異世界の女騎士と女奴隷が俺の家に住むことになったがポンコツだった件

コペルニクス

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レベル51.女騎士と女奴隷と日常②

9.女騎士と女奴隷とキノコと山菜(後編)

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 ザクザクと激しく落ち葉を踏みしめる音がさっきから続いている。
 のどかなはずの山の中では、壮絶なチェイスバトルが繰り広げられていた。

「待てーーっ!」
「止まりなさーいっ!」
「待てと言われても絶対に止まらない男!」

 逃走を図る変なスーツ着たキノコ&山菜泥棒。そしてそれを追いかけるのは、おもちゃの剣を振り回す女騎士とメイド服の女奴隷。
 どんな構図だよ、シュールすぎんだろオイ。

「リファさん、挟撃しましょう!」
「承知した!」

 二人はその場で二手に分かれ、木の間を縫うように疾走する。
 蜘蛛男はいつの間にか背後から追ってきていた人物達が消えていたことに気づくと、一瞬足を止めた。それが命取りになるとも知らずに。

「「隙ありっ!」」

 突如、左右の木陰から剣と銃を構えた女子達が現れ、彼に奇襲を仕掛ける。
 剣筋も銃口も、すべて的確に彼の喉笛と頭頂部に狙いを定めていた。
 これで勝負あったか、と思いきや。

「あらゆる小細工を華麗にかわす男!」

 剣が振るわれ、弾丸が発射される直前。奴はどこからか鉤縄付きのロープを取り出すと、それを頭上の木の幹に引っ掛けて大きく飛翔した。

「え!?」
「うそ!?」

 二人が気づいたときにはもう遅い。
 空振った互いの一撃は、当たるはずではなかった味方に当たった。

「「痛っ!!」」

 クローラは斬撃を、リファはBB弾をそれぞれ喰らい、その場に尻もちをついた。
 危ない、元素付与エンチャントした攻撃だったら怪我どころじゃなかったぜ。

「いたた……くそう、小賢しい真似を!」
「いかにも蜘蛛らしい技ですね」

 二人は歯を食いしばって、悔しそうに木の枝の泥棒を見上げる。
 だがそうしていられるのも束の間だった。
 蜘蛛男は再び飛翔すると、そのまま両足を折り曲げて垂直落下してきた。その着地予定地点には……身動きが取れないクローラが。
 ドロップキック。反撃するつもりか!

「情け無用の男!」
「クローラ危ないっ!!」

 俺は全速力で彼女のもとに駆けつけ、その華奢な体を抱きかかえて真横に転がった。
 回避成功。コンマ一秒後に決まった蜘蛛男の攻撃を受けたのは、大量の落ち葉と地面だけであった。

「貴っ様ぁ!!」

 直後、激昂したリファが鬼のような形相で、蜘蛛男めがけ再び斬撃を繰り出す。

「よくもクローラを狙ったな! 大切な私の恋人に手出しするとは……許せんっ!」
「超高速で振るわれる剣さばきを全て見切る男!」

 有言実行。蜘蛛男はリファの剣筋を、予見していたかのような動きで全ていなしていく。

「くそ、小癪な! 私の獲物を返せ!」

 力任せに渾身の刺突をお見舞いしようとするリファだったが、それも見切られていたらしい。
 蜘蛛男は半歩身体を横に逸らし、振り上げた足で剣身を踏みつけてリファの動きを止めた。そして続けざまに放った掌底が女騎士の鼻っ面にクリーンヒット。

「にゃっ!?」

 再び尻もちをつく彼女に、容赦なく蜘蛛は追撃を繰り出そうとする。

「僅かにできた隙を決して見逃さない男!」
「っ!?」

 絶体絶命のピンチに、リファはギュッと目を閉じる。
 が。その攻撃は図らずも不発に終わった。
 なぜなら。

「隙ありなのはお前だっ!」

 俺の横回し蹴りが盛大に蜘蛛の肋骨にめり込んだからだ。
 リファに気を取られていたせいで、完全にこっちの動きは読めていなかったらしい。
 不意打ちを喰らった泥棒は若干体勢を崩すが、それでもダウンには至らず、カゴも手放すことはしなかった。意外とタフな野郎だ。
 俺が苦い顔をしたその次の瞬間。

