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13.平和学習
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川北小学校では、毎年夏休みの全校登校日に平和学習をしている。今年は、五年生と六年生が、講堂に集まって講演を聴いた。
朝から暑かった。その上、風通しの悪い講堂に、大勢が集まって長い長い話を聞くのだ。大二郎先生が
「みんな、ちゃんと背筋を伸ばして、今日のお話を聞きなさい」
と言うけれど、こんなに暑くちゃそりゃ無理だ。
リューイチたちは講演の先生を見てびっくりした。ガミガミさんだ。
「みんな、おはようございます!」
元気なのはガミガミさんだけだ。
「今日は平和学習の日ですね。平和についてみなさんに考えてもらうため、いつもは戦争中のお話をするのですが、今日は戦争が終わってからのこと、私がこの町で見てきたことをお話をします」
ガミガミさんは、絵画教室のときとは話し方が違う。まるで校長先生みたいな話し方だ。
戦争が終わって十八年がたちました。だから、戦後生まれたみなさんは戦争を知りませんよね。でも、この町はね、昔海軍の工場がたくさんあって、そのため、たくさん爆撃を受けたってことはみなさんも知っていますね。まだ、戦争の跡があちらこちらに残ってるものね。
大川の土手を、河口に向かってずーっと歩いて行くと、戦闘機を作る大きな工場がありました。その工場を中心に、この町はたびたび爆撃を受けたんです。
戦争が終わったときには、工場はもう跡形もなくなっていた。町もほとんど焼かれてしまった。市内の中心部は、商店街も住宅地も、何にもない焼け野原だったんだよ。
やがて、占領軍が上陸して、たくさんの外人部隊がやってきました。市内のいたるところに、その進駐軍の兵隊さんが宿泊するためのキャンプが作られて、町なかではいつも外人さんの姿が見かけられるようになったんです。
日本の兵隊さんは、いつでも列をつくって、足並みをそろえて、団体で行動します。いつも何人かで行動をとるから、一人で自由に過ごせる時間なんてほとんどない。ところが外人の兵隊さんは、ふだんは一人一人が自由なんです。いつもはみんなばらばらだ。あんまり規律がきびしくない。でも、みんなが動かないといけないときは、ジープやトラックに乗りこんですぐに移動する。気持ちの切り替えが速いんだよ。
日本人から見たら、なんだかだらだらしてしまりがない兵隊さんです。だけど、外人さんからしてみれば、必要なときだけ集団で行動する。そうでないときは一人ひとり自由だ。自由に行動する。それが当たり前なんだろうね。日本人は、いつでもきちっとしていなければ気がすまない。でも、「いつも規則正しくみんなで行動しなさい」では、疲れてしまうよね。
駐進軍はアメリカの兵隊だけじゃなくて、イギリスとかオーストラリアなどいろんな国の兵隊さんがいたけれど、みんなそうでした。日本人だけが変わってたんだよ。自分たちが変わってるってこと、進駐軍が来て初めて気が付いたんだ。
最初、進駐軍がやってきたときは、町じゅうみんなが「敵兵が来た!」って怖がっていました。それまで、恐ろしい敵国だと言い聞かされてきたんです。ついこの間まで戦っていた相手なんですよ。そりゃあ怖いよ。
だから、みんな顔を合わさないようにしていたんです。外人の兵隊さんが町の中に出てくる休みの日になると、雨戸を閉めて、窓の鍵をかけて、声を出さずにじっとしていた。何をされるか分からないからね。商店街もみんな店を閉めたんだ。
でもね、進駐軍の兵隊さんだって、たまにはにぎやかな町の中に出て、のんびり過ごしたいんだよ。ところが町に出て楽しく過ごそうにも、だれもいない。そんなさびしい町を歩くだけじゃ、つまらないよね。
最初に外人さんに慣れたのは子どもたちでした。外人の兵隊さんはジープに乗って、子どもたちを見かけると笑顔で声をかける。近づいていくと、ポケットからチョコレートや、ガムを出して渡してくれるんだ。いつのまにかジープに乗った兵隊さんは子どもたちの人気者になった。
子どもたちに囲まれて、兵隊さんたちが楽しそうに笑っている。マジックなんかをやってみせる兵隊さんもいたなあ。そうすると、大人たちも恐る恐る外に出るようになって、商店街もしだいに店を開くようになった。
