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レベル51.女騎士と女奴隷と日常②
17.女騎士と女奴隷と学祭⑤
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「はっ、はっ、はっ」
階段を一段抜かしで降りて、ごった返す人々の間を縫うようにして俺は走っていた。
急げ。この約束だけは絶対に守らなくちゃいけないんだ。
イベント開始時間まで後三分。頑張れ俺の脚、絶対に音を上げるなよ。
待ち合わせ場所であるステージ入口に行くと、そこには既にリファとクローラが待機していた。
彼女達は既にコスプレ姿からいつもの服(猫耳パーカーとメイド服)に着替えており、スマホをいじってるわけでもなければ互いに何か話しているわけでもなく。ただじっと、無言でその場に立ち尽くしていた。
その表情はどこか不安気で、悲しげで、儚げであった。
「リファーっ! クローラ!!」
俺は周囲の人がびっくりするような声量で彼女らの名を呼んだ。
二人はびくっとして身体を震わせると、俺の方を同時に見た。その四つの目が大きく見開かれると、しばらくどちらも放心したように口を半開きにした。
ちらちらと他の人達が注目する中、俺達は互いに何も言わずに向かい合う。
その間に開いた距離は、数歩歩けばゼロになる短いもの。でも、それをおいそれと縮めることは俺には出来なかった。なぜならその前にきちんと、二人に謝らなきゃいけないからだ。
「ごめんっ! 遅くなって! 本当にごめん!」
腰を九十度折って、俺は深々と頭を下げる。
部室にも戻らず、電話にも出ず、心配かけまくった上にどの面下げて現れたのか。普通だったらそう思うだろう。
約束の時間にはギリ間に合ったものの、それ以外の要素がオーバーしまくってる。
殴られようが詰られようが、針千本飲まされようが文句は言えない。
目を固く閉じて、俺は覚悟を決めた。
「「……よかった」」
……はい?
今、なんて言われた俺?
よかった……って、聞き間違い……だよな?
おずおずと顔を上げてみると、いつのまにか二人が俺の目の前に立っていた。
顔は赤いが怒っているのではない。目に涙は浮かんでいるが、悲しんでいるわけでもない。
その表情は、純粋な笑顔だった。
とても素敵で、可愛いものではあったが、俺は戸惑うばかりだった。
「よかった……って、え? どういうこと?」
「どういうもこういうも、決まってるじゃないか」
リファがそう言って、俺の手を握る。柔らかい感触と、温かいぬくもりが包みこんできた。
「なにがあったかすごく心配したんだぞ。電話に出ないから、もしかしたらなにか危険に巻き込まれたのではないかと思って」
「リファ……」
「私も……さっきからずっと学校中探し回ってたんです。でも見つからなくて……もしかしたら約束のこの場所で待ってれば来てくれるかなって。だから、今すごく安心しています」
するとクローラももう片方の手を握ると、自分の頬にあてがった。
リファの手よりも熱い体温が手のひら全体に伝わる。クローラは目を閉じて俺の手の熱を愛おしそうに感じた後、静かに告げた。
「あなたに……何もなくてよかったと」
ずきり。
と、また俺の胸にあの痛みが蘇った。
二人はずっと俺のことを気にかけてくれていた。だからこそ苦しい。
学祭という絶好の機会のはずなのに、気がつけばもう一日目が終わる。不満げな反応をされる方がまだよかった。
なんだか、余計に自分がやるせなくなってくる。
「俺……二人を恋人にするって言ったのに、全然恋人らしく振る舞えてないってずっと思ってた」
「マスター?」
「主くん?」
怪訝そうにする彼女たちを前に、俺はうつむいて話す。
「いつも二人の傍にいて支えようって、二人がいつも笑顔でいられるように努めようって……そういう存在になろうって告白したときは思ってた。でも……今までの俺を振り返ってみると、ちゃんと彼氏らしくできてるようにはとても思えなかった」
「……そんなことありません!」
「そうだぞ! マスターのおかげで私達はいつも――」
すぐに否定しようとするリファとクローラのセリフを、俺は遮った。その言葉が、余計に心に突き刺さる前に。
そっと、彼女達を抱きしめることで。
「二人がそう言ってくれるのはとても嬉しい……でも、俺が駄目なんだ……。自分で自分を許せないんだ」
こんなんじゃ彼氏失格だ、って。
小さく言うと、俺は包み隠さず懺悔した。
「俺……お前らと別れた後、エリアと一緒にいた」
「あのエセ帝王とか?」
リファの問いにこくり、と無言でうなずく。
よりにもよって彼女らの宿敵とも呼べる奴と行動を共にしていた。しかも二人と一緒にいた時間よりも長く。
これで怒られるかと思ったが。
二人は、先ほどと変わらぬホッとした表情を浮かべていた。
「「なんだ……」」
「なんだ、って……二人が心配してくれてたのに、俺は――」
「気にすることないだろう。そんなのどうせ、あいつが無理矢理付き合わせただけなんじゃないのか?」
「ですです、いつもみたいに帝王の命だー……って」
「そうじゃない、そうじゃないんだ」
俺は更に二人を深く抱擁した。
「俺は……それを拒絶しきれなかったんだ。お前達と付き合ってるから無理だって……言えなかった」
「……」
「その後も、あいつが面白いと思えるような場所を探してやったりとか、急に落ち込んじまったから律儀に相談乗ってやったりとかして……」
それは本来、今抱きしめている二人にしてあげなくちゃいけないことだった。
恋人というのは、本来他の奴とは違う特別な扱いをしてこそ関係が成立する。誰にでも同じことをしたら……当然、特別ではなくなる。
それだけでも、俺は二人を裏切ったって言える。
「主くん」
すると、いつもより若干低い声でクローラが耳元で囁いた。
何? と返事するよりも前に彼女はいきなり俺を引っ張って歩き出した。
「え、ちょっ、ちょっと!」
困惑する俺に一切構わず、愛奴は無言でずんずんと進んでいく。
リファにヘルプを求めたものの、彼女も何も言わなかった。表情もさっきの笑顔は失せ、やれやれと呆れたような感じで後を追ってきていた。どうやらクローラの思惑をわかってる様子。
何だよ、何がどうなってんだよ、何されちゃうんだよ俺!?
一気に慌てふためく俺にクローラは一瞥もくれない。あまりにもいきなりな豹変ぶりだ。怒られるのは覚悟していたとはいえ、動揺は隠せない。
かといって抵抗もできるわけがなく、そのままズルズルと俺は引きずられていった。
なんだか今日は、女の子に連行されてばっかりだ。
○
一分後。
やってきたのは……。
「野外ステージ……?」
そう、この人だかりの密度が最も高い後夜祭のメインプレイス。
互いの声もまともに聞こえないそんな場所では、とある催しが実施されていた。
「はーい、『学校の中心で愛を叫べ』のコーナー! 参加者絶賛募集中! ソロでもカップルでも、今こそ全校中に自分の熱い想いを響かせるチャンスだ! さぁ誰かいないかー!」
舞台に立っているMC役の学生がマイク片手にハイテンションで呼びかける。それと同時、観客達による挙手のオンパレード。
俺が、私が、僕が、我先に自分を指名してもらおうと躍起になっている。
凄まじい熱気とは対照的に、俺はたちまち萎縮してしまう。
そうか……これが二人が後夜祭でやりたかったっていう……。
「はいじゃあそこのお二人さんカモォン!」
程なくしてMCが指名した男女のカップルがはしゃぎながら壇上へと駆け上がってくる。
マイクを一本手渡され、男側がそれを持って彼女に向かい合う。
一同、一斉に沈黙。誰も彼以外喋るな。という清々しいくらいの同調圧力。
しばしの静寂の後。
彼氏、お辞儀して大絶叫。
「卒業したらっ、俺と結婚してください!」
おおーー!!
というどよめきと、まばらな拍手。
結婚とは思い切ったこと言うもんだ。まぁだが大学卒業っていったらもういい歳でもあるし、実際に結婚する人もいるっちゃいるだろう。
その公開プロポーズを受けた彼女側は、しばらく口を手で抑えて彼氏を呆然と見ていた。驚いているのかはたまた感動しているのか。
するとMCが無言で女性にも自分のマイクを手渡し、返事を促す。
彼女は動悸が高まっているであろう胸に手を当て、深呼吸して準備を整えた。
そして……精一杯の笑顔で一言。
「よろこんで」
うおおおおおおおおおおおっっ!!
さっきの倍どころか十倍以上の歓声が響き渡った。それはもう鼓膜が破れるかと思うくらいに。音楽のライブ会場顔負けの熱狂レベルだ。
「すばらしい-! まさかの結婚申し込みとはなんてロマンチックでファンタスティックなんでしょー! 今ここに、新たな夫婦の誕生が約束されました! 会場の皆さん、勇気を出してプロポーズした彼と、その一途な愛を受け入れた彼女に惜しみない拍手をー!!」
皆がまた一斉に手を叩く。まるでクラッカーでも鳴らしてるような大音量で。
時折口笛ややじが飛び交う中、未来の新郎新婦は涙を浮かべながらも幸せそうな顔で手を繋ぎ、一礼。
なるほど、こういう企画なわけね。
「はいどーもありがとーございました! さぁネクストチャレンジャーは誰だ!? 遠慮せずに、今のお二人に負けないくらいの愛をガンガン叫んでくれー!」
そしてまたはいはいと志願者がゾンビみたいにMCに向けて手を伸ばす。
次に指名がかかったのは、小柄な女の子一名。お相手はいなさそう。
「さぁ今度はソロの方ー。一体どんな愛を叫んでくれるのか! 世界中に轟かせるつもりでどーぞっ!」
マイクを両手で握りしめた彼女は静まり返った聴衆を一望すると、すぅーっと大きく息を吸い込んだ。
直後、本当に世界中に轟くかと思うくらいの声で叫んだ。
「法学部三年B組の田中せんぱーーーい!! 高校時代の頃から好きでしたーーっ!! 私と付き合ってくださーいっ!!」
おおおー、というざわめきが再び会場を支配。
なるほど、こういうやり口もあるのね。
「はーい法学部の三年B組きんぱ、じゃない田中くーん!! いたら挙手してくださーい! こんなかわいい後輩ちゃんが長年に渡る恋心を告白してくれました―! ぜひとも良いお返事をーーっ!!」
MCが周囲に向けてその田中さんとやらを呼び出しにかかる。
皆が誰だ誰だとキョロキョロする中、金切り声で「はいはいはーい!!」と金切り声が。
見ると、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら両手を振ってる男子が一名。どうやら彼らしい。
田中さんは友人と思しき人達に担ぎ上げてもらって壇上の後輩へと目線を合わせる。
そしてマイクの代わりに手でメガホンの形にし、豪快な返事を飛ばした。
「俺も好きだーーーっ!!!」
どわあああああああああああ!! とまた大きなざわめきが以下略。
「コングラッチュレーション! 高校時代からのピュアな想いが成就したようです。これはめでたい! 熱い愛で沸かせてくれた新しい恋人達の幸せを祝してー! はい拍手ー!!」
まるでクラッカーでも鳴らすような拍手が以下略。
「はいありがとうございまーす。いやー、皆さん予想以上に叫んでくれますねー! 私もMC冥利に尽きるというもの。さぁ次の挑戦者は、誰だっ!?」
はいはいはい、とまたまた選ばれたいと願う学生達が挙手しまくる。
……はずだった。
しかし、誰もが手を肩の位置まで上げた瞬間にピタリと停止した。
何故? 当たり前だろ。
パンパンパン!!!
と、銃声が皆の耳を劈いたのだから。
さっきとは別な要因でその場が静かになった。
何だ? 一体何が起きた? と他の人達はおたつく。
だが俺はその中で一番早く状況を理解していた。
銃声を放ったのは……今俺を拘束しているメイド服に首輪と付けた人物であるということを。
「クローラ……?」
彼女は銃口を天に掲げてトリガーを引き、発砲していた。
モデルガンではあったが、おそらく元素付与か何かで細工してあったんだろう。
「えっと……君?」
MCが顔をひきつらせながら言うと、クローラは俺を引き連れて観客を押しのけてステージの傍へ突き進んだ。
おい待て、まさか今の挙手のつもりだったの? 当ててもらう確率は低いとはいえ、やりすぎだろ!
と、抗議する暇も与えず、我が家の愛奴は階段を音を立てて駆け上り、ステージに立つ。
スポットライトが照らす中、俺は大勢の学生達の視線を穴が開きそうなほど浴びた。
少し遅れてリファも壇上に上がってきたのを確認すると、クローラがMCに方に素早く近寄る。
口八丁手八丁だった彼もビビって何も言えないまま……彼女にマイクをひったくるように奪われた。
唖然。
見物人達の表情はみんなそれだった。
だが俺の唖然はそれ以上だった。
あんなに初々しくて可愛くて、どこか天然だった彼女とはまるで違う。本当に同一人物かと見紛う行動。
「あーあー、てすてす……」
簡単なマイクテストを行った後、クローラは俺の隣に戻ってくると開口一番こう言った。
「皆さんごきげんよう。私はクローラ・クエリ。こちらに立ってる主くんの恋人です」
自己紹介。それ以上でも以下でもないほど自己紹介だった。
横顔を見やると、確かにいつもの彼女ではない。色白な肌に似合うように冷たく、底が読めない表情をしている。
「そしてこちらの金髪の方はリファレンスさん。同じく主くんと私の恋人です」
は?
という声がちらほらと。
発砲挙手からのこれだから、受けるインパクトは絶大なものだろう。
「えっと……つまり御三方は、三角関係というやつで?」
「違います」
やっと声を取り戻したMCからの問いをクローラは一刀両断。
「私達は三人で恋人同士。互いに全員を愛し、全員に愛される。そんな関係です。何か問題でも?」
「あ、あー、はい、えー、カップルならぬトリオ……ってわけですかね」
なんか一気に安っぽくなったなオイ。いやそうとしか言いようがないから仕方ないけどさ。
ざわざわと沈黙を保っていたギャラリーから声が出始める。ま、三人で恋人なんてそうそうないからな。傍から見れば修羅場と思われても仕方ないし。
「私は今日、三人一緒にこのイベントに参加しようと約束してました。なのでこうして今、この場に立っています」
「……」
「本当なら、ここで先程の方々のように互いに向けての愛を叫ぶ予定でしたが……一つその前にやっておくことがあります」
「やっておくこと?」
クローラはそこでマイクを下ろし、こちらを向く。
吸い込まれそうなほどの黒い二つの瞳が俺を捉えた。
ロックオン。
まるで、狙いを定めるように。
その一秒後。
パァン!!!
という乾いた音とともに、俺の顔に衝撃が走った。
急激にブレる視界。一瞬飛ぶ意識。
バランスを崩してよろめき、じわじわと右頬から痛みが生まれた。
自分の身に何が起きたのか、理解したのはそれから数秒後だった。
俺はクローラに……ビンタされたのだ。
彼女は冷酷な目つきで、瞬き一つせず睨みつけていた。
今まで一度たりとて見せたこともなかった目で。今までどころか、これからも絶対にしなさそうなことをしてきた。
そこではっきりとわかった。
ああ、こいつ……怒ってるんだ。
「私がなんでこんなことしたか……わかりますか? 主くん」
クローラはマイクを構えて、静かに俺にそう問うた。
周りが声はおろか物音すら立てない空間の中、彼女の刺すような声がその場に響く。
「あなたはこう言った。ちゃんと一緒にいられる時間が取れなくてごめん。あの帝王さんに同行しててごめん。約束の時間に遅れそうになってごめん。……って」
「……」
ふぅー、と吐いた息に乗せて身体中の力を抜くように、彼女は肩を落とす。
そして一瞬の沈黙の後。
俺の胸ぐらを、いきなり掴み上げた、
「ばーーーーーーーっかじゃないの!?」
突然の罵倒。
キーン、というマイクのハウリングの音が続けて皆の耳を襲う。
音波で頭がシェイクされるような感覚に悶える俺を、クローラは揺さぶりながら更に怒鳴り続ける。
「そんなことで誰が責めたの!? 誰がそのことについて咎めたっていうの!? 勝手に自分一人でグチグチ悩んでバカじゃないほんっっとに!」
敬語も丁寧語も一切使用しない、完全なタメ口。態度だけでなく口調まで激変してしまっている。
それを見て俺は思い出した。
あの夏祭り……。彼女が二人きりで俺をデートに誘うために、無理に作り出した偽りの自分……。
だけど、今彼女が俺に剥き出しにしているこの人格は……偽りじゃない。
間違いなく、素の彼女だ。
根拠も何もないけれど、俺は直感した。
「私とリファさんが怒ってるのはっ! あなたが私達を信じてくれないからだよっ!!」
「……信じ、て?」
「気にしてないって言っても、あなたを信じてるよっていくら言っても、あなたはそれを認めようとしない! 聞き入れてくれない! いつまでも変なプライドにこだわってさ!」
「……」
「『自分で自分を許せない』? ええ、私達だってあなたを許せないよ!」
そこで肩を上下させながら息継ぎするクローラ。
だが激しく叫びすぎたのか、数回むせた。背中をさすってやろうとするが、彼女は俺の手を乱暴に払い除けてまた睨む。
その目は……涙で潤んでいた。
「私達がこんなに好きなあなたを……貶めるようなこと言うからッ!」
「……」
「あなたは私達の恋人だよ? 誰がなんと言おうと、どんなことをしようと……私の残りの人生を全て捧げようって思えるくらいの大切な人なんだよ!? それを最低だなんだって卑下されたら、じゃあそんな人に惚れた私がバカみたいじゃない!」
悲痛な声で、今にも嗚咽が混じりそうな声で、彼女はひたすらに訴えた。
「きっとあなたはこう思ってるんだよね? 私達を悲しませたって、辛い思いをさせたって……」
「……」
「そんなの、勝手に決めないでよ!」
クローラの頬を涙が伝う。
もう限界だと、今にも堰が切れて号泣してしまいそうなんだと俺にはわかった。だけど、彼女は一生懸命それを耐えていた。
「主くんは優しいよ。誰にでも平等に相談に乗ってあげたり、助けてくれたり……すごくすごく優しい人だよ! あなたのそういうところに私は惹かれたんだよ! 私達だけ特別扱いしてくれないから辛いなんて誰も言ってないよ!」
「……」
「そんなことじゃない……私達が本当に辛いと思うのは……そんなことじゃないの……」
ぽたぽた、とステージの床に涙がこぼれ落ちた。
ギャラリーもクローラが泣き出したことに気がつき始め、ざわついていく。
覇気が消えかけの蝋燭のように弱くなる彼女は……残った最後の力を振り絞るようにして俺に告げた。
「私を見てよ」
「!」
「あなたの恋人をちゃんと見てよ。ちゃんと話を聞いてよ。……ちゃんと、信じてよ。あなたのことが好きだっていう私達を、信じてよぉっ!」