玄武の礫ロックユー!!」

 銃を構えたクローラがそう叫ぶのと、蜘蛛が再び鉤縄で飛び上がるのはほぼ同時だった。
 ドガガガガガガガッ!!
 拳銃と言うよりは大砲のような音がして、さっきまで奴がいた位置には大量の小岩の銃弾が打ち込まれていた。
 土のエレメントをエンチャントしたか。この山ではまさに足りなくなることはない天然の弾薬だ。
 間一髪でクローラの一斉掃射を回避した蜘蛛は木の上に着地し、さっきのクソダサポーズを決めた。

「卑怯な不意打ちに怒り震える男!」
「「「オメーが言うな!!」」」

 思わず全員でツッコむ。盗人猛々しいとはこのことか。
 一刻も早くその高所から引きずり下ろすべく、クローラは銃口の狙いを木の枝に定める。リファと俺は落ちてきたところを袋叩きにすべく、剣と拳を構えていた。
 さて、敵側はそれにどう対応してくるのか、と思ったら。

 ぴゅいー!

 と、指を口に当てて口笛を吹いた。静かな山中にその音色が響き渡っていく。
 なんだ、仲間でも呼ぶ気か!? いやでも、こいつの仲間は全員しょっぴかれてるはず……ならハッタリか?
 困惑する俺達だったが、立てた仮説はどちらもハズレだった。

 どっすん!

 その時、何かが勢いよくぶつかる音がした。
 と同時に、背後からとてつもなく強い衝撃が走った。
 何だ? と思う頃には、既に俺の身体は宙を舞っていた。
 足が地面から離れ、上も下もわからない、落ちているのか上昇しているのかすら定かでない、まるで無重力状態にでもなったかのような感覚に襲われる。
 脳が現実に追いつかない。何、何なの、何で俺空を飛んでるの?
 頭を無数のクエスチョンマークが占拠する中、身体は数秒で地面に墜落し、遅れて全身を鈍い痛みが駆け巡る。
 そんな俺の前に、「そいつ」が立ちはだかった。

「なっ……」

 それを目の当たりにして俺、及び異世界コンビは異変の原因をようやく理解する。

 茶色の毛並み、全長二メートルはありそうな体躯。
 気性の荒さを証明するかのような鼻息。
 そして口元から生えた獰猛で鋭利な牙。

 イノシシであった。

「ま、魔物……?」

 リファがポツリと呟いた。まぁ今は間違っちゃいない。
 こいつが俺に文字通り猪突猛進し、大ダメージを与えてきたというわけか。
 くそ、蜘蛛が呼んだのはこいつか……。「恐るべき脅威」とはこっちの方だったってわけね。予想外だった。

「獣の調教において右に出る者はいない男!」

 にゃろう……厄介な仲間呼びやがって。
 どうする!? 早くなんとかしないと……。

「ふ、ふふふふふーん! コソ泥の次は魔物ときたか! み、見た目ほどた、たたたたたた大したことはにゃにゃにゃ、にゃさそーだにゃ!」
「な、なるほど、三つ巴に持ち込もうってわけですか! じょ、じょーとーですよっ! 乱戦なら……その、ま、毎晩主くんとリファさんとお布団の中でしてるんですからっ、余裕のよっちゃんですっ!」

 明らかにビビってる二人組。クローラはいいとして、リファは元騎士としてどーなんだよその覇気の無さは。
 と思ったが、こいつ子犬見ただけで逃げ出してたことあったっけな(レベル2:「女騎士とアルバイト」参照)。対人戦は得意だけど、人外系は苦手ってクチか? まぁイノシシはさすがに誰でもビビるだろうけど。

「ぶるるるるる……」

 片方の前足で地面を掻きながら、そのイノシシは俺達の誰に突進するか迷っているようだ。まさに人為的ロシアンルーレット。その牙は果たして誰に襲いかかるのか。考えただけで背筋が凍る。

