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3.健太郎と過ごす生活
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「まぁな。どこかのただの本物のバカと違って、俺はちゃんと目標を持って勉強してたからな」
「……目標? 健太郎に?」
今の言われ方にもイラっときたけど、それ以上に健太郎の“目標”の方が気になって、気持ちを抑えてたずねる。
「ああ。俺、医者になりたかったんだ」
「医者!? 健太郎が!?」
思わず大きな声を出してしまって、慌てて口元を両手でおさえる。
だけど、この教室に残ってたのはすでに私一人だけだったので、焦る必要はなかったようだ。
「何だよ、そんなに意外か?」
「そりゃそうだよ! だって、私といつもバカやってる健太郎が、医者だなんて……っ!」
何も将来の目標もない私は、知らない間に健太郎に置いていかれてしまってたんだと思わされる。
でも、何で健太郎は医者を目指そうと思ったんだろう……?
そんな私の疑問なんてお見通しだったのか、健太郎はおかしそうに笑ったあと、その理由を話してくれた。
「俺の弟な、生まれつき心臓が弱いんだ。だけど、今の医学では治せないらしくて、それなら俺が医者になって治療法を見つけて弟を治してやろうって思ってたんだ」
「そう、だったんだ……」
健太郎には、歳の離れた小学二年生の弟がいる。
生まれ持った持病のせいで入院しただの調子が良くないだのといった部分的な話は、よく耳にした記憶があった。
決して軽い病気ではないことは想像がついたけど、まさかそんなに重たい病気だっただなんて……。
健太郎は「うん」と相づちを打って、言葉を続ける。
「だから少しでも良い高校に進学できたらって思って、頑張ってたんだけどな……」
鏡を見ているわけではないから、健太郎の姿が見えているわけではない。けれど、何となく健太郎がそこで言葉を飲んだのがわかった。
その先の言葉は、聞かなくてもわかる。
そんなすごい目標を持っていたのに、不慮の事故で死んでしまった。健太郎は、そう言いたかったんだと思う。
「ごめん、ごめんね、健太郎……っ」
反射的に謝っていた。
「は? 何で千夏が謝るんだよ」
「ごめんね、うぅ……」
「おい、千夏。って、泣いてんのか? 視界が潤んでる」
健太郎が驚いてる声が聞こえる。健太郎からしてみれば、突然私が泣いたように感じるだろうし、無理ないだろう。
私は確かに健太郎が生きていた数日前まで、言い合いする度に健太郎のことを必要以上に悪く言っていた。けれど、健太郎のこんな話を聞いても心が動かないほど酷い人間ではない。
「あの日、死ねなんて言ってごめん。陰で、健太郎に生きてる価値がないなんて言って、ごめん……」
ちょっと気に入らないことをされたからって、ムカつくことを言われたからって、そんな言葉、安易に言って良い言葉じゃないのに……。
口から出ていった言葉を修正することはできない。
まさか勢いで言った自分の言葉にこんなに苦しむとになるなんて、あのときの私は全く思ってもみなかった。
「まぁ。ってか陰でも言ってたんかよ」
怒ってるというより、呆れているような健太郎の声。
「でも急にどうしたんだよ。千夏らしくない」
「だって健太郎は、私のせいで……」
「俺が死んだのは千夏のせいじゃない。だいたい俺は、千夏に死ね言われたからって死ぬようなやつじゃないだろ」
「それはわかってるけど……」
健太郎の盛大なため息が聞こえる。
きっと健太郎にとっては、あの日のやり取りも、いつもと何ら変わらない私とのやり取りと同じだったんだろう。
でも私は違う。そうは思えない。
健太郎が気にしてないにしても、ちゃんと謝りたかったんだ。
「……目標? 健太郎に?」
今の言われ方にもイラっときたけど、それ以上に健太郎の“目標”の方が気になって、気持ちを抑えてたずねる。
「ああ。俺、医者になりたかったんだ」
「医者!? 健太郎が!?」
思わず大きな声を出してしまって、慌てて口元を両手でおさえる。
だけど、この教室に残ってたのはすでに私一人だけだったので、焦る必要はなかったようだ。
「何だよ、そんなに意外か?」
「そりゃそうだよ! だって、私といつもバカやってる健太郎が、医者だなんて……っ!」
何も将来の目標もない私は、知らない間に健太郎に置いていかれてしまってたんだと思わされる。
でも、何で健太郎は医者を目指そうと思ったんだろう……?
そんな私の疑問なんてお見通しだったのか、健太郎はおかしそうに笑ったあと、その理由を話してくれた。
「俺の弟な、生まれつき心臓が弱いんだ。だけど、今の医学では治せないらしくて、それなら俺が医者になって治療法を見つけて弟を治してやろうって思ってたんだ」
「そう、だったんだ……」
健太郎には、歳の離れた小学二年生の弟がいる。
生まれ持った持病のせいで入院しただの調子が良くないだのといった部分的な話は、よく耳にした記憶があった。
決して軽い病気ではないことは想像がついたけど、まさかそんなに重たい病気だっただなんて……。
健太郎は「うん」と相づちを打って、言葉を続ける。
「だから少しでも良い高校に進学できたらって思って、頑張ってたんだけどな……」
鏡を見ているわけではないから、健太郎の姿が見えているわけではない。けれど、何となく健太郎がそこで言葉を飲んだのがわかった。
その先の言葉は、聞かなくてもわかる。
そんなすごい目標を持っていたのに、不慮の事故で死んでしまった。健太郎は、そう言いたかったんだと思う。
「ごめん、ごめんね、健太郎……っ」
反射的に謝っていた。
「は? 何で千夏が謝るんだよ」
「ごめんね、うぅ……」
「おい、千夏。って、泣いてんのか? 視界が潤んでる」
健太郎が驚いてる声が聞こえる。健太郎からしてみれば、突然私が泣いたように感じるだろうし、無理ないだろう。
私は確かに健太郎が生きていた数日前まで、言い合いする度に健太郎のことを必要以上に悪く言っていた。けれど、健太郎のこんな話を聞いても心が動かないほど酷い人間ではない。
「あの日、死ねなんて言ってごめん。陰で、健太郎に生きてる価値がないなんて言って、ごめん……」
ちょっと気に入らないことをされたからって、ムカつくことを言われたからって、そんな言葉、安易に言って良い言葉じゃないのに……。
口から出ていった言葉を修正することはできない。
まさか勢いで言った自分の言葉にこんなに苦しむとになるなんて、あのときの私は全く思ってもみなかった。
「まぁ。ってか陰でも言ってたんかよ」
怒ってるというより、呆れているような健太郎の声。
「でも急にどうしたんだよ。千夏らしくない」
「だって健太郎は、私のせいで……」
「俺が死んだのは千夏のせいじゃない。だいたい俺は、千夏に死ね言われたからって死ぬようなやつじゃないだろ」
「それはわかってるけど……」
健太郎の盛大なため息が聞こえる。
きっと健太郎にとっては、あの日のやり取りも、いつもと何ら変わらない私とのやり取りと同じだったんだろう。
でも私は違う。そうは思えない。
健太郎が気にしてないにしても、ちゃんと謝りたかったんだ。
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