33 / 77
第33話○約束の日
しおりを挟む
手紙を書いた日から50年後……
7月7日は晴れの日だった。
「行ってきますね……」
「どこ行くの?」
娘が怪訝な表情で聞く。
「……秘密」
「1年前のこともあるし、あんまり遠出しないでよ~母さんはすぐ無理するから心配なんだから……」
「分かりましたよ。心配してくれてありがとう……私は幸せ者だわ」
「おばあちゃん出かけるの? 気を付けて行ってらっしゃ~い」
「行ってきます」
孫の頭を撫で、私は出かけた。
「おかしいわね……行き先も言わないなんて……」
「まあまあ。今日は七夕だし、きっと彦星様にでも会いに行ったんじゃない?」
孫が冗談めかしてなだめている声が、外に出てから聞こえた。
約束の日を迎えたものの時間を決めていなかったので、私は早めに家を出て、昼過ぎから約束の公園で会えるか分からない相手を待つことにした。
いつか座ったのと同じベンチで懐かしい日記を読みながら、今までの人生のことを静かに思い出す。
今日までの時間、どれだけ長い歳月が流れたことか……
私を愛してくれた大切な人達は、私を置いて旅立ってしまった。
もしかしたら彼もこの世にいないのでは……急に不安になってきた。
よく考えたら手紙自体を読んでいないかもしれない……
色々な考えが巡り、結局一番可能性が高い答えに辿り着いた。
「そもそも私のことなんか……忘れてしまっているよね……」
何時間経ったのだろう……段々と日が落ちてきた。
見上げた空は、かつての色よりだいぶ濁っていた。
(みんなで見た……桜と一緒に見上げた空は綺麗だったな……)
目を閉じると今でもその透き通った青さが浮かんでくる。
二度と戻らない大切な時間……
いつかの七夕の時と同じ、黄昏に向かう夏空は残酷で、暗さが増す度に「諦めろ」と言われているように感じた。
夕暮れの光が消えていく……
(やっぱり会えないか……)
ある物と日記をカバンにしまう。
思い出を握り締めながら、諦めて家族の元に帰ろうと立ち上がった瞬間……
私は名前を呼ばれた。
私がずっと待っていた声……
振り返ると、公園のベンチから見える横断歩道の向こうに、懐かしい笑顔が立っていた……
7月7日は晴れの日だった。
「行ってきますね……」
「どこ行くの?」
娘が怪訝な表情で聞く。
「……秘密」
「1年前のこともあるし、あんまり遠出しないでよ~母さんはすぐ無理するから心配なんだから……」
「分かりましたよ。心配してくれてありがとう……私は幸せ者だわ」
「おばあちゃん出かけるの? 気を付けて行ってらっしゃ~い」
「行ってきます」
孫の頭を撫で、私は出かけた。
「おかしいわね……行き先も言わないなんて……」
「まあまあ。今日は七夕だし、きっと彦星様にでも会いに行ったんじゃない?」
孫が冗談めかしてなだめている声が、外に出てから聞こえた。
約束の日を迎えたものの時間を決めていなかったので、私は早めに家を出て、昼過ぎから約束の公園で会えるか分からない相手を待つことにした。
いつか座ったのと同じベンチで懐かしい日記を読みながら、今までの人生のことを静かに思い出す。
今日までの時間、どれだけ長い歳月が流れたことか……
私を愛してくれた大切な人達は、私を置いて旅立ってしまった。
もしかしたら彼もこの世にいないのでは……急に不安になってきた。
よく考えたら手紙自体を読んでいないかもしれない……
色々な考えが巡り、結局一番可能性が高い答えに辿り着いた。
「そもそも私のことなんか……忘れてしまっているよね……」
何時間経ったのだろう……段々と日が落ちてきた。
見上げた空は、かつての色よりだいぶ濁っていた。
(みんなで見た……桜と一緒に見上げた空は綺麗だったな……)
目を閉じると今でもその透き通った青さが浮かんでくる。
二度と戻らない大切な時間……
いつかの七夕の時と同じ、黄昏に向かう夏空は残酷で、暗さが増す度に「諦めろ」と言われているように感じた。
夕暮れの光が消えていく……
(やっぱり会えないか……)
ある物と日記をカバンにしまう。
思い出を握り締めながら、諦めて家族の元に帰ろうと立ち上がった瞬間……
私は名前を呼ばれた。
私がずっと待っていた声……
振り返ると、公園のベンチから見える横断歩道の向こうに、懐かしい笑顔が立っていた……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
【完結】指先が触れる距離
山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。
必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。
「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。
手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。
近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる