異世界の女騎士と女奴隷が俺の家に住むことになったがポンコツだった件

コペルニクス

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レベル50.女騎士と女奴隷と新しい日々

5.女騎士と女奴隷と飲み会(前編)

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 というわけで。
 やってきました駅前の居酒屋。
 結構久しぶりだな、こういうところ来るの。どこにでもありそうな無難なチェーン店だが、初めてならこういうところのほうが安心だろう。

「はいそれじゃあ只今から飲み放題の120分コース制ですね。飲み物のオーダーお決まりでしたらお伺いします」
「全員生でー!!」
「かしこまりましたそれでは少々お待ちくださいませ」

 と店員は告げて厨房の奥に引っ込んでいく。
 ここに集まったのは全部で五人。俺と渚とリファとクローラ、そして未來。本当ならエリアも誘ってよかったのかもしれないが、あいつはいろいろな意味で無理だな。素であの性格なら酔ったら何が起きるかわからん。それに、パートナーである未來も彼女を毛嫌いしているフシがある。わざわざ同じ場所に置いて険悪な雰囲気を作ることもないだろう。
 酒とお通しが来るまでの間、異世界コンビはそわそわと店内を見渡して興味深そうに観察していた。

「こ、これが異世界の酒場かぁ! ワイヤードのものよりも随分しっかりとしているな、清潔だし、店員の愛想もいいし……」
「私はこういう場所自体初めてですが……なんだか賑やかなところですね。人もいっぱいいますし」
「なぁに、あんたらセンパイにこーゆーとこ連れてってもらったことないの?」

 おしぼりで手を拭きながら問う渚に、二人は揃って首を横に振った。

「殆ど無いですね。別に行く理由があるわけでもないですし。外食も経験は数えるくらいですね」
「はぁー? なんじゃそれ。ちょっとセンパイ、いくらなんでもひどくなぁい? 居酒屋くらい週一で行かしてやりなよ」

 生憎週一で毒沼に突っ込んでいく趣味は俺は持ち合わせちゃいないんでね。
 お忘れの方もいると思うが、クローラもリファも相当酒癖が悪い。ビール半分でべろべろになり、一杯飲んだら意識を失い、それ以上だと……恐ろしい怪物が生まれるのである。

「それにしたって外食も控えさせるなんてありえないっしょー。年頃の女の子に家飯ばっかなんてさー」
「別段おかしい話じゃないですよ」

 すると不意に隣に座っていた未來が口を挟んできた。

「外食なんてしょっちゅうしてたら本当に馬鹿にならない額になりますから。ホームステイの留学生ならただでさえ先輩に世話をかけてるんですから、極力贅沢を言わないのは最低限の礼儀では?」

 すっげぇ早口かつちょい棘のある物言い。
 これにはさすがの渚も真顔になる。

「そりゃそーかもだけどさぁ……だからって――」
「ああいや、違うんだ渚殿」

 不穏な空気になる予兆を感じ取ったのか、慌ててリファが弁解に入った。

「別にマスターが外食に連れってくれないわけではない。というより、こっちが希望を言えば普通に行かせてはくれるよ。ただ、私達があえて頼んでないだけだ」
「リファっち……」
「ただ、そっちの眼鏡殿が言ってるような、贅沢とか礼儀とかが理由なわけではない」
「……」

 眼鏡殿……もとい未來はその言葉にピクリと肩をミリ単位で震わせるが、それ以上の反応は見せなかった。

「私達、一緒に暮らしてるから日替わりで家事とか分担してるんだ。当然料理もそれに含まれてる」
「料理はクローラあまり上手くはないのでお手伝い専門で、実質リファさんと主くんの二人体制ですけどね」

 面目ないというふうにクローラは苦笑い。
 その隣で、人差し指をつつき合わせながらリファは照れくさそうにのろける。

「ああ。それで……マスターの作る料理はすごく美味しくて、でも私の作った料理もマスターやクローラは美味しいって褒めてくれる。そんな毎日の食事がいつも待ち遠しくてな。外食では味わえない喜びというか……」
「お互いの料理が一日置きに楽しみって感じですね」
「ん。騎士だった頃には味わえなかった喜びというか……。ここに来て初めて気づいた嬉しさというか……」

 そのほてり顔は、およそ騎士というような勇ましく凛としたイメージとは程遠い。
 ただの無垢で純情可憐な、恋する乙女の表情であった。
 しばらくそんな顔でモゴモゴしていたが、リファはやがて可愛らしくはにかんだ。

