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4章 港湾都市アイラ編
158話 決別
「執政官殿、弁明を聞きましょうか?」
「……シン殿、面会の許可も無くやって来たことには目を瞑ろう。しかしイキナリどうしたのだ?」
入室許可も待たずに執務室に上がりこむシンに対し執政官は、書類に目を通しながら多少の不機嫌さを声に含めながらも冷静に応対する。
ただ、そんなタレイアとは対照的に不機嫌さを隠そうともしないシンは、見下すような眼差しでタレイアに問いただす。
説明ではなく弁明を──
弁明、シンにとってはもう事の是非がどうこうではなく、暴挙に対しての詰問であり、糾弾のつもりで来訪、初対面で被っていた猫の毛皮はどこにも無かった。
それでも最低限、慇懃な言葉遣いだけは崩しはしなかったが。
「……聡明な執政官閣下に私の怒りがご理解いただけないのは痛恨の極みですな。さて、どこから話し始めれば貴方の理解力に相応しいことやら」
……前言撤回、完全に相手を煽っていた。
無論タレイアもシンの挑発に一瞬で頭に血が上ったものの、相手の今回の功績と父の後ろ盾と言う見えない力を慮り、自分が年上と言う事も加味して踏みとどまって言葉を紡ぐ。
「その物言いで貴公が随分と怒っているのは理解した。それで一体、キミは何に対してそれほど怒っているのだ? 言っておくが私も暇では無いので簡潔に頼む。私の頭でも理解できるようにな」
バチバチッ──!!
タレイアの言葉も多分にトゲが含まれており、既に一触即発といってもいい。もしここに補佐官なり部下がいれば即刻警備兵を呼ばれてシンは外に放り出されていたかもしれない。
「──「歯の卵」、アレを大量生産とはどういう了見だ? アンタは馬鹿じゃないと思っていたが、それは俺の勘違いか?」
「その件か──キミこそ何を言ってる? アレの需要は既に今の供給量では到底追いつかないのだ、生産量を増やす事に何の異論がある?」
「目先の利益に囚われて全体を見誤るんじゃねえ! あれが今あの価格で売れてるのはそれこそ希少性と欲しがる相手のニーズに合致してるからだ。大量に出回るようになれば今の価格じゃ売れなくなるのが解らねえのか!?」
興奮して丁寧な言葉使いを止めたシンをタレイアは咎める事も無く、むしろ自分も感情をぶつけるように大声で怒鳴り返す。
「キミこそ大局が見えておらんな! すでにアレを求める客の中には「生産が追いつかない」で納得してくれない身分の者もいるんだ! それこそさる大国のようにな……それに、価格が安くなったとしてそれがどうだと言うのだ。だからこその大量生産では無いか!」
「帝国の圧力がなんだってんだ!? 交渉相手にビビッてんなら連合の代表に泣き付けばいいだろうが、何の為の連合組織だと思ってんだ? それに、せっかく農民達の負担を減らしたと思えばまた馬車馬のように働けってか? ふざけんな!!」
「ふざけているのはどっちだ! 仕事とは汗水たらして働くものだ、楽な仕事で大金を得ようとすれば、それはもう労働ではない!」
「テメエが農民・漁民の仕事を語ってんじゃねえよ! 一度でもその細っこい腕でクワを握った事があんのか、網を引いた事があんのかよ!?」
2人の怒鳴りあう声はさすがに外にも響き渡り、何事かと数名が集まってくる。
当の2人はそんな事をお構い無しに互いに主張をぶつけ合い相手を非難するが、結局のところ経営者、それも大企業のトップ目線しかもてない執政官と、前世の職歴はあれど基本、労働者階級の生まれであるシンでは足元がまるで違うために歩み寄る事など出来ない。
「2人ともお止めなさい! シン殿、いかに貴方がアイラの経済立て直しの立役者と言えど、それ以上執政官に対しての暴言は見過ごせませんよ?」
