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隠れてヤっちゃう少年

香りに揺れ動かされて

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 それからボクは、何度かの激論に激論を重ね……。結局、マサトとラフィールの側から絶対に離れないことで、浴衣を着る許可を得た(なんでボクが着たがってたみたいになってるのかわからないけど)。

 ともかくそれからは、夕陽を見ながら馬車で数十分ほど。開けた草原に出た辺りで騒がしくなり。ふと見渡すと、そこには……屋台やら何やらカンやらが広がっていて。どうやらそこがお祭りの会場になっているみたいだった。

「おおー、やってるやってる。もう始まってるみたいだな」

 鳴り響く太鼓に、祭囃子。そしてほのかに漂う焼きそばやら何やらの美味しそうな香り……。若干の差はあれど、結構この辺はボクの知ってる夏祭りと近かった。

 そしてその中に居たのは、オークと共に祭りを楽しむ人間の姿。先入観があるにせよ、なんか意外だな。やっぱりオークと人間って、共存してるっぽい。

「ほら、早く早く! お姉ちゃんっ。急がないと売り切れちゃうよ!」
「わっ! ちょ、ちょっと待ってマサトっ。焦らないの! もうっ……!」

 そうしてボクらは、馬車を降りて……お祭りの中へと見を投じる。ボクはちらほらとアチコチに目を向けて、見慣れない食べ物やらお菓子に目を奪われてしまい。ついつい考えてしまうのは、お小遣いの残量。

 いいなあ、こういうの。昔は友達が少なくて、家族以外の誰かとお祭りになんて行ったことなかったから。なんか新鮮っ……!

「あ、ねえマサト。あれなに? なんか……お菓子なの、あれ?」
「ああアレ? アレはね、【キャムロン】だよ。砂糖を溶かしたものを、パリパリした薄い煎餅みたいなのに載せて食べるんだっ。定番だよ~?」
「へぇ……! 郷土料理みたいなものかぁ……。こういうの色々あるんだなぁ……」
「いやいや、あんなのは子供の食うモンだぜ。大人はこういうのを食うんだよ」
「んー? これって……いや激辛唐辛子入りって書いてますけど!?」
「唐辛子のはちみつ漬けだ! タレをパンに乗せて食うんだぜ。ウメーんだこれが」
「いや……ないっ……絶対ないっ……。絶対食えないよ。いやもう、【死】じゃん。めっちゃ真っ赤じゃん。死ぬ色合いだコレ」
「一回食ってみろよ~。飛ぶぜ?? 頭ぶっ飛べるぜ??」
「やれやれ……。相変わらず兄ちゃんは偏食家なんだから……」
「な、なんだとぁ!? 食う前から貴様……」

 結局、流石にボクといえど、唐辛子を飲み込む勇気は無かったので。ボクはマサト一緒に、キャムロンというお菓子を購入。

 そしていつになく不貞腐れるラフィールの横で、それを頬張っていると。ラフィールは負けじとボクに向けて、美味しそ~にはちみつ漬けを食べて見せていた。

「うん、やっぱ無理そうかなぁ」
「なんでぇっ!!」
「フフフ……。兄ちゃんの負けだね……」
「俺の負けなのかコレ!? 負け、いや負けかぁ……ええー……? 俺こんな所で我が弟に負けたのか……?」
「落ち込まないで、兄ちゃんっ。お姉ちゃんはおれが大切に幸せにしてあげるからさっ!」
「あっれ、、一気に話が飛躍してんな……。おいおい、さり気なさ過ぎだろぉ……」

 そんなふうにボクらは、なんやかんや言いながらもお祭りを楽しんでいた。

 射的に輪投げ、踊りや飲み会やらなんやら……。祭りという祭りを堪能。

 そして気が付けばあっという間に時間は過ぎていって、ベンチに座りながら……小休止していた頃。

「だからさ、お姉ちゃんはアレなんだよ。もちっ……ふわっ! って感じ!」
「違うだろアホ。ぎちっ……ぎゅあっ……って感じに決まってらぁ」
「それは兄ちゃんが激し過ぎるからでしょ! なんでいつも激しくするかなぁ、もう……!」
「いや、あの……。こ、こんな公衆の面前で、ボクの抱き心地具合について議論しないでもろて……」

