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台風が来るので、今日の私はお休みです(後編)
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「好きです。物心付いた時から、ずっと。私と、付き合って下さい」
テーブルを挟んで向かい側に座っていた透子がおもむろに私の隣に移動してきた。
そして、私の目を正面から見据えてそう言った。
だが私の脳は、透子が何を言っているのかをしばらく理解出来なかった。
「えーっと、うーんと、あの、透子さん?」
「さん付けだなんて、いきなり他人行儀になっちゃうの……?」
「ちょっと、涙目にならないで可愛い……じゃなくって、私で告白の練習とかそういうのは、」
「違うわ。冗談でこんなこと言わないもの」
「えっと……?」
「私は本気よ? 大好きなの」
「――ッ!????」
やっと、脳が追いついた。透子の好きだと言う気持ちをまっすぐにぶつけられて、私は、
「あうあうあう、あのあの、えぇっと、」
言葉にならない言葉を漏らして視線を彷徨わせて、遂には顔を伏せる。
透子の顔を見ていられない。
心臓の鼓動が激しい。顔を伏せて目を閉じれば、余計にそれがわかる。
透子にだって聞こえてしまうかもしれないくらいに、私の胸がドクドクとうるさい。
今の私は、きっと頬どころか耳まで真っ赤だ。
というか、えっとこれは、なんだ。
女の子同士で、女の子同士だから、女の子って、ええええ!?
透子が、私の手に触れた。ひんやりとしていて、柔らかくて細い手だ。
私の手を握ろうとして、でも、
「――あ」
その手が、そっと離れた。心なしか震えているような気がする。
私の手を取ることを迷って、躊躇って、勇気が出せないでいるような。そんな透子の心の内が見て取れる気がした。
そっか。そうだ。
私がこんな風に、混乱してどうしていいかわからなくなっているように。透子だって、きっと。
顔を上げる。私と同じか、それ以上に真っ赤になった透子が、
「迷惑だったらそう言って? もう二度と言わないから」
透子が少しだけ悲しそうな表情を見せた。
私の態度が透子にそんな表情をさせてしまったのだとしたら、私はきっと最低な人間だ
そんなことでは、透子の隣に居る資格なんてない。
でも、だからと言って今ここで透子の告白に応えるだけの勇気も出ない。
どうしようか迷って悩んで、ふと、店の外の様子が視界に入ってくる。
街路樹が、風に煽られて揺れている。どうやら、風が出てきたようだ。
台風が来ているんだ、早く帰らないと危ないかもしれない。
風で何かが飛んできて当たって怪我をした、なんてのは正直洒落にもならない。
あー、今のこのドキドキというか動揺も、台風の嵐に巻かれて飛んでいかないかなー、なんて。
そんなことをふと考えつつ、今この場を切り抜ける為に、幼馴染で親友でもある彼女に告げる。
「返事は待って貰えないかな?」
「……? 何それ、どういうことかしら? 私じゃ駄目なの?」
悲しげな表情を見せる透子に抱く気持ちは、罪悪感だろうか。
「違う違う、考える時間が欲しいってこと! 明日には返事するから」
しかし透子の表情は晴れない。まだ言葉が足りなかったかな、と柄にもなく語ってみる。
「恋愛はさ、焦らしたりとか押したり引いたりだとか、そういうのも醍醐味なのよ? 今夜一晩くらい、私がどう答えるかでやきもきして欲しいかなー、なんて、――ちょッ。何いきなり、」
透子に抱きつかれて、私は慌てる。私の耳に口を近付けて
「今日は透子の家に泊まりたいわ。……ほら、お泊りの一式は持ってきてあるのよ?」
そんなことを囁かれた。
いやそんな、透子が泊まりに来るのは昔から良くあることだから大丈夫だけど、でも今は大丈夫じゃないというか、これは。
「……意識、しちゃうじゃない」
私が。あーもー、これじゃ私が一人になって考える時間なんてないだろうし、
「そうね? 私としては押して押して押しまくって照れてる姿とか見られるってのが醍醐味だと思うわ? 今夜一晩、私にどう答えるかでやきもきして欲しいわね」
恋愛マスターは、やはり恋愛マスターだった。
どこかで聞いたようなセリフでの意趣返しをされて、項垂れる。
透子が泊まりに来るということは、触れ合えるぐらいのすぐ近くに居て、いつも通りに一緒にお風呂に入ったりだとか、
――!