「クレイス……」
「補佐官……」
「それにシン殿、かの製法を広めて大量生産を行う、これは既に各漁村に通達済みの事であり、今さら撤回する事など出来ません。それこそあの村に対する風当たりも強くなりますよ?」
「ちっ……クソが!」
現在、歯の卵の製造を行っているのはサイモンの漁村のみである。
歯の卵が高値で取引されている商品なのは誰もが知っており、それの製造を一手に引き受ける村がその恩恵を独占している、と思われるのは無理からぬ事である。事実、その大半の利益を行政府に流れているとしても利益が無いと言う訳ではない、連日大漁が続いている程度の収入は確約されている。
今までそれが問題視されなかったのは偏に、それが上からの指示という盾が存在していたからで、その上が今度は大量生産にシフト変更する、他の漁村でも作らせる、と言ってしまえば製法を公開しないと言うのは立場上不可能になってしまう。
兎にも角にも中小の町や村は、横の繋がりを断たれては直ぐに立ち行かなくなってしまうのだから……。
「シン殿、キミの言い分も判らないではないが、残念ながらそれはあくまで商売に限った上での理論だ。こちらは政治、それも外交に関わる事なのでね、キミの出番は無い」
「それで一体、誰が納得するってんだ?」
「件の村以外は諸手を挙げて賛成しているとも、あの村とて、自分だけが恩恵に預かっていることが逆に枷となっているのではないのかね? 恩義のあるキミの手前、口にしないだけで?」
「だから、それをするにしても早すぎる! 最初に決めただろうが、最低でも1年はこの方針で進めると!?」
いずれ公開するにしても、それは充分に末端の生産者の財布の中が厚くなっていないと、いざ大量生産に舵をきった時、商人に買い叩かれるのは分かりきっている。
商品の仕入れ値の決定権は富める側が持っている、貧しい側は、ソレを使って急いで儲けたいが為に相手側の言い値に擦り寄らなくならなければならないからだ。
現在、需要に対して供給が追いつかないためにこちらの提示する価格が受け入れられているものの、大量生産をすればその前提が崩れる、いや、もっと最悪なのは生産拠点を増やした事で秘密が確実に漏れる。
サイモンの村は不況時にも村を出る者がいないほどに結束が強く、その為秘密も守られたが他の村までそうと言える保証は無い。
たった一人、家族が遊んで暮らせるだけの金を提示されて製法をばらすだけで、たちまち世界中にそれは広まり、薬の価値が薄れる。
そうなるとサメの乱獲も始まるだろう、画期的な技術が及ぼす自然環境の変化にまで目を向ける者などコチラには存在しない、せいぜいがそれを生業とする漁師・農家・猟師たちくらいである。
「計画どおりに物事が進まないのは現場に近いキミの方が良くわかっているでしょう? 確かにキミは案を出したかもしれないが、実際に金と人を使って動いたのは我等だ。まさか、なんの責任も負わない安全な場所にいながら、計画が少し変更になったからといって話が違うなどと喚くような愚者ではないだろうね?」
そう言われてはシンも返す言葉が無い。
もともと案は出したものの、成功しようが失敗しようがシンにとってはどちらでも構わなかった。たまたま知り合いがこの地に移り住んでいたため、自己満足のようなもので勝手に動いていただけなのだから。
彼等に「部外者が口を挟むな」と言われれば、言い返す言葉をシンは持っていない。
シンとしては引き下がるしかなかった。
「……なるほど、俺は用済みと言いたいわけか?」
「キミがタレイア様の部下としてこの街でその才覚を振るってくれると言うのであれば、私達は喜んでキミの手を握るだろうね」
「あいにく、アンタ等に差し出す手は持ち合わせちゃいねえよ!」
「そうかね、残念だ……さて、お帰りはあちらだよ」
