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6章 ライゼン・獣人連合編
274話 族長の難しい話
パァン──!
螺旋を描く槍の穂先が、湿原を埋め立てるように石畳で敷き詰められた練武場、そこに立てられた丸太に触れた途端、丸太が爆ぜる。
爆裂槍──槍の攻撃である貫通力を一点に集約し、目標を破壊ではなく破裂させる槍技。
極度に硬い装甲、もしくは刺突や斬撃の通用しない軟体生物を対象とした技。
ちなみに、丸太はその場に立たせているだけで、地面に固定している訳ではない。にも拘らず見る影も無く粉砕された丸太を見れば、槍の使い手の技量がどれ程のものか、容易に想像できた。
その後、槍を振るった男は丸太をいくつか粉砕すると、今度は丸太を横に並べ、自分は先程よりもさらに腰を落としてタメを作り、
「──ハッ!!」
ヒュゥゥゥン──。
裂帛くの気合と共に繰り出された槍は、男と丸太の間を何度も行き交うと、その澱みない流れは些か間延びした風切り音を生み出し、周囲に広がる。
雪崩突き──槍技スキルの基本である高速連続突き。
一度の発動でスキルレベル×2回の突きを最大、現スキルレベルまで累積加算された回数の攻撃を繰り出す事が出来る。
※レベル一は1×2で二回、二なら(1+2)×2で六回、三なら(1+2+3)×2で十二回……
槍の動きが収まると、男の前に並べられた丸太には幾つもの、槍の貫通した跡が存在する。
その数42──つまり、男の槍術スキルは少なくともレベル六以上を示していた。
「ふぅ……」
修練が終わったのか、男は一息つくと構えを解き──
「ええのう、この槍、メッチャええのう!!」
──ヴリトラの素材で作られた魔槍に頬ずりをし始めた……。
(……………………)
(族長……)
ルフト同様に高い獣化率の蜥蜴人の男は、マニエル湿原に生える葦を連想させるような深い緑色の鱗に覆われ、ルフトには及ばぬものの充分に長身だ。
そして、老い、肉が落ちてなお精悍さを漂わせる様子は、まさに歴戦の勇士を思わせる。
マニエル湿原の北部を統べるザーザル族の長、ヒューロは、その立場も年齢も忘れ、魔槍に首ったけであった。
──先日、家に帰宅しても元気が戻らないルフトを見かねたシンが、槍を返してもらうためにルフトを伴って族長の元に赴き、居場所を聞いてやって来た練武場、そこで見たのは、族長の強さと、そして残念な姿だった。
(まったく、この世界のジジイはどいつもこいつも……)
シンがアレやコレを思い浮かべる中、
「はあ……いっそこのまま、ワシのものにしてしまおうかのう?」
「──!! 族長、それはあんまりだ!!」
族長の言葉に反応したルフトは、思わず大声を上げる。
「ぬおっ──ルフト!? ん、それとそっちのは……?」
「あ、どうも……」
族長に詰め寄ろうとするルフトの尻尾を掴みながら、族長の言葉に会釈で返すシンは、困ったように笑って練武場に入った。
三人は石畳の上で正座をすると、やがてシンが話し始める。
「では改めて──はじめまして、ザーザル族の族長ヒューロ様、私は旅の薬師のシンと申します。先日、幸運にもルフト殿と友誼を結ぶ事ができ、その縁もあって今回、こちらのビスタリア獣人連合に入国させていただいた次第でございます」
「なに、楽にされよ。その羽飾りをつけた者を無下に扱う我等ではないでな」
族長の言葉に首を傾げるシンは、ルフトに答えを求めるが、
「入国証は、木彫りのメダルを首から掛けるのが従来のものだが、羽飾りの入国証は、特定の国から身元を保証されている印なのだ」
「聞いてませんが……」
心底ウンザリといった表情でルフトを眺めるシン。なにより、入国審査時にそんな事はルフト達から何も聞いていない事を責めると、
「俺達もチョットはおかしいと思ったのだぞ? おぬしの功績を考えればライゼンからそのような扱いを受けるのは当然とは思うが、なにせその時は……」
「あ、もういいです、それ以上は……」
あくまでコミュニティ『異種混合』に所属していたのは、探索者パーティ『ガイアの咆哮』のジン達であって、薬師のシンでは無い。それ以上深く掘り下げるといらぬ尻尾を踏む事になると、シンは会話を打ち切った。
「で、その二人がいかなる用向きでワシの元へ参られたのかの?」
ギンッ──!!
