君が奏でる部屋

槇 慎一

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新婚時代の想い出

23 二人きりになる

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 二日間のリサイタルが無事に終わった。同じ場所、同じプログラムだが、新たなお客様でいっぱいだった。ピアニストである奥様の生徒さんと、そのご家族も来てくれたそうだ。僕達にレッスンしてくれた先生も、二日とも聴いてくださった。

 僕達は、奥様と先生とディナーをして、礼を言って別れた。



 これから数日間はホテルで二人きりだ。しばらくピアノもない。ホテルからは、外の夜景も綺麗に見えた。東京とは違う景色だった。

 僕は先にシャワーを浴びて出ていくと、かおりはソファで眠そうにしていた。

「かおりもシャワーを浴びておいで。暖まってから寝よう」
「はい」

 
 あ……かおりは確か、パジャマを忘れてきたと言っていた。奥様の家では僕の普段着を貸していたのに……。僕に何も借りなかった。まぁ、いいか。どんな顔して、どんな姿で現れるのか楽しみだ。

 僕も眠くなった。本番の後の、心地良い疲れ……ベッドに座り、目を閉じた。




 クッションのような枕を背に座っていたベッドが、ゆっくりと揺れた。目を開けると、かおりがいた。可愛いかおりは、パジャマではなく、ひらひらした、透けるような綺麗な下着を着けている。妖精みたいだ。何も着けないよりもいやらしく見える。僕は夢見心地で背中を抱き寄せると、体ごとこちらに預けてきた。


 僕は、疲れていたことを忘れて、かおりを抱きしめた。

 メイクをしていたかおりが、いつもの素顔になっていた。
 かおりの頬にそっと触れると、それはかおりの体温で、かおりの肌だった。僕は、かおりの頬を撫でるのが好きだ。

「慎一さん、楽しそう……」
「そうだな…」

 パジャマを忘れた理由が判って、可笑しかった。
 僕はかおりの背中をシーツにつけ、両肘をついて腕の中にかおりを狭く閉じ込めた。言い様のない満足感と幸福感を味わいながら、時間をかけて愛した。















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