「……クローラ……」
「それだけで私は幸せだから……それ以外には何もいらないから。それ以外に何も望まないから……お願い……」
その言葉を最後に、クローラ・クエリはその場に泣き崩れた。
静かな泣き声が、スピーカーによって大音量でキャンパス中に届けられる。
一番盛り上がるイベントで、一番悲しくなるようなハプニングが発生。
それもこれも、ぜーんぶ、俺のせい。
罪状は……勝手に落ち込んで、勝手な理屈で、勝手に自分を責めていたこと。
それをやーっと理解した俺は、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
俺はあのまま、彼女達の約束の時間に間に合って、そのまま笑顔で二人に付き合っていればよかった。
謝罪についても「エリアに付き合わされてた、心配かけてごめん」と、それだけ言ってればよかった。
二人と一緒に、さっきの連中みたいに愛の言葉を普通に叫んでればよかった。
だけど直前の直前になって……それをぶち壊しにしてしまった。
いつもいつも俺は、二人がバカやるたびにポンコツだと言ってきたけど。
一番のポンコツは……他ならぬ俺自身だった。
茫然自失していると、泣いているクローラに寄り添う人物が現れた。
金髪碧眼に、腰には玩具の剣を下げた少女。
リファレンス・ルマナ・ビューアだった。
彼女はしゃがみこんでいるクローラからマイクをそっと取り、立ち上がった。
「あー、てすてす。皆の衆、私の名はリファレンス・ルマナ・ビューア。先ほど紹介されたとおり、マスターとクローラの恋人である。クローラが会話困難になってしまったようなので、ここからは私が引き継ごう」
リファは軽く挨拶して、ほぼ話についていけてないであろう観客に一礼すると、俺に向き合った。
「まぁクローラの言うことは至極もっともだ。共に暮すパートナーなら、対話は必要不可欠。それをしないで、自分でなにもかも決めつけるのは愚行極まりない」
「……」
「だがそれと同時に、マスターの心情も理解できんでもない。私達のためにあれこれしてやれなかったことを悔いてる。あのエセ帝王と二人きりになったことを私らに対する裏切りだと自戒している。そう感じるのも、マスターなりに私達を慮ってくれた結果だろう」
そこまで言って、リファは金色の御髪を手で掻き分けた。
「それに、対話ができていなかったのは我々とて同じだ。マスターの気持ちを理解しないで、一方的に自分達の気持ちを押し付けてる私とクローラにもその責任はある」
「リファ……」
「だから、この点において私は、もうマスターを責めるつもりはない」
きっぱりと、女騎士は言い放った。
クローラとは違って、その口元には微かな笑みが灯っていた。
「だが、どうしても許せない点が一つ」
流れが変わった。
リファは笑顔のままだったが、確実にその場が不穏な空気一色になった。
嫌な予感。
俺の背中に悪寒が走り、氷のような冷や汗が浮き出る。
「問おう、我がマスターよ……私がそなたを許せない理由は何だ?」
「あっ……」
わかってる。
もう痛いくらいにわかってる。
やっと気づけたんだ。ようやく自分が本当に謝らなきゃいけないことがわかったんだ。
恋人として、絶対にしてはいけない禁忌に。
だが、リファはその質問の答えなど、最初から求めていなかったようだ。
つかつかと高速で歩み寄り、その笑顔を消し、代わりに鬼のような形相を浮かべて。
――叫んだ。
「大切な恋人をッ! 泣かせたことだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ」
ガツンッ!!!
俺の左頬に、強烈な右フックがクリーンヒット。
クローラのビンタ百発分くらいの威力はありそうな攻撃。
当然俺は横に吹っ飛び、倒れ伏す。
切れたのか、口からはドボドボとおびただしい量の真っ赤な血が吐き出される。
「ぉあ……」
情けないうめき声を上げる俺。
その胸ぐらを容赦なくリファは持ち上げて無理矢理立たせ怒鳴る。
「たとえどんな理由があっても、どんなに立派な大義があってもッ、それだけは許さない! 互いに愛し合い、いたわりあうのが恋人だ! 泣かせるっていうのは、それを完膚なきまでに裏切る行為だ! そんな事、世界中の人間が許そうが、この私が、リファレンス・ルマナ・ビューアが絶ッッ対に許さないッ!!」
「……」
「いいかよく聞けマスター、本題はここからだ……耳の穴かっぽじって一言一句聞き漏らすなよ?」
剥いた牙を今にも俺の喉笛に突き刺そうとするくらいの気迫で、彼女は言った。
「私達はもう謝罪などいらん。そんなことされても、余計に悲しくなるだけだ」
「……」
「恋人として、ちゃんと振る舞えてなかった。愛し方が甘かった。もうわかった、それはもうよぉーくわかった。だがマスター、貴様がすべきことはそれに対する後悔でも自戒でもない」
そこでリファは目を一瞬閉じたかと思うと、すぐにカッと見開いた。
「ちゃんと愛せてなかったなら、これからもっと私達を愛せ!」
「!」
「昨日よりも、明日は今日よりも、明後日は明日よりも! もっともっともっと! これ以上無いってくらい私達を好きになってくれ!」
女騎士は息継ぎなしで一気に言い切ると、その全身にまとったオーラを弱めた。
「私達は恋人同士だろ? これからも、ずっと……だったら、過去のことなんかにこだわってないで、今に目を向けるべきではないのか?」
「……」
「私達は今、ここにいる。マスターと同じように、ずっと一緒にいたいと、離れたくないと思っている私達がいる。それが私達なんだ。リファレンス・ルマナ・ビューアと、クローラ・クエリなんだ」
だから。
と、そこで区切るとリファは笑顔を浮かべた。その目尻には、やはり小さな涙が浮かんで見えていた。
「戻ってきてくれ、マスター」
――だから、戻ってこいよ。
あの日。リファが自宅警備隊の辞職を賭けた戦いの後、俺が彼女に言った言葉。
それが今になって、自分に返ってくるとは。
ずっと一緒にいたいと言っておきながら、俺は……知らず知らずのうちに二人から遠ざかっていたんだな。
俺はごくりと血の混じった唾を飲み込み、口元を拭った。
リファが無言でマイクを差し出してくる。もう二人の「叫び」は終わった。今までのは罵倒でも糾弾でもない、彼女達なりの愛だったんだ。
だから今度は、こっちが返す番。
謝罪ではなく、愛でだ。
俺はマイクを受け取ると、まだうずくまっているクローラに手を差し伸べた。
彼女は泣き腫らした目でこちらを見上げると、何も言わずにその手を取った。
二人の聞く態勢を整えた後、マイクに口を近づけて静かに言葉を紡ぐ。
「俺は、なにもわかってなかった。恋人っていうのがなんなのか、どう振る舞えば良いのか、何が正解で何が間違いなのか……。だから勝手に自分で判断して決めてたつもりだった。でも今日二人に言われて、それ自体がそもそも間違いだったってことを知った」
そして、それに対する謝罪が何の意味もないということも。
「大切なのは対話……。互いの意思をぶつけあうことなんだ。こうしてこのステージで、皆が素直な気持ちを叫んで伝えあっていたように。俺も二人の本当の意思を受け止めて応えていかなくちゃいけなかったんだ」
俺は間違っていた。
だが間違っていたのなら、やり直せばいい。
それを正して、今から変わっていけばいい。
包み隠さず、余計な建前なんか捨てて、自分の素直な気持ちをそのままぶつけるんだ。
二人のことが、好きだっていうことを。
それが……愛なんだ。
「だから俺は、これからもずっと二人の恋人でいる。一生愛し続ける。そして何があっても、ちゃんと胸を張って堂々と言う。リファとクローラは、俺の大切な彼女だって!」
「マスター……」
「主くん……」
心が揺れ動いている二人を、俺はまっすぐ見据えて続けた。
「さっきは変なこと言っちまったし、くだらない理由で迷ってたり悩んでたりしたけど……二人とずっと一緒にいたい。この気持ちだけは未来永劫変わらないから! あの時、告白した時からずっと!」
「……」
「今日の学園祭はこんなになっちゃったけど、これで終わりじゃない。明日も明後日もこの関係は続いていく。学祭だって、来年再来年にもある! これは道の通過点に過ぎないんだ。転んでも、また立ち上がればいい。何があっても、ずっと三人で手をつないで、止まらずに歩き続けていくんだ」
二人はそのことに気づかせてくれた。
転んでしまった俺を、起こしてくれたんだ。
「好きだよ、リファ。クローラ」
俺の意思。
何が起きようと曲げずに貫き通すと決めた、本当の気持ち。
それを全身全霊を込めて、叫んだ。
「俺はっ、リファレンス・ルマナ・ビューアとクローラ・クエリが、大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
一秒の間の後。
「マスターっ」
「主くんっ」
リファとクローラ、俺に一斉に抱きつく。
俺、二人を抱きしめ返す。
もう絶対に、離さないというくらいに強く。
同時、大歓声。
地響きが起きるかと思うくらいの大熱狂の渦に会場が呑み込まれる。
「えー、何から何までが唐突すぎてなんと言葉にしてよいか私も未だに思い浮かびませんが、とにかくおめでとうございます! すれ違ってギクシャクしていた互いの心が今一つに戻り、より強固な絆となった! ビンタとパンチで思い出した大切なこと、進むべき道、その答えはまさにゴーイングマイウェイ! 片時も離れず、どこまでも突き進んでいけることをささやかながら応援しましょう。どストレートな愛を叫んでくれた三人に盛大な拍手をお願いしまーす!!」
気力を取り戻したMCが煽ると、嵐のような惜しみない拍手が、俺達を祝福してくれた。
口笛やヤジも矢継ぎ早に飛び、ゴミやおひねりがステージに投げ込まれる。
その全てを浴びながら俺は腕の中のリファとクローラを見つめる。
「ただいま、クローラ。リファ」
「おかえり、マスター」
「おかえりなさいませ、主くん」
二人はまたポロポロと涙を流していたが、表情は心から幸せを感じている笑顔であった。
俺はそっと彼女達から手を放し、ポケットに入れていたあるものを取り出す。
それはハンドメイド部で買った、二人への贈り物。