「私はやっぱり、マスターには私の料理を食べてもらいたいし、私にとってもマスターの料理が一番の馳走だから」

 ……。
 やべぇ、ちょっと柄にもなくドキッとしてしまった。
 ほんとリファのこういうところに弱いんだよな、俺って。

「……なんだか本当に奥さんみたいだね、リファっち。最初に料理対決した時からその兆しあったけど」

 メニュー表を尻目に渚がからかうと、途端にリファはわかりやすく慌てふためいた。

「べ、べべっべべ別に私はそんなつもりじゃ……! そ、それに夫婦になるなら料理だけじゃダメだろ! 掃除とか洗濯とか……そういうのならクローラの方が一枚上手だぞ!」
「わ、私ですか? まぁ今はそうかもしれませんけど、それくらい練習すればすぐ上達すると思いますよ?」

 突然話を振られて驚くクローラは、やや謙遜した感じで返事を返す。
 しかし、すぐに背筋をピンと伸ばすと毅然とした態度で意気込みを語った。

「もちろん私も、料理の腕を磨く努力は欠かしておりませんので。いつかは主くんやリファさんを唸らせるくらいになってみせますです」

 もう別の意味で唸ってるんだけどなぁ。
 とにかくその努力が悪い方向に実を結ばないよう日々祈るしかない。
 いやこの状態はもう結んでるのか。じゃあさっさと新しい苗を育てるところからやり直して、どうぞ。

「おー、なになにこの張り合い。まさかの一夫多妻やらかしちゃう系? エグいねぇセンパイ」

 あーもうまた唸らせる原因作りそうな奴がさっそく芽を出してきたよめんどくせぇな。

「あ、ってことはあれか。そーすりゃあたしも二人のことを気にせずセンパイに堂々嫁入りできるってわけか。こりゃいいね、めでたく正妻戦争終結」

 始まる気しかしない未来のどこにお前は終焉を見出したんだ。

「そんならこの際いっその事分担しましょうか。リファっちごはんで、掃除洗濯クロちゃん、子作りセンパイとあたしで」
「その配役でなきゃいけない必要性を微塵も感じない」
「必要? 何それ? あたしはあたしのしたいことをする。したくないことは全て他人に押し付ける。それ以上語る余地あります?」

 したいことだろうがしたくないことだろうが己の責務を全力でやり遂げてこそ母親と呼べるんだよ。

「あたしは子供には何にも縛られない自由な人生を歩んでほしいので、そういう生き方を背中で語れる女になりたいなと」
「なら俺は自由に生きることと自分勝手に生きることとは全く別問題だということを教えるかな」
「なるほど、こーしてお互いに足りないところは協力して補完しあう……これこそ夫婦の共同作業ってやつっすね」

 自分を完璧な人間だとは思ったことはないが、それを埋められるのはオメーではないということだけははっきりわかる。

「あたしが埋める? 何言ってんすか、センパイはあたしの足りない部分に自らにできた余計な部分をインサートする側でしょーが! イザナギもイザナミもそーやって日本を作り上げたんすよ! オラさっさと産地直送子種寄越しゃオラァン!!」
「じゃあヒノカグツチ産んでさっさと焼け死んでくれ」
「え? ってことは死んだ後遠路はるばる黄泉の国まで迎えに来てくれるってこと? やだセンパイやさしーい。濡れるわマジ抱いて早く。さもないとこの国の人間毎日1000人ずつ殺す」

 体力を削れないどころかダメージを回復効果に変える体質に進化してやがるなぁ。恐るべき黄泉津大神様。

「ちょ! 何を言っている渚殿! こ、こだねだなんて……そんなこと許されるわけないだろう!」

 そこで待ったをかけたのが我が勇ましき自宅警備隊リファレンスちゃん。テーブルをドンと叩くと立ち上がって猛抗議。
 しかしそんなことじゃ止まらないのが木村渚という女。

「許す!? 誰が? 誰を? あたしの世界にそのような過程など存在しないわ! なぜならこのあたしが世界そのものであり、全てに裁きと断罪を下す神なのだから!」

 七つの大罪だけでできてそうな神が断罪とか笑わせてくれる。

「くっ、だからって! マスターを巻き込むのは違うだろう! 例えマスターの本当の魂が渚殿に微笑んだとしても、それだけは絶対に許さんッ!」
「そうです! 生ゴミさんの腐った膣内に入って即死滅する主くんの子種さん達がかわいそうだとは思わないんですか!」

