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3.健太郎と過ごす生活
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「私、何もわかってなかった。健太郎のことも、健太郎に言った言葉の持つ意味も……」
「千夏……」
「私、健太郎には生きててほしかった。あんな風に言ってたけど、全然そんなこと心から思ってなくて……」
健太郎と違って誰かの役に立てるような目標も何もなければ、私は根っからのバカだし、健太郎ほどみんなに好かれてるわけでもない。
なんでそれなのに、健太郎は事故に遭って死んでしまって、私はこうして無事に生きているんだろう?
「……逆だったら、良かったのに……。私と、健太郎……。健太郎とかわってあげられたら、いいのに……。健太郎のこと生きてる価値なんてないとか言っておきながら、本当に生きてる価値がないのは、私自身なのにね」
健太郎が生きてる価値なんてないとは言ったけど、医者になって病気の弟を助けたいと、そんな風に人の役に立とうとしていた健太郎に、生きてる価値がないはずがない。
内心、あの日の自分を嘲笑っていると、私の中に健太郎の怒鳴り声が響いた。
「バカ! 何言ってんだよ! だから千夏はバカなんだよ」
思わずビクリと身体を震わせて、私の涙が鼻先を伝って課題のプリントに染みを作る。
「ちょ、バカバカって、そんな二回も言わなくても良いじゃない……っ!」
「いいや、お前は大バカだ。バカバカバカバカバカ千夏はカバよりバカだ」
だけど、まるで声を張り上げるような言い方で健太郎は私にバカを連呼してきた。
カバよりバカって、どういうことよ……。
「生きてる価値がないとか、簡単に言うなよな。俺に対してじゃなくて、千夏に対してもだ」
「……私に対して?」
健太郎に対してそういうことを言うなって怒られるのはわかるけど、何で私に対して言ったことで怒られるのだろう?
だけど、健太郎は冗談を言ってるわけでもなく、いたって真剣な声色で口を開いた。
「そうだ。千夏は確かにバカだけど、いつもバカみたいに明るいっつーか、見てて面白いっつーか……」
「何それ、私のことバカにしてるの?」
いつものノリじゃなくて、真面目に言われてるだけに、余計に傷つくものがある。
「どう聞いても褒めてるだろうが! 俺がこんなに人のことを褒めるなんて、滅多とないんだからな、しっかり聞いとけよ? とにかく、千夏を見てると、嫌なことも悩みとかも全部バカらしくなるんだよ。人を前向きにさせる力がある千夏に、生きてる価値がないなんて、俺には思えない」
有無を言わせないような力強い声で、健太郎は言いきった。
「何よ、健太郎らしくない……」
「うるさいな、黙って聞けよ」
相手は健太郎とはいえ、ここまではっきりとそんなことを言われると、こちらも照れくさいものがある。
「それに、俺は生きてる価値のない人間なんて、いないと思ってる。だって、みんなそれぞれに何かしら良いところを持っているはずだろ?」
確かに、良いところしかない人も、悪いところしかない人もいないし、性格的に合う合わないはあるにしろ、みんな良いところは一つ以上持っている。
そして何より健太郎がそこまで真剣に考えてるだなんて、思わなかった。
「……健太郎ってそんなクサいセリフ言うキャラだっけ?」
相手は健太郎だというのに、尊敬してしまった。
だけど照れくささもあって、私の口をついて出たのは、そんな言葉だったけれど。
「いちいち茶々入れんなよ。せっかく人が千夏のことを思って言ってやってるっていうのに」
口調から、ちょっと健太郎を怒らせてしまったようだ。
「とにかく、他人のことももちろんだけど、自分のことを生きてる価値がないなんてこれ以上言うなよな。自分くらい、自分の味方でいてやらないでどうすんだって感じだし」
でも、健太郎は私を励ますようにそう言った。
「……そうは言われても、難しいね」
私が、私自身の味方でいる。そうなれたら、私ももっと変われるんだろうけれど、きっとそれは難しい。
「そうか? とにかく、千夏には千夏の良さがあるんだから。ウジウジしてる千夏なんて、千夏じゃないみたいで気持ち悪い」
「な……っ」
気持ち悪いだなんて、そこまで言う必要なくない!?
せっかく尊敬して感心していたというのに……。
「そうだ、それでこそ千夏だ。じゃあ、早く残りの課題もやってしまえよ。日が暮れるぞ?」
でも、さっきの言葉も今の言葉も、健太郎なりに私のことを元気づけるために言ってくれた言葉だったのかなと思った。
健太郎は、すごい。
どうして死という現実に直面したっていうのに、こんなに前向きでいられるのだろう?
いや、違う。きっと私は健太郎を心配させてしまったのだろう。自分が死ねばよかっただなんて、日頃の私がしないようなマイナスな発言をしてしまったから。
私が健太郎に元気づけられてどうするのって話だ。本当に辛いのは、きっと私ではなく健太郎のはずなのに……。
死んだはずの健太郎が、私の中にいる。
そんな中、私は健太郎のために何ができるのだろう?
