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第4章 赤色灯の証言
第16話 告発前夜
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桐ノ宮署の夜。
蛍光灯の光に照らされた詰所は、いつものように無機質で、しかしそこにいる誰もが落ち着かなかった。
篠原台での死亡事故、その後の爆発事件。
すべてが「事故」とされ、表の記録からは消されている。
だが美由紀のノートには、証言・数値・写真コピー・内部文書……すべてが揃っていた。
(このまま私ごと消されるのを待つのか。それとも――動くのか)
その答えを出さなければならない時が迫っていた。
翌朝。
県警本部で定例会議が行われると聞き、副隊長は美由紀を呼んだ。
「西條。庁からの視察も来るらしい。氷室も動く」
「……私を外すためですか」
「それだけじゃねえ。お前を“見せしめ”にするつもりだ」
副隊長の声は低く重い。
「だがな、俺はまだ完全に諦めちゃいねえ。正義を通そうとする馬鹿を、見捨てるわけにはいかん」
「副隊長……」
「動くなら、覚悟を決めろ。退路はない」
その日、県警本部の会議室。
幹部たちが並ぶ席に、氷室が姿を見せた。
相変わらず穏やかな笑みを浮かべ、柔らかい声で語り始める。
「篠原台の事故は“体調不良”で統一、爆発は“車両整備不良”で処理。――これで調和が取れます」
誰も異を唱えなかった。
それが当たり前であるかのように、静かな同調が広がった。
だがその場の空気を切るように、副隊長が声を上げた。
「……現場の声を、無視していいのか」
室内が凍りつく。
氷室は笑顔のまま、副隊長を見た。
「現場は大切です。しかし、社会を揺るがすのはもっと大きな力です」
「現場が嘘をつけば、力なんて砂の城だ」
副隊長の声は揺るがなかった。
氷室の笑みはほんの僅かに歪んだ。
会議が終わった後。
廊下で氷室が美由紀に近づいてきた。
「君の上司は勇ましいね。でも、ああいう人間は長くは持たない」
「あなたは……何者なんですか」
問いかけると、氷室は一瞬だけ沈黙し、柔らかい声で答えた。
「ただの参事官だよ。ただし、“庁”の意向を現場に伝える役目を負っている」
「高山健介を守るために?」
「彼一人ではない。守るべき“調和”の象徴だ」
「調和……」
「そうだ。君のノートは、調和を壊す爆弾だ。私に渡せばすべて丸く収まる」
「……渡しません」
「そうか。なら、君は覚悟を決めたんだね」
笑顔の奥の瞳は、氷のように冷たかった。
夜。
署に戻った美由紀の机に、一枚の封筒が置かれていた。
中には一枚の紙。
〈内部告発の場を設ける。明日、県議会前にて〉
差出人は記されていない。
(罠……かもしれない。でも、ここで逃げたら何も変わらない)
ノートを抱き締める。
胸の鼓動は速く、しかし恐怖よりも決意が勝っていた。
深夜。
屋上で一人、風に吹かれていると、加瀬が背後から現れた。
「お前、明日動くつもりだな」
「……分かってしまいますか」
「長く付き合ってりゃな」
加瀬は煙草に火をつけ、赤く燃える先端を見つめた。
「命を懸ける覚悟があるなら、止めねえ。でも、必ず戻ってこい」
「はい」
短い返事に、加瀬は小さく笑った。
「人情に負けるな。けど、人情がなきゃ走れねえ。……忘れるなよ」
美由紀も笑みを返した。
「それ、もう何度目のセリフですか」
「俺の決め台詞だ」
二人の間に、夜風だけが吹き抜けた。
ノートを開く。
最後のページに大きく書き込んだ。
〈明日、告発する〉
赤色灯の残光が遠くを照らし、まるでその決意を見守るかのように瞬いていた。
(明日――真実を曝す。たとえ命を懸けても)
蛍光灯の光に照らされた詰所は、いつものように無機質で、しかしそこにいる誰もが落ち着かなかった。
篠原台での死亡事故、その後の爆発事件。
すべてが「事故」とされ、表の記録からは消されている。
だが美由紀のノートには、証言・数値・写真コピー・内部文書……すべてが揃っていた。
(このまま私ごと消されるのを待つのか。それとも――動くのか)
その答えを出さなければならない時が迫っていた。
翌朝。
県警本部で定例会議が行われると聞き、副隊長は美由紀を呼んだ。
「西條。庁からの視察も来るらしい。氷室も動く」
「……私を外すためですか」
「それだけじゃねえ。お前を“見せしめ”にするつもりだ」
副隊長の声は低く重い。
「だがな、俺はまだ完全に諦めちゃいねえ。正義を通そうとする馬鹿を、見捨てるわけにはいかん」
「副隊長……」
「動くなら、覚悟を決めろ。退路はない」
その日、県警本部の会議室。
幹部たちが並ぶ席に、氷室が姿を見せた。
相変わらず穏やかな笑みを浮かべ、柔らかい声で語り始める。
「篠原台の事故は“体調不良”で統一、爆発は“車両整備不良”で処理。――これで調和が取れます」
誰も異を唱えなかった。
それが当たり前であるかのように、静かな同調が広がった。
だがその場の空気を切るように、副隊長が声を上げた。
「……現場の声を、無視していいのか」
室内が凍りつく。
氷室は笑顔のまま、副隊長を見た。
「現場は大切です。しかし、社会を揺るがすのはもっと大きな力です」
「現場が嘘をつけば、力なんて砂の城だ」
副隊長の声は揺るがなかった。
氷室の笑みはほんの僅かに歪んだ。
会議が終わった後。
廊下で氷室が美由紀に近づいてきた。
「君の上司は勇ましいね。でも、ああいう人間は長くは持たない」
「あなたは……何者なんですか」
問いかけると、氷室は一瞬だけ沈黙し、柔らかい声で答えた。
「ただの参事官だよ。ただし、“庁”の意向を現場に伝える役目を負っている」
「高山健介を守るために?」
「彼一人ではない。守るべき“調和”の象徴だ」
「調和……」
「そうだ。君のノートは、調和を壊す爆弾だ。私に渡せばすべて丸く収まる」
「……渡しません」
「そうか。なら、君は覚悟を決めたんだね」
笑顔の奥の瞳は、氷のように冷たかった。
夜。
署に戻った美由紀の机に、一枚の封筒が置かれていた。
中には一枚の紙。
〈内部告発の場を設ける。明日、県議会前にて〉
差出人は記されていない。
(罠……かもしれない。でも、ここで逃げたら何も変わらない)
ノートを抱き締める。
胸の鼓動は速く、しかし恐怖よりも決意が勝っていた。
深夜。
屋上で一人、風に吹かれていると、加瀬が背後から現れた。
「お前、明日動くつもりだな」
「……分かってしまいますか」
「長く付き合ってりゃな」
加瀬は煙草に火をつけ、赤く燃える先端を見つめた。
「命を懸ける覚悟があるなら、止めねえ。でも、必ず戻ってこい」
「はい」
短い返事に、加瀬は小さく笑った。
「人情に負けるな。けど、人情がなきゃ走れねえ。……忘れるなよ」
美由紀も笑みを返した。
「それ、もう何度目のセリフですか」
「俺の決め台詞だ」
二人の間に、夜風だけが吹き抜けた。
ノートを開く。
最後のページに大きく書き込んだ。
〈明日、告発する〉
赤色灯の残光が遠くを照らし、まるでその決意を見守るかのように瞬いていた。
(明日――真実を曝す。たとえ命を懸けても)
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