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5章 イズナバール迷宮編
186話 産声
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……とりあえず、異世界は俺に優しくないらしい。
「おぅ、アンタらだろ、ラフィニアの言ってた新入りってのは?」
カウンターに突っ伏す俺の前で機嫌良さそうに、丸みを帯びた愛らしいケモ耳を頭の上でピクピクと跳ねさせている虎耳のお姉さん。
俺のネコ耳……。
「ラフィニアのヤツが『面白そうな連中』って言ってたんで楽しみにしてたんだけど、確かに、変わった組み合わせじゃねえか?」
猫科最強のお姉さんはニャハハと豪快ながらもネコっぽく笑いながら、探索者登録証を取り出しテーブルに並べる。うん、八重歯という名の牙がエグい。
俺の前には2枚、パーティの登録証らしい。
「しかしなんだな、ジンって言ったか? 他の2人に比べてアンタだけ普通だな」
「……嬉しいお言葉ありがとうございます」
それで良いんだよ、アッチの2人がメインキャストなら、俺はその辺の書割ポジションを目指してるんだから。
……うん、なんとか立ち直った。
「それで、早速なんだけど、迷宮に潜りたいんで許可をもらえるかな」
「ああ、そりゃ構わないけど、アンタらだけで潜るつもりかい?」
──なにかマズいのか?
「どういう事ですか? ええと──」
「ああ、そういや名乗ってなかったね。アタシはキャサリン、ラフィニアと2人でここの看板受付嬢をやってるモンだ。ああ、ソッチの自己紹介はいらないよ、登録証を見たから知ってるんでね」
クソ! どこまでも俺の精神を削りやがって……。
リオンの質問に、向かい合うように立っている2メートル弱の看板娘が言う事には、迷宮に潜る時はポーターと一緒が常識なのだそうだ。
「韋駄天」──昨日ジェリクに教えてもらったグループの一つで、なんでも所属する探索者は荷物持ち、そして配達屋と呼ばれる連中で構成されているらしい。
手に入れた素材やアイテムを担ぎながらの迷宮探索など出来はしない、当然、戦闘以外の後方支援が必要となる。まして長丁場になる場合は食料なども持ち運ばなければならない。
そんな時、一緒に迷宮に潜るポーターを掲示板依頼ではなく個別契約という形で一緒に迷宮に潜る。攻略の最前線にいるパーティなどはポーター側も集団からなり、かつ素材が貯まる毎に迷宮の外までほぼ単独で離脱を図るため、同行するポーター側にも迷宮から脱出するための実力・能力を求められる。
そして配達屋は、戻ってきたポーターが伝言を預かっていた場合、必要な食料や薬品、破損した武器の代わりなどを迷宮の中で攻略中のパーティに送り届ける者達との事だ。
もちろん、その場から帰ってくるよりその場に戻って行く方が危険で難易度も高く、依頼料も安くは無い。
それでもここで仕事として成り立っているのは、この2つの仕事が迷宮攻略にとって欠かせない役割を果たしているんだろう。
実際、この「韋駄天」が発足したのは半年前、それまでは20層の攻略にもたついていたここの連中が今は30層、実績が証明している。
──とはいえ、ウチには必要ないんだけどな。
「ああ、それなら大丈夫だ。ポーターならウチにも一人いるんで」
俺はルディの襟をつまんでヒョイと持ち上げ、キャサリン(解せぬ!)に見せ付ける。
「よろしくね、お姉さん♪」
「……大丈夫なのかい?」
「ウチの若さんは冒険がお望みでね、はじめから至れり尽くせりじゃ面白くないのさ。面倒事もスリルも、とりあえず経験した後で人に任せるかは決めたいらしい」
「中々度胸が据わってるじゃないか……だけど気をつけな、そういうヤツが迷宮から帰って来ないのをアタシら何度も見てきてるんでね」
「大丈夫、助さんと角さんが守ってくれるからね♪」
人任せにも程があるなご隠居……それでどっちがどっちだよ?