 開口一番辛辣すぎるクローラちゃんも援護射撃に入る。何か暗に俺のポテンシャルとあり得たかもしれない未来の可能性の一つが容赦なく叩き潰された気がするけどまぁいい。
 さすがにこれはダメージ通るかと思ったが、渚のHPは全く減っちゃいない。

「おーおークロちゃんなかなか言うじゃん、名が示す通り腹ん中も真っ黒だねぇ! それじゃあ白い精子が全て黒に変わってBad Appleな子が産まれちゃうんじゃなーい?」
「そ、そんなことないです! 私の方が絶対に元気な赤ちゃん産んであげられるに決まってますっ!」
「そ、そーだぞ! わ、私も……も、元騎士なりに、立派で勇ましい子を産める自信はある!」
「ほーん、んなら勝負しよっか? 誰か一番良いセンパイの子供を産めるかってので。勝った人がセンパイの正妻ってことで」
「「望むところ
      だ!!」
      ですっ!!」

 ほら見ろやっぱり戦争始まっちまったじゃねぇかよ。
 つーかなんだそのエロゲ漫画特有のクソ勝負。勝利条件ガバガバだしどう転んだって俺お縄になる運命じゃねぇか。ハリーポッターとガバガバンの囚人になっちまうよ参ったね。

「よし! そーと決まればマスター! そ、その……」
「わ、私達と……また――」
「おいちょっと待てよ落ち着けって! 酒も入ってないのになに熱くなってんだ!」

 こちらに詰め寄ってくる二人を押し止めようとするが、彼女達は頬を真っ赤にしながらも進軍を取り消すつもりはなかった。

「熱くもなるさ……だって、私だって女だぞ。す、好きな人と子をなしたいと願うのはそんなに不自然なことか?」
「です……。クローラも主くんの赤ちゃん……欲しい、です」
「ナギちゃんは正直いらないけどこういう口実つけりゃセンパイと合法的にエッチできるってんだからちょろいもんだぜ」

 おうドサクサに紛れて約一名隠す気もなく本性表しやがったなこいつめ。
 やいのやいのとこんな下賤な話で盛り上がって、完全にカオス状態。周囲の人もくすくす笑って、あるいはドン引きして注目してきている。こりゃタイムラインにこの会話が流れんのも時間の問題かな。
 誰かいい具合に収拾つけてくれる人は現れないものか。
 なんて思ってたら、その心の声に応えるように救世主は参上した。

 バキン!!
 と、傍らにあった醤油差しを握り拳で叩き割ることによって。

 やかましかった店内、テレビの電源を切るみたいに一瞬で無音になる。そこにいた誰もが瞬き以外の一切の行動を封じられた。
 喋ることをやめた……いや、やめざるを得なくなった者達は、口の代わりに目を動かして、その救世主という名の破壊者の姿を拝もうとする。

 全ての目線が集約する場所に座していたのは、メガネをかけ、セミロングのボブカットの女の子。
 ただでさえ信じがたい行動であったというのに、それをやらかしたのがこんな若々しい娘だと知ったら周囲のリアクションも当然と言える。
 ガラスの破片が浮く醤油の池に自らの右手を沈めていた彼女――八越未來は、うつむき気味にぼそっと呟いた。
 普段なら雑音でかき消えそうな声量だったが、この静寂が支配する空間では誰の耳にもはっきりと届いた。 


「……不潔」


 超銀河級のド正論によって正妻戦争は見事に終結したのでありました。
 終わり。

 ○

 そして待つこと数分後

「はい、生五つです。お料理の方も只今お持ちいたしますので、ごゆっくりどーぞ」

 やってきました。白銀に輝く泡の乗った、黄金色に煌めく神秘の飲み物。
 一級品の麦とホップが生み出した、飲み会開始の代名詞。
 第二だとか第三だとかじゃ断じてない、正真正銘の本生だ。
 ジョッキの表面についた水滴が近々に冷えていることを主張し、シュワシュワと弾ける音が痛快な喉越しを確約してくれている。そそるよなぁこういうの。
 ちなみにリファはセーラー服だが、今日もらったばかりの学生証を見せることで普通に提供してもらえた。まさかこんなところでいきなり役に立つとは思ってなかったが。

「はいじゃーあ! 入学初日からデビュー失敗してボッチ人生まっしぐらなみんなー! 今日は嫌なこと忘れて楽しんじゃいましょー」
「その前置きで余計に傷口が深まるだろうと何故考えられないのか」
「でもあたしは嫌な思いしてないっすよ?」
「そうだなお前はそういう奴だったな」

 まぁ何はともあれ、こうして無事 (でもないけど)一日を終えたんだ。今日くらいパーッとやってもいいだろう。
 俺達は渚の音頭にならい、各々のジョッキを軽く掲げて待機。全員の準備が整ったことを確認すると、幹事は咳払いし、立ち上がる。

「ではではー……かんぱいぱーい!(渚)」
「乾杯……(俺)」
「卍解ー(リファ)」
「しゃ、しゃんはーい?(クローラ)」
「……(未來)」

 全員バラッバラに言って何一つ息のあってない乾杯をすると、宴会がスタートした。

「みんな遠慮せずにじゃんじゃん飲んじゃっていいよー! 全員別会計だから」
「理不尽なことは言ってないのに異常にムカつくのは何でだろう」
「そーゆーのも全部日本の政治が悪いんすよセンパイ。ほれほれ、グイッといっちゃってくださいな」

 渚に促され、俺達は言われた通りグイッと盃を呷った。
 青空を突き抜けるような爽快さを感じる喉越しに、曇り空からじわじわと太陽が照らし出すように広がっていく程よい苦さのたまらない後味。確かに嫌なことが綺麗に忘れられそうだ。

「かぁーーーっっ!! うめぇ!」

 一気に半分くらい飲むと、俺は口を拭いながらジョッキをテーブルに置いた。
 やっぱ本生は違うね。酒にうまいもまずいもないと普段はずっと思ってるけど、この時だけは格差を実感できるわ。

「……」
「あや、どーしたいリファっちもクロちゃんも。全然飲んでないじゃん。ビール好きだったでしょ?」

 ふと見ると、確かに異世界コンビはさっきからちびちびと泡の部分をすすってるだけである。一体どうしたんだろう? まだ今日の失敗を引きずっているってことはさすがにないと思うけど。
 渚に声をかけられて二人は少しだけ肩を震わせると、苦笑しながら言い訳した。

「や、なんというかその……学生生活の真骨頂というから何が始まるんだろうと思っていたのだが……酒盛りだったと知ってちょっと拍子抜けしたというか」
「学びとかそういうのとは真逆のものですよね、これ。初日からこんな遊び呆けて大丈夫なのかなと思いまして」
「なーんだそんなことかいな」

 軽く自分の額をはたいて渚は呆れたように言う。

「まぁ確かに遊びっちゃ遊びだね。でもこれだって立派な交流の形なんだよお二方」
「というと?」
「こうしてみんなで席を囲って楽しくおしゃべりしながら盛り上がる。親交を深めるって意味ではもっとも身近で効率的だと思わない?」

 確かにそうだ。
 こういう場だと酒の効果も相まって不思議と会話も弾むし、友好的な関係を築くのには最適だ。さっき彼女達に教えた通り、大学生活で重要なのは何も勉強だけじゃない。気軽に接したり、協力し合ったりできる人脈を揃えることも時には必要となってくる。
 ただひたすらどんちゃん騒ぎしてるだけじゃ彼女達の言う通りただの遊び人だが、何事もそれをどう利用するかで全然結果は違ってくる。先入観にとらわれてないで、使い道を誤らず上手く活用できるよう務めるべきなのは間違いない。飲み会関係なく、な。

「……そう、ですね。主くんの言う通りかもです」

 一通り言って聞かせると、クローラははにかんでビールのジョッキを傾けた。
 しかしまだリファは何か思うところがあるのか、ビールの表面に映る自分の顔とにらめっこをしていた。


「リファ? 大丈夫か?」
「……ああ、問題ない。ただ、気づいたことがあってな」

 顔を覗き込みながら尋ねると、静かにリファは目を閉じて微笑した。
 気づいたこと? 一体なんだろう。
 首をひねっていると、リファはいきなりジョッキを60度くらい傾けてグビグビと中の麦酒を喉を鳴らして嚥下していった。
 誰もがその見事な飲みっぷりに目を奪われている中、女騎士はまたたく間にビールをすべて飲み干してしまった。そしてドン、とジョッキをテーブルに置き一呼吸つくと、やや紅潮した笑顔できっぱり言った。

