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第四章
048:昇格
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虚無の調査を完了した俺たち合同パーティは、ダンジョンから出るとすぐに、結果報告をするためハンター協会へ足を運んだ。
前日にダンジョンの中で炎夏さんが調査結果の報告をしたところ、翌日ダンジョンから戻ったらすぐにハンター協会へ来て欲しいとお願いされたとのことだった。
炎夏さんが言うには、20階層のボスにバジリスクが出たこと、そしてそれを討伐したことが青天の霹靂だったらしい。
それはそうだろう。
今まで誰が挑んでも倒すことが出来なかったバジリスクを、Gランクの弱小クランが討伐してしまったのだから。
まさかのジャイアントキリングに、ハンター協会本部長の駒澤さんも素直に信じることが出来ないらしい。
俺たちがハンター協会へ到着すると、駒澤さんと明神さんがすぐに出迎えてくれた。
そして、ハンター協会にある闘技場へ案内されて、ロックアップからバジリスクを出して欲しいとお願いされる。
俺は闘技場の真ん中まで行き、ロックアップからバジリスクを解放した。
「た、確かにこれはバジリスクだ」
「し、信じられませんね、本部長。まさかバジリスクが討伐される日が来るなんて……」
「あぁ、バジリスク討伐は俺たちの悲願だったからな」
そう言うと、駒澤さんは俺の方を向いて手を差し伸べてきた。
俺がその手を握ると、駒澤さんは俺たちを見回して、ゆっくりと口を開いた。
「詩庵くん。そして『清澄の波紋』のメンバーのお二人もありがとう。俺と明神にとってバジリスクの討伐は悲願だったんだよ」
駒澤さんは『覇道』とバジリスクの因縁を教えてくれた。
当時の、いや現在のハンターを含めても『覇道』は一番の実力があるパーティだった。それは、現在のSランクハンターが、26階層までしか進めていない嚥獄の30階層まで進んだのだから誰もが認めるところだろう。
しかし、30階層で対峙したバジリスクによって『覇道』の副リーダーでもあり、駒澤さんの恋人だった峯岸椿さんを殺されてしまったのだ。当時はまだダンジョンプレイがなかったため、ドローンで撮影をしていないのでどういう状況だったのかは、『覇道』のメンバー以外知るところではなかった。ギリギリ残っていたのが、『覇道』メンバーが撮影したバジリスクの姿のみだった。
椿さんは『覇道』の中でも母親的存在で、彼女がいたからこそパーティはまとまっていたのだという。
「俺たちが解散した本当の理由はこういうことだったんだよ。俺たちは心が折れてしまったが、いつかバジリスクを討伐してくれるハンターが現れることを信じてハンター協会に身を置いていたんだ」
悲しそうでもあり、嬉しそうな複雑な表情を浮かべながら、駒澤さんは俺の手を握る力を若干強めた。
「駒澤さんにどう声を掛けていいのか分かりません。ですが、バジリスクを倒すことが出来て良かった。今は心からそう思っています」
駒澤さんは再び「ありがとう」と感謝の言葉を口にすると、大きく頭を下げた。
その奥で涙を零している明神さんと目が合うと、駒澤さん同様にゆっくりと頭を下げてきた。
「――こんな湿っぽいと詩庵くんや、他のみんなが困っちまうよな! じゃあ、バジリスクをまたロックアップに入れたら、みんな会議室に来てくれるか? 今回の調査報告を詳しく聞かせてくれ」
さっきまでのしんみりとした空気をガラリと変えて、駒澤さんは快活に声を出すと俺たちを会議室に案内した。
そして、炎夏さんから調査結果を報告すると、恐らく虚無はSランクダンジョンに認定されるだろうということと、『龍の灯火』と『清澄の波紋』に関してはランクアップを検討するという旨が伝えられた。
報酬に関しても、1階層5万円だった報酬額が、1階層10万円に増額されることが伝えられた。
他にもそれぞれのパーティが討伐した、魔獣や鉱石の費用などが加算されるので、かなりの黒字収支になりそうだった。
また、バジリスクの換金に関しては時間をもらいたいということだった。
過去の事例がないため、イチから査定を行って換金額を決める必要があるためという理由だ。
こうして、初めて尽くしだった今回の合同調査のクエストは全てを終えた。
―
「しぃくん。そして黒衣ちゃんと瀬那ちゃんお疲れ様でした! そしてSランク昇格おめでとう!」
凛音はそう言うと、俺たちに向かって大砲のようなクラッカーを鳴らして祝ってくれた。
そう、俺たちはバジリスク討伐が評価されて、Gランクから一気にSランクへと昇格したのだ。
このことを知らされたのは、昨日、金曜日の放課後のことだった。
「明日より『清澄の波紋』をGランクからSランクへと昇格するものとする」
ハンター協会に到着した俺たちは、本部長の駒澤さんだけではなくハンター協会の瑞然路定会長を始めとする大物が勢揃いする大ホールへ連れてこられて、いきなりSランク昇格の発表が伝えられたのだった。
(Sランクに昇格すると、こんなに仰々しい感じになるの!?)
