ず取り戻す」
風が吹いた。
しかしその音は――ひとつも返ってこなかった。
ティナは、“声の闇”へ連れ去られた。
ティナは“落ちた”わけではなかった。
ただ、世界がふっと音を失い――
気づけば、真っ白な草原に立っていた。
風は吹いているのに、音がない。
草は揺れているのに、揺れる音がしない。
音だけが、世界から抜け落ちている。
「……ここ……どこ……?」
ティナの声は胸から出ているはずなのに、耳に届かない。
口の中で声が溶けてしまうような、不思議な感覚。
そのとき。
――ティナ。
彼女自身の声が、横から“置かれたように”響いた。
ティナは驚いて振り向く。
しかし誰もいない。
「わたしの……声……?」
――こわくない。
あなたの灯は、ここにあるよ。
今度の声は、幼い少女の声だった。
柔らかいのに、体のどこにも触れない。
小聖火灯をぎゅっと抱きしめる。
「……返して……
わたしの声で、呼ばないで……!」
少女の声が笑う。
冷たくも、楽しげでもない。“温度のない笑い”。
――呼んでいないよ。
借りているだけ。
「……借りる……?」
ティナは一歩後じさる。
足元の草が揺れるのに、その揺れすら音を持たない。
――ノマ=ルグの風は、よく歌うね。
でも、うるさい。
――だから、少し静かにしたの。
その声は、まるで風景を眺めるように淡々としていた。
「……どうして……?」
――あなたたちは、声で心を決める。
声で祈る。
声で願う。
声で争う。
声で泣く。
声は、便利。
――壊しやすいから。
その瞬間、ティナは背筋を冷たいものでなぞられたように震えた。
(この子……風を“止めた”んじゃない……
声そのものを、消そうとしてる……?)
ティナは息を吸う。
声が出なくても、灯は震える。
小聖火灯を掌で包み、心の声を灯に流し込む。
「……わたしは……誰かを助ける声を……消せない……」
――だから“灯の子”なの?
「そうだよ……!」
ティナは胸を張って声を張る……
が、その声もやはり耳に届かない。
だが小聖火灯が、ふっと光を強めた。
――その灯。
きらきらしてる。
風より、歌より、
あなたの灯がいちばん邪魔。
声の温度が変わる。
先ほどまでの無感情な響きではなく、
どこかに薄く――敵意の影が混じり始めた。
「……わたしの灯を……」
――こわすよ?
世界が、ひび割れた。
白い草原が波紋のように揺れ、
音のない風が刃のようにティナに迫る。
ティナは小聖火灯を抱きしめ、目を閉じた。
(エイン……)
その瞬間――
ティナの灯が、ぱんっと弾けるように光を放った。
光が風の底に満ち、草原の“音の空洞”に亀裂を走らせる。
――あ。
少女の無機質な声が、初めて“揺れた”。
そして、視界が白く裂け――
ティナの身体は“外側”へと押し戻された。
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そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという…
これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。
剣で攻撃をすれば勇者より強く…
盾を持てばタンクより役に立ち…
攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが…
それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。
Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに…
魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし…
補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に…
怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。
そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
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同日、夜21時49分…
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その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
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正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
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俺はうんざりしながら答えた。
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6月22日
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6月23日
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昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
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気が付けば誰かがしゃべってる。
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