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24、ハーフォード公爵の妻
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「やぁ、クライヴ、セシリア」
クライヴとの結婚からちょうど一年が過ぎた頃。ヨランダと無事に結婚した王太子が、舞踏会で声をかけてきた。彼女の隣には妃であるヨランダもいる。
「きみたちの噂は聞いているよ。いや、きみの噂かな? ずいぶんと奥方に惚れ込んで、とても大切にしていると」
「殿下のお耳にまで届いておりましたか。お恥ずかしい限りです」
「ははっ。だが否定はしないのだろう?」
「ええ」
クライヴはセシリアの方を見ると、ゆっくりと目を細めた。その表情に王太子もヨランダも、ついでにこちらの様子をちらちらと盗み見ていた客人も驚く。
なぜならクライヴが今まで見たこともないほど優しく、愛おしさに溢れた表情で妻であるセシリアを見つめていたから。
「……なるほど。噂は本当だったようだ」
「彼女と結婚できて、私はとても幸せ者です」
クライヴの言葉に、セシリアに注ぐ甘い視線に、ヨランダは少し面白くなさそうな顔をしたが、クライヴ本人は全く気づかず、王太子とヨランダの結婚を祝福した。
そして二人が立ち去ると、セシリアに向き合い、手を差し出す。
「踊ってくれるか?」
もちろんセシリアに断る理由はなかった。
「喜んで。……踏んでしまったら、ごめんなさい」
「たくさん二人で練習したのだから、大丈夫だ」
そう。クライヴは自らセシリアの練習相手を名乗り上げ、たくさん踊りに付き合ってくれた。
「踊る相手は主に私なのだから、私が付き合うべきだ」
と今までのクライヴにしては珍しく強く主張して、使用人たちが少し呆れていたのは内緒だ。結果的に彼のおかげで、セシリアは以前よりもリズムが取れ、余裕を持って踊れるようになった。
「きみはもともと運動神経が良いから、すぐに上手くなると確信していた」
よくやったと言いたげな優しげな眼差しに、セシリアはくすぐったくなる。
(本当に、変わられたわ……)
以前はどこか冷たく、感情の読めない表情をしていたが、今は柔らかな、優しい顔をすることが多くなった。タバサや他の使用人たち曰く、セシリアに対してだけらしい。
だがこういった場ではやはり他の人々も目にすることになり、見惚れている女性もいる。
(でも、外見だけではないのよ)
内面も、変わった。セシリアが落ち込んでいると、すぐに何があったと気にかけてくれて、泣いているといつまでも優しく慰めてくれる。とても甘やかしてくれて、優しい。
(お父さんとお母さんのことも……)
故郷で過ごした夏の日。王都へ戻ると、クライヴは父の乳母であった女性を探し出し、父の子ども時代や母との馴れ初めを語らせた。
乳母が言うには、父は兄である伯父のスペアとして育てられ、両親にもどこか見限られていたそうだ。劣等感を募らせて荒れていた父の心を救ったのが、当時屋敷で働いていた母だった。家族や友人に見放されていた父に、母は正面から向き合い、決して見捨てなかった。そんな母を父は深く愛し、二人で生きていくことを決めた。
駆け落ちしたことは、二人の人生にとって間違った選択ではなかったのだ。大変な思いはしただろうが、後悔はしていない。
(お父さんとお母さんは、決して不幸ではなかった)
乳母の話を聞いて、セシリアはそう確信できた。
むしろ、とても幸せだったのだ。
クライヴがそのことを教えてくれた。
『セシリア。きみの憂いを晴らせただろうか』
(――ありがとう、クライヴ様)
「セシリア? 何を考えているんだ?」
過去のことを思い出して微笑むセシリアに、クライヴが問いかけてくる。
「クライヴ様のことを、考えていたのです」
(優しい表情も素敵だけど、鉄仮面みたいなお顔も、けっこう好きかもしれない)
なんて思うようになった自分も、変わったのだろう。
そういえば最近自分のどこか好き? とクライヴに尋ねて、泣いている表情がけっこう好きだと答えられたことを思い出す。正直少し複雑な気持ちになったが、慰めてくれるのは好きなのでまぁいいかと思った。
(けっこう前から、好きでいてくれたのよね……)
表情がわかりにくいのと、自分のことで精いっぱいだったので、セシリアは気づかなかったが、クライヴなりに自分を気にかけてくれていたらしい。淡々と答えてくれる彼の言葉を分析しても、嫌われておらず……むしろ好意を持っていてくれたことが判明し、照れ臭いような、でもすごく嬉しい気持ちになった。
「あのね、クライヴ様。わたしも……」
一曲目の音楽が終わり、離れていくクライヴの指先に触れて、セシリアは微笑んだ。
「わたしも、あなたのことが好きです」
愛していると、改めて想いを伝えるセシリアに、クライヴの目はこれ以上ないほど見開かれたのだった。
その後、クライヴは社交界でも有名になるほどの愛妻家になる。妻のセシリアはハーフォード公爵夫人の名に恥じない貴婦人として振る舞ったが、クライヴの前だけでは違った。