俺はまさかの展開にガッチガチになってしまう。
だって、今までランクアップしたときって、テロリンって感じでハンターギルドの通知で軽く教えてくれるくらいだったじゃん!
こんなことになるなんて想定外だよ!
あまりのことに緊張しながら、横目で駒澤さんを見るとニヤニヤとしているので、わざと俺たちに教えなかったっぽいな。
結果報告が終わった後に、合同パーティ全員の打ち上げをしたのだが、それ以外にもバジリスク討伐をしてくれたお礼にと、『清澄の波紋』のメンバー全員を食事に連れ行ってもらったので、駒澤さんと明神さんとはかなり親しい関係になっていたのだ。
(あのクソオヤジめっ!)
俺は憎々しげに睨むが、駒澤さんは全く意に介していないようで、口笛を吹く真似なんぞをしていたのだった。
とまぁ、こんな感じで、俺たち『清澄の波紋』は晴れてSランク昇格を果たしたのだ。
「思った以上に早くSランクに上がったよね!」
「あぁ、今回は完全に運が良かったな。まさか、合同調査で入ったダンジョンにSランクの魔獣が出るなんて思ってもみなかったしな」
「だけど、このチャンスを見逃さずに、しっかりと結果を残すところがみんなの凄いところだよ!」
凛音はベタ褒めしてくれるのだが、これはSランクになったから特別ということでもなく、例え低ランクダンジョンを踏破してもこのようにみんなのことを褒めてくれるのだ。
凛音の圧倒的褒め力は相当のものがあり、俺たちのモチベーションは常に最高の状態にあった。
多分なんだけど、駒澤さんのパートナーだった峯岸椿さんも、凛音みたいな存在だったんだろうなって思う。
もし凛音に何かあったら、『清澄の波紋』を続けられるか正直分からない。
「あと、もしハンター協会にオーラを察知したり、オーラの量を測定できる何かがあっても、何も言って来ないってことは偽装もバッチリできたみたいだね」
「あぁ、全部凛音のお陰だよ」
実は俺たちがバジリスクを倒したことで、詩庵たちが突然注目を集めることに危惧をした凛音が、オーラを擬似的に纏わせる『纏うんだ君』を作ってくれたのだ。
オーラがないのに魔獣と戦えるなんてことは通常あり得ないので、念の為にと以前から凛音が作ろうと思っていたものを前倒しで作ってくれたらしい。
これにより、今後ダンジョンで戦っていても、オーラを察知できる人がもしいたとしても欺くことは可能だろう。
確かに凛音は直接戦うことはない。
しかし、『清澄の波紋』を、そして俺たちを守ってくれているのは凛音であることに間違いはない。
それくらい凛音の存在はそれくらい大きいのだ。
これは俺一人ではなく、黒衣と瀬那も感じていることだった。
「それにしてもSランクになったはいいけど、これから俺たちに対する目が厳しくなるって言われたのは怖いよな」
Sランクの認定式が終わった後、駒澤さんに呼ばれて今後俺たちの身の回りで起きるであろう出来事を話してくれたのだ。
まず、注目度の高さだ。
GランクからSランクに昇格した旨は、本日ハンターギルドを通して発表されたのだが、その瞬間から掲示板はもちろん、テレビやニュースアプリなどで『清澄の波紋』が取り上げられたのだ。
そうなると俺がつい最近までレベル1だったことなどが、あっという間に広がって『清澄の波紋』の詩庵は本当にSランクの実力があるのだろうかというトピックスで話題になっている。
駒澤さんから、「掲示板とかは見ない方が心が疲れないぞ」というありがたいアドバイスをもらったので、俺は目を通していないのだが凛音が言うにはかなり酷い内容もあるらしい。
簡単に内容を教えてもらうと、俺はどうやら黒衣と瀬那に寄生している、パラサイトという渾名が付けられているらしい。