鋭い眼差しでシンとルフトを威圧するように見据えるヒューロ。しかし──
「ごまかされませんぞ、族長!! 先ほどの言葉、この耳でしかと聞きましたからな」
リザードマンの耳がどこにあるのかは分からないが、膝立ちになるルフトの言葉を聞き流すようにそっぽを向くヒューロは、しゃあしゃあと答える。
「知らんのう……なにせ老いのせいか、めっきり身体の機能が衰えてしもうて……ゴホッゴホッ」
「何を仰るか! 先ほども見事な槍捌きで丸太に穴を開けておったではないですか」
「おお! 見とったか。どうじゃ、凄かろう? この槍を振るうとまるで年が一〇〇も若返ったように動けたぞい!!」
「そう、その後に喋っておりましたでしょうが!?」
「あぁ? なんじゃて?」
相手にされていないルフトを、さすがに気の毒に思ったか、シンは助け舟を出した。
「まあまあルフトさん……族長殿、先ほどアナタは『ワシのものにしてしまおうかのう』と言っておりましたが、それはつまり、現状その槍はアナタの物にもならないという意味では無いのですか?」
「シン!?」
「ほっほ、耳聡いのう、お若いの……お前さんの言うとおり、コイツに関してはワシもどうにも出来ぬ。上からの処置待ちじゃでな」
「上──そんな、話はそこまで……」
「うえ?」
「よその方にはなじみが無いでしょうが、我ら獣人連合には『獣王信仰』なるものがありましてな」
人間達が女神ティアリーゼを崇めるように、獣王信仰とは、獣人たちが独自に崇める土着の宗教である。
しかし、『獣王』という名の通り、信仰の対象は神ではなく獣の王、つまり──
「そう、この世界に生きる者の頂点たる魔竜さま──その中でも大いなる海を司る、海の魔竜様こそが、ワシ等獣人の王なのじゃよ」
「ぶふぉっ──!!」
思わず噴き出したシンは、次の瞬間、両手で頭を抱える。
「一〇〇〇年前、我らの王を殺せし忌まわしきあの邪竜ヴリトラ──紛い物とはいえ
その身体より作られしこの魔槍、むやみやたらと振り回しては波風が立とう。それをこのバカ、いや若僧は……」
「……モノに罪はありますまい。むしろ、忌まわしき業敵を滅ぼした証として喧伝する事も大事なのではありませんか」
「じゃから、それも含めて上の対処待ちなのじゃ……」
巨体の二人が小さくなりながら考え込む中、シンは頭を抱えながら一つの可能性に思いを馳せる。
『獣王信仰』なるものがそこまで浸透しているのであれば、何者かによってヴリトラが倒された事は当然知っているはず。
そして、魔竜が不滅の存在である事も。つまり──
「ヴリトラが誅された以上、海の魔竜様の復活も近いはずじゃ。槍の処遇は獣王様の復活を待って、それから下されるやもしれんのう」
「そんな──!!」
(スンマセン、ソイツなら我が家で、もっとヤヴァイ奴に育てられてます!!)