「言われなくても!!」
肩を怒らせ鬼の形相で退出するシンを呼び止める者はおらず、誰もが眉を顰めながらもその後姿を見送るのみであった。
「……申し訳ありませんタレイア様、説明をする前にどこからか彼の耳に届いたようでして、説得する前にこちらに直接赴いた様でございます」
「いや、構わない。あの剣幕では説得できたかどうかも怪しいものだしな……結局物別れに終わったが、これからの事を考えればむしろこれで良かったのかもしれぬ」
頭を下げるクレイスを制し、タレイアはそう告げる。
シンとのやり取りを思い出し、ヤレヤレとばかりに頭を振る仕草はまるで、聞き分けの無い弟に苦慮する姉の様でもあったが、実際そのような心境だったのかもしれない。
(恐らく、彼は今まで失敗をした事が無いのだろう、若く、才能も豊かではそれも仕方の無い事だが……)
計画を変更した事をあれほどまでに糾弾するシンを見て、タレイアは彼に対してそんな感想を抱いた。
むしろ現場をよく知り、その薄汚さをよく知っているからこそのシンの言葉なのだが、デキる父の背中を見て育ったタレイアは政治の厳しさばかりに目を向け、そういった現場の泥臭さを甘く見ているのだが、それを責める程に現場を知る人間は今この周りにいなかった。
「ともあれ、我等がするべきは「歯の卵」の製法を村の者に開示させ、それを元に大量生産、そして各国に大々的に売り出すことです。そうすれば次第に価格も安価に落ち着き、庶民にも手の届く便利な薬として人々の生活を助ける事になるでしょう」
「そうだな、庶民の生活向上、これなくして都市の繁栄など望むべくも無い。皆、忙しくなるだろうが頑張ってもらうぞ!」
「「──はっ!!」」
──庶民の生活向上──
執政官の政治信条に私利私欲の面は無く、全てはあくまで庶民の為よかれと思っての行動である。
悲しむべき点があるとすれば、彼女は支配者の側にしか立った事が無く、現場の声を報告書と言う文字でしか知らない。
そんな彼女がシンと解り合えるはずも無く、シンを野に放つ事になるのだが、それがどういう意味を持つのかは今の段階では誰にもわからない。
一方、シンの方はと言えば──
「やれやれ、まあ話を聞いた段階でこうなるのは想定内だけどもさ……」
さっきまでの怒りの表情はどこへやら、あっけらかんとしたもので。
「あいにく売られたケンカを買うつもりは無いけど、痛い目にはあってもらうぜ?」
──その日から、シンはアイラをはじめ周辺地域から姿を消した。
「……シン殿、面会の許可も無くやって来たことには目を瞑ろう。しかしイキナリどうしたのだ?」
入室許可も待たずに執務室に上がりこむシンに対し執政官は、書類に目を通しながら多少の不機嫌さを声に含めながらも冷静に応対する。
ただ、そんなタレイアとは対照的に不機嫌さを隠そうともしないシンは、見下すような眼差しでタレイアに問いただす。
説明ではなく弁明を──
弁明、シンにとってはもう事の是非がどうこうではなく、暴挙に対しての詰問であり、糾弾のつもりで来訪、初対面で被っていた猫の毛皮はどこにも無かった。
それでも最低限、慇懃な言葉遣いだけは崩しはしなかったが。
「……聡明な執政官閣下に私の怒りがご理解いただけないのは痛恨の極みですな。さて、どこから話し始めれば貴方の理解力に相応しいことやら」
……前言撤回、完全に相手を煽っていた。
無論タレイアもシンの挑発に一瞬で頭に血が上ったものの、相手の今回の功績と父の後ろ盾と言う見えない力を慮り、自分が年上と言う事も加味して踏みとどまって言葉を紡ぐ。
「その物言いで貴公が随分と怒っているのは理解した。それで一体、キミは何に対してそれほど怒っているのだ? 言っておくが私も暇では無いので簡潔に頼む。私の頭でも理解できるようにな」
バチバチッ──!!