普通に考えて、つい最近までレベル1だったやつが、Sランクって確かに信じがたい気持ちは分かる。
分かるんだけど、パラサイトって酷いなって思うわけですよ。
そして、駒澤さんがいうには、Sランクになって一発目のダンジョンの結果が悪いと、相当のバッシングを受ける覚悟をしておいてくれとのことだった。
次に危惧した方が良いのが、他のハンターによるやっかみだという。
本来ならばあるまじき行為なのだが、急に評価されたハンターは嫉妬の対象になるらしく、ダンジョン内で妨害などの嫌がらせを受けることもあるらしい。
過去にあった事件でいうと、一気にランクアップしたパーティがダンジョン内でキャンプをしていると、深夜寝静まったところを見計らって別のハンターが結界石をズラして、キャンプ内を魔獣に襲わせたという悪質な犯罪まで起きていたらしい。
襲われたパーティはなんとか魔獣を退けたらしいが、それからは魔獣対策ではなくハンター対策として見張りを交代制で付けるのが一般的になったらしい。
なんとも嫌な理由の見張りである。
「ハンターをしているクセに陰湿な輩が多いのですね」
「他のハンターの妨害をするって、ちょっと普通じゃ考えられないわよね」
「だけど、一気にランクが上がったパーティやクランの洗礼らしいからな。間違いなく駒澤さんがいうようなことが起きるだろうな」
俺たちはダンジョンに潜る以外の、第三者による悪意のことを考えるとSランクになって嬉しかったのに、徐々にテンションが落ちてきてしまった。
そんな空気を変えるのは、やはり凛音だった。
「みんなを黙らせるために、やっぱり次からダンジョンプレイで配信しようよ! 高性能ドローンを用意しておくからさ! 詩庵くんたちの強さを全員に知らしめてやろうよ!」
ダンジョンプレイでの配信は、凛音が以前高ランクになったらやろうと言ってくれていたものだった。
画面越しだと霊装も見えないということも判明しているし、確かに今の俺たちが一気に周りを黙らせるのに一番効果的な方法かもしれない。
「そうなると、どこのダンジョンに潜るかが重要になってくるよな?」
「うん。やっぱりここは嚥獄じゃないかな? そこで誰も到達できなかった31階層目まで行っちゃおうよ!」
「確かにそれが一番わかりやすいかもな。嚥獄の30階層目のボスだし、レベルが20まで上がった今なら前回よりも楽に倒せると思うしな」
「さすが凛音さんですね。誰もが成し得なかった嚥獄の30階層目を我々で……いや、詩庵様だけで突破して、好き勝手言う奴らを分からせてやりましょう!」
「え? 俺一人で戦うのか?」
「うん。私も詩庵一人で戦って勝つのが一番良いと思うよ! 詩庵だったら次は絶対に一人で勝てるよ!」
うわぁ、みんなからの信頼が重い……。
だけど、こんな感じで無条件に信頼されるって最高に嬉しいよな。
だからこそ、こんな風に信頼してくれるみんなのことを、俺は裏切りたくないって思ってしまうのだ。
「分かった。じゃあ、次は嚥獄に潜ろう! 恐らく比較的長いことダンジョンに潜ることになるだろうし、念の為学校には確認を取らないとな」
「そうだね! 私も一緒に先生のところに行くね!」
「あぁ、俺たち全員で『清澄の波紋』だからな」
この日は凛音の門限までドンチャン騒ぎをしたのだが、隣の方に「五月蝿い!」と怒られてしまった。
うーん。
本格的にみんなが集まれる拠点が欲しくなってきたな。
バジリスクの換金額は2000万になったし、Sランクになったから倒した魔獣の換金額も高くなるだろう。
それならクランで大きめの拠点を借りることで経費扱いにすることも出来るしな。
よし、ちょっと本格的に考えてみるか!
前日にダンジョンの中で炎夏さんが調査結果の報告をしたところ、翌日ダンジョンから戻ったらすぐにハンター協会へ来て欲しいとお願いされたとのことだった。
炎夏さんが言うには、20階層のボスにバジリスクが出たこと、そしてそれを討伐したことが青天の霹靂だったらしい。
それはそうだろう。
今まで誰が挑んでも倒すことが出来なかったバジリスクを、Gランクの弱小クランが討伐してしまったのだから。
まさかのジャイアントキリングに、ハンター協会本部長の駒澤さんも素直に信じることが出来ないらしい。
俺たちがハンター協会へ到着すると、駒澤さんと明神さんがすぐに出迎えてくれた。
そして、ハンター協会にある闘技場へ案内されて、ロックアップからバジリスクを出して欲しいとお願いされる。
俺は闘技場の真ん中まで行き、ロックアップからバジリスクを解放した。
「た、確かにこれはバジリスクだ」
「し、信じられませんね、本部長。まさかバジリスクが討伐される日が来るなんて……」
「あぁ、バジリスク討伐は俺たちの悲願だったからな」
そう言うと、駒澤さんは俺の方を向いて手を差し伸べてきた。
俺がその手を握ると、駒澤さんは俺たちを見回して、ゆっくりと口を開いた。
「詩庵くん。そして『清澄の波紋』のメンバーのお二人もありがとう。俺と明神にとってバジリスクの討伐は悲願だったんだよ」
駒澤さんは『覇道』とバジリスクの因縁を教えてくれた。
当時の、いや現在のハンターを含めても『覇道』は一番の実力があるパーティだった。それは、現在のSランクハンターが、26階層までしか進めていない嚥獄の30階層まで進んだのだから誰もが認めるところだろう。
しかし、30階層で対峙したバジリスクによって『覇道』の副リーダーでもあり、駒澤さんの恋人だった峯岸椿さんを殺されてしまったのだ。当時はまだダンジョンプレイがなかったため、ドローンで撮影をしていないのでどういう状況だったのかは、『覇道』のメンバー以外知るところではなかった。ギリギリ残っていたのが、『覇道』メンバーが撮影したバジリスクの姿のみだった。
椿さんは『覇道』の中でも母親的存在で、彼女がいたからこそパーティはまとまっていたのだという。
「俺たちが解散した本当の理由はこういうことだったんだよ。俺たちは心が折れてしまったが、いつかバジリスクを討伐してくれるハンターが現れることを信じてハンター協会に身を置いていたんだ」
悲しそうでもあり、嬉しそうな複雑な表情を浮かべながら、駒澤さんは俺の手を握る力を若干強めた。
「駒澤さんにどう声を掛けていいのか分かりません。ですが、バジリスクを倒すことが出来て良かった。今は心からそう思っています」
駒澤さんは再び「ありがとう」と感謝の言葉を口にすると、大きく頭を下げた。
その奥で涙を零している明神さんと目が合うと、駒澤さん同様にゆっくりと頭を下げてきた。
「――こんな湿っぽいと詩庵くんや、他のみんなが困っちまうよな! じゃあ、バジリスクをまたロックアップに入れたら、みんな会議室に来てくれるか? 今回の調査報告を詳しく聞かせてくれ」
さっきまでのしんみりとした空気をガラリと変えて、駒澤さんは快活に声を出すと俺たちを会議室に案内した。
そして、炎夏さんから調査結果を報告すると、恐らく虚無はSランクダンジョンに認定されるだろうということと、『龍の灯火』と『清澄の波紋』に関してはランクアップを検討するという旨が伝えられた。
報酬に関しても、1階層5万円だった報酬額が、1階層10万円に増額されることが伝えられた。
他にもそれぞれのパーティが討伐した、魔獣や鉱石の費用などが加算されるので、かなりの黒字収支になりそうだった。
また、バジリスクの換金に関しては時間をもらいたいということだった。
過去の事例がないため、イチから査定を行って換金額を決める必要があるためという理由だ。
こうして、初めて尽くしだった今回の合同調査のクエストは全てを終えた。
―
「しぃくん。そして黒衣ちゃんと瀬那ちゃんお疲れ様でした! そしてSランク昇格おめでとう!」
凛音はそう言うと、俺たちに向かって大砲のようなクラッカーを鳴らして祝ってくれた。
そう、俺たちはバジリスク討伐が評価されて、Gランクから一気にSランクへと昇格したのだ。
このことを知らされたのは、昨日、金曜日の放課後のことだった。
「明日より『清澄の波紋』をGランクからSランクへと昇格するものとする」
ハンター協会に到着した俺たちは、本部長の駒澤さんだけではなくハンター協会の瑞然路定会長を始めとする大物が勢揃いする大ホールへ連れてこられて、いきなりSランク昇格の発表が伝えられたのだった。
(Sランクに昇格すると、こんなに仰々しい感じになるの!?)
