【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

かじや みの

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2章 かぶき者

1 ならず者

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 あれから一年ほどが経った。

 着物は薄汚れて、髪も伸び、前髪で顔の半分は隠れるので、パッと見ただけでは景三郎だとは気づかれない。

 刀を差している。
 浪人の風体だ。

 刀は、前を歩く増蔵ますぞうにもらったものだ。

 増蔵は、三十歳くらいのならず者だった。

 出会ったのは、一年ほど前。

 家を出て、城下のはずれを、当てもなくさまよっていたときだ。

 空腹と、雨に濡れたまま放っておいたせいか、熱に浮かされて行き倒れ寸前だった。

 焼き蛤の屋台があり、あたりにいい匂いが漂っていた。

 このまま真っ直ぐ歩いていけば、伊勢まで行ける街道だ。

 伊勢まで行ってやろうかと思った。
 お伊勢参りをする人々は、四国のお遍路さんのように、道中接待を受けることができるのだ。

 だが、なぜか先に進めなかった。
 桑名から離れられない。
 後ろ髪を引かれるとは、こういうことを言うんだなと、妙に納得して、街道の付近をうろうろするしかなかった。
 要するに、勇気がないのだ。

 どうしていいかわからないのに、なぜ出てきたのだろうと、自分を呪う。
 あのまま、加平次が戻るのを待っていればよかったのに。

 最低だ。
 おれ、死ぬのかな。

 ネガティブワードしか出てこない。

 突然、後ろから突き飛ばされて、踏ん張りが効かずにすっ転んだ。

「なんだこいつ、行き倒れか?」
 浮浪者のようなひどい格好に、そう見られて当然だった。
 実際行き倒れ寸前なのだ。

「侍のなりだが、何も持っちゃいねえな」

 数人のチンピラに囲まれ、懐を探られる。

「こいつ、陰間茶屋から抜け出してきたんじゃねえか?」
「ちげえねえ。何も持ってないはずだ。連れて帰れば金になるな」
「それとも、別のところで高く売り飛ばすとか」

 え? 
 そういう危険があることに、今さら気が付く景司だった。

 逃げようとしたが、力が入らず、振りほどけない。

「ちょいと待ちな」
 そのとき、屋台ではまぐりを食べていた男が、殻を捨てて近づいてきた。
 それが増蔵だった。
 チンピラなど、相手にならないほどの貫禄と凄みがあった。

「なんか用かよ、兄さん」
 チンピラたちが下手に出る。

 増蔵は、無視して、景司に向かって言った。
「こいつを貸したろか」

 侍の刀とは少し違うようだった。
 長さは、刀と脇差の間くらいか。

 呆然としていると、捕まえているチンピラを殴りつけて、景司を解放し、刀を手渡してきた。

 なに?
 男の意図がわからずに、首をかしげたが、チンピラがそれで黙ったわけではない。
 景司に向かって、刃物を抜いてきた。

 増蔵は、非情にも、下がって腕を組み、成り行きを見守るようだった。

 真剣など、使ったことがない景司は、慌てた。

 考えるな。
 と自分に言い聞かせる。

 身の危険を感じて、体が勝手に動く。
 刀を左腰につけ、柄を握ったと同時に足が開いて腰が沈む。

 抜くときの構えだ。

「野郎!」
 と、凄んで斬りかかってきた。

 ふらふらだったのに、どこにそんな力があったのだろう。

 迫ってくる刃を、身をひるがえしてかわし、抜いた刀を一閃させる。
 チンピラの髷が切り落とされた。
 残りも同じように、髷を切って落とした。
 ふらつきながらも刀を振る腕はぶれなかった。

 チンピラたちは慌てて逃げていったが、景司は力尽きて意識を失った。



「ええ腕や。行くとこないんやったら、わしと手ぇくまんか」
 目を覚ますと、増蔵が笑顔を見せて言った。
 初めは何かひどいことでもされないかと警戒したが、介抱されているうちに、警戒心が消えていった。

 余計なことは何も聞かず、恩を着せるでもなく、器が大きい人というのは、こういう人のことを言うんだと思った。
 景司には、ちゃんとした大人に見えた。

「本当に、ここにいてもいいのでしょうか」
 起き上がれるようになって、景司は増蔵の好意に甘えていいものか、確かめた。
「見ての通り、一人もんだ。好きなだけいたらええ。その代わり、その腕を貸してもらう」
「よろしくお願いします」
 と頭を下げた。

「よせや。厳しい世界やで。気い抜いたら簡単にあの世にいってまう。堅苦しいことは抜きや。過去は全て捨てな。お前は今日から生まれ変わったんや」
「はい」
 増蔵の言葉が身にしみた。

「恩に感じることもない。嫌になったら勝手に出ていったらええ。お前を拾ったんは気まぐれや。あの場を切り抜けられんかったら、捨てておくつもりやった。運が良かったんやなくて、それがお前の運や」
「・・・」
「それから、言うておくが、わしは男を抱く趣味はない。惚れるなよ」
「おれは、陰間じゃありません」
「陰間茶屋やないんか」
「違います!」

 ならず者としての暮らしが始まった。

 増蔵は、連まず、一匹狼で、あのときのチンピラのように、弱い者をいたぶったりはしない。
 逆に、そういう人たちを助けている。
 だから、ならず者相手に喧嘩になることが多かった。
 用心棒になったようなものだった。

 ついて歩くようになって、悪い人ではないと思った自分の勘が当たっていたことを知った。

 今も、場末の遊女屋でちゃんと金を払わない水夫を脅しに行くところだった。

 増蔵は、苦み走ったいい男だから、遊女たちに人気があった。
 景司も増蔵について、そういう場所に出入りすることになる。
 博打ばくち場にもよく行く。
 頭がくらくらするような刺激の多い暮らしにも、次第に慣れていった。



 街道を、七里の渡しに向かって歩いている。

 右手の方には、桑名城が見えてくる。

 町人地と武家地は厳密に分かれており、特に、門の内側には、用もないのに入れない。

 追い出された格好の景司は、足を踏み入れてはならない場所だった。

 普段はあの頃とのあまりの違いに、忘れてしまっているが、お城の天守を見ると、思い出す。
 父上や、右京のこと・・・。
 一年も経ったのに、放置したままだということも。

 右京は元気にしているだろうか。
 思い出すと、体の芯が疼く。

 こんなおれを見たら、なんて言うだろう。

「どうした?」

 増蔵が、遅れ気味な景司を振り返った。

 街道は人々でごった返し、気を抜くとはぐれてしまいそうになる。


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