「リファ、クローラ! ここは俺に任せてお前達は逃げろ!」
「ば、馬鹿言うな! マスターを捨て置くなんてできるわけがない!」
「そうですよ! ここはクローラが引きつけますから、その間に主くんがリファさんと一緒に撤退してください!」

 予想してはいたが、両者共に憤慨して猛抗議してきた。
 それどころか……。

「な、何を言うクローラ! 囮になるなら私が適任に決まってるだろう! ここで逃げたら元騎士としての名が廃る! お前の方が逃げれ!」
「馬鹿言わないでください! そんな弱腰な態度で敵う相手じゃないでしょう! 自宅警備隊はおとなしく自宅を警備してればいいんですよ!」
「く、クローラだって! 奴隷もメイドもどっちも家で従事する役職だろう! お前の方こそ場違いだ! だから私が戦う!」
「いいえ、戦うのは私です!」
「私だ!」

 日本人特有の謎の美徳、その名も譲り合い精神。
 だが皮肉にもその言い争いが譲ったのは、攻撃のチャンスであった。

 どーん! と二人は仲良くイノシシにふっ飛ばされてしまう。
 束の間の空中散歩を楽しんだ二人は頭から落ち葉のカーペットに激突。悶絶することとなった。

「ぐはっ……り、リファレンス一生の不覚……」
「うにゅー……頭の上を小鳥さんが飛んでますぅ……ぴよぴよ~」

 ほらもう言わんこっちゃない。
 俺はよろよろと立ち上がって、再びイノシシと相まみえる。

「戦わずして宝を得る。漁夫の利が座右の銘の男!」
「!?」

 気がつくと、枝の上で鑑賞していた蜘蛛男はカゴを抱えたまま、鉤縄で森の奥へと逃走していった。
 くそ、逃したか。だがもうあいつに構ってる暇はない。今はこの状況をなんとかしないと。
 ごくり、と俺は生ぬるい唾をゆっくりと嚥下した。
 さて……道は二つに一つ、取るべき選択は何だ……?
 再び葛藤し、悩んでしまうが、それをいちいち待ってくれるほど向こうは融通の利く奴ではない。
 唸りを上げて、イノシシは再度こっちに向かって全力で駆けてきた。

「……仕方がない」

 俺が心を決め、拳を握りしめた時。

荊棘の迷宮ソーンラビリンス!」

 クローラががむしゃらに銃を掲げて叫んだ。
 瞬間。
 銃口からは深緑色をした数本のイバラが、ブワッといっぺんに吹き出してきた。
 それらは個別に意思を持っているかのようにしなり、伸び、イノシシに巻き付いて身体を拘束した。
 土のエレメントってそういう使い方もあるのか。すごい。

「捕まえまし……たっ!」

 歯を食いしばりながら、クローラはそのままイノシシを自らの方に引き寄せようとするが、そうは問屋がおろさなかった。
 何故か。イバラのトゲが全身に食い込んだことで、今度はイノシシが苦痛に悶えることになるのだから。

「ブヒィィィッ!」

 ジタバタともがき暴れるイノシシ。縛ってあるといっても、木の幹などに固定してあるわけじゃない。当然体重の軽いクローラはそれにつられて豪快に振り回される。

「ふぎゃああああああ! あ、主くーん! リファさーん! たしゅけてぇぇぇぇぇ!!」

 おかげで彼女は情けない悲鳴を上げながら、イノシシの動きに合わせて地面を転がったり跳ねたり大忙し。その様子はさながらロデオみたいだった。
 しまいにイノシシは、土埃を立てながらあちこちの木へ突進して身体をぶつけ始める。自らにまとわりついた有刺線を引き剥がそうとしているのだろう。
 まずい、このままじゃクローラの身体がもたない……。

「クローラ! 銃から手を離せ! 早く!」
「ひぃ~~怖い~! 誰かぁ~~~~!」

 ダメだ、気が動転しているせいかてんで聞いちゃいない。こうなったらやっぱり……。

「や、やいやいやい! そこの魔物!」

 と作戦を実行に移そうとしたら、リファに先を越された。
 彼女は一歩踏み出して、剣の切っ先を暴走状態のイノシシに向けた。

「われこそは、神速のナイトレイダーこと、ワイヤード騎士団元兵長現マスターの自宅警備隊リファレンス・ルマナ・ビューアなり! 貴様の相手はこの私だ! 直々に引導を渡してや――」
「ブヒィィィッ!」