俺はまさかの展開にガッチガチになってしまう。
だって、今までランクアップしたときって、テロリンって感じでハンターギルドの通知で軽く教えてくれるくらいだったじゃん!
こんなことになるなんて想定外だよ!
あまりのことに緊張しながら、横目で駒澤さんを見るとニヤニヤとしているので、わざと俺たちに教えなかったっぽいな。
結果報告が終わった後に、合同パーティ全員の打ち上げをしたのだが、それ以外にもバジリスク討伐をしてくれたお礼にと、『清澄の波紋』のメンバー全員を食事に連れ行ってもらったので、駒澤さんと明神さんとはかなり親しい関係になっていたのだ。
(あのクソオヤジめっ!)
俺は憎々しげに睨むが、駒澤さんは全く意に介していないようで、口笛を吹く真似なんぞをしていたのだった。
とまぁ、こんな感じで、俺たち『清澄の波紋』は晴れてSランク昇格を果たしたのだ。
「思った以上に早くSランクに上がったよね!」
「あぁ、今回は完全に運が良かったな。まさか、合同調査で入ったダンジョンにSランクの魔獣が出るなんて思ってもみなかったしな」
「だけど、このチャンスを見逃さずに、しっかりと結果を残すところがみんなの凄いところだよ!」
凛音はベタ褒めしてくれるのだが、これはSランクになったから特別ということでもなく、例え低ランクダンジョンを踏破してもこのようにみんなのことを褒めてくれるのだ。
凛音の圧倒的褒め力は相当のものがあり、俺たちのモチベーションは常に最高の状態にあった。
多分なんだけど、駒澤さんのパートナーだった峯岸椿さんも、凛音みたいな存在だったんだろうなって思う。
もし凛音に何かあったら、『清澄の波紋』を続けられるか正直分からない。
「あと、もしハンター協会にオーラを察知したり、オーラの量を測定できる何かがあっても、何も言って来ないってことは偽装もバッチリできたみたいだね」
「あぁ、全部凛音のお陰だよ」
実は俺たちがバジリスクを倒したことで、詩庵たちが突然注目を集めることに危惧をした凛音が、オーラを擬似的に纏わせる『纏うんだ君』を作ってくれたのだ。
オーラがないのに魔獣と戦えるなんてことは通常あり得ないので、念の為にと以前から凛音が作ろうと思っていたものを前倒しで作ってくれたらしい。
これにより、今後ダンジョンで戦っていても、オーラを察知できる人がもしいたとしても欺くことは可能だろう。
確かに凛音は直接戦うことはない。
しかし、『清澄の波紋』を、そして俺たちを守ってくれているのは凛音であることに間違いはない。
それくらい凛音の存在はそれくらい大きいのだ。
これは俺一人ではなく、黒衣と瀬那も感じていることだった。
「それにしてもSランクになったはいいけど、これから俺たちに対する目が厳しくなるって言われたのは怖いよな」
Sランクの認定式が終わった後、駒澤さんに呼ばれて今後俺たちの身の回りで起きるであろう出来事を話してくれたのだ。
まず、注目度の高さだ。
GランクからSランクに昇格した旨は、本日ハンターギルドを通して発表されたのだが、その瞬間から掲示板はもちろん、テレビやニュースアプリなどで『清澄の波紋』が取り上げられたのだ。
そうなると俺がつい最近までレベル1だったことなどが、あっという間に広がって『清澄の波紋』の詩庵は本当にSランクの実力があるのだろうかというトピックスで話題になっている。
駒澤さんから、「掲示板とかは見ない方が心が疲れないぞ」というありがたいアドバイスをもらったので、俺は目を通していないのだが凛音が言うにはかなり酷い内容もあるらしい。
簡単に内容を教えてもらうと、俺はどうやら黒衣と瀬那に寄生している、パラサイトという渾名が付けられているらしい。
