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第4章 赤色灯の証言
第15話 標的
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春の夜、桐ノ宮市内。
街の灯りはどこか霞み、遠くに見える山影が黒く沈んでいた。
署からの帰り道、美由紀は白バイを押して歩いていた。
タイヤを裂かれた車両は整備に回され、今日は代車すら用意されていなかった。
(足を奪う。そこまで露骨に……)
心の奥で燃える炎を押さえつけながら、歩道を進む。
その背後に気配を感じた。
振り返ると、黒い影が街灯の下で立ち止まり、すぐに闇に溶けた。
翌朝。
副隊長が険しい顔で声をかけてきた。
「西條。昨日、誰かにつけられただろう」
「……気づきました」
「やはりな。お前はもう“標的”だ」
副隊長の声は重かった。
「俺たちの範疇を超えてる。庁の影が動いてる。氷室はただの駒だ」
「……」
「今すぐ逃げろとは言わん。だが、生き残ることを最優先にしろ」
その言葉は警告であり、同時に励ましでもあった。
昼。
国道21号の交差点で、白バイ隊が一斉に交通整理を行っていた。
大型車の流れを止め、事故処理の補助に回る。
その最中、美由紀は異様な音を聞いた。
――カチリ。
交差点脇に停められた放置車両。
そこから不自然に煙が漏れ、次の瞬間、閃光と共に爆発が走った。
「伏せろ!」
衝撃波が襲い、破片がアスファルトに散った。
近くの市民が悲鳴を上げ、倒れ込む。
「321! 至急救護を! 爆発発生、負傷者多数!」
美由紀は無線を叩き、駆け出した。
炎に包まれた車のそばで、母親が必死に子どもを抱きしめていた。
「助けて! この子が!」
車体がきしみ、再び爆発の予兆を見せる。
美由紀はためらわなかった。
炎の熱気を浴びながら母子を抱きかかえ、道路脇へと転がり込む。
直後、車が二度目の爆発を起こし、炎の柱が夜空に突き上がった。
髪が焦げ、制服の袖に火が移る。
加瀬が駆け寄り、水を浴びせて消した。
「無茶すんな!」
「市民が……」
「市民を守って死んだら、結局同じだ!」
怒鳴り声に、だが心の奥で熱いものが湧いた。
市民の命を守る――それだけが、警察官としての存在理由だった。
署に戻ると、既に公安関係者が到着していた。
「車両爆発は“事故”として処理する」
冷たい声が響く。
「事故? 明らかに仕掛けられていました!」
美由紀は声を荒げた。
だが公安の男は表情を変えずに告げる。
「捜査権限は我々が持つ。交通は引っ込め」
「……」
加瀬が肩を掴んだ。
「抑えろ。ここで食ってかかれば、お前は完全に終わる」
「でも……」
「まだ証拠は残ってるだろ。ノートだ」
美由紀は唇を噛み、拳を握り締めた。
夜。
氷室が姿を現した。
柔らかな笑みのまま、耳元で囁く。
「大変だったね。だが“爆発事故”は危険だ。……次は君自身かもしれない」
「脅しているんですか」
「忠告だよ。君がノートを持ち続ければ、君も、市民も、仲間も危険にさらす」
「……私は退きません」
氷室の目がわずかに細まり、笑顔の奥に冷たい光が宿った。
「そうか。なら、次は本当に命を懸けてもらうことになる」
その言葉を残し、氷室は夜の闇に消えた。
深夜。
美由紀はノートを開き、震える手で書き込んだ。
〈車両爆発:不審。事故処理は不自然。公安が介入〉
〈市民母子を救出。だが明らかに“警告”〉
ページに赤色灯の残光が滲み、墨のように広がった。
(私は――標的になった。でも、ここで退いたらすべてが消える)
窓の外をパトカーが駆け抜け、赤色灯が一瞬、部屋を照らした。