「助……? まあいいや、そんじゃ迷宮探索、頑張ってきな! あと、無茶はするんじゃないよ!?」
「わかった、無茶はしないよ♪」
「そうですね、無茶はしません」
……まあ、無茶の基準は人それぞれだからな。
──────────────
──────────────
「──そういえばシン、古代迷宮に対して疑問を持ってたよね?」
「唐突だなルディ、まあ、どうにも不可解な点が、な」
宿場町の中心部にぽっかりと開けた空間。
直径100メートルほどのサークルの中心にイズナバール迷宮への入り口があり、その前には町の入り口には見られなかった入管の姿がある。
ポーター連れのパーティが幾つか並ぶ行列を眺めながら、唐突にルディがジンに話しかける。
──なぜ迷宮付近には魔物がいないのに迷宮の中には無尽蔵に存在するのか、なぜ迷宮の中でアイテムが出現し続けるのか?──
その疑問に対してルディは「行けばわかる」とジンに言った、その答えがここにあるというのだろうか?
「ジンは異能「組成解析」のおかげで鑑定スキルはLv10だったよね、その2つを同時に発動させてこの地面を見てごらん」
「地面? …………──!?」
「どうしました、ジン?」
異能を発動させたジンが、金色に光る瞳を見開きながら硬直するのその顔を、リオンが不思議そうに覗き込む。
そんなジンの口から発せられた言葉は──
「……魔法生物?」
迷宮生物──未知の魔法生物の為ランク指定なし。
300メートル程の巨大な球体の姿をしており、大地と同化しその体内に異空間を形成する。
体内は「異空間バッグ」と同様その外見より大きな空間が広がり、階層によっては広さ1キロ四方を超える所、天井までの高さが数十メートルもあるフロアなど、その形状は様々。
他の魔物同様、体内の魔石によって周囲の空間からその巨体に見合った魔素を大量に取り込むため、他の魔物は魔素の吸収が充分に出来ず、結果コレの周囲には魔物が近寄らない。
ただし、本体を維持するための魔素は極微量であり、吸収した膨大な魔素は体内で変質し、「魔物」や「アイテム」を錬精する。
最下層に近付くごとに魔素の濃度は濃くなり、魔物もアイテムも強力なものが存在する。
「そ♪ 世界に魔素が存在し、アレが生きている限りあの中には魔物が存在しアイテムが吐き出されるのさ」
「イヤイヤイヤ、理由になってないだろ、それ!?」
「何言ってるの? この世の万物に魔素が内包されているのなら逆に魔素から物質を生み出すのも可能に決まってるじゃない。生物が胎内で生命を育むように、コレも体内で似非生命を生み出しているだけだよ」
「……………………」
ルディの説明に無理矢理納得しようとするジンだったが、理性と感情が上手く折り合わずに悶々とする。
そんなジンの傍らで、
「なるほど、どうりで身体のキレが微妙に悪いと思いました」
リオンは昨日、町に近付くにつれ微妙な倦怠感を覚えていたと告げる。ホントに微妙な程度らしいので放っておいたらしいが、魔竜が魔素を吸収するのを妨害できるレベル、その驚きの吸引力にジンは更にゲンナリする。
「その調子で吸い込み続けて、攻略深度は現在30層? 最下層まではどんな魔境になってんだよ……」
「ああ、それは大丈夫。迷宮の難易度に変更は無いはずだよ……900年以上放置プレイでおかしな事になってない限りね」
「フラグだよな? 手前それフラグ立ててるよな!?」
「いいじゃないか、どうせ普通の迷宮なんかジンなら一度の攻略で終わらせちゃうんだから、ボクも中がどうなってるか知らないからゆっくり楽しもうよ」
「ジン、ヴァルナ様の言いつけもあるのです。いい加減開き直って暴れましょう♪」
「本音がダダ漏れじゃねえかおまえ等! ……フゥ、わかったよ、どのみち行く事に変わりは無いんだから。それにしても……」
ジンは迷宮の入り口を見つめて大きくため息をつく。
知らないとはいえ、大量の人間が魔法生物の体内へ向かって進む行列、それはなんとも奇妙な風景だとジンには思えた。
「これから魔法生物の体内に……ナ○セイバーかよ」
「それならワン○ービートSじゃない? 目指せ、生命元素!」
「なんでお前のチョイスは毎度々々一世代古いんだよ!?」
「2人とも、仲間はずれにしないで下さい──!」
…………………………。
…………………………。
「──────────」
それはこの古代迷宮の最下層で産声を上げた──。
もしも迷宮生物に自我があるのであれば絶対に入場お断り、それぞれが異なる3種類の人外の存在、それが一度に入ってくる。
自我を持たない魔法生物の防衛本能が働いたのか、それとも侵入者に相応しき相手を用意しようと歓迎の意図の表れか。
「グルルルルルル──!!」
ともあれ、楽な迷宮攻略でなくなったことは、この瞬間に決定した──。
「おぅ、アンタらだろ、ラフィニアの言ってた新入りってのは?」
カウンターに突っ伏す俺の前で機嫌良さそうに、丸みを帯びた愛らしいケモ耳を頭の上でピクピクと跳ねさせている虎耳のお姉さん。
俺のネコ耳……。
「ラフィニアのヤツが『面白そうな連中』って言ってたんで楽しみにしてたんだけど、確かに、変わった組み合わせじゃねえか?」
猫科最強のお姉さんはニャハハと豪快ながらもネコっぽく笑いながら、探索者登録証を取り出しテーブルに並べる。うん、八重歯という名の牙がエグい。
俺の前には2枚、パーティの登録証らしい。
「しかしなんだな、ジンって言ったか? 他の2人に比べてアンタだけ普通だな」
「……嬉しいお言葉ありがとうございます」
それで良いんだよ、アッチの2人がメインキャストなら、俺はその辺の書割ポジションを目指してるんだから。
……うん、なんとか立ち直った。
「それで、早速なんだけど、迷宮に潜りたいんで許可をもらえるかな」
「ああ、そりゃ構わないけど、アンタらだけで潜るつもりかい?」
──なにかマズいのか?
