転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

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4章 港湾都市アイラ編

157話 新たな問題

 豪遊──と一言で済まされては流石にシンも「酷くない?」と返すだろう。

 シンにしてみれば、マッド・ビーの素材を売って稼いだ金、薬を売って稼いだ金、そして「歯の卵」で得た利益の一部をコンサルタント料代わりに、シーラッドに滞在中の間だけ受け取る様にしており、そのお金を地元へ還元がてら色んな話が聞けるお店に通う事で、農家から出稼ぎ・・・に来てるお姉さん達が心をすり減らす前に故郷に帰れるよう、支援してるだけなのだ……とは本人の弁。
 実際、交易商人や冒険者など他所から街に来る者達の武勇談や愚痴を拾い集め、貸しのあるコーンウェル第2守備隊に話を持ちかけて小さな野盗集団を捕らえるのにちょくちょく同行している。
 その結果──。

「今回も地元・・の奴等だな……」
「ですねえ、少数の本職が食い詰め農民を集めて結成した「にわか盗賊」、一体何のつもりなんだか……」

 経済が上向きになればそれにあやかりたい輩は当然多く、その中でも自分は何もせず甘い汁だけを吸いたい! と考えれば自ずとこういう仕事に行き着く。
 彼等のやり方は大抵2パターン、全てを奪うか少量を掠め取るか。傭兵崩れや立ち行かなくなった冒険者などは前者のような0か100かの博打に出るのに対して、後者は一般人からのドロップアウト組が多く、そういった連中は「通行料」と称してそこそこ・・・・の護衛をつけた小規模商人などから小銭を巻き上げる。
 そうなると今度はそれを逆手に取った「道案内」と呼ばれる者が表れ、金銭の対価として盗賊の出ないルートを先導する輩が出没する。

 当然、彼等は善意の徒ではなく、2~3度安全な通行をさせて油断させ、護衛を減らしたり金目の物を大量に積んだ時を狙い済まして本来の仕事に戻る……危険はどこにでも潜んでおり、「安全」という言葉は異世界においては無上の価値を持つのである。
 だからこそ国家や都市連合などは大金を投じて国軍や私設軍隊を組織し、周辺の治安に全力を注ぐ、治安の良さは軍事力を測る指数の一つでもあるのだ。
 だからこそ、いくら元農民とはいえ、野盗に身を持ち崩した連中の跳梁を見過ごすわけには行かない。

「ただ問題は……」
「構成員の大半が、港湾都市アイラの失政によって収入を失った農民って事ですねぇ」

 中枢を担った「本職」はともかく、7~8人ほどの農民・漁民が彼等の口車に乗ってそいつ等の手足となって動く、こんな集団を既に20は捕らえている。
 無論、被害者からすれば彼等の出自など関係が無く、即刻罪に相応しい罰を下して欲しいと言うのが心情であり、誰もが納得する理屈だ。
 ただ、現在のアイラではそう簡単に割り切ることが出来ない事情もある。
 明らかな上の失策のせいで、故郷で生活することが困難になった住民が多数産まれたのは周知の事で、彼等を罪人として裁くのであれば原因を作った執政官とその回りこそが諸悪の根源では無いか! と農村部から反発を受けるのは必至で、その為対応に悩まされている。

「とりあえず、本職だけは政都コーンウェルの方で受け入れて、はアイラで何とかしてもらうしかないな」
「まあ、そうなりますかね」

 自分のケツは自分で拭け! この問題に関わった者の共通見解である。
 現在アイラの街にはこの手の囚人が100人以上収容されている。罰するのも難しく、さりとて釈放する訳にも行かない状況で、とにかく被害に遭った者達からの被害報告と照らし合わせ、金銭のみの被害であるのなら行政府が肩代わりをしてとりあえず釈放、それ以外の被害を与えている場合は強制労働など、相応の罰を与えるようにしている。
 釈放された農民は、故郷の経済が戻りつつある事を喜ぶと同時に、同様に野盗に身を持ち崩しているご同輩の情報を教えてくれる為、その情報を元にさらに盗賊を捕らえる、治安は回復するが収容人数とアイラの支払う賠償額は増える、このまま続けばアイラだけでは収拾が付かなくなるのでは? と思われていた。