「もう、学友はできてた」

 ……え?
 と、その場の全員が呆けた声を上げる。

「今日、友達作りに失敗して、これから先ずっと私は誰とも接しないまま過ごすのかもと不安になってた。マスターの言ってた人脈も、何一つ得られないままなのかって……でも違った」

 リファはそこで可愛らしく微笑むと、こう結論づけた。

「マスター、クローラ、渚殿、そしてそこの眼鏡殿と、今こうして私は楽しく喋って団欒している。ここにいるみんなは、大切な私の学友だ」
「リファ……」
「クローラもそう思います」

 すると隣の女奴隷さんもいつの間にかビールを飲み干しており、動機が早まりつつある胸に手を当てながら同意した。

「確かにこれから新しく学友を増やすのも重要ですが、まずは今繋がりのある方々を大切にしなければ、きっとこの先友達ができても長く続かないかと」

 確かに、友人を作れてもその関係が維持できなければ意味がない。
 作るのが大切なのではなく、どう間柄を保っていくかなんだ。そこに自分から気づけた辺り、二人もなかなか成長してきてるなと俺は少し感動した。

「なんか酒の席だってのに深い話になってきてるねぇ」

 同じく空になったジョッキに指を這わせながら渚はケラケラ笑う。

「まぁでも、概ね同意かな。ってか二人はこうやって気軽に酒飲める友達とかいなかったのワイヤードに」
「クローラは……そもそも向こうでもこういう場所に来たことが無いので……友達も殆どいませんでした」

 まぁ、王族から奴隷という極端な立場の移り変わりをしてきたんだ。対等に接することができる存在というのは彼女にとっては稀有なものだったんだろう。

「そーなんだ。リファっちは?」
「私は、そうだな。まぁ同僚と飲み交わす機会はあることにはあったが……今となっては誰とそう言う関係にあったのか思い出せないんだ」
「マジで? それほど仲いいってわけじゃなかったの?」
「騎士だからな……仲が良くてもいつまでも一緒にいられるわけじゃない」

 騎士。
 常に国のために命を賭して戦う者。
 戦争が頻発していた彼女の時代、いつどんな理由でその身を散らしても不思議ではない。昨日話していた仲間が今日は死体となって土の下なんてのは見慣れた光景なのだろう。
 それ故に、親友と呼べるような人は作ろうと思っても作れない、というわけだ。

「だからこそ、この世界ではちゃんと大切にしていこうと思う。どんな事があっても、絶対に忘れないように」
「ですです。こうしてみなさんと出会えた奇跡……これが一期一会というやつですね。この間ぐーぐる先生調べました」
「……そっか」

 渚は小さく頷くと、席を立って向かい側の席のリファの隣に移動して彼女の肩に手を回した。

「そいじゃあそのためにも、今日は大いに盛り上がんないとだね。思い出が残せるように」
「え? あ、ああ。そうだな」

 リファがぎこちなく同意すると同時に、ギャルは白い歯をにーっとのぞかせると……。

「店員さーん! 生ビール瓶で三本お願いしまーす!」
「はいよろこんでー!」

 空のジョッキを、近くを通りかかった店員さんにちらつかせて大声で呼んだ。
 まだ料理も来てないのにもうおかわりかよ。いくらなんでも羽目外しすぎじゃ……。

「いーのいーの。せっかくの飲み放題なんだから遠慮なんかしてちゃ損っすよ」
「し、しかし渚殿、私もクローラもそんなに飲める方では……」
「まぁまぁ。袖振り合うも多生の縁、酒付き合うのは一生の縁っていうでしょ?」

 言いません。

「お待ちどおさま、生ビールでーす」

 でん、と既に栓が抜かれている瓶三本がテーブルの上に置かれた。
 全部で1リットル。この人数で分けるとはいえ豪快な量である。
 渚は飛びつくように全員のジョッキになみなみとビールを注いであっちゅう間にそれらをすっからかんにした。
 泡がほぼ溢れかけてるそれを持って、再び渚は立ち上がる。

「んじゃま、気を取り直してもう一度。あたしらのアパートの新居とリファっち達の大学入学を祝して。そしてここに集まったかけがえのない友情が続くと信じて――!」

 ……まったくこいつは。
 俺は呆れながらも、ジョッキを今一度掲げる。
 そして全員タイミングを合わせて――。

「「「「乾杯!!」」」」

 ジョッキのぶつかり合う心地よい音が店内に響いた。
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