「どういう事ですか? ええと──」
「ああ、そういや名乗ってなかったね。アタシはキャサリン、ラフィニアと2人でここの看板受付嬢をやってるモンだ。ああ、ソッチの自己紹介はいらないよ、登録証を見たから知ってるんでね」
クソ! どこまでも俺の精神を削りやがって……。
リオンの質問に、向かい合うように立っている2メートル弱の看板娘が言う事には、迷宮に潜る時はポーターと一緒が常識なのだそうだ。
「韋駄天」──昨日ジェリクに教えてもらったグループの一つで、なんでも所属する探索者は荷物持ち、そして配達屋と呼ばれる連中で構成されているらしい。
手に入れた素材やアイテムを担ぎながらの迷宮探索など出来はしない、当然、戦闘以外の後方支援が必要となる。まして長丁場になる場合は食料なども持ち運ばなければならない。
そんな時、一緒に迷宮に潜るポーターを掲示板依頼ではなく個別契約という形で一緒に迷宮に潜る。攻略の最前線にいるパーティなどはポーター側も集団からなり、かつ素材が貯まる毎に迷宮の外までほぼ単独で離脱を図るため、同行するポーター側にも迷宮から脱出するための実力・能力を求められる。
そして配達屋は、戻ってきたポーターが伝言を預かっていた場合、必要な食料や薬品、破損した武器の代わりなどを迷宮の中で攻略中のパーティに送り届ける者達との事だ。
もちろん、その場から帰ってくるよりその場に戻って行く方が危険で難易度も高く、依頼料も安くは無い。
それでもここで仕事として成り立っているのは、この2つの仕事が迷宮攻略にとって欠かせない役割を果たしているんだろう。
実際、この「韋駄天」が発足したのは半年前、それまでは20層の攻略にもたついていたここの連中が今は30層、実績が証明している。
──とはいえ、ウチには必要ないんだけどな。
「ああ、それなら大丈夫だ。ポーターならウチにも一人いるんで」
俺はルディの襟をつまんでヒョイと持ち上げ、キャサリン(解せぬ!)に見せ付ける。
「よろしくね、お姉さん♪」
「……大丈夫なのかい?」
「ウチの若さんは冒険がお望みでね、はじめから至れり尽くせりじゃ面白くないのさ。面倒事もスリルも、とりあえず経験した後で人に任せるかは決めたいらしい」
「中々度胸が据わってるじゃないか……だけど気をつけな、そういうヤツが迷宮から帰って来ないのをアタシら何度も見てきてるんでね」
「大丈夫、助さんと角さんが守ってくれるからね♪」
人任せにも程があるなご隠居……それでどっちがどっちだよ?
「助……? まあいいや、そんじゃ迷宮探索、頑張ってきな! あと、無茶はするんじゃないよ!?」
「わかった、無茶はしないよ♪」
「そうですね、無茶はしません」
……まあ、無茶の基準は人それぞれだからな。
──────────────
──────────────
「──そういえばシン、古代迷宮に対して疑問を持ってたよね?」
「唐突だなルディ、まあ、どうにも不可解な点が、な」
宿場町の中心部にぽっかりと開けた空間。
直径100メートルほどのサークルの中心にイズナバール迷宮への入り口があり、その前には町の入り口には見られなかった入管の姿がある。
ポーター連れのパーティが幾つか並ぶ行列を眺めながら、唐突にルディがジンに話しかける。
──なぜ迷宮付近には魔物がいないのに迷宮の中には無尽蔵に存在するのか、なぜ迷宮の中でアイテムが出現し続けるのか?──
その疑問に対してルディは「行けばわかる」とジンに言った、その答えがここにあるというのだろうか?