その光の中で、美由紀は覚悟を固めた。
(次は……クライマックスだ)
街の灯りはどこか霞み、遠くに見える山影が黒く沈んでいた。
署からの帰り道、美由紀は白バイを押して歩いていた。
タイヤを裂かれた車両は整備に回され、今日は代車すら用意されていなかった。
(足を奪う。そこまで露骨に……)
心の奥で燃える炎を押さえつけながら、歩道を進む。
その背後に気配を感じた。
振り返ると、黒い影が街灯の下で立ち止まり、すぐに闇に溶けた。
翌朝。
副隊長が険しい顔で声をかけてきた。
「西條。昨日、誰かにつけられただろう」
「……気づきました」
「やはりな。お前はもう“標的”だ」
副隊長の声は重かった。
「俺たちの範疇を超えてる。庁の影が動いてる。氷室はただの駒だ」
「……」
「今すぐ逃げろとは言わん。だが、生き残ることを最優先にしろ」
その言葉は警告であり、同時に励ましでもあった。
昼。
国道21号の交差点で、白バイ隊が一斉に交通整理を行っていた。
大型車の流れを止め、事故処理の補助に回る。
その最中、美由紀は異様な音を聞いた。
――カチリ。
交差点脇に停められた放置車両。
そこから不自然に煙が漏れ、次の瞬間、閃光と共に爆発が走った。
「伏せろ!」
衝撃波が襲い、破片がアスファルトに散った。
近くの市民が悲鳴を上げ、倒れ込む。
「321! 至急救護を! 爆発発生、負傷者多数!」
美由紀は無線を叩き、駆け出した。
炎に包まれた車のそばで、母親が必死に子どもを抱きしめていた。
「助けて! この子が!」
車体がきしみ、再び爆発の予兆を見せる。
美由紀はためらわなかった。
炎の熱気を浴びながら母子を抱きかかえ、道路脇へと転がり込む。
直後、車が二度目の爆発を起こし、炎の柱が夜空に突き上がった。
髪が焦げ、制服の袖に火が移る。
加瀬が駆け寄り、水を浴びせて消した。
「無茶すんな!」
「市民が……」
「市民を守って死んだら、結局同じだ!」
怒鳴り声に、だが心の奥で熱いものが湧いた。
市民の命を守る――それだけが、警察官としての存在理由だった。
署に戻ると、既に公安関係者が到着していた。
「車両爆発は“事故”として処理する」
冷たい声が響く。
「事故? 明らかに仕掛けられていました!」
美由紀は声を荒げた。
だが公安の男は表情を変えずに告げる。
「捜査権限は我々が持つ。交通は引っ込め」
「……」
加瀬が肩を掴んだ。
「抑えろ。ここで食ってかかれば、お前は完全に終わる」
「でも……」
「まだ証拠は残ってるだろ。ノートだ」
美由紀は唇を噛み、拳を握り締めた。
夜。
氷室が姿を現した。
柔らかな笑みのまま、耳元で囁く。
「大変だったね。だが“爆発事故”は危険だ。……次は君自身かもしれない」
「脅しているんですか」
「忠告だよ。君がノートを持ち続ければ、君も、市民も、仲間も危険にさらす」
「……私は退きません」
氷室の目がわずかに細まり、笑顔の奥に冷たい光が宿った。
「そうか。なら、次は本当に命を懸けてもらうことになる」
その言葉を残し、氷室は夜の闇に消えた。
深夜。
美由紀はノートを開き、震える手で書き込んだ。
〈車両爆発:不審。事故処理は不自然。公安が介入〉
〈市民母子を救出。だが明らかに“警告”〉
ページに赤色灯の残光が滲み、墨のように広がった。
(私は――標的になった。でも、ここで退いたらすべてが消える)
窓の外をパトカーが駆け抜け、赤色灯が一瞬、部屋を照らした。
その光の中で、美由紀は覚悟を固めた。
(次は……クライマックスだ)
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