外国の兵隊さんは気前がよくて、たくさん買い物をしてくれたんだよ。カタコトの英語と、かたことの日本語と、身振りや手振りで、お互いに少しずつだけど話もできるようになった。
そうすると、どちらも慣れてきて、日本人の中には高い値段を付けて、ずるい商売をする店が出てきた。外国の兵隊さんの中にも、店の中でいたずらをする人が出てくるようになった。特に若い兵隊さんたちは、長い間、自分の国からずいぶん離れたよその国にいるわけだから、さびしさもあったんだろうね。商店街だけではなくて、道路でも住宅地でも、若い兵隊さんたちのいたずらがどんどんひどくなってきたんだ。
そんなことがあって、また進駐軍の兵隊さんの評判が悪くなっていった。
「やっぱり外人は害人じゃ!」
みんながそんな気持ちになって、商店街の中では日本人も外人も、どちらもがギスギスした感じだった。
あるとき、商店街の中でのこと。
豆屋さんの店先から、三歳くらいの男の子が、道の真ん中までちょこちょこっと飛び出てきた。買い物をしていたお母ちゃんから離れたんだろうね。
ちょうど悪いことに、そばの横町から三輪トラックがバックして出てきた。運転手は気をつけながらゆっくり出てきたんだけど、荷台に物をいっぱいに積んでいて、小さな子が飛び出したのに気がつかなかったんだろう。
お母ちゃんが
「タッちゃん!」
と悲鳴のような声を上げた。
「間に合わないッ!」
周りの人みんながかたずをのんだ。
その時だ。兵隊さんが横っ飛びに坊やを抱きかかえると、道路の上でごろりと一回転。まるで、ラグビー選手みたいだった。
「助かった!」
抱きかかえられた子は、かすり傷一つなく、無事にお母ちゃんの手に渡されたんだ。
若い黒人の兵隊さんでした。体がごつくて、とてもやさしい顔をした人でした。
太い腕に坊やをやさしく抱いて、お母ちゃんに渡しながら、おどけた表情をして見せた。坊やは声を上げて笑いました。お母ちゃんは泣きながら、でも何度も何度も頭を下げて手を合わせて、日本語で兵隊さんにお礼を言いました。日本語でも、お母ちゃんの気持ちは伝わったんだね。
「ドンマイ、ドンマイ」
兵隊さんはそう言って手を振りながら、仲間と一緒に離れていきました。
様子を見ていた周りの人たちみんなが集まってきて、お母ちゃんと坊やにやさしく声をかけました。三輪車の運転手さんも車から降りてきて、何度も何度も頭を下げました。
そのとき、私はちょうどその場に居合わせたんです。家の近所に英語ができる友人がいてね、一緒に出かけていたんだよ。私も友人も、それを見てとてもうれしかった。若い外国の兵隊さんが、日本の小さな子どもを助けてくれたんです。
二人ですぐに後を追って、その兵隊さんに声をかけてお礼を言ったんだ。
「ドンマイ、ドンマイ」
そう言ってにこにこ笑っている。私にはそれくらいしかわからなかったんだけど、英語のできる友だちはいろいろとしゃべっていた。
あとで聞いたら、
「この町の人たちはみんなやさしいんだね。すぐにああやってみんなが集まって、やさしい声を掛け合ってる。ふだんは息も聞こえないくらいにシーンとして暮らしてるのにね。心配なときはすぐにみんなが出てきて、一緒になってやさしい声を掛け合ってる。いい町だね」
そんなことを言ってたんだそうだ。
私ははずかしかった。その若い黒人の兵隊さんは、本当ににこやかで明るい顔をしてしゃべっていたんだよ。日本はこんな人たちとこの間まで戦争してたんだね。
そうなんだよ。その兵隊さんも、戦争をしてるときは、日本人のことをオ二みたいに思ってたかもしれない。私たちだって、アメリカ兵やイギリス兵をオ二のように聞かされていた。でも、みんな一人一人は温かい心を持っているんだ。みんな自分の国に帰ったら、それぞれふるさとがあって、やさしい声をかけてくれる人たちが待っているんだよ。
人って、どこの国でも同じなんです。国と国でお互いに言い分はあるんだろうけど、どの国に住んでいる人たちだって温かい心は持ってるんです。
戦争を起こしたことがいけなかったのかもしれないな。そう私は思ったんだけど、みんなはどう思う?
突然、となりに座ったタッちゃんが、手を上げて立ち上がった。
「じゃっ、じゃっ、じゃからッ、戦争したことがいけんかったんかもしれん・・・?かもしれんじゃなくて、戦争はいけん!戦争しちゃいけん。いけん、ぜったいいけん。いけんのじゃッ!」
タッちゃん、すごい大きな声で言ったんだ!