 ズドドドドド!! と暴れ狂う魔物はもう目についたものに体当りすることしか頭にないらしい。名乗っている最中にもかかわらず、その標的を彼女に定めた。

「ちょ、まだ口上終わってないのに! ちょ、ちょ、待って待って待って! あわわ、元素封入器エレメントどこだっけ、えっと」

 急遽始まった正面切っての一騎打ちに慌てふためくリファ。急いでポケットから魔具を引っ張り出すが、元素付与エンチャントしてる暇はない。そのまま射出口を獲物に向け、用途じゅもんを考える。

「何だ……何言えばいいんだろ……強力なやつだとクローラに当たっちゃうし、弱いのもダメだし……えー、あー、うーん……」

 焦りすぎて言葉が詰まってしまっている。いつもはスパッと唱えられるのに……。
 目を白黒させながら右往左往した上に、彼女はやけくそ気味に思いついた言葉を言い放った。


「ザ ム デ ィ ン !」


 当然ぶっ飛ばされるリファ女史ポンコツであった。

 そしてイノシシは今の突進でようやくクローラをイバラごと振り落として解放された。彼女はかなり疲弊したのか、目をぐるぐるさせながらぐったりとその場に倒れ伏している。
 こうして、あっという間に二名戦闘不能に。
 そして生き残った最後の獲物を狩るべく、イノシシは俺を振り返る。

「ブルルルルルルッ」 
「……」

 もう迷ってる場合じゃないな。覚悟を決めなきゃ。二人がやられたのは俺の責任。俺がいつまでも決断しなかったせいだ。
 だがもうその心配はない……ここで全てのケリをつける! 
 俺は小さく深呼吸すると、足を踏み込み……勢いよく走り始めた。

「さぁ、行くぞ!」
「ブルッ!」

 同時にイノシシもトドメを刺すべく、最大級のスピードで突っ込んでくる。

 正真正銘のラストバトルが……幕を開けた。


 ○


「はっ!? マスター!? クローラ!?」
「うにゅ……ここはどこ……私は誰?」

 イノシシの猛攻で気を失っていた異世界コンビがようやく目を覚ました。
 まだ意識が朦朧としてるのか、上半身を起こすので精一杯みたいだ。
 その傍らで、胡座をかいていた俺は軽く手を上げて声をかける。

「よ。大丈夫か?」 
「マスター……あの魔物は?」
「私、イバラを巻き付けたら振り回されて……そこから先記憶がなくて」
「心配ないよ。ほら」

 そう言いながら、俺は顎でとある方向をしゃくって示した。
 クローラとリファがそちらに視線を移すと……。

 ピクリとも動かないイノシシの死骸が。
 両手両足を木の棒にきつく縛り付けられていた。

 見た途端に二人の目が点になる。
 無理もない。ついさっきまであれだけ暴れまわっていた猛獣が、完全に無力化されていたのだから。

 一瞬。
 本当に一瞬だった。

 結果は見ての通り俺の勝利に終わったわけだが。なぜ、一体何がどうなってそういう結果になったのかは、おそらく理解してもらうのは難しい。
 拳で殴ったか? 違う。体当たりで逆にノシたか? 不正解。
 答えは、すでに俺の手の中にある。文字通りな。

 俺が右手に握っていたもの。
 一言で言えば、剣だった。
 ただし、ゲームや漫画で出てくるような西洋風のロングソードとは似ても似つかぬものであったが。
 身の丈は二メートルあるかないか。
 片刃で、峰の部分には大小の歯車がいくつも剥き出しになって噛み合っていて。
 加えて鍔の部分には、重厚感のある大きめのエンジンが取り付けられている。
 機械と剣を合体させたような、異様としか言いようのない剣。