タレイアの言葉も多分にトゲが含まれており、既に一触即発といってもいい。もしここに補佐官なり部下がいれば即刻警備兵を呼ばれてシンは外に放り出されていたかもしれない。
「──「歯の卵」、アレを大量生産とはどういう了見だ? アンタは馬鹿じゃないと思っていたが、それは俺の勘違いか?」
「その件か──キミこそ何を言ってる? アレの需要は既に今の供給量では到底追いつかないのだ、生産量を増やす事に何の異論がある?」
「目先の利益に囚われて全体を見誤るんじゃねえ! あれが今あの価格で売れてるのはそれこそ希少性と欲しがる相手のニーズに合致してるからだ。大量に出回るようになれば今の価格じゃ売れなくなるのが解らねえのか!?」
興奮して丁寧な言葉使いを止めたシンをタレイアは咎める事も無く、むしろ自分も感情をぶつけるように大声で怒鳴り返す。
「キミこそ大局が見えておらんな! すでにアレを求める客の中には「生産が追いつかない」で納得してくれない身分の者もいるんだ! それこそさる大国のようにな……それに、価格が安くなったとしてそれがどうだと言うのだ。だからこその大量生産では無いか!」
「帝国の圧力がなんだってんだ!? 交渉相手にビビッてんなら連合の代表に泣き付けばいいだろうが、何の為の連合組織だと思ってんだ? それに、せっかく農民達の負担を減らしたと思えばまた馬車馬のように働けってか? ふざけんな!!」
「ふざけているのはどっちだ! 仕事とは汗水たらして働くものだ、楽な仕事で大金を得ようとすれば、それはもう労働ではない!」
「テメエが農民・漁民の仕事を語ってんじゃねえよ! 一度でもその細っこい腕でクワを握った事があんのか、網を引いた事があんのかよ!?」
2人の怒鳴りあう声はさすがに外にも響き渡り、何事かと数名が集まってくる。
当の2人はそんな事をお構い無しに互いに主張をぶつけ合い相手を非難するが、結局のところ経営者、それも大企業のトップ目線しかもてない執政官と、前世の職歴はあれど基本、労働者階級の生まれであるシンでは足元がまるで違うために歩み寄る事など出来ない。
「2人ともお止めなさい! シン殿、いかに貴方がアイラの経済立て直しの立役者と言えど、それ以上執政官に対しての暴言は見過ごせませんよ?」
「クレイス……」
「補佐官……」
「それにシン殿、かの製法を広めて大量生産を行う、これは既に各漁村に通達済みの事であり、今さら撤回する事など出来ません。それこそあの村に対する風当たりも強くなりますよ?」
「ちっ……クソが!」
現在、歯の卵の製造を行っているのはサイモンの漁村のみである。
歯の卵が高値で取引されている商品なのは誰もが知っており、それの製造を一手に引き受ける村がその恩恵を独占している、と思われるのは無理からぬ事である。事実、その大半の利益を行政府に流れているとしても利益が無いと言う訳ではない、連日大漁が続いている程度の収入は確約されている。
今までそれが問題視されなかったのは偏に、それが上からの指示という盾が存在していたからで、その上が今度は大量生産にシフト変更する、他の漁村でも作らせる、と言ってしまえば製法を公開しないと言うのは立場上不可能になってしまう。
兎にも角にも中小の町や村は、横の繋がりを断たれては直ぐに立ち行かなくなってしまうのだから……。
「シン殿、キミの言い分も判らないではないが、残念ながらそれはあくまで商売に限った上での理論だ。こちらは政治、それも外交に関わる事なのでね、キミの出番は無い」
「それで一体、誰が納得するってんだ?」
「件の村以外は諸手を挙げて賛成しているとも、あの村とて、自分だけが恩恵に預かっていることが逆に枷となっているのではないのかね? 恩義のあるキミの手前、口にしないだけで?」
「だから、それをするにしても早すぎる! 最初に決めただろうが、最低でも1年はこの方針で進めると!?」
いずれ公開するにしても、それは充分に末端の生産者の財布の中が厚くなっていないと、いざ大量生産に舵をきった時、商人に買い叩かれるのは分かりきっている。
商品の仕入れ値の決定権は富める側が持っている、貧しい側は、ソレを使って急いで儲けたいが為に相手側の言い値に擦り寄らなくならなければならないからだ。