リューイチはびっくりした。周りのみんなもびっくりした。
「そうかそうか。いけんかったんかもしれんなんて、私がそんな風に言っちゃいけんかったね。そうだそうだ。いけんことはいけん。戦争は絶対いけん。絶対いけないんだぞ!そうはっきり言わんといけんよね」
ガミガミさんもタッちゃんのことばに感心していた。みんなが拍手をした。
でも、さっきの英語のできる友だちって、ひょっとしてじーじのことじゃないのかな。それに、小さいタッちゃんって・・・
朝から暑かった。その上、風通しの悪い講堂に、大勢が集まって長い長い話を聞くのだ。大二郎先生が
「みんな、ちゃんと背筋を伸ばして、今日のお話を聞きなさい」
と言うけれど、こんなに暑くちゃそりゃ無理だ。
リューイチたちは講演の先生を見てびっくりした。ガミガミさんだ。
「みんな、おはようございます!」
元気なのはガミガミさんだけだ。
「今日は平和学習の日ですね。平和についてみなさんに考えてもらうため、いつもは戦争中のお話をするのですが、今日は戦争が終わってからのこと、私がこの町で見てきたことをお話をします」
ガミガミさんは、絵画教室のときとは話し方が違う。まるで校長先生みたいな話し方だ。
戦争が終わって十八年がたちました。だから、戦後生まれたみなさんは戦争を知りませんよね。でも、この町はね、昔海軍の工場がたくさんあって、そのため、たくさん爆撃を受けたってことはみなさんも知っていますね。まだ、戦争の跡があちらこちらに残ってるものね。
大川の土手を、河口に向かってずーっと歩いて行くと、戦闘機を作る大きな工場がありました。その工場を中心に、この町はたびたび爆撃を受けたんです。
戦争が終わったときには、工場はもう跡形もなくなっていた。町もほとんど焼かれてしまった。市内の中心部は、商店街も住宅地も、何にもない焼け野原だったんだよ。
やがて、占領軍が上陸して、たくさんの外人部隊がやってきました。市内のいたるところに、その進駐軍の兵隊さんが宿泊するためのキャンプが作られて、町なかではいつも外人さんの姿が見かけられるようになったんです。
日本の兵隊さんは、いつでも列をつくって、足並みをそろえて、団体で行動します。いつも何人かで行動をとるから、一人で自由に過ごせる時間なんてほとんどない。ところが外人の兵隊さんは、ふだんは一人一人が自由なんです。いつもはみんなばらばらだ。あんまり規律がきびしくない。でも、みんなが動かないといけないときは、ジープやトラックに乗りこんですぐに移動する。気持ちの切り替えが速いんだよ。
日本人から見たら、なんだかだらだらしてしまりがない兵隊さんです。だけど、外人さんからしてみれば、必要なときだけ集団で行動する。そうでないときは一人ひとり自由だ。自由に行動する。それが当たり前なんだろうね。日本人は、いつでもきちっとしていなければ気がすまない。でも、「いつも規則正しくみんなで行動しなさい」では、疲れてしまうよね。
駐進軍はアメリカの兵隊だけじゃなくて、イギリスとかオーストラリアなどいろんな国の兵隊さんがいたけれど、みんなそうでした。日本人だけが変わってたんだよ。自分たちが変わってるってこと、進駐軍が来て初めて気が付いたんだ。
最初、進駐軍がやってきたときは、町じゅうみんなが「敵兵が来た!」って怖がっていました。それまで、恐ろしい敵国だと言い聞かされてきたんです。ついこの間まで戦っていた相手なんですよ。そりゃあ怖いよ。
だから、みんな顔を合わさないようにしていたんです。外人の兵隊さんが町の中に出てくる休みの日になると、雨戸を閉めて、窓の鍵をかけて、声を出さずにじっとしていた。何をされるか分からないからね。商店街もみんな店を閉めたんだ。
でもね、進駐軍の兵隊さんだって、たまにはにぎやかな町の中に出て、のんびり過ごしたいんだよ。ところが町に出て楽しく過ごそうにも、だれもいない。そんなさびしい町を歩くだけじゃ、つまらないよね。
最初に外人さんに慣れたのは子どもたちでした。外人の兵隊さんはジープに乗って、子どもたちを見かけると笑顔で声をかける。近づいていくと、ポケットからチョコレートや、ガムを出して渡してくれるんだ。いつのまにかジープに乗った兵隊さんは子どもたちの人気者になった。
子どもたちに囲まれて、兵隊さんたちが楽しそうに笑っている。マジックなんかをやってみせる兵隊さんもいたなあ。そうすると、大人たちも恐る恐る外に出るようになって、商店街もしだいに店を開くようになった。
外国の兵隊さんは気前がよくて、たくさん買い物をしてくれたんだよ。カタコトの英語と、かたことの日本語と、身振りや手振りで、お互いに少しずつだけど話もできるようになった。
