【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

かじや みの

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終章 蟠龍に抱かれて眠れ

2 ずっと覚えているから

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 痛みなんかすぐに忘れた。

 体よりも熱い舌が、肌をすべっていく。
 胸の傷に触れないように、乳首を舌で弄ぶ。
 跳ねる腰を抱え込まれ、右京が腰を押し付けてくる。
「もう誰にもやらない。おれだけを見ろ」
 喘ぎながら頷く。
「好きだ・・・」
「愛してる」
 もう、押さえ込まなくていい。
 誰にも遠慮しなくていい。
 じわじわと喜びが込み上げてきた。
 同時に快感が身体中に行き渡る。
 もっともっと感じたい。
「いくぞ。きつかったら言えよ」
 この世にもう、生きる場所がなくてもいい。
 今死んでもいい。
 ずっとこのときを求めていたんだ。
 右京を受け入れて、自分がどんなに右京が好きなのかわかった。
 満たされていく。
 そして溢れた。



 待っていると長いもので、殿さまはなかなか帰ってこなかった。
 抱かれるたびに、薄皮が剥がれ落ちるように、鎧っていたものが取れて素の自分になっていった。
 何者でもない、ただの景司になる。

 食べ物も喉を通るようになり、蟠龍櫓での幽閉暮らしは、穏やかなものだった。

「もう死ぬなんて言うな。生きることだけ考えろ」
 右京はそう言うが、いつまでもこんな時間が続くわけないことぐらい、わかっているはずだ。
 だから、別れを惜しむように抱き合ってしまう。
 今日が最後かもしれない。
 毎回そんな思いで。



 春が近づいてきた頃、右京が緊張した顔でやってきた。
 港が近いので、いつもと違うような気配になんとなく、そうじゃないかと思っていたが、その時が来たのだ。
「殿がご帰城された」
「そうか」
「しばらく来れないかもしれないが。顔だけは見にくるから」
「うん。いいよ。未来の重役をいつまでも縛り付けていられない」
「ばか。まだおれは部屋ずみだぞ。なんのお役にもついちゃいない」
「そんなの自慢にならないよ」
 笑った。
 普通に会話できることが、こんなに嬉しいことだとは思わなかった。
 敵とか味方とか、見栄とか身分とか関係なく、一緒にいられるのが、幸せだ。
「笑うようになったな」
 右京が眩しそうに目を細めた。
「右京のおかげだよ。ありがとう」
「やけに素直じゃないか」
 格子越しに手を伸ばしてきた。
「早く行けよ」
 その手を叩いたが、近づいて、唇に軽くキスした。


 一人の時間が増えた。
 右京は、食事を運んで来て調子を聞き、天気の話をしたりするだけで放っておかれた。
 寂しくないと言ったら嘘になるけど、放っておかれてもなぜか心は穏やかだった。
 いろんなことを考えた。
 今までのことも思い返した。
 もうすぐ行くから。
 伊織や増蔵たちにあの世で会う。
 留吉はどうしただろう。式部は?

 壁にもたれてうつうつしていたら、右京が来た。
 鍵を開けて、中に入ってくる。
 いきなり抱きしめてきた。
「景三郎、よく聞くんだ」
 もう、来たんだな、その時が。
「お前を死んだことにして、ここから出す」
「え?」
「お前を棺桶に入れて、川に下ろす。船には留吉が乗っている。町屋川まで下って行って、そこから川を遡り、上木あげき村まで行くんだ。そして見性寺という寺に行け。そこにお律さまがいる。母上が生きておられたのだ。みんな兵衛介どのの計らいだ。兵衛介どのは、そこまで準備されていたのだ」
「父上が・・・」
 涙が込み上げてきた。
「加平次に会ってきた。お前がここへ来た日、門の外にいた留吉を誘って加平次のところへ行ってみたんだ。その時は、何も教えてはくれなかったが、知らせが来た。おれを信用してくれたようだ。その後、お律さまが、お前の助命嘆願を願い出てくださって、お殿さまのお許しを得た。母上に会ったら、留吉を伴ってどこへでも行け。ただ、残念ながら、城下には二度と戻れない」
「じゃあ・・・」
「もう二度と会えない。ということだ。・・・お前が生きていてくれれば、それでいい」
 右京も泣いていた。


 決行の前日は、心ゆくまで抱き合った。
「お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「棺桶に入れるの大変かもしれないけど、首をこうやって・・・」
 手刀で自分の首を打つ真似をした。
「刀で峰打ちして眠らせてほしい」
「処刑するみたいにか?」
「そう。目が覚めたとき、生まれ変わったって感じがするから。ここで、蟠龍で眠って、飛び立つ、みたいな」
「変なやつだな。相変わらず。何を言っているのかわからん」
「本当にもう会えないのかな」
 背中に腕を回してきつく抱きしめる。
「生きていれば、いつか会える。きっと」
「そうだよね。死んでしまっても、会えるよね」
「ああ、きっと会える」

 体がなくなっても、覚えているよね。



 そのとき、右京の刀が振り下ろされ、一瞬の痛みとともに、意識を失った。
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