雪の匣庭

東崎 惟子@ 日曜西C24a

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碧海渚沙(七月二十九日)

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七月二十九日
 思っていたよりも私は参ってしまっていたらしい。休息を求める精神は、私を深い眠りへと誘い、次に目覚めた時には正午を過ぎていた。もっとも夢の中でも私は町中を駆けまわっていたので、疲れが取れた気は全くしなかったが。
 恋衣を探さなくては。
 起床後、ダメもとで再び彼女の家に行ってみたが、人が戻ってきた気配はない。そこで私は、ついに彼女に電話をかける決意をした。昨日の出来事から恋衣が事件に深くかかわっていること、そして一晩戻らなかった事実から恋衣が私達から逃げようとしているという確証を持ったからだ。もちろん、電話に大人しく出るとは思っていない。だが多少のプレッシャーを与えてアクションを引き起こせるかもしれない。
 恋衣にコールする。
 長めのコールを残す。着信時間が長ければ長いほど、与えられるプレッシャ―が大きくなる気がした。
 しかし、予想に反して……電話を切るよりも早く、コール音は途絶えた。
「…………」
 驚くべきことに、恋衣は電話に応じたのだ。そう理解するのに、若干の時間を要した。
「もしもし」
 話しかけるが返ってきたのは無言だけだ。逆にそれが、電話相手が恋衣であると確信させる。在りし日の寡黙さを想起させる。
「恋衣、今どこにいるの」
彼女は答えない。
 私は何か情報を聞き出したくて必死に話を続けた。
「恋衣の家、行ったよ。見たよ、お母さんの姿。アレはあなたがやったの?」
やや間を置いてから恋衣は答えた。
「……ママのことは仕方なかった。逆らったから」
「美雪もそういうこと? あの子、あなたに当たりが強かったから……」
「…………」
「ねえ、恋衣。この雪は何? あなたはいったい何者なの?」
 恋衣は答えない。それは、返答を思考している間のようにも思えたが、私は畳みかけて質問をした。
「あなた、魔女なんでしょ」
「魔女?」
「とぼけないで。私にも伝手があってさ、こういう現象に詳しい人がいるんだよ。その人に聞いたら、こういうおかしなことを起こせるのは魔女だけだって!」
「あなたが何を言ってるかわからない。ただ私は意思を遂行するだけ」
「意思?」
「どうしてそんなに必死になって探りを入れようとするの。今回は静観しないの?」
「自分の命が懸かってるのに、静観なんてできるはずないじゃない!」
「大きな声を出さないで。驚いてしまうから」
 そこで電話は切れた。
やはり月宮恋衣がこの奇怪な災禍の中心にいることは間違いない。だが、彼女の居場所の手掛かりになる情報は引き出せなかった。無感動な彼女にしては珍しくどこか神経質、あるいは警戒心を抱いているような印象を受けたのは収穫に入るだろうか。
 その日、私は思い当たる場所全部をめぐって恋衣を探したが、見つけることはできなかった。
 深夜、家に戻ると両親のうめき声が寝室から聞こえてきた。体調でも悪いのか、悪夢に魘されているのか……。あまり気には留めず、私は私でベッドに飛び込み、一日中駆けまわった体を休めることにした。
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