機(はた)に咲く ~天保の京の町に、雪華よ舞え!

冬樹 まさ

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 店に戻った半次郎は、これまで近寄らないようにしてきた帳場格子の中に入った。荒い息遣いのまま座って手をついたが、番頭と大福帳の売掛金を勘定していた父の吉蔵は、算盤から顔も上げようともしない。

「お父はん、この文様の帯を作りたいんです。柄の意匠からうちの店で作って、店で売らせてもらいたいんです、頼みます」

 懐から取り出した『北越雪譜』の冒頭、雪華の図を指して父に差し出す。

「なんや、いきなり帯を作りたいて。お前はまず店の商いのこと全般を習っているのやないんか」

 帳面の方に顔を向けたまま、吉蔵は厳しい口ぶりである。

「店の日頃の仕事にも励みますけど、この雪華柄の帯、今どうしても作って売らせてほしいんです。お頼み申します」

 やっと顔を上げた吉蔵は、雪華の図をちらと見た。

「雪華柄か、着物の文様でも流行ってるな、帯でも見たことはあるけどな。そもそもうちの店では、上客に頼まれたときだけ注文を受けて、帯作りを図案、組織の考案から糸作りまでやっているんや。金をつぎ込んで意匠から作って、売れんかったら大損になるのはわかってるんか」

 これまでの半次郎だったらここで引き下がるだろうが、どうしても諦める気になれない。

「売れます、ぜったいにいい帯作って売りまくってみせますよって、作らせてください」

 吉蔵は眉間の皺を深くして片頬で笑う。

「どういうこっちゃ、えらい自信があるやないか。奢侈禁止令が出てるさかい、金糸銀糸は使われへんからな。店のことにも手を抜かんで励むのやったら、やってもいいけども、損をだしたら勘当やからな」

 それだけいうと、吉蔵は帳簿の勘定に戻った。半次郎が意匠から帯作りをすると言い出したことを気に留めない風だった。
 すぐに店先に引き返すと手代の茂吉を探して、帯作りの話を持ち掛ける。

「無茶言わんといてください、いきなり一から帯作るやなんて。ずっと面倒みるやなんてかなわんわ」

 帯作りの指南を頼まれた茂吉は眉と口をへの字にして泣き顔になった。半次郎が付き纏ってせがむと、店の売り場を片付けながら仕方なく帯作りの手順を説きだした。
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