機(はた)に咲く ~天保の京の町に、雪華よ舞え!

冬樹 まさ

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 問屋は売れ筋の帯を織屋から仕入れて呉服屋に卸すことが本業で、富美屋では店を訪れる客に細々と小売りもしていた。得意客のたっての注文で帯の下絵作りから携わることもあるが、年に一度か二度のことだった。茂吉は西陣のはた道具屋の三男坊で、七つで富美屋に丁稚に入り二十年勤めている。今や帯作りはすべて任されていた。

「まずは、織屋で下絵師さんと打ち合わせます。帯の柄行きから色合い、糸の種類や織り方まで諸々を決めていきます。この前教えましたやろ、平織や綾織が基本で、柄行や格に応じて唐織、金襴に緞子があります。図案の下絵ができたら、糸染から糸巻まで糸屋さんと糸作りに入ります。そして整経屋から綜絖そうこうを作るさしひろい屋まで頼んで準備していきます。それら支度を終えてから、ようやっと機織りですわ……」

 茂吉は早口でまくし立てていく。半次郎は眉間を曇らせた。

「下絵ができてからもいろいろとあるんやな。一日でも早くに織りに入りたいんやが」

「なに暢気なこと言ってますのや、新しい柄の帯を作るいうのは途方もなく根気のいる仕事なんです。若旦那の気まぐれやったら今すぐやめてくださいよ」

 目を吊り上げて茂吉は声を荒げた。

「いや、やる、なんでもやる! どうしても雪華の帯を作ると決めたんや。教えてくれた通りにやるから、よろしく頼みます」

 手を合わせて茂吉を拝んだ。弱気を振り払って半次郎は手にしていた冊子の雪華の図に目を向ける。

「この雪華の図、帯の柄にしてこの店から京中に、いや江戸から日本中の呉服屋まで売りに出すんや」

 雪華の帯で儲けたら、その金から与平の望み通りに大塩の供養にどんと寄進しよう。我ながらいい考えだと半次郎は心を弾ませていた。

 夕方店仕舞いしてから、茂吉と連れ立って西陣の織屋へと向かった。二条を西へ歩いて堀川通を北へ上がる。中立売をさらに西へ入れば、春の宵に浮かれて旦那衆がそぞろ歩いている。
 茂吉は旦那衆の長羽織の袖が柔らかく翻る後ろ姿を、うっとりと眺めた。

「これから上七軒で芸妓はんと遊ぶんやろうな。一回でいいから、わてもお茶屋に上がってみたいもんや」 

「連れてってやるからな。雪華の帯ができたら行こう」

「やれやれ、そんな日がほんまに来るんでしょうか、嫌な予感しかしませんけど」

「縁起でもないこと言うたらあかん」

 半次郎は茂吉の背中を擦りながら、肩を並べて歩く。春の夜風はまだ肌に冷たい。
 浄福寺通に入れば、急に人気がなくなった。
 人の声はしないが、シャーッ、ガッシャン、トントン、シャーッ、ガッシャン、トントンと手機てばたで帯を織る音があちこちから聞こえてくる。
 東は堀川通から北の蘆山寺通まで、西は千本通から南の一条通に囲まれた西陣の地では、七千台もの織機が据えてあると言われる。その中心は、一日千両が動くとされる千両ヶ辻だ。

「やっと着いた、さあ、こちらの織屋さんです」

 細い路地に織屋建の町家が連なっている。その中ほどの一軒の表戸前に、茂吉は立って声をかけた
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