【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

かじや みの

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4章 対決 桑名城

7 陣羽織

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 毅八郎が猛然と斬り込んだ。

 伊織は、しなやかな動きで、ことごとくかわす。
 まともに受けることはない。
 それが伊織の剣だ。
 無駄な動きがまったくない。
 そうやって相手の隙を誘い、隙が見えた時、攻撃に転じる。
 柔らかくて強い。

 戻ってきたはいいが、景司は何もできずに見守ることしかできなかった。

 賭場の燃え方は激しくて、近寄ることもできない。
 増蔵や元締がどうなったか知りたかったが、確かめることもできなかった。
 立ち尽くすことしかできない。
 本当に足手纏いだ。

 立っているのは伊織と毅八郎しかいない。
 二人の動きが止まった。
 刀を構えたまま睨み合っている。

 胸が、息が苦しくなって喘いだ。
 嫌だ。
 見ていたくない。
 邪魔をしてはいけないとわかっているのに、耐えられなかった。

「もうやめて! 二人ともやめてくれ!」
 走っていって、二人の間に入ろうとした。
 おれは武士なんかになれない。
 目の前で戦っている侍たちを、黙って見守る勇気も、強さもない。
 耐えられない!
 不様でもいいから、みんなに生きていてほしい。
 なんで戦わなければいけないの?
 やっぱり、かぶき者なんて無理だ。
 増蔵や元締が誉めてくれたのは、ただのお愛想だ。
 真似事だ。
 本当は何にもわかってない。
 わかりたくない!

 二人が景司を見た。
 伊織の顔に動揺が走る。
 毅八郎が、こちらに向かってこようとした。
 そうはさせじと、景司を庇うように、伊織が前に立った。
「早く行くのです」
「嫌だ。伊織も一緒じゃなきゃ嫌だ!」
「邪魔だ、どけ!」
 毅八郎が怒鳴った。
「二人とも地獄へ送ってやる」
 凄まじい一撃が伊織を襲う。
 伊織は、その場を動かず、刃を受けとめた。
 力攻めでは、毅八郎に分がある。

「若!」
 追いついた留吉が牛のように突進してきた。
 そのままタックルするように景司に体当たりすると、肩にかついで走っていく。
「伊織!」
 揺れる肩の上で、名を呼ぶのが精一杯だった。
 歯を食いしばる。
 炎に照らされた、二人の姿が涙でにじんだ。

 伊織の刃が、毅八郎を斬るのと、毅八郎が、伊織を突き刺すのとが同時に見えた。
 もつれるように倒れる寸前、留吉が道を曲がり、視界が闇に閉ざされた。




 式部の屋敷に着いたとき、留吉の肩は涙でびしょ濡れになっていた。

 だが、廊下を歩きながら、涙が渇き、落ち着いていくのがわかった。
 自分は伊織と共に死んだんだ、と思った。
 何も感じない。
 心が空っぽになったような感覚だった。

 部屋の戸を開けると、式部が座っていた。
「よくぞ参られた」
「・・・」
 鎧兜が飾られている。
 着せられた赤い陣羽織が目立っていた。
 燭台の炎が揺れて、今にも動き出しそうな怪しげな存在感を放っている。

「行ってくる」
 式部が眩しげに、立ったままの景司を見ている。
「城へ行く」
 静かに言った。
 なんの感情もためらいもなく、言葉がするりと出てきた。
「殿、おとも仕ります」
「いや、一人で行く。行かねばならぬ」
 初めから、そうなる運命だったのだ。
 ジタバタするだけ無駄だった。
 冷めた心でそう悟った。

「もう、二度と会わぬ」
 式部が抱きしめてきた。
「殿・・・」

 その夜は、ご落胤として抱かれた。
 式部とは、いや、この世とは、これでお別れだ。
 最後の愛撫は物悲しくて、満たされず、激しさを求めた。
 求めても得られないものばかりがほしいのだ。
 その寂しさを、埋めるように、お互いの温もりを求め続けた。




 景司は馬に乗った。
 かぶき者にふさわしい派手な衣装と定良の赤い陣羽織を羽織っている。
 その衣装が、まるで鎧のように重かった。

「この陣羽織は、殿より拝領したものでござる。城に入るまで、襲われることはない。殿がお守りくださる」
 と式部が言った。
「お殿さまや・・・」
 留吉までが、涙ぐんで、感激している。


 人々でごった返す街道を馬でいく。
 お供は留吉一人だ。

 聳え立つ桑名城を目に焼き付けるように眺めた。
 なんか、市中引き回しの上獄門、みたいだ、と思った。
 石を投げられないだけマシか。
 もしくは、お祭りの武者行列。
 笑いが込み上げる。
 みんなに見送られていくのもいいか。
 景司は、沿道の人々の応援の声に、手を振って応えた。
 逃げ隠れせず、堂々と城へ乗り込む。
 その心意気が町人に受け入れられていた。
 町娘がキャーキャー言っている。
 堂々を胸を張って進んだ。

 通り井のところで、おあきを見つけた。
 泣きそうな顔になっている。
 他の人と違う表情のせいで目立ったのだ。
 目顔で頷いた。
 頷き返してくれた。

 南大手門から中は、もう城の中だ。

 門前で馬から降りた。
 何も声をかけていないのに、門が開く。
 中へ入れという誘いだろう。
「留吉、今までありがとう。ここからは一人で行く」
「若・・・」

 振り返らずに中へ入った。
 門がゆっくりと閉じた。
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