現在、需要に対して供給が追いつかないためにこちらの提示する価格が受け入れられているものの、大量生産をすればその前提が崩れる、いや、もっと最悪なのは生産拠点を増やした事で秘密が確実に漏れる。
サイモンの村は不況時にも村を出る者がいないほどに結束が強く、その為秘密も守られたが他の村までそうと言える保証は無い。
たった一人、家族が遊んで暮らせるだけの金を提示されて製法をばらすだけで、たちまち世界中にそれは広まり、薬の価値が薄れる。
そうなるとサメの乱獲も始まるだろう、画期的な技術が及ぼす自然環境の変化にまで目を向ける者などコチラには存在しない、せいぜいがそれを生業とする漁師・農家・猟師たちくらいである。
「計画どおりに物事が進まないのは現場に近いキミの方が良くわかっているでしょう? 確かにキミは案を出したかもしれないが、実際に金と人を使って動いたのは我等だ。まさか、なんの責任も負わない安全な場所にいながら、計画が少し変更になったからといって話が違うなどと喚くような愚者ではないだろうね?」
そう言われてはシンも返す言葉が無い。
もともと案は出したものの、成功しようが失敗しようがシンにとってはどちらでも構わなかった。たまたま知り合いがこの地に移り住んでいたため、自己満足のようなもので勝手に動いていただけなのだから。
彼等に「部外者が口を挟むな」と言われれば、言い返す言葉をシンは持っていない。
シンとしては引き下がるしかなかった。
「……なるほど、俺は用済みと言いたいわけか?」
「キミがタレイア様の部下としてこの街でその才覚を振るってくれると言うのであれば、私達は喜んでキミの手を握るだろうね」
「あいにく、アンタ等に差し出す手は持ち合わせちゃいねえよ!」
「そうかね、残念だ……さて、お帰りはあちらだよ」
「言われなくても!!」
肩を怒らせ鬼の形相で退出するシンを呼び止める者はおらず、誰もが眉を顰めながらもその後姿を見送るのみであった。
「……申し訳ありませんタレイア様、説明をする前にどこからか彼の耳に届いたようでして、説得する前にこちらに直接赴いた様でございます」
「いや、構わない。あの剣幕では説得できたかどうかも怪しいものだしな……結局物別れに終わったが、これからの事を考えればむしろこれで良かったのかもしれぬ」
頭を下げるクレイスを制し、タレイアはそう告げる。
シンとのやり取りを思い出し、ヤレヤレとばかりに頭を振る仕草はまるで、聞き分けの無い弟に苦慮する姉の様でもあったが、実際そのような心境だったのかもしれない。
(恐らく、彼は今まで失敗をした事が無いのだろう、若く、才能も豊かではそれも仕方の無い事だが……)
計画を変更した事をあれほどまでに糾弾するシンを見て、タレイアは彼に対してそんな感想を抱いた。
むしろ現場をよく知り、その薄汚さをよく知っているからこそのシンの言葉なのだが、デキる父の背中を見て育ったタレイアは政治の厳しさばかりに目を向け、そういった現場の泥臭さを甘く見ているのだが、それを責める程に現場を知る人間は今この周りにいなかった。
「ともあれ、我等がするべきは「歯の卵」の製法を村の者に開示させ、それを元に大量生産、そして各国に大々的に売り出すことです。そうすれば次第に価格も安価に落ち着き、庶民にも手の届く便利な薬として人々の生活を助ける事になるでしょう」
「そうだな、庶民の生活向上、これなくして都市の繁栄など望むべくも無い。皆、忙しくなるだろうが頑張ってもらうぞ!」
「「──はっ!!」」
──庶民の生活向上──
執政官の政治信条に私利私欲の面は無く、全てはあくまで庶民の為よかれと思っての行動である。
悲しむべき点があるとすれば、彼女は支配者の側にしか立った事が無く、現場の声を報告書と言う文字でしか知らない。
そんな彼女がシンと解り合えるはずも無く、シンを野に放つ事になるのだが、それがどういう意味を持つのかは今の段階では誰にもわからない。
一方、シンの方はと言えば──
「やれやれ、まあ話を聞いた段階でこうなるのは想定内だけどもさ……」
さっきまでの怒りの表情はどこへやら、あっけらかんとしたもので。
「あいにく売られたケンカを買うつもりは無いけど、痛い目にはあってもらうぜ?」
──その日から、シンはアイラをはじめ周辺地域から姿を消した。
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