そうすると、どちらも慣れてきて、日本人の中には高い値段を付けて、ずるい商売をする店が出てきた。外国の兵隊さんの中にも、店の中でいたずらをする人が出てくるようになった。特に若い兵隊さんたちは、長い間、自分の国からずいぶん離れたよその国にいるわけだから、さびしさもあったんだろうね。商店街だけではなくて、道路でも住宅地でも、若い兵隊さんたちのいたずらがどんどんひどくなってきたんだ。
そんなことがあって、また進駐軍の兵隊さんの評判が悪くなっていった。
「やっぱり外人は害人じゃ!」
みんながそんな気持ちになって、商店街の中では日本人も外人も、どちらもがギスギスした感じだった。
あるとき、商店街の中でのこと。
豆屋さんの店先から、三歳くらいの男の子が、道の真ん中までちょこちょこっと飛び出てきた。買い物をしていたお母ちゃんから離れたんだろうね。
ちょうど悪いことに、そばの横町から三輪トラックがバックして出てきた。運転手は気をつけながらゆっくり出てきたんだけど、荷台に物をいっぱいに積んでいて、小さな子が飛び出したのに気がつかなかったんだろう。
お母ちゃんが
「タッちゃん!」
と悲鳴のような声を上げた。
「間に合わないッ!」
周りの人みんながかたずをのんだ。
その時だ。兵隊さんが横っ飛びに坊やを抱きかかえると、道路の上でごろりと一回転。まるで、ラグビー選手みたいだった。
「助かった!」
抱きかかえられた子は、かすり傷一つなく、無事にお母ちゃんの手に渡されたんだ。
若い黒人の兵隊さんでした。体がごつくて、とてもやさしい顔をした人でした。
太い腕に坊やをやさしく抱いて、お母ちゃんに渡しながら、おどけた表情をして見せた。坊やは声を上げて笑いました。お母ちゃんは泣きながら、でも何度も何度も頭を下げて手を合わせて、日本語で兵隊さんにお礼を言いました。日本語でも、お母ちゃんの気持ちは伝わったんだね。
「ドンマイ、ドンマイ」
兵隊さんはそう言って手を振りながら、仲間と一緒に離れていきました。
様子を見ていた周りの人たちみんなが集まってきて、お母ちゃんと坊やにやさしく声をかけました。三輪車の運転手さんも車から降りてきて、何度も何度も頭を下げました。
そのとき、私はちょうどその場に居合わせたんです。家の近所に英語ができる友人がいてね、一緒に出かけていたんだよ。私も友人も、それを見てとてもうれしかった。若い外国の兵隊さんが、日本の小さな子どもを助けてくれたんです。
二人ですぐに後を追って、その兵隊さんに声をかけてお礼を言ったんだ。
「ドンマイ、ドンマイ」
そう言ってにこにこ笑っている。私にはそれくらいしかわからなかったんだけど、英語のできる友だちはいろいろとしゃべっていた。
あとで聞いたら、
「この町の人たちはみんなやさしいんだね。すぐにああやってみんなが集まって、やさしい声を掛け合ってる。ふだんは息も聞こえないくらいにシーンとして暮らしてるのにね。心配なときはすぐにみんなが出てきて、一緒になってやさしい声を掛け合ってる。いい町だね」
そんなことを言ってたんだそうだ。
私ははずかしかった。その若い黒人の兵隊さんは、本当ににこやかで明るい顔をしてしゃべっていたんだよ。日本はこんな人たちとこの間まで戦争してたんだね。
そうなんだよ。その兵隊さんも、戦争をしてるときは、日本人のことをオ二みたいに思ってたかもしれない。私たちだって、アメリカ兵やイギリス兵をオ二のように聞かされていた。でも、みんな一人一人は温かい心を持っているんだ。みんな自分の国に帰ったら、それぞれふるさとがあって、やさしい声をかけてくれる人たちが待っているんだよ。
人って、どこの国でも同じなんです。国と国でお互いに言い分はあるんだろうけど、どの国に住んでいる人たちだって温かい心は持ってるんです。
戦争を起こしたことがいけなかったのかもしれないな。そう私は思ったんだけど、みんなはどう思う?
突然、となりに座ったタッちゃんが、手を上げて立ち上がった。
「じゃっ、じゃっ、じゃからッ、戦争したことがいけんかったんかもしれん・・・?かもしれんじゃなくて、戦争はいけん!戦争しちゃいけん。いけん、ぜったいいけん。いけんのじゃッ!」
タッちゃん、すごい大きな声で言ったんだ!
リューイチはびっくりした。周りのみんなもびっくりした。
「そうかそうか。いけんかったんかもしれんなんて、私がそんな風に言っちゃいけんかったね。そうだそうだ。いけんことはいけん。戦争は絶対いけん。絶対いけないんだぞ!そうはっきり言わんといけんよね」
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