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12.最後の夜
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「私、何も変わってないね。やっぱり、健太郎を傷つけてばっかりだ……」
二度目のお別れでも、健太郎を傷つけて、後悔ばかりだ。
「いや。千夏は変わったよ」
「……そんなことないよ。ちょっと心を改めたところで、根本的なところは何も……」
“死ね”という言葉を使わなくなった。
感情任せに発言するのも、なるべく慎むようにした。
だけど、今はどうだっただろう?
完全に健太郎の気持ちなんてそっちのけで、自分本位な発言ばかりだったのに、何が変わったと言うのだろう。
結局ちょっと心を改めただけで、大して何も変われていないような気がする。
それなのに……。
「変われてるさ。だって、千夏は嫌な自分を変えようとしてるじゃん」
「何それ」
「自分の弱いところって目をつむりがちになるし、変えようと思っても簡単に変えられるものじゃないだろ。そもそも変えようとしない人も多い。だけと、千夏はそれをしようとしてる。少し前までの千夏からは、考えられなかったことだろ?」
「……」
確かにその通りなんだけど、さ。
どうしてこういうときに、こいつは、人を泣かせるようなことを言ってくるのだろう。
健太郎はずっと見ていてくれたんだ。
生きてるときも死んでしまったあとも、私のそばで私のことを。
私は、今までそれに気づいてなかったけれど……。
「欲を言えば生きてるうちに聞きたかったよ、好きって言葉。……でも、俺が俺である間に聞けたから、それだけでも良しとしないとな」
ふわりと頭に触れた冷気を感じて、慌てて涙で濡れた目を開いて顔を上げる。すると、私のすぐ目の前まで健太郎が近づいて来ていた。
とても穏やかに笑っている。まるで、悲しみなんて吹っ切れたかのように。
「俺も、千夏が好きだった。小学生の頃から、ずっと。でも、だからこそ千夏には強く生きて、この世界で幸せになってほしいって思う」
「健太郎……そんなこと、言われても」
そんなことを言われると、もう本当に最後なんだと感じさせられてしまう。
思わず両耳を塞ぎそうになった両腕に、ふわりと冷気が触れる。
よく見ると、健太郎の色白い光に包まれた手が、こちらに伸びてきていた。
「大丈夫だ。神様は乗り越えられない試練なんて与えない、ってよく言うだろ? そりゃちょっとは悲しんでくれないと俺も寂しいけどさ。でも、千夏にはまだまだ与えられた未来が続いてるんだから、前を向いて生きていってほしい」
「健太郎……」
何よ、偉そうに。
思わずそう言いかけた、けれど、あまりに健太郎が真剣に言うから、そんな風に冗談めかして言うこともできなかった。
健太郎の言葉が、すっと心に、胸に入ってくる。
「未来は待ってはくれないけれど、辛いときは立ち止まったっていいんだ。倒れても、何度でも立ち上がればいい。そして、そうやってもがきながら生きて、千夏の人生を生ききったとき、また会おう。そのとき千夏がどんな人生を生きてきたか、俺に教えてくれよな」
「また、会える……?」
「きっと会えるさ。幽霊の姿か、生まれ変わった姿か、わからないけどさ。たとえ姿かたちが変わったとしても、きっとまた千夏とは巡り会えるような気がするんだ。どんな世界で巡り会ったとしても、千夏が俺のことをわからなかったとしても、必ず俺は千夏を見つけ出す」
「あはっ。ありがとう」
「あ、今、笑ったな? こっちはクソ真面目に話してるって言うのに」
健太郎らしい壮大な話に頬が緩んだのを、どうやら健太郎は見逃してくれなかったらしい。
カッと顔を赤くした健太郎だったけれど、すぐにそれは優しい笑みへと戻る。
「まぁでも、やっぱり千夏は笑顔が一番だからいいか」
だけどそのとき、健太郎の後ろにあるはずの景色が透けて見えた。
「健太郎っ!?」
もしかして、健太郎の姿が、消えかけてる!?