「マスター、それは?」
「プレゼント」
俺は笑って言うと、彼女達にラッピングされたそれらを手渡した。
きょとんとする二人だったが、促されるままにその封を破り、中身を引っ張り出した。
そして。
「わぁ……」
「綺麗……」
そのブレスレットとネックレスを見て、リファとクローラはそれと同じくらいに目を輝かせる。
どうやら喜んでもらえたようでよかった。
「他の女の手作りだけど……似合うかなって思って」
「何を言ってるのだマスター」
「これ以上無い、宝物でございますよ」
ますます目から涙を生み出しながら、ぎこちない手付きで二人はそれを装着した。
リファは首にネックレスを。クローラは手首にブレスレットを。
どちらも外見からして奇抜なので、遠目に見るとあまり目立たない印象だけど……でも、彼女達の美しさと可愛さを引き立てるには申し分なかった。
「どうですか、主くん」
「へ、変じゃないだろうか?」
恥ずかしそうに言う女騎士と愛奴に、俺は首を横に振って答えた。
「似合ってるよ、とっても」
その言葉が何よりも嬉しかったのか、異世界人二人は顔を見合わせてはにかみ合う。
なにはともあれ、これで目的は果たせた。
三人でこのステージに立って、互いへの愛を叫ぶ。
そうした恋人達は……永遠に結ばれる。
「……だっけ?」
「あー、それなんですけど」
するとクローラがそう照れくさそうに言うものだから、どういう意味だと尋ねてみると。
「その……あの言い伝え、嘘なんです」
「……え? うそ?」
「はい、クローラが即興で考えたデマです。ちょっと盛っちゃいました、的な」
……マジでか。
リファの方を見ると、彼女もそのことは知っていたらしく、軽く肩を竦めた。
「私もなんか本当にそうだったらいいなーって思って、話を合わせてたのだ」
「なんだ……そういうことだったのかよ」
意外とお茶目な真似するようになったねほんとに。
まぁ、たかが学祭のイベントにそんな大層なものがある方がおかしいか。
「でも、今思うと……そんな嘘つく必要なかったかなって」
「ああ、そうだな」
「? なんで?」
俺が訊くと、クローラとリファはいたずらっぽく微笑む。
そして俺の方に近寄ってきて……。
ちゅ。
と、両側から頬に軽くキスをしてきた。
さっき本人達にビンタとパンチを食らったばかりの箇所が、別な意味で熱くなってくる。
思いがけない行動にドギマギする俺を、二人はくすくす笑いながら言った。
「「もう、結ばれてるから」」
……。
そっか。そうだよな、納得。
俺達はとっくに結ばれてる。絶対に解けない絆で。
これからもずっと。
そう思うと、目の前の彼女達がこれまで以上に愛おしくなる。
ギャラリー達が大騒ぎしている中で、俺はもう一度二人の方を抱いて、そっと引き寄せた。
否、引き寄せようとした。
だが。
「ちぇすとおおおおおおおい!!!!」
ドガッ!
と、後頭部にものすごい衝撃と激痛が同時に襲いかかってきて、俺はリファとクローラ共々ぶっ飛んだ。
両サイドの次は後ろからかよ! 今度はなんなんだ一体!?
「最近の扱いのひどさもここまでくるたぁね。いじられキャラの座に置こうったってそーはいかないっすよ」
そう言って突如ステージに乱入してきたのは……もう皆さんおわかりですね?
後輩のギャルにして現在大ブレイク中のボケキャラ、木村渚でござい。
「だーれがボケキャラだぁ! いいのか、そんなことでいいのか! あたしナギちゃんやぞ! 小日向美穂だぞ!」
「どっちだよ」
渚は倒れた俺の頭を踏みつけると持っていたマイクを強引に奪い取る。
そして呆気に取られている観客らに向かってシャウト。
「オラァ、クズどもよく聞けやぁぁぁ! センパイの彼女はそこのパツキンでもメイドでもなぁい! このラブリーチャーミーな木村渚様じゃああああ!」
「何大声で大デマ吹き流しとんじゃボケェ!!」
「おーっと、ここでまさかの第三の女介入ー! なんということでしょう! 三角関係がまさかの四角関係、二輪車から三輪車、料金も通常料金の二倍から三倍の120分コースだぁ! これは熱い展開になってきましたよ主に下半身が!」
「オメーも平然ととんでもない実況してんじゃねーぞMCぃ!」
せっかくいい雰囲気だったのを台無しにされた俺はマジギレするが、会場は大爆笑。
もっとやれだのワロタだの、面白けりゃなんでもありかこいつら。いや大学生なんてそんなもんだろうけどさ!
「ちょ、ちょっと渚殿! なんなのだそんな勝手に!」
「そうですよ! 生ゴミさんはゴミ処理場でおとなしくしててくださいっ!」
「うっるさいやい! あたし被害者だかんね? センパイには約束すっぽかされるし、ミクミクは途中で不貞腐れてどっか消えちゃうし、おかげで一日中店番だよ!! こんなあたしを可哀想だと思わないのかあんたらはぁ!」
「「ぜーんぜん」」
「かーっ! あったま来たわ。ここであんたら二人に勝って正ヒロインの座を取り戻したらぁ! 正妻戦争勃発じゃ!」
「いいだろう、受けて立つ!」
「上等ですよ!」
「よっしゃじゃあ勝負方法はいつもの子作り対決ね! センパイ、さっさと始めるから服脱ぎゃオラァン!」
「なに告白大会を猥褻物陳列ショーに変えようとしてんねん!」
「はーいそこまでだ皆の者!」
ギャーギャーやってたらまたまたステージに乱入者。
流星の如く現れたそいつは、颯爽と俺達の前に参上。
クールで美形なその男性はニコッとスマイル。主に会場の女性陣から黄色い歓声。
木村渚の兄、乃愛さんであった。
彼はこほんと軽く咳払いすると、自分の妹から鮮やかな動きでマイクを奪取し、顔に似合う美声を披露。
「この子作り対決の続きは、我々第二文化研究部が主催する漫画文化喫茶でご覧いただけまーす! 三号館の二階205教室にて明日も絶賛営業予定ですんで、ぜひ起こしください!」
「何俺らをダシに商売しようとしてんだテメェはぁぁぁぁ!!」
「おや、義弟くんが僕にタメ口聞いてくれるなんて! 嬉しいねぇ、なんか距離が縮まった感じがして。学年が違うとはいえ、やっぱり僕ら同年代だしさ!」
「現役入学だよ俺は!! なにさらっと浪人生扱いしてやがる!」
声帯が千切れそうな声でツッコむも、途中で渚が背後からチョークスリーパーで妨害。
「なにあたし無視ってクソ兄貴に絡んでるんですか! センパイはこのナギちゃんだけ見てりゃいいんですよ」
「おま、やめろこの!」
「いいっすか、約束破った罰覚えてますよね? ゴムに針千本で穴開けてやるって! それが嫌なら穴埋めとして明日は徹底的に付き合ってもらいますからね!」
「うまいこと言ってんじゃねぇよ!」
「こらぁ渚殿! 私のマスターに手を出すなぁ!」
「ゴミは掃除しなくちゃ……」
「はい、ウチらの漫画喫茶のおすすめメニューは、ブルーマウンテンの豆を1%配合した特製ブレンドコーヒーで現在890円と、大変お買い得となっておりまーす! テイクアウトもございますんでぜひぜひー!」
もう完全に収拾がつかなくなった。
やいのやいのと全員暴れ放題。
それを見て更に観客、満点大笑い。
MC、そのカオスっぷりを律儀に実況。ほんと愛を叫ぶという企画はなんだったのか。
そんなお笑いショーと化した乱闘がしばらく続いた後、出演者全員体力を使い果たして息を切らしていた。
もはや争う気力もテンションも残ってない。
その場でへたりこんだ俺達は肩で息をしながら、互いにアイコンタクト。
そして同時に立ち上がり、一列に並んでカーテンコールのごとく深々と一礼。
「「「「「あざっしたぁ!」」」」」
瞬間、また本日何度目かになる大きな拍手が巻き起こった。
全然らしくないのに、涙を誘うようなグランドフィナーレだ。
「なんか、最後の最後でめちゃくちゃになっちゃったな」
俺は両隣のリファとクローラを交互に見やると、彼女達もこちらを横目で見ていた。
「まぁ、こういうのも悪くないのではないか?」
「ええ、これはこれで、面白かったです」
二人もやはりこのバカバカしいコントに呆れてたみたいだけど、それでも少なからず楽しんでたようだ。
ま、ある意味これが学祭っぽい楽しみ方でもあるのかも。
色々ドタバタしっぱなしで、途中でとても辛い出来事があって、それでも最後には互いの気持ちを改めて確かめ合うことができた。何もしてこなかった去年とはまるで違う、凄まじい経験の数々。もう一生味わえないだろうな、こんなの。
とにかくそんなこんなで、長いようで短かった俺達の学祭の初日は幕を下ろした。
大団円のような雰囲気の中、盛大な歓声に見送られて。
言いたいことは多々あれど、ひとまずここで、締めの言葉を一つ。
今日も一日、お疲れ様でした。
階段を一段抜かしで降りて、ごった返す人々の間を縫うようにして俺は走っていた。
急げ。この約束だけは絶対に守らなくちゃいけないんだ。
イベント開始時間まで後三分。頑張れ俺の脚、絶対に音を上げるなよ。
待ち合わせ場所であるステージ入口に行くと、そこには既にリファとクローラが待機していた。
彼女達は既にコスプレ姿からいつもの服(猫耳パーカーとメイド服)に着替えており、スマホをいじってるわけでもなければ互いに何か話しているわけでもなく。ただじっと、無言でその場に立ち尽くしていた。
その表情はどこか不安気で、悲しげで、儚げであった。
「リファーっ! クローラ!!」
俺は周囲の人がびっくりするような声量で彼女らの名を呼んだ。
二人はびくっとして身体を震わせると、俺の方を同時に見た。その四つの目が大きく見開かれると、しばらくどちらも放心したように口を半開きにした。
ちらちらと他の人達が注目する中、俺達は互いに何も言わずに向かい合う。
その間に開いた距離は、数歩歩けばゼロになる短いもの。でも、それをおいそれと縮めることは俺には出来なかった。なぜならその前にきちんと、二人に謝らなきゃいけないからだ。
「ごめんっ! 遅くなって! 本当にごめん!」
腰を九十度折って、俺は深々と頭を下げる。
部室にも戻らず、電話にも出ず、心配かけまくった上にどの面下げて現れたのか。普通だったらそう思うだろう。
約束の時間にはギリ間に合ったものの、それ以外の要素がオーバーしまくってる。
殴られようが詰られようが、針千本飲まされようが文句は言えない。
目を固く閉じて、俺は覚悟を決めた。
「「……よかった」」
……はい?