そこで、私は思考を切った。考えるのを止めた。
この妄想が、いや限りなくこの先に待ち受けているであろうリアルに想像出来てしまう甘い現実が、私の脳を焼き切った。だから、
「台風が来るので、今日の私はお休みです」
言って、私はテーブルに突っ伏すのだった。
「ああ、一つ言い忘れていたことがあったわ」
透子が、ふと思い出したかのような自然さで、
「実は、ピンク玉占いでは明日が恋愛運最高の日なんだそうよ?」
あー、うん、そっか。
何か騙されたというか、ハメられたような気がする。まだ見ぬ謎のピンク玉よ、恨むぞ。
いや、恨むっていうのはおかしいか。
だって、きっと明日の私はそのピンク玉に感謝していることだろう。
だって、今の私の胸の内はこんなにも温かくて、――。
さてさて、がんばれ明日の私。
今日のこれからは、透子のお泊りなんていう甘いイベントは、今日お休みの私が頑張るから。
いやいや、それお休みになるの? なあんてことは言わないのがお約束。
テーブルを挟んで向かい側に座っていた透子がおもむろに私の隣に移動してきた。
そして、私の目を正面から見据えてそう言った。
だが私の脳は、透子が何を言っているのかをしばらく理解出来なかった。
「えーっと、うーんと、あの、透子さん?」
「さん付けだなんて、いきなり他人行儀になっちゃうの……?」
「ちょっと、涙目にならないで可愛い……じゃなくって、私で告白の練習とかそういうのは、」
「違うわ。冗談でこんなこと言わないもの」
「えっと……?」
「私は本気よ? 大好きなの」
「――ッ!????」
やっと、脳が追いついた。透子の好きだと言う気持ちをまっすぐにぶつけられて、私は、
「あうあうあう、あのあの、えぇっと、」
言葉にならない言葉を漏らして視線を彷徨わせて、遂には顔を伏せる。
透子の顔を見ていられない。
心臓の鼓動が激しい。顔を伏せて目を閉じれば、余計にそれがわかる。
透子にだって聞こえてしまうかもしれないくらいに、私の胸がドクドクとうるさい。
今の私は、きっと頬どころか耳まで真っ赤だ。
というか、えっとこれは、なんだ。
女の子同士で、女の子同士だから、女の子って、ええええ!?
透子が、私の手に触れた。ひんやりとしていて、柔らかくて細い手だ。
私の手を握ろうとして、でも、
「――あ」
その手が、そっと離れた。心なしか震えているような気がする。
私の手を取ることを迷って、躊躇って、勇気が出せないでいるような。そんな透子の心の内が見て取れる気がした。
そっか。そうだ。
私がこんな風に、混乱してどうしていいかわからなくなっているように。透子だって、きっと。
顔を上げる。私と同じか、それ以上に真っ赤になった透子が、
「迷惑だったらそう言って? もう二度と言わないから」
透子が少しだけ悲しそうな表情を見せた。
私の態度が透子にそんな表情をさせてしまったのだとしたら、私はきっと最低な人間だ
そんなことでは、透子の隣に居る資格なんてない。
でも、だからと言って今ここで透子の告白に応えるだけの勇気も出ない。
どうしようか迷って悩んで、ふと、店の外の様子が視界に入ってくる。
街路樹が、風に煽られて揺れている。どうやら、風が出てきたようだ。
台風が来ているんだ、早く帰らないと危ないかもしれない。
風で何かが飛んできて当たって怪我をした、なんてのは正直洒落にもならない。
あー、今のこのドキドキというか動揺も、台風の嵐に巻かれて飛んでいかないかなー、なんて。
そんなことをふと考えつつ、今この場を切り抜ける為に、幼馴染で親友でもある彼女に告げる。
「返事は待って貰えないかな?」
「……? 何それ、どういうことかしら? 私じゃ駄目なの?」
悲しげな表情を見せる透子に抱く気持ちは、罪悪感だろうか。
「違う違う、考える時間が欲しいってこと! 明日には返事するから」
しかし透子の表情は晴れない。まだ言葉が足りなかったかな、と柄にもなく語ってみる。
「恋愛はさ、焦らしたりとか押したり引いたりだとか、そういうのも醍醐味なのよ? 今夜一晩くらい、私がどう答えるかでやきもきして欲しいかなー、なんて、――ちょッ。何いきなり、」
透子に抱きつかれて、私は慌てる。私の耳に口を近付けて
「今日は透子の家に泊まりたいわ。……ほら、お泊りの一式は持ってきてあるのよ?」
そんなことを囁かれた。
いやそんな、透子が泊まりに来るのは昔から良くあることだから大丈夫だけど、でも今は大丈夫じゃないというか、これは。
「……意識、しちゃうじゃない」
私が。あーもー、これじゃ私が一人になって考える時間なんてないだろうし、
「そうね? 私としては押して押して押しまくって照れてる姿とか見られるってのが醍醐味だと思うわ? 今夜一晩、私にどう答えるかでやきもきして欲しいわね」
恋愛マスターは、やはり恋愛マスターだった。
どこかで聞いたようなセリフでの意趣返しをされて、項垂れる。
透子が泊まりに来るということは、触れ合えるぐらいのすぐ近くに居て、いつも通りに一緒にお風呂に入ったりだとか、
――!
そこで、私は思考を切った。考えるのを止めた。
この妄想が、いや限りなくこの先に待ち受けているであろうリアルに想像出来てしまう甘い現実が、私の脳を焼き切った。だから、
「台風が来るので、今日の私はお休みです」
言って、私はテーブルに突っ伏すのだった。
「ああ、一つ言い忘れていたことがあったわ」
透子が、ふと思い出したかのような自然さで、
「実は、ピンク玉占いでは明日が恋愛運最高の日なんだそうよ?」
あー、うん、そっか。
何か騙されたというか、ハメられたような気がする。まだ見ぬ謎のピンク玉よ、恨むぞ。
いや、恨むっていうのはおかしいか。
だって、きっと明日の私はそのピンク玉に感謝していることだろう。
だって、今の私の胸の内はこんなにも温かくて、――。
さてさて、がんばれ明日の私。
今日のこれからは、透子のお泊りなんていう甘いイベントは、今日お休みの私が頑張るから。
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