「え、何だよ」
私の様子に、怪訝そうに自分の身体を見つめる健太郎。
健太郎は私の言わんとしていることがわかったのか、自分の身体を眺めて「ああ」と一言口を開いた。
「タイムリミットが、近づいてるんだろうな」
腕時計に視線を落とすと、いつの間にこんなに時間が経っていたのか、夜の十一時五十五分を指している。
もうすぐで、今日が終わる。
「そんな……っ」
二度目のお別れでも、健太郎を傷つけて、後悔ばかりだ。
「いや。千夏は変わったよ」
「……そんなことないよ。ちょっと心を改めたところで、根本的なところは何も……」
“死ね”という言葉を使わなくなった。
感情任せに発言するのも、なるべく慎むようにした。
だけど、今はどうだっただろう?
完全に健太郎の気持ちなんてそっちのけで、自分本位な発言ばかりだったのに、何が変わったと言うのだろう。
結局ちょっと心を改めただけで、大して何も変われていないような気がする。
それなのに……。
「変われてるさ。だって、千夏は嫌な自分を変えようとしてるじゃん」
「何それ」
「自分の弱いところって目をつむりがちになるし、変えようと思っても簡単に変えられるものじゃないだろ。そもそも変えようとしない人も多い。だけと、千夏はそれをしようとしてる。少し前までの千夏からは、考えられなかったことだろ?」
「……」
確かにその通りなんだけど、さ。
どうしてこういうときに、こいつは、人を泣かせるようなことを言ってくるのだろう。
健太郎はずっと見ていてくれたんだ。
生きてるときも死んでしまったあとも、私のそばで私のことを。
私は、今までそれに気づいてなかったけれど……。
「欲を言えば生きてるうちに聞きたかったよ、好きって言葉。……でも、俺が俺である間に聞けたから、それだけでも良しとしないとな」
ふわりと頭に触れた冷気を感じて、慌てて涙で濡れた目を開いて顔を上げる。すると、私のすぐ目の前まで健太郎が近づいて来ていた。
とても穏やかに笑っている。まるで、悲しみなんて吹っ切れたかのように。
「俺も、千夏が好きだった。小学生の頃から、ずっと。でも、だからこそ千夏には強く生きて、この世界で幸せになってほしいって思う」
「健太郎……そんなこと、言われても」
そんなことを言われると、もう本当に最後なんだと感じさせられてしまう。
思わず両耳を塞ぎそうになった両腕に、ふわりと冷気が触れる。
よく見ると、健太郎の色白い光に包まれた手が、こちらに伸びてきていた。
「大丈夫だ。神様は乗り越えられない試練なんて与えない、ってよく言うだろ? そりゃちょっとは悲しんでくれないと俺も寂しいけどさ。でも、千夏にはまだまだ与えられた未来が続いてるんだから、前を向いて生きていってほしい」
「健太郎……」
何よ、偉そうに。
思わずそう言いかけた、けれど、あまりに健太郎が真剣に言うから、そんな風に冗談めかして言うこともできなかった。
健太郎の言葉が、すっと心に、胸に入ってくる。
「未来は待ってはくれないけれど、辛いときは立ち止まったっていいんだ。倒れても、何度でも立ち上がればいい。そして、そうやってもがきながら生きて、千夏の人生を生ききったとき、また会おう。そのとき千夏がどんな人生を生きてきたか、俺に教えてくれよな」
「また、会える……?」
「きっと会えるさ。幽霊の姿か、生まれ変わった姿か、わからないけどさ。たとえ姿かたちが変わったとしても、きっとまた千夏とは巡り会えるような気がするんだ。どんな世界で巡り会ったとしても、千夏が俺のことをわからなかったとしても、必ず俺は千夏を見つけ出す」
「あはっ。ありがとう」
「あ、今、笑ったな? こっちはクソ真面目に話してるって言うのに」
健太郎らしい壮大な話に頬が緩んだのを、どうやら健太郎は見逃してくれなかったらしい。
カッと顔を赤くした健太郎だったけれど、すぐにそれは優しい笑みへと戻る。
「まぁでも、やっぱり千夏は笑顔が一番だからいいか」
だけどそのとき、健太郎の後ろにあるはずの景色が透けて見えた。
「健太郎っ!?」
もしかして、健太郎の姿が、消えかけてる!?
「え、何だよ」
私の様子に、怪訝そうに自分の身体を見つめる健太郎。
健太郎は私の言わんとしていることがわかったのか、自分の身体を眺めて「ああ」と一言口を開いた。
「タイムリミットが、近づいてるんだろうな」
腕時計に視線を落とすと、いつの間にこんなに時間が経っていたのか、夜の十一時五十五分を指している。
もうすぐで、今日が終わる。
「そんな……っ」
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