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第34話 レベルの差

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「レベル26……大したものだが、一つ教えてやろう。私のレベルは45だ。20近いレベル差を覆せるわけがなかろう?」

 不良としての本能が「こいつは俺よりも強い」というのは英成も戦う前から分かっていた。
 この世界に来て、レベルとやらを知り、そして英成もそのレベルの向上で強くなったと自身でも自覚していた。

「っ、うるせーよ……半端な数字でドヤッてるんじゃねえよ。レベル差で絶望させてえなら、せめて53万とでも言ってろよ」

 しかしだからこそ、なおのこと目の前の女騎士は自分よりも遥かに格上であるというのは戦う前から分かっていた。
 ならば、なぜそれでも戦うのか?

(……認められるか……こんな女が……サンよりも……コウよりも……ノブよりもツエーだなんて……)

 これまで喧嘩した誰よりも強い。しかし、それを英成は受け入れられなかったからだ。
 だからこそ、いつものように反逆の牙を剥き出しに噛みついた。
 自分が目の前の女に屈服するということは、自分の唯一の誇りでもあった四王者という名前すらも穢すことになるからだ。

「っ、はあ、はあ……げほっ……この女ぁ……」

 肩で息をし、顔を青黒く腫らした英成。その眼前には冷たく見下ろしている女騎士。
 その騎士としての誇りである剣は地面に置き、まさに英成の領域である腕っぷしだけで英成を圧倒していた。

「どるあァあああ! ぜやァ! らぁ! うらァ!」
「ふん、醜いものだな……」

 遮二無二拳を振り回す英成。しかし、アクメルは一切揺らぐことなく軽々と全てを避ける。
 空振りばかりで相手にまるでダメージを与えられない。
 本来であれば「女相手に殴れるか」という英成だが、今はそんなこと関係なく、本気で当てようとしてもまるでアクメルに触れることすらできなかった。

「……強い……技術というよりは、腕力とスピードなどの身体能力……何よりも喧嘩に対してまるでノープレッシャー……これが、異世界のプロということですか……」

 刹華もまた、女騎士アクメルの強さに戦慄していた。
 まさに、レベルという数字が示す通り、英成を遥かに凌駕するレベルの持ち主であることと、その差をまざまざと示していた。

「ふん!」
「うごぉ!?」

 英成の腹に、アクメルの拳がめり込んだ。
 それは「まだ負けちゃいねえ。俺はまだやれる」とイキって抵抗していた英成の膝をつけるほどの力。

「どうした? もう、終わりか?」

 悠然と見下ろしながら、アクメルは言う。
 会心の一撃とかみぞおちに入ったとかそういう問題じゃない。

(が、やべ……吐く……なんつう、パンチだよ、こいつ……これ、本当に女か?)

 威勢の全てが頭から吹き飛ぶような衝撃。立ち上がることを全身が拒否していた。

「って……この……」

 まだ立ち上がれない。英成の全身から脂汗が止まらない。

「おとーさん!」

 その時だった。

「ちょ、オルタ……」
「オルタちゃん、危ないよぉ!」

 オルタが泣きそうに、英成に抱きつく。
 アクメルはオルタの存在に少々驚いているようだ。

「う~~、アクメル、おとーさんをイジめるの、ダメ! 仲良く!」
「ぬっ……先程から気になっていたが……貴様、それほど愛らしい娘が居ながら、無垢な娘たちを辱め、悪事に手を染めているのか!」
「おとーさん、悪くないもん! おとーさんは、コウテイだもん!」

 オルタの突然の乱入に戸惑うアクメル。オルタは、両手を広げてアクメルの前に立つ。

「誰が……イジめられてるだ……コラ……」
「おとーさん!」
「確かにビックリな強さだよ……今のパンチだって、腹が無くなったかと思った……街で四王者のコウにもらったボディーブローとかの次元じゃねえ……」
「ほう……手ごたえはあったが、まだ立つか?」
「ガキに心配されてりゃあ、嫌でも立つさ」

 四歳のオルタに心配されるなど、プライドが許さなかった。

「まあ……単車ぶつけられた時と比べりゃあ、どってことねえよ」

 ただ、それで何ができるわけでもなかった。
 英成の笑みが消えた。それどころか、両膝がガクガクと震えて立っているのも精一杯だ。
 だがしかし、笑みは消えても英成には消えないものがあった。

「子供か。子連れで悪事を行うなど、恥を知れ」
「うるせえ、かかって来いよ。逆に大恥かかせてやるよ」

 英成の消えないもの。それは不良としての反逆精神。それだけが今の英成を支えていた。

「俺は四王者の皇帝、志鋼英成だァ! あの街最強の四人の一人、俺を見下してんじゃねええ!」 

 だが……

「それが……どうした!」
「ッ!?」

 猛然と狂暴な獣のように正面から襲い掛かる英成に対し、アクメルもまた正面から拳を振り上げ……

「宣言通り土になれ!」

 振り下ろされた拳骨により、英成の脳天から多くの血が弾け飛んだ。

「っ、英成くん!」

 次の瞬間、刹華も走り出していた。
 体が勝手に動いていた。
 それだけ「まずい」と思ったのだ。

「この男のツレの女か……お前もこの男に辱められているのではないのか?」

 接近する刹華を一瞥して睨むアクメル。即座に身構え……


「ふっ、あいにくですね。私は勝手に彼に惚れて、望んで抱かれて、好きで爛れた関係になっているんですよ!」

「なんと……ならば……向かってくるなら敵として処理する」


 アクメルが拳を突き出す。
 速く、そして重く、大きなプレッシャーを纏っている。
 あらゆる格闘技を身に着けている刹華には、その一撃をもし受けた場合の被害を受けずとも分かる。

「レベルに差があるのならば……柔よく!」
「ぬっ……」
「柔よく剛を制す!」

 だからこそ、英成のように馬鹿正直に真正面からなどという自殺行為はしない。
 柔道……合気……柔術……相手の力を利用し、

「我の拳を……受け流して―――ぬおっ!?」
「天空一本背負いッ!!」

 相手を制圧する技の選択肢ならば、刹華には数多くあった。
 そして、その数多くの選択肢全てが……

「ふんっ!」
「っ、ぐ……な?! 投げられている最中に旋回して逃れ……!?」
「面白い技を使うな……少々驚いた」

 アクメルには何一つ通用しない。

「レベル20か……実に中途半端に手加減できぬレベルゆえ……許せ!」
「ッ!?」
 
 一本背負い中に空中で自らコマのように回転して刹華から逃れたアクメルは、そのまま刹華の後頭部を掴み、容赦なく刹華の顔を地面に叩きつけた。

「せつ……か……ッ! 刹華ァ!」

 その瞬間、地に平伏した英成はその光景に大きく目を見開き……


「テメエええええ! 俺の女になにしやがラァァァ!!!!」

「吠えるな、雑魚め」

「――――――ッ!?」


 そして――――
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