今、なんて言われた俺?
よかった……って、聞き間違い……だよな?
おずおずと顔を上げてみると、いつのまにか二人が俺の目の前に立っていた。
顔は赤いが怒っているのではない。目に涙は浮かんでいるが、悲しんでいるわけでもない。
その表情は、純粋な笑顔だった。
とても素敵で、可愛いものではあったが、俺は戸惑うばかりだった。
「よかった……って、え? どういうこと?」
「どういうもこういうも、決まってるじゃないか」
リファがそう言って、俺の手を握る。柔らかい感触と、温かいぬくもりが包みこんできた。
「なにがあったかすごく心配したんだぞ。電話に出ないから、もしかしたらなにか危険に巻き込まれたのではないかと思って」
「リファ……」
「私も……さっきからずっと学校中探し回ってたんです。でも見つからなくて……もしかしたら約束のこの場所で待ってれば来てくれるかなって。だから、今すごく安心しています」
するとクローラももう片方の手を握ると、自分の頬にあてがった。
リファの手よりも熱い体温が手のひら全体に伝わる。クローラは目を閉じて俺の手の熱を愛おしそうに感じた後、静かに告げた。
「あなたに……何もなくてよかったと」
ずきり。
と、また俺の胸にあの痛みが蘇った。
二人はずっと俺のことを気にかけてくれていた。だからこそ苦しい。
学祭という絶好の機会のはずなのに、気がつけばもう一日目が終わる。不満げな反応をされる方がまだよかった。
なんだか、余計に自分がやるせなくなってくる。
「俺……二人を恋人にするって言ったのに、全然恋人らしく振る舞えてないってずっと思ってた」
「マスター?」
「主くん?」
怪訝そうにする彼女たちを前に、俺はうつむいて話す。
「いつも二人の傍にいて支えようって、二人がいつも笑顔でいられるように努めようって……そういう存在になろうって告白したときは思ってた。でも……今までの俺を振り返ってみると、ちゃんと彼氏らしくできてるようにはとても思えなかった」
「……そんなことありません!」
「そうだぞ! マスターのおかげで私達はいつも――」
すぐに否定しようとするリファとクローラのセリフを、俺は遮った。その言葉が、余計に心に突き刺さる前に。
そっと、彼女達を抱きしめることで。
「二人がそう言ってくれるのはとても嬉しい……でも、俺が駄目なんだ……。自分で自分を許せないんだ」
こんなんじゃ彼氏失格だ、って。
小さく言うと、俺は包み隠さず懺悔した。
「俺……お前らと別れた後、エリアと一緒にいた」
「あのエセ帝王とか?」
リファの問いにこくり、と無言でうなずく。
よりにもよって彼女らの宿敵とも呼べる奴と行動を共にしていた。しかも二人と一緒にいた時間よりも長く。
これで怒られるかと思ったが。
二人は、先ほどと変わらぬホッとした表情を浮かべていた。
「「なんだ……」」
「なんだ、って……二人が心配してくれてたのに、俺は――」
「気にすることないだろう。そんなのどうせ、あいつが無理矢理付き合わせただけなんじゃないのか?」
「ですです、いつもみたいに帝王の命だー……って」
「そうじゃない、そうじゃないんだ」
俺は更に二人を深く抱擁した。
「俺は……それを拒絶しきれなかったんだ。お前達と付き合ってるから無理だって……言えなかった」
「……」
「その後も、あいつが面白いと思えるような場所を探してやったりとか、急に落ち込んじまったから律儀に相談乗ってやったりとかして……」
それは本来、今抱きしめている二人にしてあげなくちゃいけないことだった。
恋人というのは、本来他の奴とは違う特別な扱いをしてこそ関係が成立する。誰にでも同じことをしたら……当然、特別ではなくなる。
それだけでも、俺は二人を裏切ったって言える。
「主くん」
すると、いつもより若干低い声でクローラが耳元で囁いた。
何? と返事するよりも前に彼女はいきなり俺を引っ張って歩き出した。
「え、ちょっ、ちょっと!」
困惑する俺に一切構わず、愛奴は無言でずんずんと進んでいく。
リファにヘルプを求めたものの、彼女も何も言わなかった。表情もさっきの笑顔は失せ、やれやれと呆れたような感じで後を追ってきていた。どうやらクローラの思惑をわかってる様子。
何だよ、何がどうなってんだよ、何されちゃうんだよ俺!?
一気に慌てふためく俺にクローラは一瞥もくれない。あまりにもいきなりな豹変ぶりだ。怒られるのは覚悟していたとはいえ、動揺は隠せない。
かといって抵抗もできるわけがなく、そのままズルズルと俺は引きずられていった。
なんだか今日は、女の子に連行されてばっかりだ。
○
一分後。
やってきたのは……。
「野外ステージ……?」
そう、この人だかりの密度が最も高い後夜祭のメインプレイス。
互いの声もまともに聞こえないそんな場所では、とある催しが実施されていた。
「はーい、『学校の中心で愛を叫べ』のコーナー! 参加者絶賛募集中! ソロでもカップルでも、今こそ全校中に自分の熱い想いを響かせるチャンスだ! さぁ誰かいないかー!」
舞台に立っているMC役の学生がマイク片手にハイテンションで呼びかける。それと同時、観客達による挙手のオンパレード。
俺が、私が、僕が、我先に自分を指名してもらおうと躍起になっている。
凄まじい熱気とは対照的に、俺はたちまち萎縮してしまう。
そうか……これが二人が後夜祭でやりたかったっていう……。
「はいじゃあそこのお二人さんカモォン!」
程なくしてMCが指名した男女のカップルがはしゃぎながら壇上へと駆け上がってくる。
マイクを一本手渡され、男側がそれを持って彼女に向かい合う。
一同、一斉に沈黙。誰も彼以外喋るな。という清々しいくらいの同調圧力。
しばしの静寂の後。
彼氏、お辞儀して大絶叫。
「卒業したらっ、俺と結婚してください!」
おおーー!!
というどよめきと、まばらな拍手。
結婚とは思い切ったこと言うもんだ。まぁだが大学卒業っていったらもういい歳でもあるし、実際に結婚する人もいるっちゃいるだろう。
その公開プロポーズを受けた彼女側は、しばらく口を手で抑えて彼氏を呆然と見ていた。驚いているのかはたまた感動しているのか。
するとMCが無言で女性にも自分のマイクを手渡し、返事を促す。
彼女は動悸が高まっているであろう胸に手を当て、深呼吸して準備を整えた。
そして……精一杯の笑顔で一言。
「よろこんで」
うおおおおおおおおおおおっっ!!