普段の彼女とどう違うのか。
そのことを知るのは、生涯夫であるクライヴだけだった。
クライヴとの結婚からちょうど一年が過ぎた頃。ヨランダと無事に結婚した王太子が、舞踏会で声をかけてきた。彼女の隣には妃であるヨランダもいる。
「きみたちの噂は聞いているよ。いや、きみの噂かな? ずいぶんと奥方に惚れ込んで、とても大切にしていると」
「殿下のお耳にまで届いておりましたか。お恥ずかしい限りです」
「ははっ。だが否定はしないのだろう?」
「ええ」
クライヴはセシリアの方を見ると、ゆっくりと目を細めた。その表情に王太子もヨランダも、ついでにこちらの様子をちらちらと盗み見ていた客人も驚く。
なぜならクライヴが今まで見たこともないほど優しく、愛おしさに溢れた表情で妻であるセシリアを見つめていたから。
「……なるほど。噂は本当だったようだ」
「彼女と結婚できて、私はとても幸せ者です」
クライヴの言葉に、セシリアに注ぐ甘い視線に、ヨランダは少し面白くなさそうな顔をしたが、クライヴ本人は全く気づかず、王太子とヨランダの結婚を祝福した。
そして二人が立ち去ると、セシリアに向き合い、手を差し出す。
「踊ってくれるか?」
もちろんセシリアに断る理由はなかった。
「喜んで。……踏んでしまったら、ごめんなさい」
「たくさん二人で練習したのだから、大丈夫だ」
そう。クライヴは自らセシリアの練習相手を名乗り上げ、たくさん踊りに付き合ってくれた。
「踊る相手は主に私なのだから、私が付き合うべきだ」
と今までのクライヴにしては珍しく強く主張して、使用人たちが少し呆れていたのは内緒だ。結果的に彼のおかげで、セシリアは以前よりもリズムが取れ、余裕を持って踊れるようになった。
「きみはもともと運動神経が良いから、すぐに上手くなると確信していた」
よくやったと言いたげな優しげな眼差しに、セシリアはくすぐったくなる。
(本当に、変わられたわ……)
以前はどこか冷たく、感情の読めない表情をしていたが、今は柔らかな、優しい顔をすることが多くなった。タバサや他の使用人たち曰く、セシリアに対してだけらしい。
だがこういった場ではやはり他の人々も目にすることになり、見惚れている女性もいる。
(でも、外見だけではないのよ)
内面も、変わった。セシリアが落ち込んでいると、すぐに何があったと気にかけてくれて、泣いているといつまでも優しく慰めてくれる。とても甘やかしてくれて、優しい。
(お父さんとお母さんのことも……)
故郷で過ごした夏の日。王都へ戻ると、クライヴは父の乳母であった女性を探し出し、父の子ども時代や母との馴れ初めを語らせた。
乳母が言うには、父は兄である伯父のスペアとして育てられ、両親にもどこか見限られていたそうだ。劣等感を募らせて荒れていた父の心を救ったのが、当時屋敷で働いていた母だった。家族や友人に見放されていた父に、母は正面から向き合い、決して見捨てなかった。そんな母を父は深く愛し、二人で生きていくことを決めた。
駆け落ちしたことは、二人の人生にとって間違った選択ではなかったのだ。大変な思いはしただろうが、後悔はしていない。
(お父さんとお母さんは、決して不幸ではなかった)
乳母の話を聞いて、セシリアはそう確信できた。
むしろ、とても幸せだったのだ。
クライヴがそのことを教えてくれた。
『セシリア。きみの憂いを晴らせただろうか』
(――ありがとう、クライヴ様)
「セシリア? 何を考えているんだ?」
過去のことを思い出して微笑むセシリアに、クライヴが問いかけてくる。
「クライヴ様のことを、考えていたのです」
(優しい表情も素敵だけど、鉄仮面みたいなお顔も、けっこう好きかもしれない)
なんて思うようになった自分も、変わったのだろう。
そういえば最近自分のどこか好き? とクライヴに尋ねて、泣いている表情がけっこう好きだと答えられたことを思い出す。正直少し複雑な気持ちになったが、慰めてくれるのは好きなのでまぁいいかと思った。
(けっこう前から、好きでいてくれたのよね……)
表情がわかりにくいのと、自分のことで精いっぱいだったので、セシリアは気づかなかったが、クライヴなりに自分を気にかけてくれていたらしい。淡々と答えてくれる彼の言葉を分析しても、嫌われておらず……むしろ好意を持っていてくれたことが判明し、照れ臭いような、でもすごく嬉しい気持ちになった。
「あのね、クライヴ様。わたしも……」
一曲目の音楽が終わり、離れていくクライヴの指先に触れて、セシリアは微笑んだ。
「わたしも、あなたのことが好きです」
愛していると、改めて想いを伝えるセシリアに、クライヴの目はこれ以上ないほど見開かれたのだった。
その後、クライヴは社交界でも有名になるほどの愛妻家になる。妻のセシリアはハーフォード公爵夫人の名に恥じない貴婦人として振る舞ったが、クライヴの前だけでは違った。
普段の彼女とどう違うのか。
そのことを知るのは、生涯夫であるクライヴだけだった。
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