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月宮恋衣
しおりを挟む人間という生き物は、私にとって最も近くて遠い存在だった。
私には生まれつき、他人に対する共感能力というものが欠けていた。例えば誰かが非業の死を遂げただとか、スポーツの大会で優秀な成績を残しただとか、そういうことに揺り動かされる心を欠片だって持ち合わせていない。このことは人間社会で生きていくのに致命的な欠陥であった。それでも人の肉を授かって生を受けてしまった以上、欠陥品は欠陥品なりに馴染もうと努力した時期もあった。つまり、どういうときに人が笑い、泣き、驚くのか。それをつぶさに研究し真似してみたのだ。しかし、心から生じたものではない感情の表現は、結局は歪んだ唇の形を作るにとどまり、かえって不気味な印象を与える結果に終わった。以来、感情を表に出す努力はしていない。人間世界での孤立はより深まっていった。
こういう共感能力の欠けた人間を精神病質(サイコパシー)と呼ぶらしい。当初は私もそういう類の人間なのだと思った。だが調べていくうちに違うとわかった。精神病質の人間はしばしば動物を殺すことに快楽を覚えるらしい。私は真逆だ。犬猫の死に涙する。想像するだけで、胸を張り裂くような悲しみが膨れ上がってくるのがわかる。人間に対しては全くの無関心であるにも関わらず、そこに割かれるべき感情が全て動植物に向いてしまっているのである。
この歪みは誰にも理解されなかった。友人はもちろん母親にさえ。幼い頃はかわいらしい動物好きで通ったが、大人に近づくにつれ、幼稚、知恵遅れなどの誹りを受けるようになった。特に母は俗にいうエリートママだったため、私の一見幼げな趣向に僅かも理解を示そうとしなかった。学校の成績が良くなかったのも合わさって、次第に叱責はエスカレートし暴力にまで発展していった。母子家庭な上に一人娘であったから止める者などあるはずがない。そうやって殴られ、蹴られ、汚される度に、私は人間への不信感を募らせていった。
やがて、一つの考えに思い当った。
――自分は人間ではないのだ。
人としての形を与えられこそしたが、中に人の心を宿さないヒトガタなのだと。
私が人形に偏執的な愛情と共感を覚えるようになるのに時間はかからなかった。
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