 なぜか白熱してしまっていた、ボクの抱き心地論争。もはやボクは、ただ通行人に聞かれていないかだけが心配で。話の内容なんて全然入ってきていなかった。

「大体ね、兄ちゃんは乱暴過ぎるんだよっ。あんなセックスしてたらお姉ちゃんが体痛めちゃうでしょ!? もっとこう、優しくさぁ……!」
「いやぁ、そりゃ俺もわかってるけどさ。無理なんだよ。なぁ?」
「い、いや。だから。なぁ? って言われてもだね……」

 マサトが浴衣の隙間から、ボクの太ももを……撫で下ろす。ラフィールが浴衣の襟元から、ボクの首周りを……愛撫する。まるで、誘うかのように。

 も……もう。全く。ていうか今日は、ち、ちゃんと……する、つもりなのに。そんな、焦らなくてもっ……。……ちゃんと、二人に……抱かれるつもりなのにっ……。

「ていうかっ。さ、先に言っておくけど。……お、おれが最初だからね」
「あン?」
「お姉ちゃんの浴衣は、おれが用意したんだからっ! 先に汚したりしたらっ……ゆ、許さない、からっ……」
「……マサト……」
「へいへい、わかってるよ。流石にそこまで俺も無神経じゃえねさ。――でもそれってつまり、後ならいいってことだよな?」
「……。……い、いや。あの。だからっ、その……。ぼ、ボクを見るなよ……」

 ……嫌に緊張する。なんとなく予想はつくけど。なんていうか、その。やっぱりドキドキして……胸が痛くなるんだ。……だ、大丈夫だよね。ちゃんとお風呂入ったし。別に、変な匂いはしないはず……。

「――あっ、そ、そうだっ。あの、二人共……。ち、ちょっとだけ待ってて貰ってもいい?」
「ん? トイレか?」
「なわけっ……! と、とにかく。す、すぐ済むからっ! 大丈夫、待っててっ……」

 ボクは顔を真っ赤にしながら、そそくさと茂みの中へと隠れた。そしてポケットの中を探り、いつぞやの物を取り出そうと……躍起になる。

「あ、あったっ。これだっ! これっ……」

 ――香水。前に行ったあのお店で買っておいた、とっておきのやつ……。こういう時のためにって、ちゃんと用意しておいたんだ。

 二人なら別に、香水なんてつけなくても文句言わないだろうけど……。ぼ、ボクだって。たまにはこういう……背伸びをしたい(マサトにはそのままでいいって言ったくせに)。

 ちょっとでも。……一緒に花火なんて、滅多に見られないんだし……。

「えっと。こう……かな……? わぶっ!」

 ボクは瓶を開けて、香水を振りまいてみる。するとほのかに、ふわりと甘い香りが広がって……。しつこくないくらいのそれが、ボクの体を包み込む。

 ……よし。これでいいはず。今日はいつもと違う、特別な日なんだ。ちゃんと、気合いを入れてかないとっ……! お祭りはまだまだこれからなんだからっ……。

「お姉ちゃーんっ。お姉ちゃん、どこ? おーい!」
「あっ。ま、マサト。こっちだよっ……」
「ん! そんなところに居たの。もう……離れないでって言ったでしょ! 一人で居たら危険なんだからっ!」
「あ、あはははっ。ごめんごめん。ちょっとね……」

 そうしてマサトが、ボクの手を引こうとした……その時だった。マサトの手が不自然に止まり……ふと、ボクの目を見る。

「お、お姉ちゃん……。な、何かした?」
「えっ?」
「お姉ちゃんの匂い、なんかっ……。なんか、すごくっ……♡」
「あ、う、うんっ。えへへ、香水つけてみたんだっ! ど、どう。似合うかな……?」
「……似合う……? 似合うって、そんな。そんな……」
「え?」

 マサトの様子がおかしい。なんか、妙に顔が赤くて……。ボーッとした目でボクを見ている。しかも妙に前かがみになりながら……。

「……もう。や、やっぱりお姉ちゃんは危険だよっ。そんな香水つけて、ここに来るつもりだったのっ……!?」
「えっ。も、もしかして変だった? ボク。嫌な匂いだったとか……」
「違うよっ! ……そ、それはっ! ……その香水はっ……! め、メスがオスを誘うための……媚薬なんだよっ!」
「……。……え? ――えぇぇぇっっっ!?!?」
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