課題を解きながら、頭の片隅でそんなことを考えていた。
「千夏……」
「私、健太郎には生きててほしかった。あんな風に言ってたけど、全然そんなこと心から思ってなくて……」
健太郎と違って誰かの役に立てるような目標も何もなければ、私は根っからのバカだし、健太郎ほどみんなに好かれてるわけでもない。
なんでそれなのに、健太郎は事故に遭って死んでしまって、私はこうして無事に生きているんだろう?
「……逆だったら、良かったのに……。私と、健太郎……。健太郎とかわってあげられたら、いいのに……。健太郎のこと生きてる価値なんてないとか言っておきながら、本当に生きてる価値がないのは、私自身なのにね」
健太郎が生きてる価値なんてないとは言ったけど、医者になって病気の弟を助けたいと、そんな風に人の役に立とうとしていた健太郎に、生きてる価値がないはずがない。
内心、あの日の自分を嘲笑っていると、私の中に健太郎の怒鳴り声が響いた。
「バカ! 何言ってんだよ! だから千夏はバカなんだよ」
思わずビクリと身体を震わせて、私の涙が鼻先を伝って課題のプリントに染みを作る。
「ちょ、バカバカって、そんな二回も言わなくても良いじゃない……っ!」
「いいや、お前は大バカだ。バカバカバカバカバカ千夏はカバよりバカだ」
だけど、まるで声を張り上げるような言い方で健太郎は私にバカを連呼してきた。
カバよりバカって、どういうことよ……。
「生きてる価値がないとか、簡単に言うなよな。俺に対してじゃなくて、千夏に対してもだ」
「……私に対して?」
健太郎に対してそういうことを言うなって怒られるのはわかるけど、何で私に対して言ったことで怒られるのだろう?
だけど、健太郎は冗談を言ってるわけでもなく、いたって真剣な声色で口を開いた。
「そうだ。千夏は確かにバカだけど、いつもバカみたいに明るいっつーか、見てて面白いっつーか……」
「何それ、私のことバカにしてるの?」
いつものノリじゃなくて、真面目に言われてるだけに、余計に傷つくものがある。
「どう聞いても褒めてるだろうが! 俺がこんなに人のことを褒めるなんて、滅多とないんだからな、しっかり聞いとけよ? とにかく、千夏を見てると、嫌なことも悩みとかも全部バカらしくなるんだよ。人を前向きにさせる力がある千夏に、生きてる価値がないなんて、俺には思えない」
有無を言わせないような力強い声で、健太郎は言いきった。
「何よ、健太郎らしくない……」
「うるさいな、黙って聞けよ」
相手は健太郎とはいえ、ここまではっきりとそんなことを言われると、こちらも照れくさいものがある。
「それに、俺は生きてる価値のない人間なんて、いないと思ってる。だって、みんなそれぞれに何かしら良いところを持っているはずだろ?」
確かに、良いところしかない人も、悪いところしかない人もいないし、性格的に合う合わないはあるにしろ、みんな良いところは一つ以上持っている。
そして何より健太郎がそこまで真剣に考えてるだなんて、思わなかった。
「……健太郎ってそんなクサいセリフ言うキャラだっけ?」
相手は健太郎だというのに、尊敬してしまった。
だけど照れくささもあって、私の口をついて出たのは、そんな言葉だったけれど。
「いちいち茶々入れんなよ。せっかく人が千夏のことを思って言ってやってるっていうのに」
口調から、ちょっと健太郎を怒らせてしまったようだ。
「とにかく、他人のことももちろんだけど、自分のことを生きてる価値がないなんてこれ以上言うなよな。自分くらい、自分の味方でいてやらないでどうすんだって感じだし」
でも、健太郎は私を励ますようにそう言った。
「……そうは言われても、難しいね」
私が、私自身の味方でいる。そうなれたら、私ももっと変われるんだろうけれど、きっとそれは難しい。
「そうか? とにかく、千夏には千夏の良さがあるんだから。ウジウジしてる千夏なんて、千夏じゃないみたいで気持ち悪い」
「な……っ」
気持ち悪いだなんて、そこまで言う必要なくない!?
せっかく尊敬して感心していたというのに……。
「そうだ、それでこそ千夏だ。じゃあ、早く残りの課題もやってしまえよ。日が暮れるぞ?」
でも、さっきの言葉も今の言葉も、健太郎なりに私のことを元気づけるために言ってくれた言葉だったのかなと思った。
健太郎は、すごい。
どうして死という現実に直面したっていうのに、こんなに前向きでいられるのだろう?
いや、違う。きっと私は健太郎を心配させてしまったのだろう。自分が死ねばよかっただなんて、日頃の私がしないようなマイナスな発言をしてしまったから。
私が健太郎に元気づけられてどうするのって話だ。本当に辛いのは、きっと私ではなく健太郎のはずなのに……。
死んだはずの健太郎が、私の中にいる。
そんな中、私は健太郎のために何ができるのだろう?
課題を解きながら、頭の片隅でそんなことを考えていた。
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