普通に考えて、つい最近までレベル1だったやつが、Sランクって確かに信じがたい気持ちは分かる。
分かるんだけど、パラサイトって酷いなって思うわけですよ。
そして、駒澤さんがいうには、Sランクになって一発目のダンジョンの結果が悪いと、相当のバッシングを受ける覚悟をしておいてくれとのことだった。
次に危惧した方が良いのが、他のハンターによるやっかみだという。
本来ならばあるまじき行為なのだが、急に評価されたハンターは嫉妬の対象になるらしく、ダンジョン内で妨害などの嫌がらせを受けることもあるらしい。
過去にあった事件でいうと、一気にランクアップしたパーティがダンジョン内でキャンプをしていると、深夜寝静まったところを見計らって別のハンターが結界石をズラして、キャンプ内を魔獣に襲わせたという悪質な犯罪まで起きていたらしい。
襲われたパーティはなんとか魔獣を退けたらしいが、それからは魔獣対策ではなくハンター対策として見張りを交代制で付けるのが一般的になったらしい。
なんとも嫌な理由の見張りである。
「ハンターをしているクセに陰湿な輩が多いのですね」
「他のハンターの妨害をするって、ちょっと普通じゃ考えられないわよね」
「だけど、一気にランクが上がったパーティやクランの洗礼らしいからな。間違いなく駒澤さんがいうようなことが起きるだろうな」
俺たちはダンジョンに潜る以外の、第三者による悪意のことを考えるとSランクになって嬉しかったのに、徐々にテンションが落ちてきてしまった。
そんな空気を変えるのは、やはり凛音だった。
「みんなを黙らせるために、やっぱり次からダンジョンプレイで配信しようよ! 高性能ドローンを用意しておくからさ! 詩庵くんたちの強さを全員に知らしめてやろうよ!」
ダンジョンプレイでの配信は、凛音が以前高ランクになったらやろうと言ってくれていたものだった。
画面越しだと霊装も見えないということも判明しているし、確かに今の俺たちが一気に周りを黙らせるのに一番効果的な方法かもしれない。
「そうなると、どこのダンジョンに潜るかが重要になってくるよな?」
「うん。やっぱりここは嚥獄じゃないかな? そこで誰も到達できなかった31階層目まで行っちゃおうよ!」
「確かにそれが一番わかりやすいかもな。嚥獄の30階層目のボスだし、レベルが20まで上がった今なら前回よりも楽に倒せると思うしな」
「さすが凛音さんですね。誰もが成し得なかった嚥獄の30階層目を我々で……いや、詩庵様だけで突破して、好き勝手言う奴らを分からせてやりましょう!」
「え? 俺一人で戦うのか?」
「うん。私も詩庵一人で戦って勝つのが一番良いと思うよ! 詩庵だったら次は絶対に一人で勝てるよ!」
うわぁ、みんなからの信頼が重い……。
だけど、こんな感じで無条件に信頼されるって最高に嬉しいよな。
だからこそ、こんな風に信頼してくれるみんなのことを、俺は裏切りたくないって思ってしまうのだ。
「分かった。じゃあ、次は嚥獄に潜ろう! 恐らく比較的長いことダンジョンに潜ることになるだろうし、念の為学校には確認を取らないとな」
「そうだね! 私も一緒に先生のところに行くね!」
「あぁ、俺たち全員で『清澄の波紋』だからな」
この日は凛音の門限までドンチャン騒ぎをしたのだが、隣の方に「五月蝿い!」と怒られてしまった。
うーん。
本格的にみんなが集まれる拠点が欲しくなってきたな。
バジリスクの換金額は2000万になったし、Sランクになったから倒した魔獣の換金額も高くなるだろう。
それならクランで大きめの拠点を借りることで経費扱いにすることも出来るしな。
よし、ちょっと本格的に考えてみるか!
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