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深山安綺羽(七月二十八日)
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七月二十八日
部屋に佇んでいた月宮君を僕は研究所へと連れ帰った。家を出るとき、液状化した母親が乗じて外に逃れようとしたが、再び足蹴にして妨げたので、ついに彼女は外気に触れることは叶わなかった。人間という生き物は、弱者相手ならば悪戯に残酷になれるものだ。
僕は、月宮君からここ最近起きた出来事のあらましを聞きだした。否、聞き出そうとしたが、彼女の言葉は凡俗の私には理解の及ばぬ事柄ばかりであった。ただ、痴愚なる僕の理解力でもどうにか推測がついたのは、当初考えたとおり、どうやら月宮恋衣が宿主となったということだけである。
本来ならば、寄生虫は人間の生命力や感情を糧に成長するはずなのだが、今のところ宿主であるにもかかわらず月宮君の容体は安定している。肉体・精神ともに通常の人間と何ら変わりない活動を行うことができそうだ。母体および寄生体に気を使い、何かしたいこと、欲しいものがあるかなどと聞いても、小さくかぶりを振るだけでただわずかな食事を要求するだけであった。元来彼女は活発な人間ではないせいもあるかもしれない。万全を期すために無理にでも食事を摂らせようかとも思ったが、そもそも成長に人間の生命力と感情が必要だという情報も守り人から聞き出した知識に過ぎないため、信憑性は高いものの絶対ではない。木櫃に入っていた走り書きによれば、前に羽化したのは百五十年も前のことだというし、生態に変化を来している可能性も否定はできない。ひとまず要求通り少しばかりの総菜屋で食事を購入してきて与えることとした。コンビニ弁当にしなかったの
は、三十路女なりのせめてもの気遣いである。
月宮恋衣は自宅からいくつかの道具を持ってきていた。絵本と人形である。食事などの生活行動を除いて彼女はそれらの道具で遊び続けていた。絵本を朗読し、人形とままごとする。月宮恋衣の年齢は十七だったはずだが……年の割に幼い趣向である。だがもしかするとその純粋さこそが、宿主に選ばれた素養の一つであるのかもしれない。
夕刻頃、来客があった。僕の旧友の伝手でやってきたという少女は、町を覆う雪に怯えているとのことだった。僕にはそれは自慢話にしか聞こえなかった。ただ、彼女は何か勘違いしているらしく、この町の現象を魔女によるものだと思っていた。滑稽なことだが、惟子は魔女の専門家だから、彼女と話しをしたのならば無理からぬことと思う。この事象の元凶を殺したいなどと宣い始めたときには、今すぐフリントロックを取りに行って硝煙に消してやろうかと思ったが、皮肉なことに彼女は上階にいる月宮恋衣に気付いていなかったので、適当にお茶を濁して追い返す。口から出まかせを鵜呑みにするのだから、高校生など与しやすいものだ。
ただ、最後に魔匠のクロスを渡すことにした。学友への義理立てである。
部屋に佇んでいた月宮君を僕は研究所へと連れ帰った。家を出るとき、液状化した母親が乗じて外に逃れようとしたが、再び足蹴にして妨げたので、ついに彼女は外気に触れることは叶わなかった。人間という生き物は、弱者相手ならば悪戯に残酷になれるものだ。
僕は、月宮君からここ最近起きた出来事のあらましを聞きだした。否、聞き出そうとしたが、彼女の言葉は凡俗の私には理解の及ばぬ事柄ばかりであった。ただ、痴愚なる僕の理解力でもどうにか推測がついたのは、当初考えたとおり、どうやら月宮恋衣が宿主となったということだけである。
本来ならば、寄生虫は人間の生命力や感情を糧に成長するはずなのだが、今のところ宿主であるにもかかわらず月宮君の容体は安定している。肉体・精神ともに通常の人間と何ら変わりない活動を行うことができそうだ。母体および寄生体に気を使い、何かしたいこと、欲しいものがあるかなどと聞いても、小さくかぶりを振るだけでただわずかな食事を要求するだけであった。元来彼女は活発な人間ではないせいもあるかもしれない。万全を期すために無理にでも食事を摂らせようかとも思ったが、そもそも成長に人間の生命力と感情が必要だという情報も守り人から聞き出した知識に過ぎないため、信憑性は高いものの絶対ではない。木櫃に入っていた走り書きによれば、前に羽化したのは百五十年も前のことだというし、生態に変化を来している可能性も否定はできない。ひとまず要求通り少しばかりの総菜屋で食事を購入してきて与えることとした。コンビニ弁当にしなかったの
は、三十路女なりのせめてもの気遣いである。
月宮恋衣は自宅からいくつかの道具を持ってきていた。絵本と人形である。食事などの生活行動を除いて彼女はそれらの道具で遊び続けていた。絵本を朗読し、人形とままごとする。月宮恋衣の年齢は十七だったはずだが……年の割に幼い趣向である。だがもしかするとその純粋さこそが、宿主に選ばれた素養の一つであるのかもしれない。
夕刻頃、来客があった。僕の旧友の伝手でやってきたという少女は、町を覆う雪に怯えているとのことだった。僕にはそれは自慢話にしか聞こえなかった。ただ、彼女は何か勘違いしているらしく、この町の現象を魔女によるものだと思っていた。滑稽なことだが、惟子は魔女の専門家だから、彼女と話しをしたのならば無理からぬことと思う。この事象の元凶を殺したいなどと宣い始めたときには、今すぐフリントロックを取りに行って硝煙に消してやろうかと思ったが、皮肉なことに彼女は上階にいる月宮恋衣に気付いていなかったので、適当にお茶を濁して追い返す。口から出まかせを鵜呑みにするのだから、高校生など与しやすいものだ。
ただ、最後に魔匠のクロスを渡すことにした。学友への義理立てである。
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