『最後の日記』BIRTHDAY~君の声~

OURSKY

文字の大きさ
32 / 77

第32話○封印

しおりを挟む
「ただいま~」

 娘が小学校から帰ってきた。

「おかえりなさい」

 気が付いたら、私は二階の床に座り込んでいた。
 知らぬ間に零れていた涙を慌ててエプロンで拭きながら、日記とクマを胸に抱えて立ち上がった。

 もしこの日記を娘や夫が読んだらショックを受けるだろう……
 深く傷付けて家族がバラバラになってしまうかもしれない……
 そして、このままクマを持っていれば、もう一度戻りたいと思ってしまうかもしれない……

 そうならないよう、私は日記とお揃いのクマをある場所に埋めることにした。

 天井裏から偶然出てきた某テーマパークのお菓子の缶の中に、思い出の品を……思い出を全て封じ込めるようにビニール袋に入れ、口をギュッと固く閉じて詰める。

 引っ越しの時にうっかりしまってしまった箱のままでは長い間保存ができないからだ。

 蓋を閉めながら、ふと……夫との初デートで一緒に見た『秘密』という映画のことを思い出した。

 内容は真逆だが、主人公と同じように秘密を抱えて生きていくことになるとは……
 しかも彼と一緒に見た映画の題名『手紙』によって……
 運命とは皮肉なものだ。

 私は夫に対して愛情がないという訳ではない。
 むしろ彼に対する想いを恋と呼ぶのだとしたら、夫に対する想いは不変の愛だ。

 娘に至っては愛しているという言葉だけでは表し尽くせないくらい……自分の命と引き換えにしても、どんな苦しみが待っていても守りたい存在。

 昔好きだった人に会いたい……なんて想いは、本当は母親になった時点で捨て去らなければいけない感情なのかもしれない。

 でも忘れようと何度も頑張ったのに、なぜだかどうしても……どうしても消えてくれなかった。

 男とか女とか関係なく一人の人間として、どうしても伝えたい想いがあったからだ。

 一緒にいられないのなら、私に出来るのはせめて幸せに生きていて欲しいと願うこと。

 遠い未来の約束をすることで、ほんの一部でもいい、彼の生きる希望になりたかった。

 私は缶を……ある時まで開けることがないよう、自分だけが分かる暗号で書いたメモをある場所に入れて、ある場所に埋めた。

 深く深く穴を掘り、誰にも見つからないように……

 そしていつか作った歌のように、もうこれ以上遠くならないよう、会いたいと願わないと決めた。

 これからは前だけを見て生きていこう。

 その時まで思い出すことがないように。

 目の前にいる家族がずっと幸せでいられるように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

【完結】指先が触れる距離

山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。 必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。 「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。 手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。 近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。

処理中です...