婚約者はメイドに一目惚れしたようです~悪役になる決意をしたら幼馴染に異変アリ~

たんぽぽ

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 お母様の部屋から戻り、就寝の身支度を終えたわたくしは自室の姿見の前でじっくりと自分の顔を観察します。

 特に、これといった欠点はないと思うのですが……あえて言うなら少し気難しく見えそうな目でしょうか? 特徴的なつり目ではありませんが、赤の色素が強い茶色の瞳は初対面の方からしたら冷たく見える、かもしれません。

 一歩全身鏡から離れて全体を見ても、自分ではそれが欠点になるほどとは思えないのですが……。主観はロイエン様ですから、考えてみても答えは出ないのですけど。

 いつもは結われているハニーブラウンの髪を手に取り、軽く指先に巻き付けてみます。

 わたくし自身が気に入らない点をあげるとするなら、着飾るたびにコテを使わなければならない、まっすぐに落ちるだけのこの髪質でしょう。

 エレーナの髪はいつも邪魔にならないように編み込まれていますが、エレーナ付きのメイドが一人の状態で毎日コテを朝早くから使うわけないでしょうし、きっと元々結いやすい髪なのでしょうね。そこは羨ましいと思います。

 自分の全身を眺めながら、脳裏にエレーナを浮かべてみます。

 長い金色の髪を全体的に編み込んで背中に流し、我が家から支給された服を着たメイド。ぱっちりとした大きなエメラルドの瞳は女性から見ても魅力的だと思います。

 背はわたくしより少しだけ低かった気がします。
 騎士のロイエン様と並ぶと余計に華奢に見えましたが、それでもヒールで調節できないほど低いわけではないです。そしてわたくし自身も、女性の平均を大きく外して背が高いわけでも太いわけでもないので、ここはどちらも問題ないでしょう。

「やはり、問題は顔かしら? 誰が見ても可愛らしい顔をしていますもの」

 昔は可愛いと言われ慣れていたわたくしですが、最近はあまり聞かなくなりました。わたくしの身支度を整え終えたメイドが一応「本日もお美しいです」と褒めてはくれますが「可愛いです」とはもう言ってくれません。

 二つも下の少女と可愛さで張り合うには、少し年齢を重ねすぎてしまいました。せめて同じ年であればと考えてみますが、十六歳だった当時、すでにわたくしは可愛いを卒業していた気がします。

「きっと二年後も可愛らしい顔立ちなのでしょうね」

 わたくしより年上で、今でも可愛いらしさを持ち合わせている女性が何人もいらっしゃいます。きっとエレーナもそちらの系統なのでしょう。

「ロイエン様の好みが可愛い女性だったなんて」

 ふぅ、っと小さく息を吐きだします。
 体調を気遣う優しさが必要ならそれ以上に優しく接することは可能です。明るい娘が好きなら明るく振る舞うことを意識すればどうにかなります。
 
「メイクの仕方を変えてもらおうかしら?」

 可愛らしさを引き立てるメイクを学んできてもらおうかと考え、すぐに諦めました。今のメイクが一番わたくしを魅力的にしてくれているのです。似合わぬ方向へいらぬ努力をして笑い者になる未来などいりません。

「せめてお姉様みたいなウェーブのかかった髪か、お母様のような金髪だったなら、少しは可愛らしさも残っていたかもしれませんのに……」

 ないものねだりをしても仕方ありません。今わたくしが手にしている全てでロイエン様を振り向かせられなければ、今後ずっと『可愛い者』がわたくしの前に立ちはだかるのです。

「ロイエン様はずるいわ。あの方が本気になれば、わたくしを惚れさせるなんてきっと簡単なのに」

 その逆はとても難しい。

「わたくしもメイドの真似事でもしてみようかしら?」

 脳裏にふと浮かんだ案に乗り、それを実行した自分を思い浮かべて両手で顔を押さえます。羞恥心で叫びだしたくなりました。

「ロイエン様の迷走に惑わされて、わたくしまで暴走してしまうところでしたわ」

 半日前に我が家の玄関先で繰り広げられたロイエン様とエレーナのやりとりを見たわたくし付きのメイドたちはきっと、ロイエン様の心がどこにあるか正確に察したでしょう。
 その者たちの前でわたくしがメイドの格好をするなんて、もはや道化です。

「あぁ、もう。この婚約がなくなってしまえば楽ですのに」

 今ならまだ間に合います。
 両家の人間しか婚約の事実を知らない今なら、無かったことにできるのです。

 けれど、テンプレッテル家と良好な関係を維持し続けるためにも、わたくしたちの婚約をこちらから破棄することはできません。
 そして、わたくしも、婚約を破棄された令嬢などという不名誉を、わざわざ手に入れたいと心から思うほど追い詰められているわけでもありません。

 ただ、思うだけ、言うだけは許されると、部屋で一人声に出してみるのです。
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