さっきの倍どころか十倍以上の歓声が響き渡った。それはもう鼓膜が破れるかと思うくらいに。音楽のライブ会場顔負けの熱狂レベルだ。
「すばらしい-! まさかの結婚申し込みとはなんてロマンチックでファンタスティックなんでしょー! 今ここに、新たな夫婦の誕生が約束されました! 会場の皆さん、勇気を出してプロポーズした彼と、その一途な愛を受け入れた彼女に惜しみない拍手をー!!」
皆がまた一斉に手を叩く。まるでクラッカーでも鳴らしてるような大音量で。
時折口笛ややじが飛び交う中、未来の新郎新婦は涙を浮かべながらも幸せそうな顔で手を繋ぎ、一礼。
なるほど、こういう企画なわけね。
「はいどーもありがとーございました! さぁネクストチャレンジャーは誰だ!? 遠慮せずに、今のお二人に負けないくらいの愛をガンガン叫んでくれー!」
そしてまたはいはいと志願者がゾンビみたいにMCに向けて手を伸ばす。
次に指名がかかったのは、小柄な女の子一名。お相手はいなさそう。
「さぁ今度はソロの方ー。一体どんな愛を叫んでくれるのか! 世界中に轟かせるつもりでどーぞっ!」
マイクを両手で握りしめた彼女は静まり返った聴衆を一望すると、すぅーっと大きく息を吸い込んだ。
直後、本当に世界中に轟くかと思うくらいの声で叫んだ。
「法学部三年B組の田中せんぱーーーい!! 高校時代の頃から好きでしたーーっ!! 私と付き合ってくださーいっ!!」
おおおー、というざわめきが再び会場を支配。
なるほど、こういうやり口もあるのね。
「はーい法学部の三年B組きんぱ、じゃない田中くーん!! いたら挙手してくださーい! こんなかわいい後輩ちゃんが長年に渡る恋心を告白してくれました―! ぜひとも良いお返事をーーっ!!」
MCが周囲に向けてその田中さんとやらを呼び出しにかかる。
皆が誰だ誰だとキョロキョロする中、金切り声で「はいはいはーい!!」と金切り声が。
見ると、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら両手を振ってる男子が一名。どうやら彼らしい。
田中さんは友人と思しき人達に担ぎ上げてもらって壇上の後輩へと目線を合わせる。
そしてマイクの代わりに手でメガホンの形にし、豪快な返事を飛ばした。
「俺も好きだーーーっ!!!」
どわあああああああああああ!! とまた大きなざわめきが以下略。
「コングラッチュレーション! 高校時代からのピュアな想いが成就したようです。これはめでたい! 熱い愛で沸かせてくれた新しい恋人達の幸せを祝してー! はい拍手ー!!」
まるでクラッカーでも鳴らすような拍手が以下略。
「はいありがとうございまーす。いやー、皆さん予想以上に叫んでくれますねー! 私もMC冥利に尽きるというもの。さぁ次の挑戦者は、誰だっ!?」
はいはいはい、とまたまた選ばれたいと願う学生達が挙手しまくる。
……はずだった。
しかし、誰もが手を肩の位置まで上げた瞬間にピタリと停止した。
何故? 当たり前だろ。
パンパンパン!!!
と、銃声が皆の耳を劈いたのだから。
さっきとは別な要因でその場が静かになった。
何だ? 一体何が起きた? と他の人達はおたつく。
だが俺はその中で一番早く状況を理解していた。
銃声を放ったのは……今俺を拘束しているメイド服に首輪と付けた人物であるということを。
「クローラ……?」
彼女は銃口を天に掲げてトリガーを引き、発砲していた。
モデルガンではあったが、おそらく元素付与か何かで細工してあったんだろう。
「えっと……君?」
MCが顔をひきつらせながら言うと、クローラは俺を引き連れて観客を押しのけてステージの傍へ突き進んだ。
おい待て、まさか今の挙手のつもりだったの? 当ててもらう確率は低いとはいえ、やりすぎだろ!
と、抗議する暇も与えず、我が家の愛奴は階段を音を立てて駆け上り、ステージに立つ。
スポットライトが照らす中、俺は大勢の学生達の視線を穴が開きそうなほど浴びた。
少し遅れてリファも壇上に上がってきたのを確認すると、クローラがMCに方に素早く近寄る。
口八丁手八丁だった彼もビビって何も言えないまま……彼女にマイクをひったくるように奪われた。
唖然。
見物人達の表情はみんなそれだった。
だが俺の唖然はそれ以上だった。
あんなに初々しくて可愛くて、どこか天然だった彼女とはまるで違う。本当に同一人物かと見紛う行動。
「あーあー、てすてす……」
簡単なマイクテストを行った後、クローラは俺の隣に戻ってくると開口一番こう言った。
「皆さんごきげんよう。私はクローラ・クエリ。こちらに立ってる主くんの恋人です」
自己紹介。それ以上でも以下でもないほど自己紹介だった。
横顔を見やると、確かにいつもの彼女ではない。色白な肌に似合うように冷たく、底が読めない表情をしている。
「そしてこちらの金髪の方はリファレンスさん。同じく主くんと私の恋人です」
は?
という声がちらほらと。
発砲挙手からのこれだから、受けるインパクトは絶大なものだろう。
「えっと……つまり御三方は、三角関係というやつで?」
「違います」
やっと声を取り戻したMCからの問いをクローラは一刀両断。
「私達は三人で恋人同士。互いに全員を愛し、全員に愛される。そんな関係です。何か問題でも?」
「あ、あー、はい、えー、カップルならぬトリオ……ってわけですかね」
なんか一気に安っぽくなったなオイ。いやそうとしか言いようがないから仕方ないけどさ。
ざわざわと沈黙を保っていたギャラリーから声が出始める。ま、三人で恋人なんてそうそうないからな。傍から見れば修羅場と思われても仕方ないし。
「私は今日、三人一緒にこのイベントに参加しようと約束してました。なのでこうして今、この場に立っています」
「……」
「本当なら、ここで先程の方々のように互いに向けての愛を叫ぶ予定でしたが……一つその前にやっておくことがあります」
「やっておくこと?」
クローラはそこでマイクを下ろし、こちらを向く。
吸い込まれそうなほどの黒い二つの瞳が俺を捉えた。
ロックオン。
まるで、狙いを定めるように。
その一秒後。
パァン!!!
という乾いた音とともに、俺の顔に衝撃が走った。
急激にブレる視界。一瞬飛ぶ意識。
バランスを崩してよろめき、じわじわと右頬から痛みが生まれた。
自分の身に何が起きたのか、理解したのはそれから数秒後だった。
俺はクローラに……ビンタされたのだ。
彼女は冷酷な目つきで、瞬き一つせず睨みつけていた。
今まで一度たりとて見せたこともなかった目で。今までどころか、これからも絶対にしなさそうなことをしてきた。
そこではっきりとわかった。
ああ、こいつ……怒ってるんだ。
「私がなんでこんなことしたか……わかりますか? 主くん」
クローラはマイクを構えて、静かに俺にそう問うた。
周りが声はおろか物音すら立てない空間の中、彼女の刺すような声がその場に響く。
「あなたはこう言った。ちゃんと一緒にいられる時間が取れなくてごめん。あの帝王さんに同行しててごめん。約束の時間に遅れそうになってごめん。……って」
「……」
ふぅー、と吐いた息に乗せて身体中の力を抜くように、彼女は肩を落とす。
そして一瞬の沈黙の後。
俺の胸ぐらを、いきなり掴み上げた、
「ばーーーーーーーっかじゃないの!?」
突然の罵倒。
キーン、というマイクのハウリングの音が続けて皆の耳を襲う。
音波で頭がシェイクされるような感覚に悶える俺を、クローラは揺さぶりながら更に怒鳴り続ける。
「そんなことで誰が責めたの!? 誰がそのことについて咎めたっていうの!? 勝手に自分一人でグチグチ悩んでバカじゃないほんっっとに!」
敬語も丁寧語も一切使用しない、完全なタメ口。態度だけでなく口調まで激変してしまっている。
それを見て俺は思い出した。
あの夏祭り……。彼女が二人きりで俺をデートに誘うために、無理に作り出した偽りの自分……。
だけど、今彼女が俺に剥き出しにしているこの人格は……偽りじゃない。
間違いなく、素の彼女だ。
根拠も何もないけれど、俺は直感した。
「私とリファさんが怒ってるのはっ! あなたが私達を信じてくれないからだよっ!!」
「……信じ、て?」
「気にしてないって言っても、あなたを信じてるよっていくら言っても、あなたはそれを認めようとしない! 聞き入れてくれない! いつまでも変なプライドにこだわってさ!」
「……」
「『自分で自分を許せない』? ええ、私達だってあなたを許せないよ!」
そこで肩を上下させながら息継ぎするクローラ。
だが激しく叫びすぎたのか、数回むせた。背中をさすってやろうとするが、彼女は俺の手を乱暴に払い除けてまた睨む。
その目は……涙で潤んでいた。
「私達がこんなに好きなあなたを……貶めるようなこと言うからッ!」
「……」
「あなたは私達の恋人だよ? 誰がなんと言おうと、どんなことをしようと……私の残りの人生を全て捧げようって思えるくらいの大切な人なんだよ!? それを最低だなんだって卑下されたら、じゃあそんな人に惚れた私がバカみたいじゃない!」
悲痛な声で、今にも嗚咽が混じりそうな声で、彼女はひたすらに訴えた。
「きっとあなたはこう思ってるんだよね? 私達を悲しませたって、辛い思いをさせたって……」
「……」
「そんなの、勝手に決めないでよ!」
クローラの頬を涙が伝う。
もう限界だと、今にも堰が切れて号泣してしまいそうなんだと俺にはわかった。だけど、彼女は一生懸命それを耐えていた。
「主くんは優しいよ。誰にでも平等に相談に乗ってあげたり、助けてくれたり……すごくすごく優しい人だよ! あなたのそういうところに私は惹かれたんだよ! 私達だけ特別扱いしてくれないから辛いなんて誰も言ってないよ!」
「……」