「ジンは異能「組成解析」のおかげで鑑定スキルはLv10だったよね、その2つを同時に発動させてこの地面を見てごらん」
「地面? …………──!?」
「どうしました、ジン?」
異能を発動させたジンが、金色に光る瞳を見開きながら硬直するのその顔を、リオンが不思議そうに覗き込む。
そんなジンの口から発せられた言葉は──
「……魔法生物?」
迷宮生物──未知の魔法生物の為ランク指定なし。
300メートル程の巨大な球体の姿をしており、大地と同化しその体内に異空間を形成する。
体内は「異空間バッグ」と同様その外見より大きな空間が広がり、階層によっては広さ1キロ四方を超える所、天井までの高さが数十メートルもあるフロアなど、その形状は様々。
他の魔物同様、体内の魔石によって周囲の空間からその巨体に見合った魔素を大量に取り込むため、他の魔物は魔素の吸収が充分に出来ず、結果コレの周囲には魔物が近寄らない。
ただし、本体を維持するための魔素は極微量であり、吸収した膨大な魔素は体内で変質し、「魔物」や「アイテム」を錬精する。
最下層に近付くごとに魔素の濃度は濃くなり、魔物もアイテムも強力なものが存在する。
「そ♪ 世界に魔素が存在し、アレが生きている限りあの中には魔物が存在しアイテムが吐き出されるのさ」
「イヤイヤイヤ、理由になってないだろ、それ!?」
「何言ってるの? この世の万物に魔素が内包されているのなら逆に魔素から物質を生み出すのも可能に決まってるじゃない。生物が胎内で生命を育むように、コレも体内で似非生命を生み出しているだけだよ」
「……………………」
ルディの説明に無理矢理納得しようとするジンだったが、理性と感情が上手く折り合わずに悶々とする。
そんなジンの傍らで、
「なるほど、どうりで身体のキレが微妙に悪いと思いました」
リオンは昨日、町に近付くにつれ微妙な倦怠感を覚えていたと告げる。ホントに微妙な程度らしいので放っておいたらしいが、魔竜が魔素を吸収するのを妨害できるレベル、その驚きの吸引力にジンは更にゲンナリする。
「その調子で吸い込み続けて、攻略深度は現在30層? 最下層まではどんな魔境になってんだよ……」
「ああ、それは大丈夫。迷宮の難易度に変更は無いはずだよ……900年以上放置プレイでおかしな事になってない限りね」
「フラグだよな? 手前それフラグ立ててるよな!?」
「いいじゃないか、どうせ普通の迷宮なんかジンなら一度の攻略で終わらせちゃうんだから、ボクも中がどうなってるか知らないからゆっくり楽しもうよ」
「ジン、ヴァルナ様の言いつけもあるのです。いい加減開き直って暴れましょう♪」
「本音がダダ漏れじゃねえかおまえ等! ……フゥ、わかったよ、どのみち行く事に変わりは無いんだから。それにしても……」
ジンは迷宮の入り口を見つめて大きくため息をつく。
知らないとはいえ、大量の人間が魔法生物の体内へ向かって進む行列、それはなんとも奇妙な風景だとジンには思えた。
「これから魔法生物の体内に……ナ○セイバーかよ」
「それならワン○ービートSじゃない? 目指せ、生命元素!」
「なんでお前のチョイスは毎度々々一世代古いんだよ!?」
「2人とも、仲間はずれにしないで下さい──!」
…………………………。
…………………………。
「──────────」
それはこの古代迷宮の最下層で産声を上げた──。
もしも迷宮生物に自我があるのであれば絶対に入場お断り、それぞれが異なる3種類の人外の存在、それが一度に入ってくる。
自我を持たない魔法生物の防衛本能が働いたのか、それとも侵入者に相応しき相手を用意しようと歓迎の意図の表れか。
「グルルルルルル──!!」
ともあれ、楽な迷宮攻略でなくなったことは、この瞬間に決定した──。
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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