「デウス・エクス・マキナ……」

 クローラがポツリとその剣の名を呟いた。
 彼女が作り上げ、リファが騎士時代に使っていた最強クラスのブレード。
 紆余曲折を経て、今の使用者は俺。
 なぜかはわからないが、何もない場所から瞬時に取り出せるという謎の力付きで所有権を手に入れた。
 これは剣であるがキカイでもある。つまり元素封入器エレメントを動力源とすることで真価を発揮する。だがあいにくそっちの方は持っていないため、さっきリファがふっ飛ばされた際にうっかり落としたのを拾っていたのだ。
 そしてイノシシと激突する一歩手前、デウスを現出させその元素封入器エレメントをエンジン部分にセット。

 そのまますれ違いざまに、斬ったのだ。

 俺がこれまでこいつと戦うか時間を稼いで逃げるかで悩んでいたが、その理由は戦っても勝ち目がないからではない。
 戦えば必ず、殺してしまうからだ。
 こんなバカでかい武器を使って、ちょっと痛めつけるだけなんて加減ができるわけがない。峰打ちにしたって撲殺してしまうのが目に見えてる。
 虫を殺すのとはわけが違う。そう簡単に決意に踏み切れるものじゃなかった。
 だが、そのせいで彼女達には怪我をさせてしまった。だからもうやるしかなかったのだ。
 リファとクローラはひと通りの事情を聞くと、引きつった顔ではあったが、小さく拍手を送ってくれた。

「お、お見事……」
「です……」
「ありがと。二人は身体、なんともない?」
「わ、私は平気だ。これくらい、虫に刺された程度だ」
「クローラも大丈夫です」
「そっか、よかった」

 俺は微笑んで、二人の頭をそっとなでた。
 キノコと山菜狩りが、泥棒との追いかけっこに、かと思ったら今度はイノシシとのバトル。そしてそれをまんまとハンティングしちゃった、と。
 すげぇことが色々あったけど、彼女達が無事ならそれでいいや。

「……あっ! キノコ!」
「山菜っ!!」

 ようやく落ち着いた雰囲気になった頃、いきなり二人が同時に叫んだ。

「あのコソ泥どこ行った!? はやく取り返さないと!」
「主くん……あの、あの盗人さんはどこに行ったんですかっ!?」

 喰い物の恨みが再燃したのか、躍起になって異世界人達はフラフラと起立する。
 それを俺は無理に座らせて引き止めた。

「落ち着け、あいつは逃げちまったよ。イノシシは囮だったんだ」
「えぇ!? ということは……」
「まんまと取り逃がした……ということですか」
「ま、そうなるな」

 俺が肯定すると、二人はしゅんとうなだれた。青菜に塩という言葉がぴったりなくらいに。

「そんな……せっかく苦労して採ったのに……嘘だろ」
「ひどいです。あれで主くんとリファさんにいっぱいご馳走作ってあげるはずが……」

 本当に心底悔しがってるのか、年甲斐もなくグズり始めた。しばらくその静かな森に、少女達の嗚咽の音だけが響く。
 まぁ気持ちはわかる。誰だって悲しいよな。俺だって辛いよ、大切な恋人が泣いてるのを見るのなんて。

 だから、泣き止んでもらおう。

「はいよ、二人共」

 と言って、俺は彼女達の前にあるものを差し出した。
 潤んだ目でそれを見た途端、二人はぽかんとして同時に泣き止んだ。

「これ……私達が採ったやつではないか」
「いつの間に……」

 そう。あの蜘蛛野郎に奪われていたはずの、俺達のカゴ。
 中にはちゃんとリファとクローラが集めたキノコと山菜が詰まっている。

「すり替えておいたのさ」

 俺はニカっと笑いながら言った。
 あいつの手にあるのは、俺たちに押し付けてくれた紅葉入りのカゴ。今頃さぞ動揺してんだろうな。いい気味だぜ。

「マスターっ! だいしゅきー!」
「主くーん! 感謝感激雨霰ですぅー!」

 感極まったというふうに、二人がいきなり抱きついてきたので、俺は少々びっくりした。
 やれやれ、オーバーなんだからもう……。
 俺はほとほと呆れてはいたが、彼女達の頭を撫でる手は止めなかった。
 ただのキノコと山菜狩りのはずが、ここまでの事態に発展するとは思わなかったけど……まぁ、災い転じて福となすってことか。
 アクシデントとハプニング連続ではあったが、ひとまず……。


【採取クエスト】迫りくる恐るべき脅威
 クリア!