「流石にそろそろ落ち着くはずなんですけど……」
「だな……ただ、下が淘汰された分、上前をはねていた大物が動き出す可能性もある。これからが本番の気がして我等としては憂鬱な話だ」
「お役目大事ですね、月並みな言葉ですが「ご無事で」としか言えませんよ」
「まあ、あいつ等もシン、君に喝を入れられてからは仕事に緊張感をもってやってくれているので助かってはいるよ」
「はて、何かありましたっけね……」
「……そうだな、そんな記録はどこにも無かったか……」

 その後、捕らえた犯罪者をアイラの警備隊に引渡し第2守備隊は政都へ戻り、シンは警備隊の馬車に同乗させてもらいアイラに戻る。
 アイラの警備隊とも話をするシンだが、こちらも同様に複雑な心境のようで、困窮に喘いで仕方なく盗賊に身をやつした彼等に、同情的でありながらも立場上、犯罪者として扱わなければいけない事を心苦しく思っているようだった。


………………………………………………
………………………………………………


 ……などという暗い話はここでは皆無のようで、

「あ~らシンちゃん、最近お見限りじゃなあい?」

 夜の歓楽街は外の治安に関係なく盛況だ、いや、景気が持ち直したおかげで更に活気付いているかな。

「お見限りと言われるほど常連じゃないですよね? というかザックさんが聞いたら拗ねますよ、アマンダさん」
「あら、だからいいんじゃない♪」

 怖ぇな、オイ!?

 ザックに連れてこられたこの店だが、結局俺が色々と動くための拠点のようになってしまっている。高すぎず安すぎずの店のスタンスのおかげで上にも下にも繋がりがある分、お姉さん経由で情報を仕入れられるのはありがたい……高くつくけどさ。
 ともあれ、

「それよりどうですか、最近の客の入りは?」
「そうねえ、少し前なら護衛に雇われた冒険者が幅を利かせてたけど、最近は商人の方が増えてきたわねえ」

 つまり、護衛に雇われる人数が減ってきたってことか。その分、経費がういた商人が店に遊びに来るようになると……男の行動原理は職業に左右されないなぁ……。

「でも商人は財布の紐がきつくってねえ、アタシ達からすれば冒険者の方がありがたい限りだったわ」

 商人なら金を使った分もと・・をとりたがるだろうな、そうなると刹那的な人生を送る冒険者の方が金払いも色々と諦めも良さそうで、その辺は職業毎にに違いがあるらしい。
 俺か? 俺は見栄っ張りですよ!

「……それよりシンちゃん、最近別のお店の連中から嫌われてるわよ? 何人も女の子が辞めてったって」
「フン、田舎娘に金袋で、頬を引っ叩いてやっただけですよ」
「甘い子ねぇ、それとも若いのかしら?」
「さてね、どちらにせよ、雇い主から嫌われようが構いませんよ。この街に長居するつもりもありませんしね」

 あいにく、街の状況が落ち着きさえすればすぐにでも旅に戻りたいんでね、コッチは。
 出稼ぎに来たお姉さんに関しても、故郷に戻ってくれないと労働力が確保できないんだからいつまでもコッチにいられちゃ迷惑だ、盗賊問題で混乱する前に行政府に用意してもらった帰郷の為の支度金を、早く実家に帰りたがってる人に渡してるだけなんだから俺に言われても困るわ、執政官にでも言って来い。

「まあ、街全体が潤ってる時にわざわざ揉め事を起こすような野暮を働くようなのはこの辺には居ないから安心して。それよりシンちゃん知ってる?」
「何をです?」
「今話題の「歯の卵」よ、虫歯の治療に使える画期的な薬ってヤツ」
「ああ……」

 よかった、コイツといいフカヒレとしい、発案者の名前は広まってないみたいだ。
 それにしても、アレになにか進展でもあったのか? そろそろ高値でいいから優先的に回してくれとかいう話でも来たのかな?

「今まで非公開だった作り方なんだけど、各漁村に伝えて大量生産に踏み切るらしいわよ、この前お店に来たお偉いさんが話してたわ」
「……………………は?」

 …………………………。
 …………………………。

 …………なんだって?
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