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第4章 赤色灯の証言
第14話 背後の影
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春の風が強く、桐ノ宮署の窓ガラスを小さく震わせていた。
美由紀の机の上には、あのノートが開かれている。
証言、呼気数値、写真コピー――揺るぎない三つの証拠が並ぶページ。
だが、その周囲を覆う空気は日に日に重くなっていた。
(見えない敵は確実に近づいている。だけど……ここで引いたら、すべてが無意味になる)
昨日の黒いワンボックスによる接触未遂。
自宅に投げ込まれた脅迫状。
そして氷室の冷たい囁き――「交通事故は誰にでも起こる」。
背後にいるのは誰だ?
なぜここまでして隠す?
考えるたび、胸の奥に焦げるような怒りが広がった。
午前。
副隊長に呼ばれ、執務室に入る。
机の上には封筒がひとつ。
「……本部からだ」
副隊長は重い声で言った。
「お前を正式に“交機から外す”案が再提出された。しかも今度は強い印が押されてる」
「……氷室ですか」
「名は出てねえ。だが、裏にいるのは県警本部じゃなくて“庁”だろうな」
警察庁。
胸の奥に冷たい重みが落ちた。
氷室はただの参事官ではない。背後に“庁”と繋がる太い糸を握っている。
「お前を守りたい。だが限界もある」
副隊長は煙草に火をつけ、深く吸い込んだ。
「せめて……自分の身は自分で守れ」
昼休み。
屋上で風に吹かれていると、加瀬がやってきた。
「顔色わりぃな」
「……警察庁が絡んでいるかもしれません」
「だろうな。氷室の動き方は“県”の器じゃねえ」
加瀬は煙を吐き出し、苦い顔で続けた。
「キャリア様。お前はキャリアだからこそ狙われてるんだ。正義感むき出しのキャリアなんて、一番邪魔だからな」
「……私が動かなければ、被害者の声は消えます」
「動けば潰される」
「それでも」
「……強情だな」
加瀬は笑い、缶コーヒーを放り投げて寄越した。
「飲め。腹括れ」
午後。
谷口警部補が資料室の前で小さく手招きした。
「西條さん、少しだけ……」
薄暗い資料室で、彼女は一枚のコピーを差し出した。
「これ、偶然見つけました。県警本部と庁のやりとりの記録。非公開文書の写しです」
そこにはこう記されていた。
〈篠原台事故に関しては“体調不良”で統一。赤信号・飲酒の事実は言及不可。政治的影響を回避するため、関係者の行動に監視を強めること〉
「……やっぱり、庁が」
美由紀の声は震えた。
「気をつけて。あなたは“監視対象”にされている」
谷口の目は真剣だった。
その夜。
署の駐車場に停めていた美由紀の白バイの前輪が、ナイフで裂かれていた。
タイヤはぺしゃんこに潰れ、路面にゴム片が散らばっている。
「……これも警告」
胸の奥で炎が大きく燃えた。
敵は確実に近づき、そして直接的に手を伸ばしてきている。
だが同時に、背後の輪郭が見え始めていた。
氷室――そしてその後ろに立つ、警察庁の誰か。
夜更け。
ノートを開き、新たなページに記した。
〈庁からの圧力文書(写しあり)〉
〈白バイ破壊工作〉
ペン先を強く走らせながら、心に誓った。
(もう後戻りはできない。この記録は、真実そのもの。消されるなら、私ごと消されるしかない)
窓の外を赤色灯が走り抜け、影を揺らした。
それは戦いの始まりを告げる鐘のように見えた。
美由紀の机の上には、あのノートが開かれている。
証言、呼気数値、写真コピー――揺るぎない三つの証拠が並ぶページ。
だが、その周囲を覆う空気は日に日に重くなっていた。
(見えない敵は確実に近づいている。だけど……ここで引いたら、すべてが無意味になる)
昨日の黒いワンボックスによる接触未遂。
自宅に投げ込まれた脅迫状。
そして氷室の冷たい囁き――「交通事故は誰にでも起こる」。
背後にいるのは誰だ?
なぜここまでして隠す?
考えるたび、胸の奥に焦げるような怒りが広がった。
午前。
副隊長に呼ばれ、執務室に入る。
机の上には封筒がひとつ。
「……本部からだ」
副隊長は重い声で言った。
「お前を正式に“交機から外す”案が再提出された。しかも今度は強い印が押されてる」
「……氷室ですか」
「名は出てねえ。だが、裏にいるのは県警本部じゃなくて“庁”だろうな」
警察庁。
胸の奥に冷たい重みが落ちた。
氷室はただの参事官ではない。背後に“庁”と繋がる太い糸を握っている。
「お前を守りたい。だが限界もある」
副隊長は煙草に火をつけ、深く吸い込んだ。
「せめて……自分の身は自分で守れ」
昼休み。
屋上で風に吹かれていると、加瀬がやってきた。
「顔色わりぃな」
「……警察庁が絡んでいるかもしれません」
「だろうな。氷室の動き方は“県”の器じゃねえ」
加瀬は煙を吐き出し、苦い顔で続けた。
「キャリア様。お前はキャリアだからこそ狙われてるんだ。正義感むき出しのキャリアなんて、一番邪魔だからな」
「……私が動かなければ、被害者の声は消えます」
「動けば潰される」
「それでも」
「……強情だな」
加瀬は笑い、缶コーヒーを放り投げて寄越した。
「飲め。腹括れ」
午後。
谷口警部補が資料室の前で小さく手招きした。
「西條さん、少しだけ……」
薄暗い資料室で、彼女は一枚のコピーを差し出した。
「これ、偶然見つけました。県警本部と庁のやりとりの記録。非公開文書の写しです」
そこにはこう記されていた。
〈篠原台事故に関しては“体調不良”で統一。赤信号・飲酒の事実は言及不可。政治的影響を回避するため、関係者の行動に監視を強めること〉
「……やっぱり、庁が」
美由紀の声は震えた。
「気をつけて。あなたは“監視対象”にされている」
谷口の目は真剣だった。
その夜。
署の駐車場に停めていた美由紀の白バイの前輪が、ナイフで裂かれていた。
タイヤはぺしゃんこに潰れ、路面にゴム片が散らばっている。
「……これも警告」
胸の奥で炎が大きく燃えた。
敵は確実に近づき、そして直接的に手を伸ばしてきている。
だが同時に、背後の輪郭が見え始めていた。
氷室――そしてその後ろに立つ、警察庁の誰か。
夜更け。
ノートを開き、新たなページに記した。
〈庁からの圧力文書(写しあり)〉
〈白バイ破壊工作〉
ペン先を強く走らせながら、心に誓った。
(もう後戻りはできない。この記録は、真実そのもの。消されるなら、私ごと消されるしかない)
窓の外を赤色灯が走り抜け、影を揺らした。
それは戦いの始まりを告げる鐘のように見えた。
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