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第二章

025:葬送

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 滅怪と怪の戦いを見た翌日の放課後。
 俺と凛音は我が家のソファーに座りながら、黒衣が入れてくれたお茶を仲良く啜っている。

 実は凛音は俺たちの仲間になってから、何度も家に来ていた。
 情報共有や作戦会議など、外でするには憚られる内容を話すときに、誰に気兼ねすることも無いので我が家に集合しているのだ。
 まぁ、そんなことは関係なく、最近凛音とは学校や放課後のほとんどの時間を一緒に過ごしている。

 というのも、俺と教室内で話したり、お昼ご飯を一緒に食べるようになってから、今まで仲良しだった友達から仲間外れにされてしまったのだ。
 これは俺にとっては本意ではなかった。
 なので、やっぱり学校では話すのはやめようと言ったのだが、当の本人は全然意に介していないようだった。

 あまりしつこく言うのも失礼になると思ったので、「凛音が良いなら俺はもう何も言わないよ」と言うと、「しぃくんは私から離れていかないですよね?」と目を潤ませて聞いて来るのだから困ってしまう。

 凛音は髪型は三つ編みにしたり、眼鏡を掛けたりして地味を装っているのだが、その中の素顔はとても美少女なのでこんな風に言われてしまうとドキドキしてしまうんだよ。
 そして凛音がこのモードに入ると、黒衣がムスッとした表情で俺たちの間に割り込んでくるのがパターンとなっていた。


「さて、お昼に少し話したけど、昨日俺と黒衣は滅怪と怪が戦っているところを目撃したんだ。そこで、気になることがあったから、黒衣に説明をしてもらおうと思っている。恐らく凛音には直接関係ない話になると思うんだけど、情報として共有しておきたいと思ったから今日はここまで来てもらったという訳だ」

「仲間外れにしないでありがと、しぃくん」


 凛音はペコリと軽く頭を下げて、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
 ひょっとしたら凛音って普段強がっているだけで、実は友達に仲間外れにされてるの結構ダメージ受けてるんじゃ……。


「――では、早速昨日の滅怪が使っていた葬送霊器について説明をしたいと思います」


 そう口を開いた黒衣は、俺たちに刀から大槌に変形するきっかけとなった葬送霊器について説明を始める。

 以前も聞いていたことなのだが、神託の儀を行うことで人間が神魂を発動させることができる。
 しかし、この儀式はある意味荒療治で、人間の魂に無理やり神魂を発動させるように魂を降ろしているらしい。
 そのため、魂の在り方としては元々の自分の魂の方が強いらしく、神魂との融合率が10%もいけば優秀な人材として認められるとのことだった。

 実際に怪と戦うには、神魂の融合率が10%以下では心許ないのではないだろうかと質問をすると、黒衣は「そのための葬送霊器なんです」と言った。
 どうやら葬送霊器とは、霊器を本来の姿にするのと同時に神魂をブーストさせる効果があるようなのだ。
 なので、通常は10%以下の融合率だったとしても、葬送霊器を使用することで融合率を60%とかに引き上げることが可能になるらしい。

 それにしても、ブーストしても100%になることはないのか。
 俺は自分の魂自体が神魂なので、100%の力を出せることは当たり前のことだった。
 やはり俺と滅怪との違いは、死んだことによる隔世遺伝で発動したのか、神託の儀で無理やり発動させたかの違いなのだろうか。

 俺の疑問に黒衣は静かに頷いてから、「もし、神託の儀で神魂を授かった人が、自分の魂との融合率が100%になるとどうなると思いますか?」と質問をしてきた。
 俺は「普通に強くなるんじゃないのか?」と考え無しのことを言うが、黒衣に当たり前のように否定されてしまう。
 そして、隣で聞いていた凛音が「ひょっとしたら自分の魂が喰われて、人間じゃなくなるとかじゃないかな?」と恐ろしいことを言い出した。

 黒衣は凛音の言葉に同意して、本来であれば神魂に魂を喰われてしまうと、元の人格は消え去って別のナニカになってしまうと説明をしてくれた。
 それはどちらかというと、人間よりも怪に近いナニカということだった。
 俺の場合は、ご先祖様が神魂が暴走しないように術式を編んでいたことと、同じ血脈だからこそ体に馴染んで魂が共存することができたらしい。
 ちなみに、今の俺は自分の神魂が常時発動している感じで、ご先祖様の神魂は休眠状態にあるとのことだった。


「そういえば、あの女の子は葬送霊器って言っていたけど、葬送神器もあったりするのかな?」

「神器を使っている人間は、葬送神器と口にすることで神器本来の姿に戻して、自身の神魂もブーストをかけることができます」

「じゃあ、俺が葬送神器って言ったら、黒天も本来の姿になったりするってこと?」


 俺がそう聞くと、黒衣は両手の人差し指を顳顬こめかみに当てて、「うーん」と唸りながら何かを必死に思い出そうとし始めた。


「黒衣どうしたんだ?」

「何か重要なことを、思い出せそうな気がするんです。ですが、あともう少しってところで記憶が抜け落ちておりまして……」

「多分この流れだと、葬送神器についてなんだよな? 今の黒天の状態でも十分に強力だし、ゆっくりと思い出せばいいじゃん。俺のレベルも上がってきて、黒衣の記憶も徐々に戻ってきてるし、いつか思い出せる日が来るでしょ」


 能天気かも知れないが、これは心から思っていることだった。
 俺がレベルアップすることで、黒衣の記憶が戻るというのは、情報面から見てもとても有意義なことだった。
 強くなることもできるし、黒衣も記憶を取り戻すことができるんだから、俺がレベルアップすると二度美味しい展開になるのだからやる気に満ちてくるってもんですわ。


「黒衣ちゃん。今の話を聞いてると、しぃくんが他の滅怪の人たちと比べて、かなり強いように聞こえるんだけど実際はどうなのかな?」

「詩庵様の魂は100%神魂ですし、霊装の出力もかなり強いです。更にレベルアップする度に神魂も強くなるので、規格外であることは間違いないでしょう」


 凛音は黒衣の話を聞きながら「しぃくんは凄いんだ」と目をキラキラとさせて呟いている。


「そして、滅怪の人たちと詩庵様が一対一で戦った場合ですが、恐らくあちらで詩庵様に勝てる人はいないでしょう。それくらい詩庵様は強くなっています」

「え? そうなの?」


 俺はあまりに評価が高くて普通に驚いてしまった。
 その俺の問いに、「はい」と言いながら小さく頷いた黒衣だったが「ですが」と言葉を続ける。


「詩庵様が勝てたとしても、単純な力比べをした場合のみに限ります。相手の能力次第では、正面から戦っても負けてしまうこともあるでしょうし、複数で襲われてしまったら逃げることはできても、全滅させることは現状では難しいかも知れません」

「なるほど、そう言うことか。さっきまでの話を聞いていると、滅怪は幕末に存在した新撰隊のような戦い方がメインなのかなって思うんだよね」

「新撰隊って、あの有名な?」

「うん、そうだよ。彼らは基本的に、相手より少ない人数で戦うことはしなかったらしいんだよね。恐らく滅怪も集団戦闘にかなり力を注いでいるんじゃないかなって」

「凛音さんの言う通りでしょう。あの時の戦いでも、大槌を担いだ女性以外は一対多で戦ってましたし、連携も見事なものでした」

「黒衣から見てもやっぱりそうなのか。――あっ、大槌で思い出したんだけど、あの子の霊装って茶色だったと思うんだけど、霊装ってどれくらい種類があったりするんだ?」


 俺は怪と滅怪が戦っている時に気になっていたことを、黒衣に質問をしてみた。


「全てで9種類ございます。ですが、その中の一つは詩庵様のみの、無個の霊装になるので、実質は8種類だと考えてください」

「そんなに種類があるのか。今まであまり気にしてなかったんだけど、霊装の種類が違うと何か変わることってあるのか?」


 黒衣はまず、霊装の種類から教えてくれた。
 霊装には俺の無個と黒衣の黒、そして大槌の女の子の茶以外に、赤・青・緑・水・黄・白があるとのことだった。

 そして、霊装にはそれぞれ属性というものがあるらしく、黒は『闇』で茶は『土』という風になっているらしい。
 さらには『火』の属性は『氷』に強いが、逆に『水』からの攻撃は大きくダメージを追うなどの相性もあるとのことだった。
 ちなみに光と闇、そして無個に関しては特に相性というのはないらしいので、そこら辺を気にすることなく戦えるのは正直助かる。
 だって、仲間がたくさんいたら、相性が良い人に戦ってもらうことが出来るけど、俺は一人だからね。
 もし、相性が悪い属性の霊装と戦うことになったら、挽回する余地もなく不利になるから本当に助かった。
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