シンは心の中で謝りながら、二人から顔を背けて額から汗を流し続けた──。
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極度に硬い装甲、もしくは刺突や斬撃の通用しない軟体生物を対象とした技。
ちなみに、丸太はその場に立たせているだけで、地面に固定している訳ではない。にも拘らず見る影も無く粉砕された丸太を見れば、槍の使い手の技量がどれ程のものか、容易に想像できた。
その後、槍を振るった男は丸太をいくつか粉砕すると、今度は丸太を横に並べ、自分は先程よりもさらに腰を落としてタメを作り、
「──ハッ!!」
ヒュゥゥゥン──。
裂帛くの気合と共に繰り出された槍は、男と丸太の間を何度も行き交うと、その澱みない流れは些か間延びした風切り音を生み出し、周囲に広がる。
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一度の発動でスキルレベル×2回の突きを最大、現スキルレベルまで累積加算された回数の攻撃を繰り出す事が出来る。
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槍の動きが収まると、男の前に並べられた丸太には幾つもの、槍の貫通した跡が存在する。
その数42──つまり、男の槍術スキルは少なくともレベル六以上を示していた。
「ふぅ……」
修練が終わったのか、男は一息つくと構えを解き──
「ええのう、この槍、メッチャええのう!!」
──ヴリトラの素材で作られた魔槍に頬ずりをし始めた……。
(……………………)
(族長……)
ルフト同様に高い獣化率の蜥蜴人の男は、マニエル湿原に生える葦を連想させるような深い緑色の鱗に覆われ、ルフトには及ばぬものの充分に長身だ。
そして、老い、肉が落ちてなお精悍さを漂わせる様子は、まさに歴戦の勇士を思わせる。
マニエル湿原の北部を統べるザーザル族の長、ヒューロは、その立場も年齢も忘れ、魔槍に首ったけであった。
──先日、家に帰宅しても元気が戻らないルフトを見かねたシンが、槍を返してもらうためにルフトを伴って族長の元に赴き、居場所を聞いてやって来た練武場、そこで見たのは、族長の強さと、そして残念な姿だった。
(まったく、この世界のジジイはどいつもこいつも……)
シンがアレやコレを思い浮かべる中、
「はあ……いっそこのまま、ワシのものにしてしまおうかのう?」
「──!! 族長、それはあんまりだ!!」
族長の言葉に反応したルフトは、思わず大声を上げる。
「ぬおっ──ルフト!? ん、それとそっちのは……?」
「あ、どうも……」
族長に詰め寄ろうとするルフトの尻尾を掴みながら、族長の言葉に会釈で返すシンは、困ったように笑って練武場に入った。
三人は石畳の上で正座をすると、やがてシンが話し始める。
「では改めて──はじめまして、ザーザル族の族長ヒューロ様、私は旅の薬師のシンと申します。先日、幸運にもルフト殿と友誼を結ぶ事ができ、その縁もあって今回、こちらのビスタリア獣人連合に入国させていただいた次第でございます」
「なに、楽にされよ。その羽飾りをつけた者を無下に扱う我等ではないでな」
族長の言葉に首を傾げるシンは、ルフトに答えを求めるが、
「入国証は、木彫りのメダルを首から掛けるのが従来のものだが、羽飾りの入国証は、特定の国から身元を保証されている印なのだ」
「聞いてませんが……」
心底ウンザリといった表情でルフトを眺めるシン。なにより、入国審査時にそんな事はルフト達から何も聞いていない事を責めると、
「俺達もチョットはおかしいと思ったのだぞ? おぬしの功績を考えればライゼンからそのような扱いを受けるのは当然とは思うが、なにせその時は……」
「あ、もういいです、それ以上は……」
あくまでコミュニティ『異種混合』に所属していたのは、探索者パーティ『ガイアの咆哮』のジン達であって、薬師のシンでは無い。それ以上深く掘り下げるといらぬ尻尾を踏む事になると、シンは会話を打ち切った。
「で、その二人がいかなる用向きでワシの元へ参られたのかの?」
ギンッ──!!
鋭い眼差しでシンとルフトを威圧するように見据えるヒューロ。しかし──
「ごまかされませんぞ、族長!! 先ほどの言葉、この耳でしかと聞きましたからな」
リザードマンの耳がどこにあるのかは分からないが、膝立ちになるルフトの言葉を聞き流すようにそっぽを向くヒューロは、しゃあしゃあと答える。
「知らんのう……なにせ老いのせいか、めっきり身体の機能が衰えてしもうて……ゴホッゴホッ」
「何を仰るか! 先ほども見事な槍捌きで丸太に穴を開けておったではないですか」
「おお! 見とったか。どうじゃ、凄かろう? この槍を振るうとまるで年が一〇〇も若返ったように動けたぞい!!」
「そう、その後に喋っておりましたでしょうが!?」
「あぁ? なんじゃて?」
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「まあまあルフトさん……族長殿、先ほどアナタは『ワシのものにしてしまおうかのう』と言っておりましたが、それはつまり、現状その槍はアナタの物にもならないという意味では無いのですか?」
「シン!?」
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「うえ?」
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そして、魔竜が不滅の存在である事も。つまり──
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