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新しい日常

第13話:二学期

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 部活がなかった夏休みは、思った以上に長く感じたが、新学期がいざ始まると名残惜しくなって来る。
 夏休みと言っても、悟たちと4人でプール行ったり、好ちゃんと一緒に映画館へ遊びに行ったくらいで、残りはほとんどを奏と勉強をしていた。

 勉強しているときの奏の集中力は凄まじく、それに引っ張られるような形で俺も深く勉強に向き合うことが出来た。そして、夏の最後に奏と受けた全国統一模試では、お互いに成績を上げることに成功した。

 そしてもうひとつ、夏休みが終わってちょっとした変化があった。



 -



『ピンポーン』


 インターホンを鳴らすと、扉の奥からドタバタと大きな音が近づいて来る。


「ゆーくん、お待たせ。じゃあ、学校に行こうか?」


 実は一学期は一人で登校していた俺だったが、二学期からは奏と一緒に学校へ行くことになったのだ。誰かと通学するのは久しぶりで、何だか嬉しくなってしまい、奏の顔を見たらだらしなくニヤケてしまった。


「何ニヤニヤしてるの?」

「いや、こうやって誰かと一緒に学校に行くのが久しぶりでさ、なんか嬉しくなっちゃったんだよな」

「ゆーくん、一学期寂しかったんだね? 私がいつも学校ギリギリじゃなかったら一緒に行ったのに、ごめんね」


 そう。奏は朝がとても苦手なのだ。
 普段の学校にはいつもギリギリで登校するのに、行事やイベントごとがあるときだけは、なぜか早起きするのが不思議に思っていた。そのことを奏に聞いてみると、テンションが上がってしまい、寝ては起きてを繰り返していただけらしい。


「いや、いいよ。けど朝弱いのに、今日は大丈夫だったんだな? かなり待つのを覚悟してたんだが」

「もう、私のことをなんだと思ってるのよ! 私だって、やろうと思ったら出来るんだからね!」


 プリプリとしながら横を向いてしまうが、すぐに「なんか楽しいね」と微笑んできた。そんな奏が可愛らしくて「そうだな」と言いながら、俺は自然と奏の頭を撫でてしまう。奏は気持ちよさそうに目を細めて、抵抗することなく撫でられている。そして耳元に手が触れてしまうと、「ん」と小さく声をあげた。

 俺はその言葉で我に返って、自然に奏の頭を撫でていたことに、自分のことながら吃驚してしまった。


「あ、頭なんて撫でちまって悪かった」

「良いんだよ。なんか幸せな気持ちになれたから、これからはもっと頭撫でてくれたって良いんだからね?」

「ぜ、善処させてもらうな」


 夏祭りが終わってから、自分のしたいことを遠慮なしに伝えて来るようになった。それからというもの、俺は奏に狼狽されることが多くなってしまったのだ。
 だけど、それは決して嫌な気分になるものではなく、この先もずっと俺にだけ我儘を言って欲しいな、と心の底では願っている。



 -



「おっ、おはよっす。この間の勉強会以来だな!」


 期末テスト前に4人で集まった俺たちは、夏休みも定期的に集まって勉強会を開いていたのだ。その発起人は意外にも田貫さんだった。


「あれからもちゃんと勉強してたか?」

「一応な。だって俺だって大学に受かりたいもんよ!」

「だな。けど奏は本当に凄かったぞ? お前は受けなかったけど、全国模試の判定がかなり上がってたからな」

「ふふーん。そうだよ、悟くん。夏休みにたくさん勉強したから、志望校の判定がBに上がったんだから!」


 腰に手を当てて、華麗なドヤ顔を見せつける奏がそこにいた。


「マジかよ! 美山さん凄いな……。俺も模試受けておけば良かったかなぁ」

「まぁ、次もあるしさ。そのときは悟くんも一緒に受けようよ!」

「あぁ、そのときは俺も絶対に受けることにするわ。だけど、俺の学力で大丈夫か不安だよ……」

「三島くんも本気見せないと一人で浪人しちゃうかもよ?」

「あっ、梢ちゃんだ! おはよー」


 いつの間にか田貫さんが俺たちの隣に並んで、ナチュラルに会話に入って来た。田貫さんって、たまに気配を消すことあるよな……。


「うん、おはよ。奏ちゃんは夏休み本当に頑張ってたよね。私もたくさん刺激をもらったよ。だからさ、もし良かったら、二学期になってからもまた皆で勉強会をやりたいなって思うんだけど、どうかな?」

「良いね! やろうよ! 私みんなと勉強したから、モチベーションも結構上がったんだよね」

「あっ、俺も! 田貫さんと優李の教え方が上手かったからマジで助かるんだよ」


 4人での勉強は俺もやって本当に良かったと思ってる。今まで苦手だった教科も田貫さんに教えてもらえて成績アップしたし。奏と一緒に勉強をしていると、あいつが分からないところを俺が教えることで、その教科の理解力が深まるんだけど、俺が分からないところは自分で調べるしかなかったから効率が悪かったんだよな。なので、4人の勉強会に俺が不満なんてあるわけがなかった。


「じゃあ、週1か2でまた図書館で勉強するか?」

「いつも図書館だとあまり話ができないから、2週に1回くらいはファミレスにまた行こうぜ!」

「そうね。勉強もいいけど、やっぱり勉強終わりの何気ない会話が楽しかったわよね」

「うんうん! そうしよう!」


 勉強のことを話題にしているのに、さも遊びに行くくらいのテンションで楽しく話せているのが不思議だった。だけど、多分この4人ならどんな話題でも楽しく話せるんだろうな。
 正直一学期が始まったときは、学校に行くのが億劫で仕方なかったけど、こんなにも楽しいって思わせてくれるこの3人には本当に感謝しかないよ。


「そういえば、文化祭の出し物とか決めるのそろそろだったよね?」

「あぁ、高校ラストの文化祭だし、最高の思い出を作りたいよな!」

「うん。最後だもんね。絶対に良い文化祭にしたいな」

「やっぱりベタだけど、メイド喫茶とかいいよなぁ。メイド服を着た女の子ってなんであんなに可愛くなるんだろうな?」

「えぇ、悟くんなんかちょっとエッチな顔してて嫌なんですけどぉ」


 奏と田貫さんがジト目で悟のことを睨みつけている。その視線に動揺した悟は、ワタワタとしながら「優李だって分かるよな?」と必死に同意を求めて来たので、俺は「さぁな」とボカしてやった。

 だけど、本音を言うと、奏と田貫さんのメイド服なら俺もめちゃくちゃ見たい! はっきり言って土下座して、お金も払って良いレベルだ。俺がそんなことを考えていると、「ゆーくんもちょっとエッチな顔してる」と奏に言われてしまった。くそ、完璧な俺のポーカーフェイスも奏の前だと意味をなさないのか……。


「まぁ、どうなるか分からないけど、絶対に最高の文化祭にしような!」


 俺は誤魔化すようにみんなに向けて高らかに宣言するのだった。
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