「そんなことじゃない……私達が本当に辛いと思うのは……そんなことじゃないの……」
ぽたぽた、とステージの床に涙がこぼれ落ちた。
ギャラリーもクローラが泣き出したことに気がつき始め、ざわついていく。
覇気が消えかけの蝋燭のように弱くなる彼女は……残った最後の力を振り絞るようにして俺に告げた。
「私を見てよ」
「!」
「あなたの恋人をちゃんと見てよ。ちゃんと話を聞いてよ。……ちゃんと、信じてよ。あなたのことが好きだっていう私達を、信じてよぉっ!」
「……クローラ……」
「それだけで私は幸せだから……それ以外には何もいらないから。それ以外に何も望まないから……お願い……」
その言葉を最後に、クローラ・クエリはその場に泣き崩れた。
静かな泣き声が、スピーカーによって大音量でキャンパス中に届けられる。
一番盛り上がるイベントで、一番悲しくなるようなハプニングが発生。
それもこれも、ぜーんぶ、俺のせい。
罪状は……勝手に落ち込んで、勝手な理屈で、勝手に自分を責めていたこと。
それをやーっと理解した俺は、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
俺はあのまま、彼女達の約束の時間に間に合って、そのまま笑顔で二人に付き合っていればよかった。
謝罪についても「エリアに付き合わされてた、心配かけてごめん」と、それだけ言ってればよかった。
二人と一緒に、さっきの連中みたいに愛の言葉を普通に叫んでればよかった。
だけど直前の直前になって……それをぶち壊しにしてしまった。
いつもいつも俺は、二人がバカやるたびにポンコツだと言ってきたけど。
一番のポンコツは……他ならぬ俺自身だった。
茫然自失していると、泣いているクローラに寄り添う人物が現れた。
金髪碧眼に、腰には玩具の剣を下げた少女。
リファレンス・ルマナ・ビューアだった。
彼女はしゃがみこんでいるクローラからマイクをそっと取り、立ち上がった。
「あー、てすてす。皆の衆、私の名はリファレンス・ルマナ・ビューア。先ほど紹介されたとおり、マスターとクローラの恋人である。クローラが会話困難になってしまったようなので、ここからは私が引き継ごう」
リファは軽く挨拶して、ほぼ話についていけてないであろう観客に一礼すると、俺に向き合った。
「まぁクローラの言うことは至極もっともだ。共に暮すパートナーなら、対話は必要不可欠。それをしないで、自分でなにもかも決めつけるのは愚行極まりない」
「……」
「だがそれと同時に、マスターの心情も理解できんでもない。私達のためにあれこれしてやれなかったことを悔いてる。あのエセ帝王と二人きりになったことを私らに対する裏切りだと自戒している。そう感じるのも、マスターなりに私達を慮ってくれた結果だろう」
そこまで言って、リファは金色の御髪を手で掻き分けた。
「それに、対話ができていなかったのは我々とて同じだ。マスターの気持ちを理解しないで、一方的に自分達の気持ちを押し付けてる私とクローラにもその責任はある」
「リファ……」
「だから、この点において私は、もうマスターを責めるつもりはない」
きっぱりと、女騎士は言い放った。
クローラとは違って、その口元には微かな笑みが灯っていた。
「だが、どうしても許せない点が一つ」
流れが変わった。
リファは笑顔のままだったが、確実にその場が不穏な空気一色になった。
嫌な予感。
俺の背中に悪寒が走り、氷のような冷や汗が浮き出る。
「問おう、我がマスターよ……私がそなたを許せない理由は何だ?」
「あっ……」
わかってる。
もう痛いくらいにわかってる。
やっと気づけたんだ。ようやく自分が本当に謝らなきゃいけないことがわかったんだ。
恋人として、絶対にしてはいけない禁忌に。
だが、リファはその質問の答えなど、最初から求めていなかったようだ。
つかつかと高速で歩み寄り、その笑顔を消し、代わりに鬼のような形相を浮かべて。
――叫んだ。
「大切な恋人をッ! 泣かせたことだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ」
ガツンッ!!!
俺の左頬に、強烈な右フックがクリーンヒット。
クローラのビンタ百発分くらいの威力はありそうな攻撃。
当然俺は横に吹っ飛び、倒れ伏す。
切れたのか、口からはドボドボとおびただしい量の真っ赤な血が吐き出される。
「ぉあ……」
情けないうめき声を上げる俺。
その胸ぐらを容赦なくリファは持ち上げて無理矢理立たせ怒鳴る。
「たとえどんな理由があっても、どんなに立派な大義があってもッ、それだけは許さない! 互いに愛し合い、いたわりあうのが恋人だ! 泣かせるっていうのは、それを完膚なきまでに裏切る行為だ! そんな事、世界中の人間が許そうが、この私が、リファレンス・ルマナ・ビューアが絶ッッ対に許さないッ!!」
「……」
「いいかよく聞けマスター、本題はここからだ……耳の穴かっぽじって一言一句聞き漏らすなよ?」
剥いた牙を今にも俺の喉笛に突き刺そうとするくらいの気迫で、彼女は言った。
「私達はもう謝罪などいらん。そんなことされても、余計に悲しくなるだけだ」
「……」
「恋人として、ちゃんと振る舞えてなかった。愛し方が甘かった。もうわかった、それはもうよぉーくわかった。だがマスター、貴様がすべきことはそれに対する後悔でも自戒でもない」
そこでリファは目を一瞬閉じたかと思うと、すぐにカッと見開いた。
「ちゃんと愛せてなかったなら、これからもっと私達を愛せ!」
「!」
「昨日よりも、明日は今日よりも、明後日は明日よりも! もっともっともっと! これ以上無いってくらい私達を好きになってくれ!」
女騎士は息継ぎなしで一気に言い切ると、その全身にまとったオーラを弱めた。
「私達は恋人同士だろ? これからも、ずっと……だったら、過去のことなんかにこだわってないで、今に目を向けるべきではないのか?」
「……」
「私達は今、ここにいる。マスターと同じように、ずっと一緒にいたいと、離れたくないと思っている私達がいる。それが私達なんだ。リファレンス・ルマナ・ビューアと、クローラ・クエリなんだ」
だから。
と、そこで区切るとリファは笑顔を浮かべた。その目尻には、やはり小さな涙が浮かんで見えていた。
「戻ってきてくれ、マスター」
――だから、戻ってこいよ。
あの日。リファが自宅警備隊の辞職を賭けた戦いの後、俺が彼女に言った言葉。
それが今になって、自分に返ってくるとは。
ずっと一緒にいたいと言っておきながら、俺は……知らず知らずのうちに二人から遠ざかっていたんだな。
俺はごくりと血の混じった唾を飲み込み、口元を拭った。
リファが無言でマイクを差し出してくる。もう二人の「叫び」は終わった。今までのは罵倒でも糾弾でもない、彼女達なりの愛だったんだ。
だから今度は、こっちが返す番。
謝罪ではなく、愛でだ。
俺はマイクを受け取ると、まだうずくまっているクローラに手を差し伸べた。
彼女は泣き腫らした目でこちらを見上げると、何も言わずにその手を取った。
二人の聞く態勢を整えた後、マイクに口を近づけて静かに言葉を紡ぐ。
「俺は、なにもわかってなかった。恋人っていうのがなんなのか、どう振る舞えば良いのか、何が正解で何が間違いなのか……。だから勝手に自分で判断して決めてたつもりだった。でも今日二人に言われて、それ自体がそもそも間違いだったってことを知った」
そして、それに対する謝罪が何の意味もないということも。
「大切なのは対話……。互いの意思をぶつけあうことなんだ。こうしてこのステージで、皆が素直な気持ちを叫んで伝えあっていたように。俺も二人の本当の意思を受け止めて応えていかなくちゃいけなかったんだ」
俺は間違っていた。
だが間違っていたのなら、やり直せばいい。
それを正して、今から変わっていけばいい。
包み隠さず、余計な建前なんか捨てて、自分の素直な気持ちをそのままぶつけるんだ。
二人のことが、好きだっていうことを。
それが……愛なんだ。
「だから俺は、これからもずっと二人の恋人でいる。一生愛し続ける。そして何があっても、ちゃんと胸を張って堂々と言う。リファとクローラは、俺の大切な彼女だって!」
「マスター……」
「主くん……」
心が揺れ動いている二人を、俺はまっすぐ見据えて続けた。
「さっきは変なこと言っちまったし、くだらない理由で迷ってたり悩んでたりしたけど……二人とずっと一緒にいたい。この気持ちだけは未来永劫変わらないから! あの時、告白した時からずっと!」
「……」
「今日の学園祭はこんなになっちゃったけど、これで終わりじゃない。明日も明後日もこの関係は続いていく。学祭だって、来年再来年にもある! これは道の通過点に過ぎないんだ。転んでも、また立ち上がればいい。何があっても、ずっと三人で手をつないで、止まらずに歩き続けていくんだ」
二人はそのことに気づかせてくれた。
転んでしまった俺を、起こしてくれたんだ。
「好きだよ、リファ。クローラ」
俺の意思。
何が起きようと曲げずに貫き通すと決めた、本当の気持ち。
それを全身全霊を込めて、叫んだ。
「俺はっ、リファレンス・ルマナ・ビューアとクローラ・クエリが、大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
一秒の間の後。
「マスターっ」
「主くんっ」
リファとクローラ、俺に一斉に抱きつく。
俺、二人を抱きしめ返す。
もう絶対に、離さないというくらいに強く。
同時、大歓声。
地響きが起きるかと思うくらいの大熱狂の渦に会場が呑み込まれる。