 ○


「いやー、にしてもお手柄っすねぇセンパイ! キノコと山菜を取り返すだけでなくイノシシまで狩っちゃうなんて! マジモンのハンターじゃないっすか!」

 渚は大笑いしながら手に持ったビール缶を一気に呷る。
 クエストを終えて下山後、俺達は渚の親戚に事情を説明して事後処理を手伝ってもらった。さすがにイノシシを許可なく屠ったのはやばいかと思ったが、正当防衛ということで特にお咎めなしで済んだ。ちなみに死骸は、殺しちゃったもんはしょうがないとのことで、親戚の方に解体してもらうことに。
 蜘蛛男の方は一応地元の駐在警官にささっと聴取を受けただけで、そこまで時間も取られることはなかった。

 そして諸々の手続きが全て済んだ後、こうしてみんなで景気づけに宴会を開いていたのである。
 メインは今日採れたキノコと山菜、そして今日仕留めたイノシシの肉をまとめてぶちこんだ、スペシャル鍋。俺とリファとクローラ、全員で作った特製品だ。
 これに投入した分と、家に持ち帰る分、そして渚の親戚に今回の謝礼としていくらか渡した分で、クソ店長に納品する量はかなり減った。でもせっかくみんな頑張ってくれたんだし、これくらい楽しんでもバチは当たらんだろう。もっとも、一番楽しんでるのは今回の事件に全く貢献してない渚だったけれど。

「なんだかんだありましたけど、結構楽しかったですね」

 すると、汁をすすりながらクローラが切り出した。

「この世界の植物のことを学んだり再確認したりできるいい機会になりましたし。お家でぐーぐる先生や図鑑で調べるよりも、良い経験ができたと心から思います」
「私もそう思うぞ」

 今度はリファが肉を噛みちぎりながら言った。

「キノコなんてただの食材の一つ程度にしか思ってなかったが、実物を見てみるとぜんぜん違う。種類も豊富だし、また毒もあったり、まこと奇妙な形をしたものもあったりと、歴史ともども非常に奥が深い。松茸は採れなかったが、非常に有意義な時間であった」

 どうやら二人共大満足のご様子。
 キノコと山菜狩り……今回は来て正解だったな。
 やっぱり部屋にこもっているよりも、こうして実際に足を運ぶことの方が得るものは大きいな。
 大学が始まって外に出る機会もめっぽう増えてるし、これから色んな所に連れてってあげよう。それはきっと、彼女達の大きな成長に拍車をかけてくれるはずだ。

「センパーイ。鍋おかわりっ」

 すると完全に酔いモードのギャルが、赤くした顔のまま器を突き出してきた。俺は二つ返事で了承し、お玉でその美味そうな鍋をよそって渡す。

「はいよ。二人ももっと食べなよ。頑張って採ったんだから」
「は、はい。いただきます!」
「私もおかわり! 肉多めでな!」
「はいはい。いっぱい食べてしっかり力つけろよ」
「おかわりを大盛りで所望する男!」
「わかったわかったから、そう焦るなよ。まだ沢山あるから……」

 ……。
 ……ん? んん?
 ちょっとまってタンマ、ストップストップ。
 なんか混じってたね。今の一連の会話になんか明らかに不純物入り込んでたよね。
 何? 何だ? 誰の声だ?
 俺は改めて鍋を囲んでいるメンバーを見渡し、一人ひとり指さし確認する。

 俺に、リファ、クローラ、渚、そして蜘蛛男。

 うん、間違いなくこの五人だけだ。おかしいところは何もなし、と。
 気のせいか。さっきのアレで疲れが溜まってるのかな。それともまさか毒キノコで集団幻聴とか……あるわけないか。


 ……。
 …………
 ………………。




「「「「誰だお前は!?」」」」
「どさくさに紛れてちゃっかり相伴にあずかる男!」


 この後すぐに警察に突き出された男。
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ぐうのすけ
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主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

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