ノースキャンプの見張り台

こいちろう

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14.忍者犬、ベロン

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 タッちゃんはベロンという犬を飼っている。キツネみたいな顔でキツネ色をした犬だ。キツネと違っているのは尻尾がくるんと巻いているところくらいだ。
 二月のとても寒かったころ、リューイチとタッちゃんが、まだ子犬だったベロンを土手の草むらで見つけた。この河原には、捨て犬や捨て猫が多い。草むらの中でブルブル震えていた。やっぱり捨てられたんだろうか。抱き上げたらタッちゃんの顔をベロンとなめた。だから、名前はベロンだ。
 リューイチも飼いたかった。でも、リューイチの母さんは生き物を飼うことをとてもいやがる。
「生き物なら、周りにいくらでもいるじゃないの!」
そりゃそうなんだけど。
 でも、タッちゃんの家なら、家族みんなでかわいがってくれるだろう。隣だからいつでも会えるし、ベロンもその方がいいか。
「そのかわり、二人で一緒に面倒みような」そう約束した。
 それから半年、ずいぶん大きな犬になった。よく食べるし、力も強い。散歩の時はタッちゃんやリューイチを引っ張るようにして走って行く。

 夏休みになってから、夕方百番地の前の土手筋を通って散歩するようになった。川沿いは夕方の風が涼しいし、大川の土手はベロンの縄張りみたいなものだ。電信柱の一本ずつにおしっこをかけていく。
「不思議なんじゃけど、ユーレイ屋敷の前だけは電信柱におしっこをせんのよ」
タッちゃんが言った。そういわれるとそうだ。
 ユーレイ屋敷は土手に沿って長く続いている。有刺鉄線の高いフェンスにツタがいっぱいからまっていて、中の様子は全然見えない。でも土手の高さの分、長くまっすぐ続いた屋根だけは見えている。明かり取りの小窓もちゃんと見えている。小窓の上には赤い三角屋根。屋根しか見えていないけど、ユーレイ屋敷ってなんか立派な建物だ。
 ベロンは、そのフェンス沿いの電信柱には、ちっともおしっこをかけようとしない。ただ焼却炉のえんとつが見える辺りに行くと、しきりに鼻をクンクンさせて、何かを探しているような感じだ。
「ベロンにはユーレイが見えてたりして」
リューイチがそう言うと、
「ユーレイなんかおるもんか、なあベロン。おまえはかしこいから、何か気配を感じたら、思いっきりほえてご主人様に知らせるもんな」
タッちゃんが自慢げに言う。そうしたら、
「ワンッ!」
ベロンが返事をした。
 なんだ、完全にタッちゃんの犬になってしまったのか。飼い主は二人だって言ったじゃないか。
「子犬のころ、この辺でなんかいやなことでもあったんじゃろうか?」

 ある日、いつもより少し早めの時間、タッちゃんとベロンと一緒に、百番地の前の土手を散歩していた。まだ日差しがきつくて、ベロンは舌を思いっきりたらして、ハアハアいっていた。でも、ユーレイ屋敷の前まで来たとき、突然ハアハアが止まった。鼻をクンクンさせて、しきりに何かのにおいをかぎ分けている。
 すると、河原の方から二人の女の子が上がってきた。ケイコちゃんとトモコちゃんだ。タッちゃんは中町小に通うから、二人をよく知っていた。
「あっ、コン吉じゃない!」
ベロンがうれしそうに尻尾を振って、ケイコちゃんに頭をこすり寄せる。
「えっ!知ってるんか?」
タッちゃんは、びっくりして言った。
「ほらあ、やっぱりのどに白い十字架がある」
ケイコちゃんはしゃがみこんでベロンののどをなでた。
 きつね色のベロンの首には、たしかに十字架みたいな白い毛がはえている。リューイチたちはそれを、
「まるでシュリケンみたいじゃ!」
そう言って、「忍者犬、ベロン」と呼んでいた。
「コン吉?違うよ、こいつは忍者犬ベロンって言うんじゃ」
タッちゃんは強く否定した。ベロンを取られるかと思ったんだ。
「ベロン?ベロンかあ。あなたはベロンになったんか」
トモコちゃんの方は、コン吉でもベロンでも、どっちでもいいみたいだ。
「リューイチくんとぼくが、向こうの河原で見つけたんじゃ。寒い河原の草むらで、キュンキュン鳴いとった」
「そうか。そうじゃったんか。コン吉、いい人に拾われたんじゃね」
ケイコちゃんはベロンにほおずりをして、しっかり抱きしめている。
「だから、こいつはベロンなんじゃっ!」
タッちゃんはすこしムキになった。
「タッちゃん、ベロンを拾ってくれてありがとう」
トモコちゃんがタッちゃんにやさしく言った。
「べ、べつにっ、コン吉でもベロンでも、どっちでもええんじゃしっ」
えらい変わりようだ。
「ウチとケイコちゃんがね、ここの河原に捨てられていたこの子を見つけたんよ。でもね、アイジエンじゃ飼えんから、このユーレイ屋敷の焼却炉の裏で、みかん箱に入れて飼ってたの。給食のパンをやったりしてね」
「そうなんよね。まだ小っちゃい子で、毛がふさふさして、キツネの子みたいな顔をして、コン吉、ほんとにかわいかったんよ」
「ベロンじゃしッ!」
タッちゃんは、ケイコちゃんにはムキになって言い返す。
 タッちゃんに変わってリューイチが言った。
「ぼくらが抱きあげた時、顔をベロンとなめたから、ベロンにしたんじゃ」
「そうかー。ベロンかあ。いい名じゃね。ベロン、心配したんよ、ケイコちゃんもうちも、あんたがいなくなってずい分探したんよ。いつの間にか川の向こうに行ってたんじゃねえ」
「寒い中を、きみらを探して真法寺橋を渡ったんじゃろうね」
 ベロンも、いやコン吉も、二人をよく覚えているのか、尻尾をふりふりケイコちゃんとトモコちゃんの両方にじゃれついて甘えている。
「ベロン、大きくなったねえ。タッちゃん、ありがとう」
タッちゃんは、トモコちゃんに言われると、とてもうれしそうな顔をする。
「そうよね、タッちゃんたちが拾ってくれたから、ウチらまた会えたんよね」
「今はタッちゃんの家で、すごく大切に飼われているよ」
「そうか、わたしたちが飼ってるよりずっと幸せじゃったんじゃね、ベロン」
トモコちゃんがやさしくベロンの頭をなでる。
 するとタッちゃんがとんでもないことを言い出した。
「そうじゃ。ベロン、いやコン吉は、四人がいたから生きてこれたんじゃ。じゃから、四人みんなの犬じゃ」
タッちゃん一体いつからそんなに口がうまくなったんだ。
「うちら、これからまたコン吉にあえるんじゃね」
ケイコちゃんが言ったら返事もしないのに、
「タッちゃん、これからもベロンのこと、お願いね。夏休みが終わったら、また学校で会おうね」
とトモコちゃんが言ったとたん、もう二学期が始まったような気分になっている。タッちゃん、トモコちゃんに会うために中町小に行ってたのか?
「中町には週に一回しか行けないけど、コン吉に会いたくなったら、いつでもここに来いよ。ぼくがいつもこの辺を散歩させてるから。夏休みの間はいつもこの時間に来てるよ」
だから、飼い主は二人だって言ったろ!
 でも、タッちゃんのよくしゃべること。これから毎日、この時間にベロンを散歩に連れ出すんだろうな。暑がりのベロンにはありがた迷惑な話だ。
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