「えー、何から何までが唐突すぎてなんと言葉にしてよいか私も未だに思い浮かびませんが、とにかくおめでとうございます! すれ違ってギクシャクしていた互いの心が今一つに戻り、より強固な絆となった! ビンタとパンチで思い出した大切なこと、進むべき道、その答えはまさにゴーイングマイウェイ! 片時も離れず、どこまでも突き進んでいけることをささやかながら応援しましょう。どストレートな愛を叫んでくれた三人に盛大な拍手をお願いしまーす!!」
気力を取り戻したMCが煽ると、嵐のような惜しみない拍手が、俺達を祝福してくれた。
口笛やヤジも矢継ぎ早に飛び、ゴミやおひねりがステージに投げ込まれる。
その全てを浴びながら俺は腕の中のリファとクローラを見つめる。
「ただいま、クローラ。リファ」
「おかえり、マスター」
「おかえりなさいませ、主くん」
二人はまたポロポロと涙を流していたが、表情は心から幸せを感じている笑顔であった。
俺はそっと彼女達から手を放し、ポケットに入れていたあるものを取り出す。
それはハンドメイド部で買った、二人への贈り物。
「マスター、それは?」
「プレゼント」
俺は笑って言うと、彼女達にラッピングされたそれらを手渡した。
きょとんとする二人だったが、促されるままにその封を破り、中身を引っ張り出した。
そして。
「わぁ……」
「綺麗……」
そのブレスレットとネックレスを見て、リファとクローラはそれと同じくらいに目を輝かせる。
どうやら喜んでもらえたようでよかった。
「他の女の手作りだけど……似合うかなって思って」
「何を言ってるのだマスター」
「これ以上無い、宝物でございますよ」
ますます目から涙を生み出しながら、ぎこちない手付きで二人はそれを装着した。
リファは首にネックレスを。クローラは手首にブレスレットを。
どちらも外見からして奇抜なので、遠目に見るとあまり目立たない印象だけど……でも、彼女達の美しさと可愛さを引き立てるには申し分なかった。
「どうですか、主くん」
「へ、変じゃないだろうか?」
恥ずかしそうに言う女騎士と愛奴に、俺は首を横に振って答えた。
「似合ってるよ、とっても」
その言葉が何よりも嬉しかったのか、異世界人二人は顔を見合わせてはにかみ合う。
なにはともあれ、これで目的は果たせた。
三人でこのステージに立って、互いへの愛を叫ぶ。
そうした恋人達は……永遠に結ばれる。
「……だっけ?」
「あー、それなんですけど」
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「その……あの言い伝え、嘘なんです」
「……え? うそ?」
「はい、クローラが即興で考えたデマです。ちょっと盛っちゃいました、的な」
……マジでか。
リファの方を見ると、彼女もそのことは知っていたらしく、軽く肩を竦めた。
「私もなんか本当にそうだったらいいなーって思って、話を合わせてたのだ」
「なんだ……そういうことだったのかよ」
意外とお茶目な真似するようになったねほんとに。
まぁ、たかが学祭のイベントにそんな大層なものがある方がおかしいか。
「でも、今思うと……そんな嘘つく必要なかったかなって」
「ああ、そうだな」
「? なんで?」
俺が訊くと、クローラとリファはいたずらっぽく微笑む。
そして俺の方に近寄ってきて……。
ちゅ。
と、両側から頬に軽くキスをしてきた。
さっき本人達にビンタとパンチを食らったばかりの箇所が、別な意味で熱くなってくる。
思いがけない行動にドギマギする俺を、二人はくすくす笑いながら言った。
「「もう、結ばれてるから」」
……。
そっか。そうだよな、納得。
俺達はとっくに結ばれてる。絶対に解けない絆で。
これからもずっと。
そう思うと、目の前の彼女達がこれまで以上に愛おしくなる。
ギャラリー達が大騒ぎしている中で、俺はもう一度二人の方を抱いて、そっと引き寄せた。
否、引き寄せようとした。
だが。
「ちぇすとおおおおおおおい!!!!」
ドガッ!
と、後頭部にものすごい衝撃と激痛が同時に襲いかかってきて、俺はリファとクローラ共々ぶっ飛んだ。
両サイドの次は後ろからかよ! 今度はなんなんだ一体!?
「最近の扱いのひどさもここまでくるたぁね。いじられキャラの座に置こうったってそーはいかないっすよ」
そう言って突如ステージに乱入してきたのは……もう皆さんおわかりですね?
後輩のギャルにして現在大ブレイク中のボケキャラ、木村渚でござい。
「だーれがボケキャラだぁ! いいのか、そんなことでいいのか! あたしナギちゃんやぞ! 小日向美穂だぞ!」
「どっちだよ」
渚は倒れた俺の頭を踏みつけると持っていたマイクを強引に奪い取る。
そして呆気に取られている観客らに向かってシャウト。
「オラァ、クズどもよく聞けやぁぁぁ! センパイの彼女はそこのパツキンでもメイドでもなぁい! このラブリーチャーミーな木村渚様じゃああああ!」
「何大声で大デマ吹き流しとんじゃボケェ!!」
「おーっと、ここでまさかの第三の女介入ー! なんということでしょう! 三角関係がまさかの四角関係、二輪車から三輪車、料金も通常料金の二倍から三倍の120分コースだぁ! これは熱い展開になってきましたよ主に下半身が!」
「オメーも平然ととんでもない実況してんじゃねーぞMCぃ!」
せっかくいい雰囲気だったのを台無しにされた俺はマジギレするが、会場は大爆笑。
もっとやれだのワロタだの、面白けりゃなんでもありかこいつら。いや大学生なんてそんなもんだろうけどさ!
「ちょ、ちょっと渚殿! なんなのだそんな勝手に!」
「そうですよ! 生ゴミさんはゴミ処理場でおとなしくしててくださいっ!」
「うっるさいやい! あたし被害者だかんね? センパイには約束すっぽかされるし、ミクミクは途中で不貞腐れてどっか消えちゃうし、おかげで一日中店番だよ!! こんなあたしを可哀想だと思わないのかあんたらはぁ!」
「「ぜーんぜん」」
「かーっ! あったま来たわ。ここであんたら二人に勝って正ヒロインの座を取り戻したらぁ! 正妻戦争勃発じゃ!」
「いいだろう、受けて立つ!」
「上等ですよ!」
「よっしゃじゃあ勝負方法はいつもの子作り対決ね! センパイ、さっさと始めるから服脱ぎゃオラァン!」
「なに告白大会を猥褻物陳列ショーに変えようとしてんねん!」
「はーいそこまでだ皆の者!」
ギャーギャーやってたらまたまたステージに乱入者。
流星の如く現れたそいつは、颯爽と俺達の前に参上。
クールで美形なその男性はニコッとスマイル。主に会場の女性陣から黄色い歓声。
木村渚の兄、乃愛さんであった。
彼はこほんと軽く咳払いすると、自分の妹から鮮やかな動きでマイクを奪取し、顔に似合う美声を披露。
「この子作り対決の続きは、我々第二文化研究部が主催する漫画文化喫茶でご覧いただけまーす! 三号館の二階205教室にて明日も絶賛営業予定ですんで、ぜひ起こしください!」
「何俺らをダシに商売しようとしてんだテメェはぁぁぁぁ!!」
「おや、義弟くんが僕にタメ口聞いてくれるなんて! 嬉しいねぇ、なんか距離が縮まった感じがして。学年が違うとはいえ、やっぱり僕ら同年代だしさ!」
「現役入学だよ俺は!! なにさらっと浪人生扱いしてやがる!」
声帯が千切れそうな声でツッコむも、途中で渚が背後からチョークスリーパーで妨害。
「なにあたし無視ってクソ兄貴に絡んでるんですか! センパイはこのナギちゃんだけ見てりゃいいんですよ」
「おま、やめろこの!」
「いいっすか、約束破った罰覚えてますよね? ゴムに針千本で穴開けてやるって! それが嫌なら穴埋めとして明日は徹底的に付き合ってもらいますからね!」
「うまいこと言ってんじゃねぇよ!」
「こらぁ渚殿! 私のマスターに手を出すなぁ!」
「ゴミは掃除しなくちゃ……」
「はい、ウチらの漫画喫茶のおすすめメニューは、ブルーマウンテンの豆を1%配合した特製ブレンドコーヒーで現在890円と、大変お買い得となっておりまーす! テイクアウトもございますんでぜひぜひー!」
もう完全に収拾がつかなくなった。
やいのやいのと全員暴れ放題。
それを見て更に観客、満点大笑い。
MC、そのカオスっぷりを律儀に実況。ほんと愛を叫ぶという企画はなんだったのか。
そんなお笑いショーと化した乱闘がしばらく続いた後、出演者全員体力を使い果たして息を切らしていた。
もはや争う気力もテンションも残ってない。
その場でへたりこんだ俺達は肩で息をしながら、互いにアイコンタクト。
そして同時に立ち上がり、一列に並んでカーテンコールのごとく深々と一礼。
「「「「「あざっしたぁ!」」」」」
瞬間、また本日何度目かになる大きな拍手が巻き起こった。
全然らしくないのに、涙を誘うようなグランドフィナーレだ。
「なんか、最後の最後でめちゃくちゃになっちゃったな」
俺は両隣のリファとクローラを交互に見やると、彼女達もこちらを横目で見ていた。
「まぁ、こういうのも悪くないのではないか?」
「ええ、これはこれで、面白かったです」
二人もやはりこのバカバカしいコントに呆れてたみたいだけど、それでも少なからず楽しんでたようだ。
ま、ある意味これが学祭っぽい楽しみ方でもあるのかも。
色々ドタバタしっぱなしで、途中でとても辛い出来事があって、それでも最後には互いの気持ちを改めて確かめ合うことができた。何もしてこなかった去年とはまるで違う、凄まじい経験の数々。もう一生味わえないだろうな、こんなの。
とにかくそんなこんなで、長いようで短かった俺達の学祭の初日は幕を下ろした。
大団円のような雰囲気の中、盛大な歓声に見送られて。
言いたいことは多々あれど、ひとまずここで、締めの言葉を一つ。
今日も一日、お疲れ様でした。
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